エコカーの実力はどこまで来たか
今後10年、ガソリン需要に及ぼす影響を考える
新年明けましておめでとうございます。あなたは1月企画の 番目のお客様です。
昨年10月に開かれた東京モーターショ−の最大の特徴は、それまで参考出品程度で
あったエコカーが、メインコンセプトになりつつあるという事でしょう。 地球人としては
多いに賛成すべきこの環境に優しい省燃費車も、ガソリンを売るSS業界人にとっては
正に重大関心事です。そんな訳で新春特集は昨今のエコカーの実力と、それが今後
10年の石油業界に及ぼす影響について、冷静にそして長期的視野に立ち考えて
見たいと思います。 文責 垣見裕司 1999/12/27.NO4

世の中をあっと言わせたハイブリットカー

1997年12月、トヨタは世界をあっと言わせるエコカーを発売
しました。その名はブリウス。1500ccのガソリンエンジンと
電気モータ−を両方搭載?というよりエンジンとモーターや
発電機を一軸上に配置したパワーユニットを、常に最適な
バランスで駆動して走るという、ハイブリットカーです。
「電気自動車は充電が必要」というそれまでの常識を覆し
充電は不要。燃費も同排気量の約2倍28km/L(10.15m)
を達成するとともに、CO2は約半分に削減させました。
心配されるバッテリーは5年又は10万kmまで交換不要
との発表ですが、月産2000台ながら98年のカーオブザ
イヤーを受賞するなど「生産コストからは赤字」とのコメント
に反し、勝ち組みトヨタを印象付けた車ではないでしょうか。
今回のモーターショーではホンダのインサイト(995cc)も登場。
出力や最大トルクはモーターアシストで76ps,12.9kgm
燃費は35km/Lという高性能で、99年11月より発売です。

当面主力は直噴DI、リーンバーン、VVT、エンジン

前述の通り、ハイブリットカーは涙の出るような技術ですが、コストパフォーマンス
耐久性、信頼性、そして顧客ニーズ等を総合的に考えるなら、既存ガソリンエンジン
の様々な周辺技術やその組み合わせ等による低燃費化がもうしばらく主流でしょう。
ここではその技術を追って見ますが、素人なので誤りがありましたらメール下さい。

1.ガソリン筒内直接噴射技術、(DIエンジン)
 GDIの名称でフルライン化した三菱自動車に代表される
 筒内直接噴射形の技術で低燃費と環境性、動力性を両立
 燃費は3割、出力は1割、CO2は3割改善という性能。
 シリンダ内に高圧でガソリンを噴射するための高圧燃料
 ポンプ、最適な噴霧形状で噴射するためのノズル、それを
 受けるシリンダ内の形状にハイテク技術が駆使されている
 近日発売予定の三菱ビスタチオ1100cc(右)は30km/L(10.15m)

2.希薄ガソリン燃焼技術(リーンバーン)
 ガソリンを空気と混合させ爆発させる際に、より希薄で燃料を
 効率に使う技術です。軽自動車ではあるが、スズキがアルト
 (658cc)でアイドルストップシステムと組合わせ30km/L(10.15m)
 参考出品のP3commuter(右写真)は35km/Lの驚異的燃費

3.可変バルブタイミング技術(VVT)
 その名の通りエンジンの回転数等に応じて吸気バルブの開閉タイミング等を
 最適に設定する技術。トヨタのプラッツやヴィッツ等に搭載され1000ccで21.5km/L
 (10.15モード)という平成22年の基準(下記表)を上回る燃費を誇っている。
車両重量(未満) 703kg 828kg 1016kg 1266kg 1516kg 1766kg 2016kg 2266kg 2266kg以上
燃費(10.15m) 21.2 18.8 17.9 16.0 13.0 10.5 8.9 7.8 6.4

究極の無公害、燃料電池自動車(Fuel Cell Electric Vehicle)とは何か

従来のガソリンや軽油を燃焼させてエネルギーを得るのではなく、
水素と酸素を化学反応させて電気を起こすシステムのことです。
電池というとバッテリー的なものを想像しますが、水素発電システム
ユニットという方が適切かもしれません。
化学式は、2H2+02=2H2O+電気、で排出されるものは水と熱だけ
ですが、その水さえ循環利用しています。
(エネルギー発電変換効率は約4割、熱4割、ロス2割)
車を最終的に動かす動力はモーターですから、騒音の面まで含め、
究極の低燃費、低公害カーと言われています。
ダイムラーベンツのPEFC(固体高分子型)燃料電池車は下記の通り
2003−4年には実用車の販売を開始したいと発表しています。

発表年 名称 車体 出力 燃料 走行距離 最高時速 乗員
1999年 Necar4 Aクラス 70kw 液体水素 5kg 450km 145km/h 5名
1997年 Necar3 Aクラス 50kw メタノール38L 400km 120km/h 2名
1996年 Necar2 多目的車 50kw 圧縮水素 250km 110km/h 6名
1994年 Necar1 大型バン 50kw 圧縮水素 ----- ---- 2名

水素供給燃料は何がよいのか

その水素を何から供給するかということが、今後の大きな問題となっています。
今考えられているのは、メタノール、無硫化ガソリン(灯油)、水素吸蔵合金等が
あげられており、それぞれの改質のしやすさ、水素の得やすさ、コスト重さ、
体積、作動温度、更にはその燃料のインフラまで含めてると最終的に何が
選択されるのか今後の推移が内外から注目されています。
下記表には、トヨタ自動車発表の資料を参考に私見を追記してみました。
燃料の種類 積載方法  積載
安全性
走行
距離
水素
抽出
燃料
費用
イン
フラ
発電
効率
CO2 その他克服すべき課題 最終選択
純 水 素 吸蔵合金 不要 なし 小型軽量化が最大の問題
純 水 素 低温液体化 不要 なし 極低温超高圧の安全性
純 水 素 高圧充填 不要 なし 液化難しく容量不足
メタノール 従来タンク 燃料の毒性とインフラ
天然ガス  高圧充填 LPGとともに期待大?
ガソリン類 従来タンク 脱硫他不純物除去が必要
各自動車メーカーはメタノールの使用が多いのですが、私は脱硫ガソリン等
石油製品の方が有力だと思います。メタノールは毒性が強くまたプラスチックや
有機ゴム製品などを溶かす性質が、計量機一つ取っても高圧ゴムホースが
使えないなど、精製段階からSS?に至る既存のインフラを大幅に改造する
必要があるからです。今後石油業界関係者のご奮闘に期待します。

水素供給燃料になぜLPGが上がらないのか

さて水素を何から作るかの議論にLPガスが無いのがとても残念です。反応式は
 改質器で C3H8+3H2O→3CO+7H2
 変成器で 3CO+3H2O→3CO2+3H2
 合計で C3H8+6H2O→3CO2+10H2
これはプロパン1モルから水素10モルが生成出来ることを意味していますし、
44x1=44gのプロパンから2x10=20gの水素がとれるとも言えます。
これは水素吸蔵合金100gに対して水素を2gしか貯められないことを思えば
改質装置の重量の問題は残りますが、重量的には遥かに有利のように思います。
プロパンは常温でも10気圧程度で液化出来ますし、石油随伴ガスとして量も
豊富しかもタクシーはほとんどプロパンですから、LPGスタンドとしての既存
インフラもかなり整っているといえるでしょう。更にSSハードの消防法がより
緩和されれば需要の少なくなって来た灯油設備に替わりLPGをSSに置くことも
十分可能です。また日石ガスでは常時ガソリンとLPG両方燃料を使用出きる
バイフューエル車に取り組みヴィアーレ社の改造でBMWやVOLVO製等で
既に実用化しています。各自動車会社や燃料電池メーカーの新聞発表を見ても、
全くLPGの可能性について触れられていないので、前述のメタノール等に
比べどのくらいの長所短所があるのか分かりませんが、土俵にだけでも
乗せて頂ければと節に願う次第です。

自動車メーカー各社の方針は

燃料電池に関しては、ダイムラーやフォードも出資するカナダのバラード社が
最も進んでいると言われています。同社のラルーズ会長によれば、2004年
には燃料電池自動車の市場販売を開始、そして2020年には最大で25%に
なると予想し最も積極的な企業連合といえるでしょう。
またホンダと日産もこのバラード社と契約を結んでいると報じられています。
それに対抗するようにGMやオペル、そしてGMとのこ分野で提携するトヨタ
連合も2004年の商品化、2010年には販売の10%、2025年には25%を目指す
としています。
しかしここで大きな違いは、トヨタが既存ガソリン車から燃料
電池車に移行するまでにハイブリット車という過渡期的な期間を計画している
のに対し、ハイブリット車の開発で遅れをとったと言われるダイムラークライ
スラーは、既存ガソリン車時代から一気に燃料電池車時代の到来を目指して
いていることです。ハイブリット車時代がどのくらい続くのか、それはブリウスの
開発等に莫大な資金を投入したトヨタがその回収期間がとのくらいあるかという
意味でもあり、今後の成り行きが注目されています。

エコカーの今後の普及は

今後の普及を占う前に現状を把握して見たいと思います。環境庁によると
低公害車の普及台数は以下の通り。ここでもLPG車が入っていないのが残念。

年 月 電 気 メタノール 天然ガス ハイブリット 合  計 LPG 総保有台数
平成11年3月 2,500 289 3,640 22,528 28,957 294千 49,895千
平成10年3月 2,500 313 2,093 3,728 8,634 298千 48,610千
平成 9年3月 2,600 327 1,211 228 4,366 300千 46,868千
平成 8年3月 2,500 326 759 176 3,771 304千 44,680千
平成 7年3月 2,300 336 421 126 3,158 308千 42,678千
平成 6年3月 1,946 243 243 72 2,562 311千 40,722千

さて上記を見る限り平成10年11年のハイブリットカーの伸びは非常に大きく正に
環境、プリウス効果でしょう。現在月産は2−3000台といわれていますが、今後も
ほぼこの生産上限のペースで伸びるでしょう。また2000年からはホンダインサイトも
加わりますので、両社併せ、環境カーは年間4−5万台ペースで伸びていくでしょう。
総販売台数からの割合はまだまだ少ないものはありますが、石油業界として
もう無視できない存在になることは、間違いの無い事実です。
 (総保有台数は小型4輪、軽自動車を含む乗用車、LPGはトラックを含む)

ガソリン需要に及ぼす影響は

ここで大胆なシュミレーションをしてみます。車の平均耐用年数を8年とすると毎年
約12.5%ずつ入れ替わります。その8年使用後の車と新車の燃費改善を仮に20%と
すると毎年2.5%、車両入替+エコカー効果でガソリン需要は減っていく事になります。
一方バブル崩壊でも伸び続けてきたガソリン需要も前年比3%程度ですから、
3−5年後には間違いなくガソリン需要はピークを打ち、それ以降は徐々に下降して
行くことになります。そしてハイブリットや直墳エンジンに替わり、既存ガソリンを
全く使わない?そして実用コストに絶えうる燃料電池車が本格的に登場してくる
201X年には既存ガソリンは、劇的な下落を始めることでしょう。
これで最も打撃を受けるのは巨大設備産業である石油精製会社の方でしょう。
是非とも水素供給燃料に石油系の燃料が採用されることを希望しております。

SS販売業界がすべき事は何か

ではSS業界の方はどうでしょう。一見すると何か夢がないようですが、私はむしろ
石油精製産業よりは遥かにめぐまれていると思います。というのも万一水素生成用
燃料にガソリン、灯油等や既存のSSインフラが選ばれなくても、車そのものは、
無くなる訳ではないので、いわゆるカーケアビジネスは残ります。
例えば弊社では、ガソリンを全く使わないLPGタクシーのお客様の洗車でのご来店
や併設複合店舗への買物のついでにSSにお立ちより頂いている事は、ガソリンを
入れる為のみにガソリンスタンドに行くのではないという現れのような気がします。
弊社の他SSもそういうニーズと必然性を今から確立しておこうと思っています。