2009年度業界販売と元売決算データ比較 NO19
 
需要減、精製高度化法、メキシコ湾原油流出事故、SS数減他
あなたは8月元売決算関連企画の 番目のお客様です。 2010/7/30 134,000開始
また需要減や精製設備の高度化法、メキシコ湾原油流出事故、そしてSS数減少関連データについても
ご報告させて頂きます。過去企画は、以下の通りです。       文責 垣見裕司

 09/8.NO18.2008年度決算編
08/8.NO17.2007年度決算編、07/8.NO16.2006年度決算編
 06/8
.NO15.2005年度決算編、05/8.NO14.2004年度決算編、04/8.NO13.2003年度決算編
 03/8.NO12.2002年度決算編、02/8.NO11.2001年度決算編、01/8.NO10.2000年度決算編
 00/11.NO9.原油処理設備問題、00/8.NO8.1999年度決算編、00/4.NO7.どこまで下がる石油株、
 99/8.NO6.1998年度決算編、 99/2.NO5.経費削減リストラ編、98/8.NO4.97年度決算編
 97/8.NO3.96年度決算,販売,SS数
 

石油製品別国内販売実績一覧表 2009年度(2010年3月末期)

まず業界環境がどのように変化しているのか、国内販売数量を見てみます。
ガソリンは前年比100.1%とまずまずでしたが、これで需要は下げ止まったのでしょうか。
ガソリン価格は2008年のピーク価格185円から値下がりし、2009年1月は106円、そして
2010年3月には130円と緩やかな上昇でした。09年度のガソリン価格は近年との比較では
それほど高くはなかったのです。また高速道路の土日祭日1000円特需もありました。

 
2009年度 各油種の国内販売数量、資源エネルギー庁発表 
ガソリン ナフサ ジェット 灯油  軽油 A重 B・C重 重油計 燃料油計
2007年度 59,076 48,548 5,916 22,672 35,557 21,369 25,341 46,710 218,479
2008年度 57,472 42,890 5,676 20,254 33,709 17,895 23,103 40,998 200,998
2009年度 57,569 47,310 5,319 20,045 32,257 16,042 16,390 32,432 194,933
伸び率% 100.1 110.4 93.7 99.0 95.4 89.7 70.8 79.1 97.0

しかし現実は前年維持がやっとですから、私は、極めて悲観的に見ています。また
エコカー減税以外の温室効果ガスを直接的に減少させるような環境税的対策が、
まだ全く打ちだされていもいないのにもかかわらず、この低迷数字です。
更に日本の人口減もあります。2005年12777万人から2030年の11522万人へ緩やかに
減少すると言われ、65歳以上の高齢者割合も2005年の20.1%から、2030年には31.8%
に上昇するそうです。しかし、もっと直接的な数字を発見しましたのでご紹介します。
2009年末の運転免許保有者は8081万人で前年比100.4%と横ばいだったのですが
その年齢構成比は、1993年の24歳以下1052万人、65歳以上は394万人に対し、
2009年は、24歳以下が654万人、そして65歳以上が何と1247万人となっています。
仮に運転可能世代の上限を70-75歳以下とすれば、日本全体の人口減に先んじて、
運転可能世代の減少が、加速度的に進むことを意味しています。よって今後のガソリン
需要見通しとしては、私は間違いなく減少すると思います。C重油の71%も、原発が
順調に稼働しての数字ですが、装置産業の精製元売とっては、深刻な数字と思います。
2009年の製品輸出実績
元売の業績や販売を考える時、以前は、国内数字だけ見ればよかったのですが、
2005年度からは石油製品輸出が急増してきました。(但しジェット燃料やC重油が
多いように見えますが、例年ご説明している通り、外国籍等の飛行機や船への給油
は免税扱いで貿易統計上輸出なのですが、一般感覚的には国内販売です。)
さてご注目頂きたいのは、近年その数量を大幅に伸ばして来た「軽油」です。
A重油等の中間3品の国内での需要縮小に困っていた元売は、海外製品高に着目、
輸出設備を増強し、2007年度から輸出を本格化させました。その結果、04年度比
05年度2.7倍、06年度3.2倍、07年度5.9倍、08年度は8.5倍にまで拡大しました。

ガソリン ナフサ ジェット 灯油  軽油 A重 B・C重 重油計 燃料油計
2004年度 112 26 5,888 155 1,525 161 7,770 7,931 15,637
2005年度 521 - 6,689 383 4,087 168 9,867 10,035 21,715
2006年度 317 23 7,955 499 4,950 165 9,409 9,575 23,319
2007年度 536 12 9,277 644 9,027 350 9,183 9,533 29,029
2008年度 710 38 10,080 444 13,050 561 9,269 9,830 34,153
2009年度 1,552 - 8,376 357 11,358 608 7,798 8,406 30,048

製品輸出は、海外製品市況が高ければ、元売にとって臨時収入になりましたが、反面、
国内需要の地道な喚起、例えば省エネ型の高効率ボイラー等の販売努力を怠たり、
A重油等のLNGへの燃料転換が進み、今、価格が下がっても、その需要は戻っては
来ませんでした。そして09年度の海外製品市況は、元売に魅力のあるものではなくなり
09年度の「製品輸出」は、ご覧のような前年数字より大幅減少となりました。
主要元売6グループの2009年12月末 2010年3月末の連結決算数字

当期の元売の連結決算を一言で申し上げれば、3月末決算の会社においては
「製品販売単価の下落と販売数量減に伴い売上高は20%程度落ち込んだ会社が多かったが
3月末原油価格が78ドルと比較的高値だったことから、在庫評価益の助けが大きく、前年度の
「空前の赤字」からは改善したが、在庫評価除きでは、まだ大赤字」と言えるでしょう。もっとも
その大赤字を改善すべく導入されたのが新新仕切りなので、特約店としては困惑中です。
(尚、上記決算資料は、UBS証券の伊藤敏憲先生のご提供です。感謝とともにご報告します)
元売各社のSS数とセルフSS、元売社有SS数比較表
元売の傾向を分析する際、系列SS数を調べるとそれなりに見えて来るものがあります。
まず本年3月末のエネ庁集計の登録SS数は、前年比1,733箇所減の40,357SSでした。
一方元売の系列SSは、30,339SSで、前年比-1339。従って現在は、約25%のPBSSが
存在することになります。また元売全体の社有比率は、昨年の23.8%に対し、今年は
23.4%にやや下がりました。これは特約店や販売店所有のSS同様、元売所有のSSも
不採算な物件は、しっかり閉鎖していると言えるのではないかと思います。
セルフSSの増加は未だに多く、エネ庁登録数は、前年比522所増の8,296SSですが
その一方この1年で、何と161SSが閉鎖している事は、余り知られていません。
元売系列のセルフ数は、6565個所。元売系列におけるセルフ率は20.6%です。
一般にセルフSSは、フルサービスSSの3倍売ると言われていますから、「全販売数量の
半分以上を、既にセルフSSで販売している」と言ってもよいのかもしれません。
        元売別系列SS数 セルフSS数           2010年3月末、社有=元売所有物件

元売会社 3月末数 前年比 社有 前年比 社有比 セルフ数 前年比 セルフ率 セ社有 社有比
新日本石油 9,514 -460 1,899 -182 20.0 1,613 +96 17.0% 781 48.4
Jエナジー 3,173 -171 994 -65 31.3 765 +36 24.1% 464 46.7
 J X 小 計 12,687 -631 2,893 -247 22.8 2,378 +132 18.7% 1,245 52.4
出光興産 4,338 -260 1,250 -118 28.8 891 +47 20.5% 586 65.8
昭和シェル 4,102 -154 964 -21 23.5 951 +83 23.2% 480 50.5
コスモ石油 3,768 -145 837 -21 22.2 1,004 +49 26.6% 591 58.9
EMG 4,199 -290 818 -71 19.5 1,206 +9 28.7% 459 38.1
キグナス 562 -8 100 3 17.8 199 +11 35.4% 76 38.2
太陽石油 382 +12 132 -1 34.6 144 +6 37.7% 91 63.2
三井石油 301 -16 105 -1 34.9 133 +4 44.2% 76 57.1
元売合計 30,339 -1,492 7,099 -477 23.4 6,906 +341 22.8% 3,604 50.8
全登録SS計 40,357 -1,733 8,296 +522 20.6%
  本表は、燃料油脂、油業報知、ぜんせき、石油タイムス等の業界新聞、各元売HPより集計

SS絶対数とセルフSS推移から分かること

次に日本全体のSS数とセルフSS数の推移について調べてみました。
過去1年に2000個所を越す廃止があったのは、1995年度の2005個所の下記の5回ですが、
分母が毎年低くなっているので、減少率としては、むしろ高くなつていると言えます。

各年3月末 1999 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
SS数の推移 56,444 55,153 53,704 52,592 51,294 50,067 48,672 47,584 45,792 44,057 42,090 40,357
 対前年比較 -1,819 -1,449 -1,449 -1,112 -1,298 -1,227 -1,395 -1,088 -1,792 -1,735 -1,967 -1,733
新設 447 308 357 337 340 471 459 423 609 457 416 308
廃止 2,266 1,599 1,806 1,449 1,638 1,698 1,854 1,511 2,401 2,192 2,383 2,041
全体セルフ数 85 191 422 1,353 2,523 3,423 4,104 4,956 6,162 7,023 7,774 8,296
対前年増加数 85 106 231 931 1,170 900 681 852 1,206 861 751 522
元売系列セルフ 1,084 2,161 2,938 4,257 5,316 6,009 6,565 6,906
対前年増加数 空白部はデータなし 1,077 777 1,319 1,059 693 556 341
EM(G)セ数 810 930 1,092 1,161 1,197 1,206
 対前年増加数 120 162 69 36 9

一方セルフですが、最初こそその出店ペースは様子見でしたが、2001年度から爆発的に増え
ピークは2006年度の+1206個所。その後は減少し2009年度は、522個所となりましたが、実は
新規683個所に対し、撤退がこの1年だけで161個所、累計撤退数は、537個所もあるのです。
 (累計出店数は8,833個所、累計撤退数が537、結果、今残っているのが8,296個所)
セルフブームも去り、セルフに適した候補地も少なくなり、淘汰時代が始まったのでしょうか。
その傾向は、元売系列SS表も同様で、増加のピークは、2005年度に既に終わっており、
それ以降は大幅に減少しています。
今、元売自身が社有で新規投資や改造物件は ほとんどセルフ物件と言ってよいでしょう。
よってその元売のSSの新規投資やその意欲を見るのは、その元売のセルフSS数の伸び
を見ればよいことになりますが、そこで注目して頂きたいのがセルフ率のトップのEM系列です。
2006年度の+162以降減り続け、昨年度は、1年間でたったの9箇所しか増やしていません。
国内販売市況が余りにも酷いので、良い意味での新規建設の自粛なのか、それとも日本での
投資は、もうせず、国内撤退なのか、そのご判断は読者の皆様にお任せしたいと思います。

躊躇する元売の背中を押すエネルギー供給構造高度化法とは

資源エネルギー庁が7月5日告示した「エネルギー供給構造高度化法」に基づく、原油の有効
利用に向けた石油精製業者の判断基準のニュースはご存じでしょうか。「上流の元売精製
部門の話だから我々SS業者には関係ない」と思ったら大間違いです。
この通称「高度化法」は、価格が相対的に安い重質原油を効率的に精製出来る体制を整え
国内の精製業の国際競争率を高めるのが目的」とされていますが、真の目的は、体質の弱い
投資力のない精製元売の精製設備廃棄を強く促す法律」と私は理解しています。判断基準を
 (重質油分解装置の処理能力)÷(トッパ―の処理能力)=重質油分解装置の装備率)
と定め、現状約10%の装備率を2013年に13%に引き上げる目標を掲げただけでなく
精製業者に対し 現状10%未満なら45%以上 また13%以上なら15%への改善を罰則付きで
義務付けたました。精製元売は分解装置を装備すれば良さそうなものですが、このコストは
数百億から規模によっては数千億円も必要とされるため、結果的には、分母であるトッパ―
の処理能力の方を減らして、基準をクリヤーするしか無さそうなのです。期限は2013年。罰則
ありとのことですから、各社とも重大な結論を迫られるでしょう。
下記に元売グループ別に現状能力と現在発表済みのトッパ―廃止や削減見込みをいれた
装備率表を記しました。よーく見ると、各社の今の実力と今回公表された判断基準に「エネ庁
の強い意向がありそう」と思うのは、私だけででしょうか。
                                
単位  %以外は 万B/D
グループ名 トッパ―
処理能力
分解装置
処理能力
分解装置
装備率
最低改善
目標率
改善後
装備率
削減
義務量
更なる
必要削減量
JXエネルギー 183 19.7 10.8% 30% 14.0% 42.2 8.2
出 光 64 8.3 13.0% 15% 14.9% 8.3
昭和シェル 51.5 8.8 17.1% 15% 19.7% 6.7 達成済
東燃ゼネラル 66.1 2.8 4.2% 45% 6.1% 20.5
コ ス モ 55.5 2.5 4.5% 45% 6.5% 17.2
  出所 各元売HP ぜんせき新聞 月刊ガソリンスタンド7月号 他

単なるBPの話では終わらない メキシコ湾 原油流出事故

本年4月20日、メキシコ湾でBPが開発中の深海油田から原油が流出すねという業界史上
最悪の事故が発生しました。そして事故から3カ月後の7月中旬、何とか封じ込めに成功
しましたが、その間、1日最大で約1万klの原油を流出させ続けました。その被害は甚大で
メキシコ湾の環境破壊、その復元費用、流出原油回収費用、漁業補償等への賠償として
BPは、約2兆円の基金を積み立てることを余儀なくされました。これはBPにとっても大変な
負担で、それを懸念した市場は、BPの時価総額を1600億$から600億$へ1000億ドルも低下、
またある機関のBPへの格付けもAA+→BBB なるなど深刻な問題となりました。
またオバマ政権にとってもタイミングが悪く、1981年から規制の続けていたアラスカ沖等の
深海油田開発を3月31日に許可した直後の事故だっただけに、環境保護派は大反発、結果
1500m等深海原油開発の半年間開発凍結となり、反対する開発業者は裁判を起こしています
 さて今回の事故で中長期的には原油の産出量の減少は間違いないのですが、不思議な
事に、原油価格が乱高下することはありませんでした。一般には、世界経済の回復が遅れ、
原油の絶対需要が伸びていないからとの説が有力ですが、私は少し違う見かたをしています。
 近い将来の原油産出量は間違いなく減少→価格高騰→開発業者の利益という上げ要因と
少なくとも深海油田開発業者には、無限大とも言える膨大なリスクがともなうという下げ要因
が交錯して、投機筋も見極めきれていないのではないかと思います。
 もし前者が正しくて、原油が高騰したとすれば、今後新エネルギーへの転換が、益々進む
との思惑も働いたのではないかと思います。少なくとも今回のことで「脱石油」とまでは言い
ませんが、例えば水素社会の到来が、それなりに早まったことだけは、間違いないと思います。