元売2002年度、販売、収支徹底比較 NO12
 販売、収支、SS数他、明暗を分けた在庫評価と電力C重油対応能力

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 過去の企画は 02/8.NO10.2001年決算編、  01/8.NO9.2000年決算編00/8.NO8.1999年決算編
 00/4.NO7.どこまで下がる石油株 99/8.NO6.98年度決算編99/2.NO5.経費削減リストラ編
 98/8.NO4.97年度決算,販売,SS数 97/11.NO3.96年度決算、株価 文責  垣見裕司 03/8/1 NO1

 元売別石油製品別国内販売実績一覧表 2002年度


上記は元売11社の販売数量です。あくまで弊社推計ですから正確なデータが必要な方は、
8月下旬発売の経済産業省監修の石油資料等、正式な資料をご参照下さい。
 昨年1月より三井石油が「元売」となり2002年1月以降の数字が反映されています。従来は、
モービルに内在していましたので、ようやく正確なシェアー比較が出来るようになりました。


ガソリン、灯油、軽油の販売数量について

まずガソリンですが全体では、2.9%伸びています。主力商品が、一貫して伸び続けている業界
はあまりありませんから、その恵まれた環境を活かしきれていないのは、如何にも残念です。
個別元売では、昭和シェルの4.8%増、EMの4.3増%、そして新日石の3.7%増が印象的ですが、
一部の元売は、「系列外への販売等で伸ばした」とも言われているのも事実です。
またハイオクガソリンの販売比率は、18.8%で、前年比は、マイナス0.9%となりました。
その中で新日石はハイオク比率20.2%で前年比1.4%増、昭和シェルは同19.3%で、同6.3%増と
好調ですが、それはサルファーフリー(10ppm)ハイオク、エネオスヴィーゴとシェルピェーラの
の効果でしょう。

さて皆さんはハイオクの生産コストをご存知ですか。あくまで当社推定ですが、添加剤等の
変動費は、1L当たりせいぜい2〜3円程度です。しかし新日石や昭和シェル等サルファーフリー
のハイオクは、全国レベルでは多くの地区でバータが難しく、その分、物流費がレギュラー比
+1〜2円程度かかってしまうことは、意外に知られていません。
また元売としては「CMや販促費用、脱硫設備費用もかかっている」とのご意見が出てきそう
ですが、脱硫設備費用は、ハイオクコストというよりは、環境対策費として考える方がよいの
ではないかと思います。ちなみにハイオクガソリンの仕切価格は、レギュラー比+10円が一般的
ですが、これが高いか安いかは、皆様にご判断頂きたいと思います。

灯油は、前年比+8.8%と厳冬の影響で大幅な伸びを見せました。新日本石油は+9.8%増で、
シェアー23.6%を確保し、収益にかなり貢献したと考えられます。昭和シェルは+14.0%増で、
ここでも健闘がみられます。

軽油は-2.1%と長期下落傾向が続いています。景気低迷とされていますが、夏場に不自然に
出荷される灯油やA重油等から作られる脱税不正軽油は、硫酸ピッチの不法投棄という
環境問題にも発展しています。業界としてはご当局と幅広く連携して、不正軽油の取締りを
強化して頂く一方、個人的意見としは、「脱税がより難しくなる蔵出し税=国税」への変更等、
根本的に問題を解決して行く必要があるでしょう

電力C重油の大幅増、明暗を分けた精製元売

さて昨年のこの企画で「電力用C重油の落ち込みが深刻」とご報告しましたが、東京電力の
原発トラブル隠しによる原発の全機停止で、電力用C重油は、異常な伸びとなりました。
例えば、先ごろ発表された電気事業連合会の1-6月の燃料消費実績を見ると、重油が
2.8倍、原油が3.1倍ですが、これを東京電力に限って見ると、重油7.6倍となっています。
その結果C重油全体では、前年の-14.8%減から一転して、+9.4%増という伸びとなりました。

そして特徴的な出来事は、元売各社が満遍なく対応しているのではなく、20.4%増で883万KL
を販売した新日本石油を始め、+48%増のJomo(233万KL)と、大幅に伸ばしたのは2社で
-12.2%減の出光や、-2.0%のエクソンモービルなど、各社の事情はかなり異なったようでした。

決算数字が現すもの

まず3月期決算会社5社の各単独は、下記の通り出光を除くと、増収減益となりました。
5社合計で売上高は+6.6%増。営業利益が+32%増、経常利益+12%、税引利益-76%減です。
一方12月決算の4社の業績は、3月期決算会社に比べて、思わしくありません。
4社合計で売上高は-6.4%減。営業利益-74%減、経常利益-67%減、税引利益-67%減です。
これだけを見ると、出光の一人負け、或いは昭和シェルの一人勝ちのように見えますが、
事項で説明する在庫評価方法の違いを考慮しなくてはいけません。

一方近年重要視されている、「キャッシュフロー」、それも特に通常の営業キャッシュフロー
を調べて見ると、恐らく全社が、かなり悪化しているのではないでしょうか。
ちなみに、新日本石油では一昨年、昨年と+2000億円近かったものが、今期は-500億円。
コスモ石油も、前期+766億円から今期-270億円、新日鉱も前期+1299億円から今期143億円
と各社大幅な悪化を見せているので、恐らく出光やEMも同様だと思います。





在庫評価変更の影響は

上記の決算数字だけを見ると、新日石や昭和シェルが良かったように見えますが、昨年同様
在庫評価方式の違いを加味しなくては、なりません。
2000年12月期は昭和シェル、2001年3月期はコスモとJOMO、2002年3月期に新日本石油が
棚卸資産の評価方法を「後入れ先出し」から「総平均法」に変更しています。

この方式では、原油の値上げ局面では、割安な期初在庫のお陰で販売原価が押し下げ
られ、その分利益がかさ上げされます。
一方、出光興産とエクソンモービルが採用している「後入れ先出し法に基く低価法」では、
後で買った高値の在庫が先に払い出される為、原価が押し上げられ利益が少なくなります。

02年度におけるこの在庫評価による影響は、新日石で+481億円(前年-166億円)、
コスモで+183億円(前年-90億円)、Jomo+142億円(前年-135億円)、昭和シェルで
+108億円(前年-111億円)と聞いていますので、前年との比較では、大変大きな影響になって
いることが分かります。


ガソリン販売とSS数
品質確保法に基づく平成15年3月末のSS数は、 51,294SS、前年比-1,298の減少とりました。
昨年から、固定式と可搬式が区別されなくなりましたので、弊社の推計では、本年3月末の
固定式のSS数は、遂に50,000SSの大台を切ったものと思われます。
また実際は、廃業しているのに、廃止届けすら出す余裕のないSSは、今年も相当数ある
と思われるので、5万SS割れは、ほぼ間違いの無いところでしょう。

下記元売SS数は、業界新聞等で発表された数ですが、あくまで当社調査の推定です。

SS数は決して多くないエッソの1SS当たりの月間販売量170KLは、系列外販売が多いと
言われるT社を除けば群を抜いており、競争力に現れていると言われています。
三井石油への販売分を含んでいた、モービルも来年からはその実力が明らかに、
全農へのインタンク分も含むと思われるI社J社はそれを勘案する必要がありそうです。
またプライベートブランドが増えてきました。伊藤忠エネクスの忠ボーイが有名ですが、
数の多さから言えばやはり全農(JA)です。
尚、昨今各社ともセルフが急増しています。3月末のセルフ数を入手しましたので
各社のセルフ率とともに記載しております。


元売各社のガソリン販売数量とSS数、従業員人数の推移
  平成15年3月末、単位千KL / KL
元売会社 販売数量 3月末数 前年比 月KL/SS セルフ数 セルフ率 増減
日石三菱 13,892 11,694 -293 98.9 342 2.92% 200
出光興産 8,475 5,692 -272 124.1 215 3.78% 127
昭和シェル 8,087 5,153 -249 130.8 206 4.00% 96
コスモ石油 6,766 5,152 -221 109.4 285 5.53% 176
Jエナジー 6,276 4,296 -180 121.7 322 7.49% 158
EMG 11,673 6,595 -233 147.5 546 8.28% 225
キグナス 1,408 683 -25 171.8 84 12.30% 31
九州石油 1,170 702 -1 138.9 54 7.69% 27
太陽石油 1,344 400 -12 280.0 42 10.50% 11
三井石油 1,139 540 -82 175.8 65 12.04% 26
元売合計 60,351 40,839 -1,568 123.1 2,161 2.56% 1,077
単独JA系 ?,??? 2,907 -82 ???.? ???? ????
商社系PB ?,??? 728 +121 ???.? 279 6.24% 117
全農系は4652SS。全農のみのマークで元売マークをあげていないものが2,907SS。
商社系セルフの279SSは、元売マークを含む4,472SSの内数。728SSの内数ではない。


急減した業界マージン

さて毎年のこの企画で、原油輸入単価を仕入価格とし、末端価格までの精製と販売を
合わせた、業界全体の粗利について言及していますが、今期もさらに減少してしまいました。
下記表の通り、レギュラーガソリンが96年度で1L当たり34.5円あったものが、今年度は、
22.5円まで下落しています。しかし、これは我々のように都心周辺の激戦区で、例えば今月
95円で販売している業者にしてみると、18.1円まで縮小していることになります。

何度も申し上げますが、これは原油輸入価格から、末端販売までのすべての粗利の合計
ですから、あの巨大な精製設備、民間備蓄義務のための東京ドームクラスの巨大タンク費用
タンカーやローリー、内陸の油槽所費用。そして我々SS段階では、土地コスト、建物コスト
設備コスト、人件費、営業経費等、正にすべてが入っている訳ですから、誠に深刻な状態に
なっています。「営業キャッシュフロー」等のむずかしい表現を使わなくても、これだけでも
業界の厳しい状況がお分かり頂けると思います。

そして6月企画で、適切な表現かどうか分からないことを前置きして使用した、
「セルフは石油業界の自動販売機」という表現が大うけし、あちこちで拝見するようになり
名付け親?としては嬉しい限りです。
その自動販売機に多くを依存する清涼飲料業界は、自動販売機では乱売する事なく、
その砂糖水?を 350cc=120円、1L当たりでは、342円で販売しています。

一方99.7%を輸入に頼り、危険物という性格から、多大なる販売設備コストを強いられている
ガソリンの価格が、税抜き1L当たり
35円で(95円-60円税金)、それは、前述の砂糖水の
1/10の価格レベルであることは、誠に悲しい限りです。


今後はどうなるのか NO2

私は「価格」というのは大変重いものだと思います。すなわち業界なりその製品なりそして
流通業者としてのサービスの付加価値が、お客様である市場から、どのくらい認められているか
「その付加価値の結果である」と考えているからです。
では、前述の95円で販売している我々に許された、業界の総粗利を18円とした場合、我々
SS業者の立場で、最低限の営業を維持する為に、絶対に必要なコストを積み上げて見ましょう。

7月原油CIF価格を仮に21円、石油税等の税金2.25円、1次輸送コストと精製費で5円とします。
これに海陸ロット格差(タンクチャージ等)とローリー代が+2円、ガソリン税を加えると約84円です。
これは正に現在のSS届けの業転価格の約86円に極めて近い価格なので、精製専業元売等の
固定費や利益が2円くらいは認められたといえるでしょう。
一方末端販売価格が95円とし、最後の手段としてノンブランドで営業することを前提に、全量
この業転品を86円で買ったとしても、SSが許される付加価値は9円です。

現在のSS業界の損益分岐点ガソリン粗利、いわゆるV指数T指数と言われる指標は、全SSの
平均では、やはり8円から10円くらいでしょう。従ってノンブランドSSとして再スタートする覚悟と
実力があれば、そのSSは間違いなく生き残れるでしょう。

しかしこれでは、販売元売のマージンが出ません。と言うことは、SSが欲しいと思っていた9円を
販売元売と、如何に分けるかという話しになってきます。
過去の企画で説明している通り、販売元売も全経費を総販売量で割り返すと、最低4円/L
ほしいところですが、赤字油種では経費負担は出来ませんから、採算油種であるガソリンや
灯油で割り返すと、6円から8円/L必要ということになります。

末端価格がもう少しあがれば、と願うことは簡単ですが、末端価格は、市場が決めるものです。
これはあくまで極端な言い方ですが、販売元売がセルフ等に代表されるように直売指向に走り
その9円という販売マージンを持って行くのか。それとも、SS業者が本当の実力を身につけ、
系列から離れ、自立し、ノンブランドで運営して行くのか?。或いは第三の選択があるのか。
当社の結論は既に出ていますが、読者各位の自己責任による早期の判断が必要だと思います。