東京モーターショー2017に見た EVの実力とSS業界の対応 |
今年のモーターショーのテーマは「世界をここから動かそう」でした。11月5日の
日曜まで一般公開は9日間でしたが、総来場人数は77万1200人だそうです。
2年前の2015年より4万人も少ないということなので、そこはちょっと残念でした。
例年はトヨタ様のお計らいで、プレスデーや特別招待日に拝見させて頂きベスト
ショットの写真を撮って来たのですが、今年はどうしても多忙で、行ったのが11月
2日木曜の平日でした。
朝の10時開場の15分前から並びましたが、私は大変混んでいるように感じました。
大変嬉しかったのは、小学生、中学生、そして高校生の修学旅行とおぼしき団体を
多数見かけたことです。私のモーターショーデビューは大学生でしたから、将来の
車ファンが増える学校の粋な計らいに感謝する次第です。
今回の私自身のテーマは「欧米中のEV思考は本物か。それを実現出来る電池
性能などの技術的裏付けはあるのか」です。
当日の時間を有効に過ごすためマスコミの記事等を少し読んだ印象では、
「EV一辺倒のモーターショー」と勝手に思い込みました。もし多忙で行かなかった
ら、私も今月のコラムをこの「EV一辺倒」で書いてしまうところでした。
私の印象としては、EVはコンセプトカーで、むしろ今売りたい車の展示が多く、
むしろ実利を目指した用な気がしました
今回のモーターショーでLPガス業界関係者
として嬉しかったのは、そのコンセプトが4年前
のモーターショーで発表され、2017年の10月
23日から発売を開始した、トヨタLPN TAXI
(通称ジャパンタクシー)です。
価格は約330万円(和なごみ)から
約350万円(匠たくみ)と現状のタクシー
市販車より1.5倍程度高いのですが、
一時トヨタは、LPガス仕様のタクシー車の
生産から<撤退をほのめかしていただけに、本当に嬉しく思います。
主な仕様は1496CCのLPガスエンジンを使用したハイブリッド車で、燃費は
JC08で19.4km/Lで、オートスタンドの話では、今までの半分だそうです。
定員は5名ですが、ロンドンタクシーを思わせる高い天井は斬新なデザインで、
日本ならではの「おもてなし」を表現し、訪日観光客の急増や2020年のオリン
ピックに向けて、発売開始以内11月末までに846台を納車したそうで、今後は
月産1千台体勢として、オリンピックまでには1万台を切り替えて行くそうです。
東京水素戦略会議を改め、とTokyoスイソ推進チームの運営委員の一人として、
近未来を占うモーターショーで燃料電池自動車(以下FCV)が、どのくらい展示
されているかは気になるところです。
あえて残念と言わせて頂ければ、今回一般乗用車のFCVは、トヨタの未来型
エスティマを思わせるTOYOTA FINE-Comfort Rideだけだったようです。
Comfortはタクシー車向けの車名によく使わるので、FCVタクシーなのでしょうか。
一応ホンダさんのブースでもお伺いしましたが、今年は展示を見送ったそうです。
また既に東京都の都営バスとして2台が試験走行中している燃料電池バスとは、
少し違うようですが、オリンピックに向けての市販型と思われるFUEL CELL
BUS SORAが展示されておりました。
バスは消費量が多いだけに、水素スタンドの経営には助かりますが、オリンピック
までに東京を中心に100台以上の普及を見込んでいるようです。
2014年のモーターショーで 今回のLPガス仕様のジャパンタクシーが発表されて
2017年の10月にやっと発売開始ですから、スイソ推進チームの委員としては
FCVタクシーの発表やトヨタの最高級ブランドレクサスにおいて、FCVモデルを
2019年度中の発売開始くらいは、発表してほしかったというのが本音です。
723万円のミライでは赤字と聞いていますが、1600万円のレクサスに搭載すれば
レクサスブランドの利幅があるので赤字は解消されるでしょう。
その一方、私がFCVにとって一番のライバルと思っている、日産NoTE ePowerは
2016年11月発売開始後1年間で もう20000台を突破したようです。
最新のEV(仮に323万円)だと走行距離(200〜300km)が心配。EVにFCを積むと
723万円のミライになる。一方ガソリンエンジン発電機を積んだのがe-Powerの
例えば223万円なので この差500万円は非常に大きいからです
では肝心のトヨタミライの納車台数というか、そもそも生産能力今何台なのか。
正式発表しているかどうかは、分からないのであくまで筆者の推定ですが、
2015年は、年間700台で ほとんど手作りのようでした。2016年は、2000台。
2017年、やっと3000台になったようです。
但し海外にも販売しているので、日本国内での12月末はせいぜい2000台
米国と欧州のサンプル提供なども含めて、世界で5000台だと思います。
だったら増産体制を組めばよいではないかと言われてしまいそうですが、
これは2010年からトヨタ系シンクタンクの勉強会に出席して来て知ったのですが
市販車を設計する時は、実はそれを作る生産ラインまで一緒に設計するのです。
単に生産ラインを増やしたとしても、FCスタックの生産能力や水素タンク製造が
増強出来ないなどの、数万点ある部品の1品でもボトルネックとなければ、
それで生産台数は決まってしまうのです。SS業界の会議の場でこれをお話すると
「垣見はトヨタに甘い」と言われてしまいそうがこれが私の知る現実です。
EVなら、まずはリーフに敬意を表して日産からご紹介します。左写真は日産のコン
セプトカーのIMxでAIとの融合だそうですが、私が聞きたいのは電池性能ですし
人気車種のセレナのe-Powerモデルの2018年春の発売決定がニュースでした。
トヨタも未来コンセプトカー TOYOTA Concept-愛iを発表していますが、
その価格もEVとしての走行可能距離の目標数値はありません。かっこは良く、
幼い頃に見たスーパージェッターのようですが、それ以上のコメントはありません。
ホンダも街中移動に最適なコンパクトーとして、Honda Urnan EV Conceptを
発表していました。洗練されたかっこ良さではなく、機関車トーマスに出演すれば
間違いなくお友達になってくれそうな感じで、カワイイ方を目指しているのでしょう。
その意味ではメルセデスベンツが現実的でしょう。同社が2016年にEVに特化
した新フランド、Concept EQ Aはかっこよいと思いました。正に近未来の洗練
されたデザインで、乗ってみたいとは思いますが、おそらくはSクラス以上のお値段
でしょうから、これも見るだけのお楽しみになりそうです。
ため息が出るほど美しく、仕事を忘れてしばし見入ってしまった車は、マツダの
VISION COUPEです。シンプルなデザインこそ究極の美なのでしょうか。
あくまでマツダのデザインの方向性を示す車で、ネットで噂されている新型RX9
として発売されることはないそうですが、許されるなら一度は乗ってみたい車です。
さて、おしかり覚悟で私の東京モーターショー2017の率直な感想を申し上げます。
昨年夏頃から、欧米中からEVシフトの政策が相次いで発表されました。それを
マスコミも煽りますが、僅か3ヶ月で各メーカーが、対応出来るはずもありません。
今回のモーターショーは、EV+AI+自動運転や人間に優しいや「愛」を打ち出して
いますが、肝心のEV性能や電池の性能については、全く触れていないような
感じがしたのは、私だけではないでしょう。
衝突防止の為の安全装置はすぐに必要だとしても、遠い将来の完全自動運転に
向けて、AI技術やソフ開発をしてほしいのは間違いありませんが、理工学部出身
の私としては、電池の性能がどこまで来ているのか、その実用化とコストダウンの
タイムスケジュールが一番知りたいのですが、今回その情報はありませんでした。
誰も教えてくれないなら、一応の理系の私が自分で調べるしかありません。
まずバッテリーの性能向上の歴史の歴史から調べてみました。最初に実用化さ
れたのは鉛蓄電池で。正極に酸化鉛、負極に鉛を使い、それを硫酸の電解液に
浸した構造です。性能が安定しているので古くから自動車のバッテリーに積まれ
ましたが、欠点は重いことと液体の硫酸なので傾けられないことでした。
次に実用化されたのがニッケル・カドミウム電池、通称ニッカド電池です。
正極に水酸化ニッケル、負極に水酸化カドミウム、電解液に水酸化カリウムを
使い、密閉と大電流が特徴です。但し勝手に放電することと、充放電で使える
容量が小さくなるメモリー効果があるのが欠点でした。
これを解決すべく開発されたのがニッケル・水素電池です。正極は水酸化ニッ
ケル負極に水素収蔵合金という特殊合金、電解液は水酸化カリウムです。
更に大容量を狙って開発されたのが、リチウムイオン電池で、正極にリチウム
化合物、電解液は有機溶媒にリチウム塩を融かしたものを使います。
リチウムは軽く、化学反応を起こしやすい元素なので、他の蓄電池より軽量
かつ大電流を発生するのが特徴ですが、充電条件が厳しく、間違えると破損し、
火災にもなる欠点もあります。
このため厳重なパックキングと充放電状態を監視・制御する電子回路と一体と
なっているのが普通です。それでも携帯電話やPCのリチウムイオン電池が火を
噴く事例は根絶できません。
現在の価格は1kwh当たり仮に3万円とすると40kWhのリーフは約半額の
120万円が電池代ということになります。(充電制御監視システム含む)
しかし私はEVがガソリン車並みの価格になるためには、希少金属を多く使う
リチウムイオンの量産化によるコストダウンではなく、鉛→ニッカド→ニッケル
水素→リチウムイオンの次の技術革新によるブレイクスルーが必要ではないか
と思います。
電池のブレイクスルーへの期待は全固体電池にかかっています。リチウム
イオン電池は電解質が液体であるのに対して、全固体電池は電解質を固体化
したものです。液体の電解質と違い、必要なイオンだけが正極と負極の間を
移動するので、電極と液体が反応して劣化したり、液漏れなどの危険性が
少ないのです。
エネルギー密度は、液体電解質のリチウムイオン電池よりも高くでき、充電
時間も分単位で、容量も大きくできるなど可能性がありますが、実用化には
最低5年くらいかかるとも言われています。
講演時に「EV時代になったらSSはどうしたらよいのか」という質問を頂きますが、
私はガソリン数量に依存しない経営にしておけば問題ないとお答えしています。
例えばプリウスの実燃費を20km/Lとして、月間500走るお客様なら、ガソリン
使用量は月25L。フルサービスで10円のマージンを頂いても月額250円/台です。
でもハイブリッドに乗るお客様は環境意識が高く、車をいつも綺麗にされていると
思います。3年持つタイヤモンドキーパと毎年のメンテナンス費を月額に直すと
利益は2500円以上なので、コーティングはガソリン収益の10倍以上あるのです。
ただ肝心なのは、ダイヤモンドにキーパーに価値があるのではなく、お客様に
満足感があって、初めてその対価としての収益を頂けるのだと思います。
本年もよろしくお願いします。