SS業界の未来のために、4月値上げのお願いです
 異常下落をした過去半年間に何があったのか。
あなたは原油価格並びにガソリン市況企画の番目のお客様です。(更新時 167000件)
皆様もご存知の通り、記録的な原油高を受けたSS市場は値上がりし、全国市況は2006年の7/31に
137.4円、8/7には143.7円、そして9/4には144.1円となり、9/11までその市況が続いておりました。
しかし、9/19に144.0円と僅かながら下落した以後、本年3/5の128.8円まで、約半年間に渡って下落を
続けました。その下落幅は何と15.3円。しかし原油輸入CIF価格は、9月の52.9円のピークから、本年2月
の41.8円まで11.1円しか下がっていないのに、業界に一体何が起こったのでしょうか。そこで今月は、
原油価格から末端市況に至るまで、出来るだけ詳しく、可能な限りの実データを示しながら、業界人
としての説明責任を果たし、業界の4月値上げに、何卒ご理解を頂けるようお願い申し上げます。
   文責 垣見裕司  Ver1 (皆様からのご要望により各種データページを作成しました)

78.4ドル/Bから49.9ドル/Bまで下落したWTIも、60ドル/Bで高値安定か
それまでのWTIの最高値は、2006/7/14の78.4ドル/Bでした。その後は10月まで一気に下落、
12月に一度上昇するものの、2007年1月には一時50ドル/Bを割る下落、そして今は60ドル/Bを
挟んで、荒っぽい動きをしています。
その動きの理由については、イラク、イラン情勢、中国の旺盛な需要、アメリカの需給等色々
言われておりますが、私は特別な情報を持ち合わせている訳ではないので、マスコミ等に発表
される専門家のコメントをご参照頂ければ幸いです。


                   WTI 期近つなぎ 日足    
 (資料ご提供 オーバルネクスト)


日本の輸入価格を決める中東原油とWTIとの格差は、より縮小傾向へ
毎回声を大にして申し上げているのは、投機的なWTIだけでなく、日本の原油コストを事実上
決める中東原油価格を見て頂きたいということです。冷静に判断するために、月平均価格で
検証すると、下記表の通り2005/1月平均で、中東原油とWTIの差は、8.3ドル/Bありました。
40ドルの原油に対して8ドルですから20%近く格差があったといえます。しかし、2006年7月の
原油ピーク時は、4.8ドル/B、率にして7%にまで縮小しています。では今現在はどうでしょう。
オマーンとドバイの平均である58.25ドルに対して、3月のWTIは59.7ドル/Bと ついに1.45ドル/B
程度の差になってしまいました。
中東原油が中質油、WTIが軽質油であることを考えると投機プレミアムは解消されたと言って
よいでしょう。逆に言えば、投機熱は収まったものの、やはり中東原油の実需は、価格が大幅
下落する程、だぶついてはいないということなのかもしれません。
これらの中東原油価格の推移の結果は、日本の原油輸入CIF価格に反映され、ピーク時の
2006/9月の52.9円/Lから、本年2月の41.9円まで、11.1円/L 下落したことが分かります。

   本表の3月以降のデータはこちらで掲載しています。 (2007/3月末データ)
OMAN DUBAI 平均 WTI 格差 CIF $/B 円レート 円/KL 累計
2005/1 39.187 37.920 38.554 46.852 8.299 38.34 103.66 24,998 0.00
9 58.353 56.536 57.445 65.553 8.108 59.34 110.21 41,135 16,137
2006/2 58.612 57.605 58.109 61.926 3.818 60.91 116.92 44,794 19,796
7 70.215 69.165 69.690 74.463 4.773 67.96 115.33 49.302 24,304
8 69.968 68.765 69.366 73.083 3.717 71.90 115.89 52.340 27,342
9 61.007 59.816 60.411 63.895 3.484 72.04 116.78 52.918 27,920
10 57.383 56.424 56.903 59.138 2.235 64.44 117.94 47,803 22,803
11 57.363 56.716 57.040 59.403 2.363 59.82 118.16 44,459 19,461
12 59.343 58.685 59.014 62.087 3.073 58.51 116.53 42,888 17,890
2007/1 52.135 51.693 51.914 54.354 2.440 60.38 119.20 45,271 20.273
2 55.963 55.752 55.858 59.388 3.530 55.00 120.96 41,845 18,847
3 58.500 58.000 58.250 59.675 1.425

想定外の業転価格の大幅下落
では輸入原油コストの11.1円の下落に対して、国内の製品市場はどう反応したのでしょうか。
一番大きな反応をみせたのは、ガソリンや灯油の業転価格です。
ガソリンは2006年8月の123.6円をピークに下がり始め、1月には100円を割った時期もありました。
同じく灯油も8月のピークである62.8円から、一時49円を割るレベルまで下落しました。
       
本表の3月以降のデータはこちらで掲載しています。
月 円/L CIF幅 京 浜 西日本 平均 累計 灯油 新日石発表 卸価格 累計 市況 累計
2005/1 比+0.0 88.8 88.9 88.9 +0.0 単月 累計 96.3 税抜 117 税込
2006/7 24.3 121.6 121.5 121.6 32.7 61.6 0.9 26.6 120.2 23.9 137 20
2006/8 27.3 123.6 123.6 123.6 34.7 62.8 4.3 30.9 125.2 28.9 144 27
2006/9 27.9 116.2 116.3 116.3 27.4 59.1 0.2 31.1 125.0 28.9 144 27
10 22.8 108.0 108.0 108.0 18.1 51.6 -4.7 26.4 120.2 23.9 141 24
11 19.5 105.9 105.9 105.9 17.0 55.8 -4.0 22.4 117.3 21.0 137 20
12 17.9 105.6 105.3 105.5 16.6 58.0 -0.7 21.7 116.0 19.7 135 18
2007/1 20.3 102.4 102.2 102.3 13.4 51.7 1.0 22.7 115.1 18.8 133 16
2 18.8 102.3 102.4 102.4 13.5 48.8 -3.1 19.6 112.3 16.0 129 12
3 19.0 105.5 105.5 105.5 16.6 52.7 +1.4 21.0 ?113? ?17? 129 12
卸価格は税抜き、末端価格は税込み。ガソリン粗利算出は、消費税6円を引いて下さい
業転市況の下落要因は、想定外の大幅需要減か
では、輸入CIFが11円しか下がっていないのに、何故ガソリン等に代表される業転市況は
こんなに下がってしまったのでしょうか。一言で言えば、需給環境が緩んだのですが、その
要因の一つに、需要そのものの大幅な減退があげられるのではないでしょうか。

       2006/4-2007/1 国内石油製品需要   出所資源エネルギー庁
ガソリン ナフサ ジェット 灯 油 軽 油 A重油 BC重油 重油計 燃料油計
06年4月 4,973 3,764 380 2,210 3,098 2,205 2,137 4,343 18,768
5月 4,932 3,855 399 1,009 2,751 1,719 2,066 3,785 16,732
6月 4,974 3,927 475 1,018 3,038 1,892 1,812 3,704 17,137
7月 5,475 4,145 445 1,137 3,197 1,984 1,950 3,934 18,333
8月 5,606 4,078 390 787 2,986 1,758 1,871 3,629 17,477
9月 4,857 3,724 374 827 2,945 1,690 1,765 3,455 16,183
4-9月計 30,818 23,493 2,463 6,989 18,015 11,248 11,603 22,851 104,630
98.3% 97.8% 96.8% 90.8% 97.8% 88.0% 88.9% 88.4% 95.2%
10月 5,056 4,441 507 1,271 3,143 1,809 1,813 3,622 18,040
11月 4,878 4,401 515 2,423 3,201 1,979 1,831 3,810 19,227
12月 5,566 4,734 522 3,980 3,329 2,370 2,050 4,420 22,551
小計 15,500 13,575 1,544 7,675 9,673 6,158 5,694 11,852 59,819
100.3% 106.73% 134.47% 85.23% 100.78% 86.12% 86.37% 86.24% 96.99%
07年1月 4,506 4,474 444 3,360 2,613 2,060 2,009 4,069 19,466
92.6% 96.3% 97.9% 72.2% 93.1% 76.1% 79.0% 77.5% 85.8%
10-1計 20,007 18,049 1,987 11,035 12,286 8,218 7,703 15,921 79,285
98.4% 103.9% 124.1% 80.8% 99.1% 83.4% 84.3% 83.8% 94.0%

上記表の通り2006年度上半期は、前年より減少したもののガソリンで98.3%、燃料油合計
でも 95%と、記録的な原油高という環境下では、むしろ善戦したと言えるでしょう。

10-12月は、ガソリンこそ善戦したものの、記録的な暖冬で灯油が85%まで下落、A重油も
暖冬とLNG等への燃料転換で86%と、需要減が顕著となって来ました。それでも燃料油
全体では、何とか97%を保っていたのですが、1月に決定的な数字となって現れました。

頼みのガソリンが92.6%という記録的減販、灯油も72%という異常値、重油も76-79%に減少。
そして燃料油全体でも85.8%という14%の減販は、シェアー14%の中堅元売が、市場から消滅
して、やっとちょうど良い数量と申し上げれば、事の重大性がお分かり頂けるでしょう。
手をこまねいていた元売の対策もようやく実を結ぶか
この需給バランスの崩れは、在庫数量の増加からも明らかです。下記はエネ庁発表の
1月末在庫ですが、各油種とも軒並み110%以上です。「減産すれば良いではないか」と
思われるかもしれませんし、実際減産もしていますが、化学原料として使われるナフサが
非常にタイトなので、供給責任上最低限の生産をする必要があるという事情も元売の
為に申し上げておきたいと思います。

数量千KL ガソリン ナフサ ジェット 灯 油 軽 油 A重油 BC重油 重油計 燃料油計
1月在庫 2,391 1,560 870 4,108 2,068 1,394 1,933 3,327 14,325
前年比 109.9% 87.0% 127.9% 141.6% 122.5% 114.9% 110.1% 112.1% 117.4%
3月3日 2,181 1,875 943 2,831 1,689 1,250 2,928 ----- 13,697
3月24日 2,199 1,763 928 2,116 1,511 1,219 2,946 ----- 12,683
1月在庫はエネ庁、それ以外石油連盟発表の週報データ。BC重油数量が異なる理由は不明

この対策として、元売が行ったのは大幅な減産と余剰油種のスポット輸出です。そしてこれに
予期せぬ救いがありました。超暖冬で、もはや「手仕舞い感」のあった灯油等の暖房需要が
3月上旬以降、北日本を中心とする寒波到来で、製品出荷が一時的に回復したのです。
1月末には、何と410万KLもあった灯油在庫が、3/24までには石連発表の週報ベースで
212万KLという前年並みのレベルにまで低下したのです。このような減産、輸出と寒波特需
要因で、下落した業転価格も3月中旬以降はかなり回復して来ました。
とにかく苦しいSS業界。
さて、話しを末端価格に戻します。8月のピークから原油輸入CIFは約11円下落しました。
そして元売の系列仕切りは、8月の125円に対し、発表された2月は112.3円なので13円の
値下げです。これに3月分上げを加味してして113円とすれば、合計12円の値下がりです。
しかしこの間の末端価格は、8月のピーク144円から現在の129円まで、15円値下がり
したので、この段階でも3円のかぶりがあります。

しかし、税込みで129円、従って税抜きで123円、仕入れがエネ庁発表の3月推定価格が
113円とすれば、10円のマージンが、SS販売業者に残ることになります。
実は、末端のSS業者の販売価格が今129円を頂けているとしたら、それは恵まれている
地域でしょう。

東京都心3区を別格とすれば、23区内の激戦地域は、今でも120円割れ。普通の地域である
西東京の私どものSSの看板価格は、税込み121円がやっとですが、これでも近隣SSから
2円程高い水準を余儀なくされています。この121円から消費税の6円を引くと、販売価格は
115円。仕入れを前述の113円とすれば、ガソリンマージンは、僅か2円しかありません。
我々SS販売業者は一体どうやって、経営を成り立たせれば良いのでしょうか。
見かけ上好決算を発表している元売も、
このような業界環境にあって元売各社は、2006年度の決算予想を発表しておりますが、
元売大手5社の最終利益は、原油含み益のある2005年の7887億円には及ばないものの、
含み益が大幅に減少しても 2006年度は、6127億円もの利益を出しています。
しかしその利益の源泉は、原油開発部門と化学原料から得られる利益だそうで、コストが
上がってしまった精製部門と、所謂「販売元売」としての販売部門は大赤字だそうです。

昨年の不幸な時期には、一部の元売子会社が、「自分は一番最初には下げていない」
という説明をしながらも、結果として周辺の系列一般特約店販売店への卸価格より安い
価格で販売するという不幸な時期がありましたが、今はもはやどちらが悪いと言っている
時期ではないでしょう。これを書き始めた、3月最終週の26日になって、ガソリン業転価格が、
3/23の106円から、3/26には何と3円も急騰し 109円になりました。
これは、1000KLロットの船ベースの価格ですから、ロット格差や海陸格差、更には油槽所
経費やローリー運賃まで含めると、SSに届けられるローリーベースの業転価格も4月以降は
間違いなく高騰するでしょう。
SS業界のそして日本の未来のために
4月値上げが万一不発に終われば、SS業界に未来はありません。近い将来に来るであろう
バイオ燃料への対応ための、タンク二重殻等多額の投資をせまられています。
いえ、未来への心配だけでなく、この3月末で廃業したSSが、実は少なくありません。
6月頃には、大幅に減少したSS数がエネ庁から発表されるでしょう。
SSはまだ多いという一部のマスコミの論調がありますが、本当でしょうか。

以前から何度も申しあげていますが、青梅街道を都心へむけて走る時、西東京市の弊社
販売店の岡山商事様を最後に、なんと外堀通りの飯田橋の二引様まで、シェアーNO1の
エネオスグループと言えども一軒のSSもなくなってしまったのです。
また甲州街道においては、幡ヶ谷のエネオスフロンティアを最後に皇居に至る新宿通りに
面したSSは、全系列を通じてももはや1件もありません。このような事で消費者の皆様は
ご不便を感じておられないのでしょうか。

内閣府が3/28に発表した規制緩和をした過去15年間の経済効果を発表していました。
価格低下と市場拡大による二つの合計をはじいたそうですが、結果は下記の通りです。
石油製品は堂々の第4位で、消費者の皆様には多大なる利益をもたらしたようです。
しかし、私見としては、競争の行き過ぎで、一部の地方や逆に超都心ではSS過疎が
始まっているのではないでしょうか。

順位 1位 2位 3位 4位 5位
業種 電力 トラック 携帯電話 石油製品 車検制度
億円 56,630 34,308 27,876 21,410 8,642

生き残ろうとするSS業界人のそしてお客様の未来のために、本HPの読者の皆様には、
この事情をご理解頂くとともに、SS業界の4月値上げにご理解を頂ければ幸いです。
またSS業界の皆様は、もはや隣のSSの看板価格ではなく、自分のSSに来るであろう4月の
請求価格単価を考えて、自らの販売価格を決めて頂ければと思います。
ご意見等はこちら  垣見 裕司 2007年3月30日更新 Ver 2