2007年度業界販売と元売決算データ比較 NO17
 
元売の社会使命とは何か、新卸価格体系についても考える
あなたは8月恒例の元売決算関連企画の 番目のお客様です。 08/8/5 106,000件
更に今月は今業界で最も関心のある元売-特約店間の卸価格決定方式の変更問題も合わせて
解説したいと思います。 昨年までの過去データは以下の通り。

 07/8.NO16.2006年度決算編06/8.NO15.2005年度決算編、05/8.NO14.2004年度決算編
 04/8.NO13.2003年度決算編、03/8.NO12.2002年度決算編、02/8.NO11.2001年度決算編
 01/8.NO10.2000年度決算編、00/11.NO9.原油処理設備問題、00/8.NO8.1999年度決算編
 00/4.NO7.どこまで下がる石油株、99/8.NO6.1998年度決算編、99/2.NO5.経費削減リストラ編
 98/8.NO4.97年度決算,販売,SS数、97/8.NO3.96年度決算,販売,SS数、07/10.元売カード比較
   

石油製品別国内販売実績一覧表 2007年度(2008年3月末期)

まず業界環境がどのように変化しているのかを確認する意味で、国内販売数量を見てみましょう。
ガソリンや軽油の97%は、むしろ善戦したほうだと思います。今後は益々減って行くことでしょう。
A重油等は、価格高騰からLNGへの燃料転換で大幅減が続いています。しかし問題は、燃料転換
が出来ないトラックの軽油や船舶用のA重油は、漁業関係者様ストライキに代表されるように、
そのご苦労を考えると胸が痛みます。C重油の伸びは、柏崎原発停止による代替需要でしょう。

 
2007年度 各油種の国内販売数量、資源エネルギー庁発表 
忘れては行けない「輸出」の存在
元売の業績や販売を考える時、2年前以前は、国内向けの数字を見るだけでよかったと思います。
しかし平成17年度からは事情が異なって来ました。下記表をご覧下さい。これは、日本としての
石油製品の輸出の数量です。一見するとジェットやC重油が以前から多いように見えますが、
これは、一般の方がイメージする輸出とは少し異なり、例えば外国籍の飛行機や船に給油を
する際には、免税扱いになることから貿易統計カウント上、輸出としていますが、場所としては
国内販売に入れてよいのではないかと思います。
さて注目頂きたいのは、近年その数量を大幅に伸ばしている「軽油」です。A重油を始めとする
中間3品の国内での需要縮小に困っていた元売でしたが、海外の製品高の市況に目を付け、
近年輸出設備を大幅増強しました。そしてこれが本格化したのは平成19年度からです。
平成16年度をベースに考えれば、17年度は2.7倍、18年度は3.2倍、そして19年度には
5.9倍に拡大しました。そしてその900万KLという絶対数量も前項の国内販売3556万KLの1/4
を上回っています。そして20年度も更に増え、国内販売の1/3に達するとの見方もあります。

ガソリン ナフサ ジェット 灯油  軽油 A重 B・C重 重油計  燃料油計
平成16年度 112 26 5,888 155 1,525 161 7,770 7,931 15,637
平成17年度 521 - 6,689 383 4,087 168 9,867 10,035 21,715
平成18年度 317 23 7,955 499 4,950 165 9,409 9,575 23,319
平成19年度 536 12 9,277 644 9,027 350 9,183 9,533 29,029

ご存知の通り、灯油、軽油、A重油等の中間3品は、その性状が極めて近いので、ある程度
製品間の得率調整が可能です。従って国内のA重油の大幅な需要の落ち込みを軽油の輸出で
補って余りある数字です。これが国内需要がこれ程落ちているにも関わらず、昨今の灯油、軽油
A重油の現物市況が極めて高いのは、この軽油輸出数量の大幅増も影響しているでしょう。

主要元売9社の単独及び 主要6グループの連結決算




当期の決算を一言で申し上げれば、製品価格高騰で販売単価は増加し、増収となったものの
原油高騰で自家用燃料費用も増加した精製部門は勿論、原油価格上昇を末端に転嫁出来ない
販売部門も、実質赤字だったのではないでしょうか。前述の通り軽油輸出やそれにともなう国内
現物市況の好転で一部利益改善に寄与しましたが、ガソリンは相対的に弱含みし、商社等大口
向け卸価格には、一部安値販売等が残ったように聞いています。それを原油在庫の評価益で
何とか穴埋めしたという感じだと思います。原油在庫の評価益は、キャッシュを生む利益では
なく、税金はしっかり取られるので、キャッシュフロー的には厳しいのではないでしょうか。
元売各社のSS数とセルフSS、元売社有SS数比較表
さてもう一つの元売傾向を分析する数字として、元売系列のSS数を調べてみました。
本年3月末のエネ庁登録の固定式SSは、前年比1,816箇所減の43,207SSなので、偶然の一致
ではありますが、数字的には、元売系列SSの減少の分だけ全体のSSが減ったとも言えます。
また元売全体の社有SS比率は、昨年の23.2%に対して今年は23.7%と微増に留まりました。
これは特約店や販売店所有のSS同様、元売の所有のSSも不採算な物件はしっかり閉鎖
していると言えるのではないかと思います。
一方セルフSSの増加は、未だにハイペースです。また系列元売全体でのセルフ率は18%。
一般にセルフSSは、フルサービスSSの3倍売ると言われていますから、「全販売数量の
約半分は、セルフSSで販売している」と言えるのかもしれません。
さて元売系列の中で、減少比率もその絶対数も、最も多く廃止したのはEMグループです。
聞くところによれば、新設SS物件も大幅に減らしているとのことなのです。例えば、6月末の
社有セルフ数は、3月比僅か+2件。それも前年度の計画がずれ込んだという話もあるので、
EMの出店抑制の方針が、9月末数字には、しっかり現れてくるのかもしれません。
あとこの表からは読み取れませんが、本年3月末のPBも含めたセルフSSの全数は6843
SSですが、この1年で何と131箇所のセルフが廃止され、これを含めセルフSSの累計
撤退数は299SSとなりました。この1年間だけをみれば、純増が842SSとのことなので、
973のセルフが出来て、131箇所も閉鎖されるという、セルフにとっても非常に厳しい淘汰
の時代が来たよう思います。
                       平成20年3月末、単位千KL / KL  社有=元売所有物件

元売会社 3月末数 前年比 社有 前年比 社有比 セルフ数 前年比 セルフ率 セ社有 社有比
新日本石油 9,919 -449 2,175 -282 21.9 1,231 +176 12.4% 670 54.4
出光興産 4,808 -251 1,410 -8 29.3 754 +116 15.7% 543 72.0
昭和シェル 4,417 -143 1,010 -31 22.9 735 +133 16.6% 369 50.2
コスモ石油 4,125 -234 870 -31 21.1 870 +81 21.1% 533 61.3
Jエナジー 3,555 -153 1,106 -37 31.1 667 +61 18.8% 410 61.5
EMG 4,911 -515 973 -98 19.8 1,161 +69 23.6% 471 48.4
キグナス 568 -50 98 -4 17.3 172 +10 30.3% 65 37.8
九州石油 670 0 94 5 14.0 179 +27 26.7% 52 29.1
太陽石油 362 -8 131 10 36.2 121 +12 33.5% 83 68.6
三井石油 335 -13 111 -2 33.1 119 +8 35.5% 72 60.5
元売合計 33,670 -1,816 7,978 -478 23.7 6,009 +693 17.8% 3,268 54.5
本表は、石油業界新聞等より各元売が発表した記事等を参考に弊社が再編集しました。

元売-特約店間の卸価格決定方式の変更について考える

今、業界内で最も旬な話題は、10月から始まると言われている新仕切り体系の件です。
新日本石油と出光興産が、本年10月より実施する価格決定方式の見直し案とされるものが、
先行報道されていますが、両元売からは実はまだ正式発表されておりません。
 今までのどのようなところに問題があったのかの前に、今までの仕切り価格決定方式
についてその代表的な方式を簡単に説明しておきましょう。

1.輸入原油(通関)CIF価格からのコスト積み上げ方式。(以下通関略)
   大手商社等との価格決定に多く用いられている方式です。あくまで推定ですが、
   大手商社向けが、 CIF価格+8円から+10円くらいだとすると、
   大手特約店向けは、CIF価格+10円から+15円くらいでしょう。
2.業者間転売価格(現物価格)参考方式。
   現物の石油製品価格のノンブランド価格である通称「RIM価格」等を参考にする方式です。
   これも推測ですが、大手商社なら RIMレス(マイナス)からRIM+2円程度でしょう。
   大手特約店なら、RIMフラット(+0円)から RIM+5円程度まであります。
   (ローリー運賃や油槽所経費有無もあるので、実際はもっと複雑です)
3.輸入原油CIF価格前述1と業者間転売価格(RIM価格)前述2を共に参考にする方式
   例えば ((CIF+10円)+(RIM+5円))÷2 という感じです。
   この方式は、大手商社や大手特約店に多い方式と言われています。
4.末端市場価格連動(逆算方式)
   一部外資系のゾーン市況とか、民族系最大手元売の方式もこの分類に入ります。
   末端市況のレベルにもよりますが、例えばフルサービスなら7円、セルフ方式なら5円
   等の基準値あり、市況に連動して利益幅が若干増減する方式です。

どのようなところに問題があったのか

上記4方式は、それぞれ歴史があるので、個々に見れば一応の理屈はあります。
しかし結果として、監督官庁であるエネ庁や公正取引委員会からも
「その決定方式が不透明である。その価格決定方式が、交渉力のある商社や大手特約店
以外は、事前の協議や交渉の余地無く、ほぼ一方的に決められているのではないか。
その結果、同じ地域でも、価格決定方式が複数存在し、最も不幸な例は、同じ系列でも
最大10円以上格差が開いたこともあり、元売もその事実を認めていました。
 ちなみにこの10円の格差ですが、小売価格が例えば170円の市場の中で、一般の小売
業界なら粗利は2-3割りあるので、「許容範囲ではないか」と新任の公取の担当者が、
おっしゃることがありますが、原油代が80円でほぼ一緒、税金が約65円。従って元売から
SSまで業界全体の粗利が25円。そして末端SSの平均マージンが7円しかなかったら
10円も仕切価格が違うことは、如何に問題かが、よくお分かり頂けると思います。

新仕切価格決定方式とは何か

当局からこのような指摘を受け、大半の元売は特約販売契約書をまず見直し、そして今回
変更案の説明開始ですので、期は熟したのかもしれません。その内容をひと言で申し上げると
 
 1.基本の製油所出荷価格は、前述のRIM社発表の陸上ローリー向けの市況(ローリーラック
   通称 陸RIM)か東京工業品取引価格、もしくはその按分で決める。
 2.製油所から油槽所までの転送運賃、油槽所費用、SSまでのローリー費用等のフレート
 3.元売ブランドコスト     4.安定供給コスト     の以上です。

4項目もあるので合計でかなり額になるのかと心配していたのですが、そのトータル金額は
概ね許容範囲に納まっていたので、それは多いに評価できると思います。
さてもう一つの注目は、数量インセンティブが、今までの業界常識からすれば、大幅に圧縮
されたのではないかと思います。すなわち、大手商社にとって厳しく(余り安くならない)、
零細特約店にとっては、非常なメリットと言えると思います。
何せ今まで業転価格と称されていたRIM価格からある程度のコストで元売の保証のある、
そしてSSのカラーリング等のコスト等を含んだ系列品が買えるようになるからです。

RIMやTOCOM価格は、公正な指標か、それとも相場か。毎週変動が消費者のニーズか

しかし非常に心配な問題もいつくかあります。
一つ目は、RIM価格やTOCOM価格が、相場ではなく、本当に正しい価格指標なのか
ということです。結論から申しあげれば、それは極めて疑問です。例えばアメリカのメキシコ湾で、
ハリケーンが精製施設に損害を与えたりすると、ニューヨークのWTI原油は上がり、それにつられ
TOCOMの原油価格もあがり、原油があがるならと東京のガソリンも上がります。しかし国内の
ガソリン需給には全く関係がありません。これが本当に正しい指標なのでしょうか。また市場規模も
WTIに比べ遥かに小さい東京は、外資系の巨額ファンドの介入であっという間に大変動します。
二つ目は、元売と特約店にとって公正なのかということです。
実は、元売はTOCOMの会員です。市場が安すぎると思えば、直接買いに入ることが出来ます。
もちろん数量制限はありますが、昨年までの買いに対し、10万KLレベルで買いが増えるでしょう
から入れば、当然価格は上がるでしょう。
RIM価格も同様で、元売が陸上で現物品を大量に買うことが出来き、それは当然RIM価格を押し
上げます。そして今、RIM市場とTOCOM市場で実取引をされている数量を合計しても、ガソリン
全体の月間500万KLの恐らく10%にも満たないでしょう。もし元売がTOCOMやRIMの買い付けで
多少損をしたとしても、相場は間違いなく上がりますから、残りの80%の系列取引には、この上
がった価格が適用されるので積分的には、十分利益が出るわけです。そしてこの元売の売買は
全くの合法です。よってどう考えても元売と特約店間の価格決定指標としては、TOCOMもRIMも
公正でないような気がします。
では正しい指標はあるのでしょうか。少なくとも私は、日本の元売全社が少しでも安く仕入れよう
として切磋琢磨した結果である
「輸入原油通関CIF価格」間違いなく公正な指標だと
思います。そして消費者の皆様もこの価格には異論は唱えないでしょう。元売のその時々の
需給バランスによる市場価格も反映させたいという気持ちも良く分かりますので、この原油CIF
価格とRIM価格の半分ずつを採用するという、従来からあった方法がベストだと思います。
要するに従来は大手商社等にしか適用されなかったこの方式も一般特約店の選択肢として
追加すれば良いと思います。
 三つ目の問題は、毎週の変動をお客様が望んでいるかということです。私どものSSでは、
今でこそ掛け売りのお客様は少なくなりましたが、全て月決めです。市場変動リスク等は、
どこかの段階で負わなければならないのは明白ですが、ガソリン税の時のように我々SSに
委ねようとしているのでしょうか。

元売の社会的使命を考えれば自ずと結論は出るのではないか

今回の問題を解決するには、元売の社会的使命を考えるとよいと思います。私の考える
雇用、環境、納税等違う次元を除いた石油元売としての社会的使命は、以下の3つです。
1.原油等のエネルギー調達
  中国などは、正に国家プロジェクトで、武器輸出等の経済以外の見返りも含めた資源
  獲得競争をしています。一方日本は、国の理解や現実的な支援が事実上ありません。
  その意味では善戦していると思います。ちなみに現在日本の自主開発原油比率は約15%。
  2006年5月に国が発表した「新・国家エネルギー戦略」では、2030年までに40%に増やす
  という勇ましい目標が掲げられていますが、具体的な施策の記述は全くなし。
  私は、ガソリン税の論議でも申し上げた通り、今日本に必要なのはエネルギー確保税です。
  ガソリン税は一般財源化ではなく、正に暫定税率分くらいは、エネルギーや鉱物資源確保
  のための補助金として使用しても良いと本気で考えています。
2.メーカーとして石油製品の生産
  新日本石油グループで申し上げれば、東北石油や興亜石油を傘下に収めるとともに、
  他の元売とも提携を強化し、生産効率を高める一方、重質原油等の分解能力を高め
  更に最近では日本海石油の停止、九州石油の統合は非常に評価しています。
3.販売元売として石油製品の安定供給  これが今回のテーマです。

真の安定供給とは何か  前項3を掘り下げて考えてみます

それは日本の経済生活に不可欠な石油製品を安定的に適正価格で供給することです。
4月末のように一日で通常の5倍出るような需要に答えるのは、許容範囲外と思います。
その意味では、数量についてはその責務を果たしていると思います。しかし問題は価格です。
今年の冬の灯油を例に考えてみます。昨年比、輸入原油CIF価格が、40円上がったとして
ガソリンも概ね40円UPなので問題ないとしても、TOCOMやRIMの灯油価格は60円以上も
上昇しています。A重油や軽油ユーザーは産業用ですので、国際的な市場原理だからとか
と説明して、ご理解を頂いているのかもしれませんが、民生用の灯油は本当に心配です。
北海道とか青森とか、或いは豪雪地帯では、冬の暖房は、やはり灯油しかないでしょう。
「原油が40円上がったので自家使用燃料コスト増を含めて42円上げさせて下さい。」
これなら消費者懇談会も成立するかもしれませんが、「60円あげます」とお願いしたら、
国際市場名を借りた便乗だと言われないのでしょうか。相場の世界だけで商売するなら
それは商社ですし、投機で儲けていると言われてしまうような気がします。
正にこのような時にこそ、需給や価格の調整役としての元売存在が必要とされ、それが
元売の社会的使命ではないかと思います。  文責 垣見裕司 NO2   8/8