原油精製設備過剰問題を考える
元売会社徹底比較NO9、経費削減、リストラ策比較編
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一般に石油業界はSS数と原油精製設備が過剰であると指摘されていました。ところが最近1ヶ月で、
昭和シェルとジャパンエナジー、日石三菱、コスモが製油所の廃止や能力削減を相次いで発表しました。
今回発表された削減量は日本全体の精製能力から見てどの程度の規模なのか、また海外とのコスト
比較、今後の課題や業転市場に及ぼす影響も考えて見ます。 文責 垣見裕司 10/26.NO2

Jomoと昭和シェルの9月27日の発表内容は

1.両社精製設備の最適操業の為の相互融通取引を現行年100万KLを400万KLに拡大する。
2.各社は製油所の稼働率向上とコスト削減の為、精製能力の適正化を実施する。
 Jエナジーは2001年6月を目途に、知多製油所の100千BDの常圧蒸留装置を休止する。
 昭和シェルは2001年3月を目途に、昭和四日市石油(株)四日市製油所の50千BD相当分の
 原油処理能力を削減する。(これは両社合計精製能力が1237千BDから1087千BD
 へ12%も削減されることを意味しています。)
3.両社精製設備の最適化操業を実現するため,具体的な相互融通取引に関する提案を行う
 合弁新会社を両社折半出資により設立し、そして必要に応じ次の事項についても検討を行う。
 原油の共同購買および共同配船、資材等の共同購入、エンジニアリング・保全業務効率化等
4.今回の精製事業共同化の効果額は、Jomoは100億円、昭和シェルは50億円、合計で
 年間約150億円程度と試算している。効果は来年半ばから発生し、Jomoは13年度で
 50億円経常収支に貢献する見込み。この結果Jomoの精製コストは14年3月末で
 1600円/KLになるとしている。また人員削減はJomoが、知多製油所で約100名
 昭和シェルは全体で2000名体制を1900名に出来るとしている。
またこれは全くの私見ですが、「販売面については今後の課題」とコメントは、むしろ今回も
「発表までに至れない、すなわち今後もかなりむずかしい」との解釈が現実に近いと思います。

日石三菱の9%原油処理能力削減と1090億円の経費削減

 一方日石三菱精製も10月6日、71千BDの原油処理能力削減を発表しました。その内訳は
室蘭16千BD、根岸が25千BD、水島30千BDです。更に和歌山石油精製は平成13年4月
から潤滑油特化型の生産に移行することで事実上50千BDの廃止です。これにより3製油所の
合計能力は現行840千BDから770千BDに、また日石三菱グループ全体では、1348千BD
から1227千BDに9%縮小されますが、逆に稼働率は75%から13年度ベースで85%に
向上するとしています。
 また日石三菱の経費削減の上積みについても発表されました。合併時には5年間で700億円
の計画を1年目410億円、2年目290億円、3年目160億円合計860億円に上積修正し
今回はそれを更に1年目500億円、2年目330億円、3年目260億円強化し、合計1090億円に
上方修正しました。このプラスされた230億円の内訳は、精製やローリー配送運賃で40億円、
興亜石油とのシナジー効果で20億円、コスモ石油との業務提携で90億円、関連会社等のコスト
削減で80億円となっております。

コスモ石油の50千BD削減の発表と出光他の過去削減実績

 また10月10日にはコスモ石油も堺製油所の110千BDから80千BDへ30千BDの削減と
坂出の140千BDを120千BDに20千BD削減を発表しました。この結果コスモ全体の
能力は595千BDとなり今回の削減は7.8%にあたります。一方稼働率は現行75−80%から
80−90%に向上し、金額的削減効果は年間約5億円になるとしています。
 また今回以前には、平成12年4月1日に、出光の千葉で260−240千BDから20千BD
やはり出光の兵庫で140千BDから80千BDに60千BDに削減や平成11年3月末日の
日石精の新潟26千BD、昭和シェル新潟40千BD、同年9月末には、日石三菱(旧三石)川崎
75千BD、Jomo船川1千BDがそれぞれ閉鎖しています。
 従って平成11年3月から平成13年6月予定のJomo知多まで含めると、2年で6製油所が
閉鎖(292千BD)し、8製油所が能力削減(251千BD)でその合計削減量は、543千
BDとなり、近年のピーク平成11年3月末5374千BDから約10%の削減がなされています。

精製能力の増減削減の歴史と稼動率推移

 では近年の精製能力とその削減の歴史を振り返って見ましょう。わが国の精製能力は、第二次
石油危機直後の昭和57年度末には5940千BDありました。しかし石油危機による不況や高騰
した石油離れや省エネなどで国内需要は大幅に減少、元売経営は逼迫し過剰設備の解消が
さけばれ、58年度以降63年度までに各社合計で1389千BDが削減されました。
 しかし平成2年に発生した湾岸危機で今度は能力不足が表面化、3年度以降は増強が容認
され、平成10年度までに823千BDが増強されました。しかし長引くバブル不況や製品輸入の
自由化で再び設備は過剰となりました。近年の常圧蒸留装置の年度末能力と年間原油精製量、
稼働率推移は以下の通りです。出所、石油連盟、石油情報センター、各新聞発表他

各社のコスト競争力と東南アジア圏での比較

 現在4グループに集約されつつある石油業界ですが、精製コストはどこが低いのでしょうか。
各社とも石油連盟発表レベル以上は非公開ですので、勝手な推測の域を出ませんが、やはり
一番低いのは、東燃ゼネラルに代表されるエクソンモービルグループでしょう。次にはリストラが
早くから進んでIPP部門等の収益が貢献している興亜石油は、意外に良いと聞いています。
その後はJomoとか、コスモもかなり改善しているとか、お伺いしておりますが、各社相当
努力されているようで、今回の削減後の推定稼働率は85%以上となり、エクソンモービル
グループ並みのコスト競争力をつけてくるのではないでしょうか。
 さて少し古いデータで恐縮ですが、1998年度の石油産業活性化センターの調査によると
1KL当たりの精製費は日本が3685円なのに対し、シンガポールが2094円、お隣りの韓国は
1597円となっており、日本の半分以下という数値は誠に驚くべきローコストだと思います。
 確かに土地費用の差や法的諸規制等問題はあるにしろ、少なくとも東南アジア圏内での、
国際競争力をつけるにはもう一段のローコスト化が必要だと思います。

今後の課題は

 一部のマスコミでは「設備能力は20%過剰!」と主張していますが、それは少し極端すぎると
思います。定期修理もあれば海外の事故等で輸入製品が高騰するこもとあるでしょうから、多少
の余裕は必要だと思います。
 また今後の削減も一律にあと何%減らせばよいというものではないでしょう。設備やプラント
には固有の最適生産量が存在します。それは必ずしも点ではなく線や面の場合もあり「固有の」
特徴があります。ですからその範囲を超えて一律カットは、その会社ばかりでなく、業界、
そして日本の為にもなりませんので、単純な一律削減主張は慎むべきだと思います。
 むしろ今後の課題は、地域的な能力バランスの是正でしょう。これも勝手な推測ですが、関東
北陸以東の想定稼働率は90%を越して来ると思いますが、伊勢湾以西の西日本は、どうしても
過剰感がいなめず75%程度にどどまるのではないでしょうか。提携グループの枠内で出来る
思い切った調整が必要だと思います。
 また重油分解二次装置の新設、それに軽油排ガス対策や将来に向けては燃料電池への供給を
見据えた深々度脱硫装置への技術開発や設備投資、更には第1次石油危機以前に作られた
老朽化対策、広い意味での環境対策など、業界全体で今後必要となる投資費用は1兆円以上
とも言われていわれていますので、精製業界の投資に終わりはなさそうです。

業転価格の市況は改善するのか

 さて今回の能力削減で実際の原油処理や製品供給量は減るのでしょうか。私の答えはNOです。
能力削減といってもそれは設計上の最高能力の削減ですし廃棄分は他の製油所で増産します。
更に重油分分解設備(2次設備)のお陰で、仮に原油処理は多少減っても最終的なガソリン等
採算油種の得率は落とさないと思われます。むしろ装置産業の宿命で増産もあるのではないか
と覚悟しております。現在は原油価格高騰で政策的に業転価格は高値誘導されており、今でも
それが維持されていますから、設備の問題というよりは各社の「方針」の問題で、今後原油
価格が安定したあとは、採算油種の供給はまた増えると思った方がいいでしょう。
 少なくとも業転市場の需給は、短期的にはハードよりも各社の会社運営方針等ソフト的な
ものにかなり依存されていると思います。
 私は個人的には業転市場を否定していませんし、装置産業である精製元売が最適生産量を
維持する為に系列内販売量を上回って生産することはかならずしも悪いことだとは思いません。
問題はそうして出来上がった意味のある市場価格と、コスト積み上げで算出して一方通告の
系列価格とが「乖離している」ことだと思います。製品保証料等を含む総合的なブランド料は
理解はできますが、それだけですべての価格差が説明出来る訳ではありません。
 今回の設備削減によるコスト低減の財源を、業転市況価格はもちろん、系列卸価格においても
島国日本のハンデを有効利用し例えば「韓国コスト+船運賃>日本の系列卸価格」まで頑張って
頂き原油価格がおちついた後でも安値輸入品に市場が翻弄されないよう期待したいものです。
  参考、
会社・製油所別主要石油精製設備一覧製油所原油処理量・稼働率