柏崎刈羽原発停止の影響を考える 2006年度業界販売と元売決算データ比較 NO16 |
東京電力だけが悪いのか 人ごとではない設計基準
新潟県中越沖地震は、想定していた地震規模の約3倍もの揺れが原子力発電施設を襲った
とのことでした。地震直後、変電設備の火災が発生した事は当初から報道されましたが、消化
設備等の配管も破損していて、消化活動がまともに出来なかったことや、その他多くの箇所で
地震による不具合が見つかったことが、後になって発表されたこともあり、マスコミの論調は、
酷評へと変わっていったのは皆様周知の通りです。
しかし原発の耐震基準は、国等が定めたものに従って設計し建築しているのでしょうから、その
設計通りに建築されていたなら、電力会社のみが批判されるのはおかしいのではないでしょうか。
その基準を作り、許可した行政側にも、間違いなく相当の責任はあるのではないとか思います。
実は規模こそ全く違いまが、当社も約1万m2の敷地にタンクローリーで受け入れたLPガスを
50KG等の容器に充填する設備を持っております。タンク容量は70tが2基、その末端供給軒数は
約10万軒にもなるので、社会的使命としては公共設備とも言えるでしょう。当然これらのLPガス
充填設備も国等が定めた法律に従って設計、施工しているので、もし弊社の地下タンクの直下に
想定外の断層があったりしたらと思うと、今回の地震は正に人ごとではありません。
原発代替特需と言っても決して喜べない石油業界
この刈羽原発の合計7基の発電能力821万kW/h。余り知られていませんが、一箇所の原子力
発電施設としては世界最大です。当然この能力なしで、夏場の電力ピークは乗り切れません。
従って停止が長引けば、他の火力発電をフル操業するだけでなく、長年休止していた老朽設備も
夏場のピークに向けて運転していくことになるでしょう。ではこの原発の代替発電としてどのくらい
の燃料が必要なのでしょうか。石油連盟の渡会長の7/18の発表によれば、その必要量は重油
換算で月間100万KL。この内約3割は、石炭やLPG等で充当するので、残る月間70万KLが、
石油系だそうです。現在、電力向けの石油供給量は月間平均で123万KL。最低月は88万KL、
昨年の7月は150万KL、これに今回の70万KLを加える220万KLとなり、これは最近のピークと
ほぼ同じという規模です。この話しを聞いて皆様が「原発停止特需で石油業界が大儲けをする」
というようなご印象をお持ちなら、この機会に是非ご再考頂ければと思います。
冷静にC重油等の価格を分析してみると
下記表の原油+税コストは、輸入CIF価格と税金、更に備蓄費や内航タンカー等まで含めた製油所
入荷コストを約3円と想定しました。従って精製コストと出荷コスト、客先までの輸送コスト除きです。
HSCとは硫黄分3%のC重油 LSCとは硫黄分0.3%のC重油でこれが電力用C重油のスペックです。
電力用C重油は、新日石と東京電力等で決められたフォーミュラーに従って決定された価格です。
油種/06-07年 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 原油+税コスト 52.3 55.4 55.9 50.8 47.5 46.0 48.3 44.9 45.4 48.2 52.3 54.5 57? HSC重油 S=3% 41.4 41.5 40.7 40.5 40.2 42.0 41.1 41.7 41.7 41.1 40.3 45.8 49.8 LSC重油 0.3% 53.3 53.3 52.7 50.2 47.3 46.3 45.4 45.1 45.6 50.0 53.0 55.4 58.5 LSA重油 0.3% 58.2 61.0 58.7 52.0 52.4 52.4 49.7 47.5 49.6 53.7 55.8 55.3 56.4 電力C重油 0.3% 58.38近年最高値 52.92 50.35 57.66交渉中
ご覧の通りHSC重油は、原油以下でLSC重油が、やっと原油価格に税金分を加えた程度です。
よって硫黄分を取り除くためのコストは出ていないことになります。要するに、ガソリンや灯軽油等
しか利益が出来ない価格構造になっています。またLSC重油は電力需要が増す夏場に高く、秋は
安くなることが分かります。電力会社向けの価格は、新日石と東京電力等で長年交渉して来た
価格決定フォーミュラーで決まり、一定のコストも認められているので、元売は赤字は出ませんが
特需利益と言うには、程遠いでしょう。更に物流面でも問題が残ります。電力業界の長年の重油
離れで、重油用のタンカーを多数廃船してしまったのです。ちなみに前述の220万KLという数字は
最近のピーク供給量とほぼ同じというレベルなので、その大変さがお分かり頂けるでしょう。
元売にとって一番辛いのは、連産品対策かもしれない
ご存知の通り、石油は連産品です。必要な製品だけを原油から生産するというのは無理です。
原油を処理して生産される各製品の割合を「得率」と言いますが、2005年度の年間平均の得率を
見るとガソリン24.4%、灯軽A重油33.1% BC重油14.7%となっています。従ってC重油を70万KL生産
すれば、ガソリンも120万KL、灯軽A重油も165万KLも出てきてしまうことになります。
ちなみに現在ガソリンの現物市況は約130円。これは2007年3月比、+17円という異常値で、元売
にとっては、正直嬉しい価格帯です。これは需要が100%以下と多くないにも関わらず、在庫が
190万KLと、過去最低レベルなので、一言で言えば、需給調整がうまく行っているのでしょう。
従って、得率換算で単純計算すると出て来てしまう120万KLが、もし現在の在庫に単純加算され
たら、ガソリン現物の卸市況は暴落してしまうことになります。
原油の生焚等で生産調整
しかし増加分の70万KLは、全てLSC重油という訳ではなく、原油をそのまま使ういわゆる
「原油の生焚き」もしています。但しローサルファーである必要はあるので、インドネシア等の
南方原油の確保が急務です。従って当社HPでご紹介している産油国別の原油価格の7月8月
価格は、他の原油価格に比べて相対的に値上がり幅は大きくなるでしょう。
このように原油の生焚きで対応しても、約14万KLというガソリン数量は生産されるようです。
石油連盟では、「生産されるガソリン留分等は、石化や中国向け輸出に回すので、現物市況
には影響しない」と発表していますが、今後の現物市況を注目したいと思います。
具体的には8月から供給開始か
7月も月末近くになると、元売各社の増産等の対応の数字が聞こえてきました。平時からの電力用C重油の備蓄が必要なのではないだろうか
あくまで断片的、或いは新聞情報なので、取捨選択は皆様のご判断におまかせ致します。
新日本石油、8月中の原油と電力重油の供給量は35万KLで当初計画から15万KL増。
昨年8月は約15万KLなので、2倍以上の大幅増となる。内5万KLは重油で納品。
昭和シェル石油は、8月供給予定量は当初の10万KLから14万KLと4万KLの増。
原油調達で賄う予定だか、不足分のみ増産で対応とのこと。
その他jomoやコスモ、出光も数万KLレベルだが協力体制を取っている。
一方 白物を得意とするエクソンモービル系からは、少なくとも現在の段階では情報なし
改めて日本の特に電気エネルギーを考えてみましょう。
2003年の原発トラブル隠し問題の時も、ある意味燃料電池等では「ライバル関係」でもある
電力業界に、石油業界は全力を挙げて「供給責任」を果たしました。でも喉元過ぎれば、コスト
等の問題から、また石油は最後の需給調整的な地位に下げられてしまいます。
しかし、現物の石油製品の確保と、タンカー等の物流確保には自ずと限界があるので、
突然の需要増には、今後は対応出来なくなるでしょう。
従って平時より一定割合の電力用重油を引き取って頂くか、それを直ぐに使わなくても、
万一の時の夏を乗り切れる程度の数量は、電力業界のご負担で備蓄すべきではないでしょうか。
今回は、何とか乗り切れるかとは思いますが、エネルギー業界人として危惧せざるを得ません。
この日本において自由化の弊害であるカルフォルニアの様な大停電が、まさか起きないことを
心より願っております。
第二部 元売会社決算報告
06/8.NO15.2005年度決算編、05/8.NO14.2004年度決算編、04/8.NO13.2003年度決算編石油製品別国内販売実績一覧表 2006年度(2007年3月末期)
下記表の通りです。ガソリンは間違いなくピークアウトしたと言えるのではないでしょうか。主要元売9社の単独及び 主要6グループの連結決算
ナフサは、化学原料の好調を反映、灯油の減少は暖冬ばかりではないでしょう。
A重油等は、価格高騰からLNG等への燃料転換で大幅減が続いています。
これらは、単年度の現象というよりいうより、残念ながら大きなトレンドでしょう。
2006年度 各油種の国内販売数量、資源エネルギー庁発表 単位1000KL
元売各社のSS数とセルフSS、元売社有SS数比較表 元売クレジットカード徹底比較はこちら
当期の決算を一言で申し上げれば、製品価格高騰で販売単価は増加し、増収となったものの、
前述の通り数量は伸び悩み、前期寄与した在庫評価益も大幅に少なくなり、営業利益、経常利益
とも大幅減となりました。一般的には、元売として利益が出ているものは、原油開発部門と、化学
原料部門のみと言われ、原油高騰で自家用燃料費用も増加した精製は勿論、原油価格上昇を
末端に転嫁出来ない販売部門も実質赤字と聞いています。
平成19年3月末、単位千KL / KL 社有=元売所有物件
本表は、石油業界新聞等より各元売が発表した記事等を参考に弊社が再編集しました。
元売会社 3月末数 前年比 社有 前年比 社有比 セルフ数 前年比 セルフ率 セ社有 社有比 新日本石油 10,368 -439 2,309 -127 22.3 1.055 +261 10.2% 588 55.7 出光興産 5,059 -190 1,418 -48 27.9 638 +150 12.6% 474 74.3 昭和シェル 4,560 -129 1,041 -35 22.9 602 +171 13.2% 310 51.5 コスモ石油 4,359 -193 901 15 19.5 789 +163 18.1% 500 63.4 Jエナジー 3,708 -125 1,143 -11 30.1 606 +72 16.3% 384 63.4 EMG 5,426 -411 1,071 -66 19.5 1,092 +162 20.1% 445 40.8 キグナス 618 -9 120 13 17.1 162 +18 26.2% 61 37.7 九州石油 670 -15 89 5 12.3 152 +38 22.7% 46 30.3 太陽石油 370 -15 121 8 29.4 109 +10 29.5% 74 67.9 三井石油 348 -21 113 -7 32.5 111 +14 31.9% 66 59.5 元売合計 35,486 -1,547 8,326 -253 23.2 5,316 +1,059 15.0% 2,948 55.5
元売の好決算の一方、我々SS業界は、非常に窮地に陥っています。詳しくは2007年4月企画で
申し上げた通りですが、要約すると、2005年1月比で2007年7月もしくは8月は、
1.輸入原油のCIF価格は、2005年1月の25円から本年7月推定の55円まで、30円上がった。
2.ガソリン業転価格も同時期で、89円から129円まで、+40円上がった。
3.元売系列仕切りも 本年7月までに31.6円 (新日石コストUP発表)上がった。8月+2.1円
4.元売からSSへの卸価格(資源エネルギー庁石油情報センター調査)も29.7円上がった。
5.しかしガソリン末端価格は、117円から141円(7月価格)まで 24円しか上がっていない。
6.我々SS業界は、ガソリンで6円/L以上もの大幅なマージン圧縮となり経営は困窮している。
SS業界がこのような大赤字では、来るべきバイオ燃料時代への対応に向けた、タンクの二重殻や
設備更新の為の再投資が全く出来きず、それは、あと数年での業界破綻を意味しています。
是非SS業界として、前向きなSSが存続出来るレベルへの値上げに、ご理解頂ければ幸いです。