2008年度業界販売と元売決算データ比較 NO18
 
原油下落で大赤字、減少するSS数、新日石と新日鉱統合の影響は
あなたは8月元売決算関連企画の 番目のお客様です。 09/8/3 122,000件
また需要減やSS数減少関連データについてもご報告させて頂きます。過去企画以下の通り

 08/8.NO17.2007年度決算編、07/8.NO16.2006年度決算編06/8.NO15.2005年度決算編
 05/8.NO14.2004年度決算編、04/8.NO13.2003年度決算編、03/8.NO12.2002年度決算編
 02/8.NO11.2001年度決算編、01/8.NO10.2000年度決算編、00/11.NO9.原油処理設備問題
 00/8.NO8.1999年度決算編、 00/4.NO7.どこまで下がる石油株、99/8.NO6.1998年度決算編
 99/2.NO5.経費削減リストラ編、98/8.NO4.97年度決算編、97/8.NO3.96年度決算,販売,SS数
 

石油製品別国内販売実績一覧表 2008年度(2009年3月末期)

まず業界環境がどのように変化しているのか確認する為、国内販売数量を見ます。
ガソリン97.3%は、少し補足が必要です。2008年4月は暫定税率廃止で前年比117%。
一方2009年3月は110%。但しこれは伸びているのではなく、2008年3月が買え控えで
前年比87%に下落した数字と比較しただけで、2007年比ではやはりマイナスです。
従ってこの2か月分だけでも、年間の前年比を数字上2%押し上げているのです。

ちなみにガソリン価格は、昨年夏の180円から120円に下がり、高速道路料金が休日
1000円という特需要因があるにも関わらず、2009年5月も前年比102%(前年94.5%)
ですから、ガソリン需要の落ち込みは相当深刻だと思います。

A重油等は、価格高騰からLNGへの燃料転換が相当量あり、昨年秋以降の価格下落
でも、もう需要は戻ってきません。これに景気悪化が加わり大幅減が続いています。
C重油も2009年夏からの柏崎原発の再開で、その電力需要は減って来るでしょう。
2008年度の燃料油全体では 前年比92%。石油精製業は正に装置産業、すなわち
固定費産業なのでこの需要減が元売にとって如何に大変な事かご想像頂けるでしょう

 
2008年度 各油種の国内販売数量、資源エネルギー庁発表 


忘れてはいけない「輸出」の存在
元売の業績や販売を考える時、3年前以前は、国内数字だけ見ればよかったのですが
平成17年度からは石油製品輸出が急増してきました。下記表ではジェットやC重油が
多いように見えますが、これは昨年もご説明した通り、外国籍の飛行機や船への給油
の際、免税扱い等で、貿易統計上は輸出になるのですが、給油場所は、国内です。
注目頂きたいのは、近年その数量を大幅に伸ばしている「軽油」です。A重油等の中間
3品の国内での需要縮小に困っていましたが、元売は、海外の製品高に目を付け、
輸出設備を増強し、平成19年度から輸出を本格化させました。その結果、平成16年
度比17年度2.7倍、18年度3.2倍、19年度5.9倍、20年度は8.5倍に拡大です。

ガソリン ナフサ ジェット 灯油  軽油 A重 B・C重 重油計 燃料油計
平成16年度 112 26 5,888 155 1,525 161 7,770 7,931 15,637
平成17年度 521 - 6,689 383 4,087 168 9,867 10,035 21,715
平成18年度 317 23 7,955 499 4,950 165 9,409 9,575 23,319
平成19年度 536 12 9,277 644 9,027 350 9,183 9,533 29,029
平成20年度 710 38 10,080 444 13,050 561 9,269 9,830 34,153

その理由は簡単。国内市況よりも海外が高かったので輸出し、利益を上げたのです。
元売にとって一過性の収入にはなりましたが、反面、国内需要の地道な喚起、例えば
省エネ型の高効率ボイラー等の販売努力を怠ったので、A重油等のLNGへの燃料
転換が益々進み、価格が下がっても、その需要はもはや戻っては来ないのです。
更に現在は海外製品市況も原油とともに急落してしまったので、元売にとって2009
年度の「輸出」はもはや打ち出の小づちではなくなってしまいました。
主要元売6グループの連結決算とその傾向


当期の元売の連結決算を一言で申し上げれば、史上空前の赤字となったことです。
一見すると出光や東燃ゼネラルが黒字となっているので、表面上明暗を分けましたが
それは、在庫評価上の問題で、精製や販売の実質的な業績は、少なくとも傾向としては
各社とも、それ程変わらなかったのではないかと思われます。
その在庫評価法を確認しておきましょう。今まで、後入先出法による低価法を採用して
いる出光は、増益となり、総平均法による原価法を採用している会社では、原油価格の
急落で、在庫評価損が発生したのです。
それは、2008年4月以降に新年度に入った会社から、低価法の採用が義務付けられ
るようになったこととも関係しています。これは期末時点において、原油や石油製品等
の簿価が、時価を下回る場合は、簿価を下げ評価損を出さなくてはいけないのです。
一方出光は、在庫数量の減少局面において、時価と今まで安かった簿価との差額が
利益となって現れたのです。
元売各社のSS数とセルフSS、元売社有SS数比較表
さてもう一つの元売傾向を分析する数字として、元売系列のSS数を調べてみました。
本年3月末のエネ庁登録SS数は、前年比 1,967箇所減の42,090SSです。
また固定式だけ見ると前年比1,896減の41,311SSなので、下記表の通り元売系列SS
の減少の分だけ、全体数が減ったとも言うことが出来ます。
また元売全体の社有比率は、昨年の23.7%に対し今年は23.8%と微増に留まりました。
これは特約店や販売店所有のSS同様、元売の所有のSSも不採算な物件はしっかり
閉鎖していると言えるのではないかと思います。

セルフSSの増加は未だに多く、エネ庁登録数は、前年比751所増の7,774SSですが、
その一方この1年で、なんと161SSが閉鎖した事は、余り知られていません。
元売系列のセルフ数は、6565個所。元売系列におけるセルフ率は20.6%です。
一般にセルフSSは、フルサービスSSの3倍売ると言われていますから、「全販売
数量の約半分以上、既にセルフSSで販売している」と言えるのかもしれません。
さて元売系列の中で、減少比率が最も多いのはEMグループです。聞いたところ
新設SS物件が皆無に近いとのことなので同社の日本におけるSS戦略方針が、
結果として、この数字に表れているのかもしれません。
                         平成21年3月末、単位千KL / KL  社有=元売所有物件

元売会社 3月末数 前年比 社有 前年比 社有比 セルフ数 前年比 セルフ率 セ社有 社有比
新日本石油 9,974 -615 2,081 -188 20.9 1,517 +286 15.2% 744 49.0
出光興産 4,598 -210 1,368 -42 29.8 844 +90 18.4% 577 68.4
昭和シェル 4,256 -161 985 -25 23.1
868 +133 20.4% 434 50.0
コスモ石油 3,913 -212 858 -12 21.9 955 +85 24.4% 571 61.2
Jエナジー 3,344 -211 1,059
-47 31.7 729 +62 21.8% 466 52.1
EMG 4,494 -417 894 -79 19.9 1,197 +36 26.6% 466 38.9
キグナス 570 2 97 -1 17.0 188 +16 33.0% 71 37.8
太陽石油 370 +8 133 2 35.9 138 +17 37.3% 91 65.9
三井石油 317 -18 106 -4 33.4 129 +10 40.7% 76 58.9
元売合計 31,836 -1,834 7,581 -396 23.8 6,565 +556 20.6% 3,476 52.9
本表は、燃料油脂、油業報知、ぜんせき、石油タイムス等の業界新聞、各元売HPより集計

新日本石油と新日鉱ホールディングスとの経営統合で何が変わるか

今年も7月から全国の石商様のお招きでの業界時事問題解説講演が始まりました。
題して、「どうなる どうする SS業界2009」です。最初は、7/6の秋田からスタートし、
7/9福島郡山、7/21大阪、8/6 岩手と続きます。その最初の秋田講演で、事前に
「特に聞きたいことはありますか」と関係者にお伺いしたら、「東北や北海道地域での
今後の物流コスト問題を是非」と言われたので、私は「さすが」と思ってしまいました。
昨年10月の新日石と出光に始まり、本年7月の昭和シェル発表で、主要元売は全て
新仕切り体系が出揃いました。この新仕切り体系そのものの解決は、また改めて
企画しますが、その新体系を最も厳格に実施している元売は、特約店に対して
全SSの個別の配送運賃まで10銭単位で明確にしています。これは、
 「製油所から近いところは、今までより安く、遠くて配送運賃が掛かるところは
  その配送コストはしっかり下さい
」という宣言であると思います。
その最たるものは、離島への配送コストです。新価格体系の厳格実施により、
離島への配送コスト分、仕切り価格は大幅上昇し、結果として、離島での発券店
値付けカードシステムが、良くも悪くも維持出来なくなったということは、一部の皆様は
既にご存知のことと思います。離島への配送コストを多大なる反対意見を押し切って
明確に値取りした以上、配送エリアが非常に広く、しかしその密度は余り高くなく、
そしてその出荷製油所が極めて限られている、北海道や東北の方が、この問題を
念頭においておくことは必要なことだと思います。そしてその地域に確固たる製油所
をもつ新日石とジャパンエナジーが提携すれば、そして業務提携関係が強くて深い
出光以外との元売との提携見直しが検討されていると聞いています。
ある意味これは当然のことで、競争力に差をつけるために多大なる覚悟をもって
痛みを伴いながら経営統合をする訳ですから、これは当然のことでしょう。
 ここからはあくまで仮のシミュレーションの話ですが、新日石と新日鉱HDとの経営
統合後、出光以外の元売への物流提携を完全に解消したとすれば、他系列のこの
地域への配送コストは、どのくらい上がるのでしょうか。
私は、早い話が、仙台から秋田油槽所への沿岸タンカー運賃と京浜から秋田への
運賃との差プラスアルファーなので、その意味では、最大で2円だと思います。
しかし、傘下の特約店に対し、価格決定要因の詳細を公表せず、元売から見て
魅力の無いと判断されてしまった特約店への価格改訂時の交渉要素として、
使われる可能性はありますので、十分な注意が必要と思います。

今後の元売集約化は更に進むのか

ネットやメール情報レベルでは、本当に多くの色々な話を聞きますが、とても本HPで
責任をもって書けるものはありません。ただ一つ言えることがあります。
今の生産調整が追いつかない程の需要減は、元売にとって深刻だということです。
そして、ビール業界では、過去の常識からは考えられないような、キリンビールと
サントリーの経営統合が発表されました。両社合わせると国内シェアーは50%。
一昔前なら、公正取引委員会としては「国内市場の独占の恐れがある」として
完全にNOでしょう。しかし世界戦略レベル、そして日本の国益レベルで考えれば、
外資企業と競争して行く上では、認められてしかるべきと思います。
もし、この統合が認められるなら、新日石と新日鉱HDにもう一社加わることも
可能なのかもしれません。それは出光かコスモか。
一方外資系はどうなるのか。買収か或いは売却か。外資系傘下の特約店からは
「本国への配当のことしか考えていない」と悲痛な叫びが毎日のように聞こえて
きます。経営戦略や販売方針の発表なら何とでも言えるでしょう。私は、今後の
外資の行動は、その日本国内に対する「投資」を見れば、自ずと見えてくるもの
があるではないかと思います。いずれにしろ本項の結論、それは、
何が起こってもおかしくない」ということでしょう。

次回9月企画案

その1 新仕切り体系から1年、業界はどうなったのか
その2 夏本番でレンタカーがいよいよ絶好調、導入よりジワジワ上がるその実績
その3 業界初、経営者の垣見専務 と 従業員代表の田中所長が
    それぞれの立場でESを語る講演会実現、福島石商&長野石商様
                          文責 垣見裕司 NO1   8/3