燃料電池の実力はどこまで来たかNO3
燃料電池車や定置式燃料電池システムの現状と今後の課題を考える

あなたは燃料電池関連企画の 番目のお客様です。 文責 垣見裕司 2003/9/29.NO3
9月某日、私は大変嬉しい体験をさせて頂きました。実は、トヨタさんより新日本石油にリースされた
あの「燃料電池車」に試乗させて頂いたのですが技術屋の血が流れている私としては正に「感動」でした。
今月はその感動と燃料電池への熱い思いとともに、現在の燃料電池の真の実力を冷静に分析させて
頂きたいと思います。下記、燃料電池関連企画、是非ご覧下さい。 (無断転載は固くお断りします)
2001/1月-燃料電池とは何か、21世紀のグローバルエネルギーを考える
2002/1月-燃料電池車の実力はどこまで来たか22000/10月エコカーの実力は1 も是非ご覧下さい。

新日本石油に納入されたトヨタの燃料電池車に試乗させて頂きました。

9月某日の事です。特約店経営者仲間数人で、新日本石油 横浜製油所のモデルルームに設置された1kwLPG仕様の燃料電池やマイクロガスタービン等の見学していた私たちに、大変嬉しいニュースが飛び込んで来ました。前々からお願いしてはいたのですが、FC事業部様のお計らいで、8月22日にトヨタ自動車から新日本石油に納入されたばかりの、あの燃料電池車に試乗させて頂けることになったのです。
右写真は、小学生の遠足の笑顔で、運転席に座る不肖私メであります。
乗らせて頂いた時の第一印象は、とにかく静かなことです。
停止中は勿論ですが、走行中も「モーター音」というよりはタイヤ音の方が大きいくらいです。
横浜製油所の操業音が無かったら、かえって落ち着かないくらいかも知れません。

正にスーパージェッター(大昔のアニメです)を思わせる液晶モニターパネル

この燃料電池車には、エネルギーモニターなる液晶画面が装備されています。右写真は、カーブ直前でブレーキを軽く踏んでいる状態ですが、左上のモニターは、ブレーキ回生システムによりパワーモーターで発電された電気と、燃料電池から発電された電気が、二次電池(バッテリー)に充電されている状態であることを示しています。
このモニターは、アクセルやブレーキを踏むたびに、リアルタイムで刻々と変わっていきます。前回企画のハイブリット車の試乗体験記の時にもご報告しましたが、幼い頃見たテレビアニメの「スーパージェッター」の世界で心躍る思いでした。
下記表の一番上の行は、今回納入された燃料電池車の主なスペックです。トヨタ自動車様の燃料電池車開発のご努力に敬意を表し、ECHV1号機からスペックの推移もまとめてみました。

発表年 名称 車体 M出力 燃料 E出力 走行距離 最高時速 乗員
2003年 実用車 4.74x1.82x1.69 80kw 高圧水素3kg-35MPa 90kw 300km 155km/h 5名
2001年 FCHV5 4.74x1.82x1.69 80kw 超脱硫クリーンガソリン 90kw 300km 150km/h 5名
2001年 FCHV4 4.74x1.82x1.69 80kw 高圧水素2.6kg-25MPa 90kw 300km 150km/h 5名
1997年 FCHV3 4.69x1.83x1.72 80kw 水素吸蔵合金 90kw 400km 120km/h 2名
1996年 FCHV2 3.98x1.70x1.64 50kw メタノール ----- 500km ---- 5名
1994年 FCHV1 3.98x1.70x1.64 --kw 高圧水素 ----- ----- ---- -名

加速感、荷室空間、乗りごごち、そして総合的完成度は?

乗る前に「加速は期待しないで」とお伺いしていたので、4人も乗った状態では「当家の1000ccウ゛ィッツ程度かな?」と勝手に想像していましたが、最大トルク26.5kgmのモーターやパワーコントロールユニット(左下写真)は、その想像がいかに失礼であったかを即座に教えてくれました。
また後部荷物空間(下中央写真)の実用車と変わらない広さは、ニッケル水素二次電池や、350気圧の超高圧水素タンク4本の収納には、並々ならぬご苦労があったと推測出来ます。
また燃料である「水素」の充填口(右下写真)は、極めてスッキリしていて、知らなければガソリン給油口と間違えてしまうでしょう。
乗りごごちとしては「車体の重さ」を感じましたが、1860kgという大きめのミニバンクラスの車体重量に4人乗車したので、これはサスペンション設定等の好みの問題かなあと思いました。
しかし全体としては、トヨタ自動車が威信をかけて製作しただけあって、全体的に極めて高い完成度であることを感じました。
さて気になるお値段ですが、トヨタ関係者の非公式コメントによれば、現在ではまだ1億から2億円+車体代300万円だそうですから、車両保険を引き受けてくれる損保会社がいなかったという話にも納得がいきます。皆さん。もし街中で燃料電池車を見つけて、万一真後ろを走る機会に恵まれた?時は、絶対に追突しないよう、相当の注意を払った方が良さそうです。


燃料電池車の本格的普及への今後の課題

「感動」はこのくらいにして、次に燃料電池車の普及への課題を少し冷静に考えて見ましょう。
第一は、やはりその「コスト」でしょう。その解決には、生産技術の「壁」をクリヤーして行くとともに、最後は大量生産なのでしょう。数年前、トヨタ関係者に「普及時の価格は幾らをお考えですか」とお伺いした時、むしろ我々トヨタの方が「お客様は一体幾らなら買って頂けるのか」ということを一番知たい、と言われ目から鱗が落ちた気がしました。
第二は、「耐久性」でしょう。純粋な水素といっても、やはり5ナイン(99.999%)の世界では不純物は、混じっている訳けで、それがFCセルやスタックに及ぼす影響は、やって見ないと分からないというところでしょうし、「安全性」ということにも多いに関わってくるかもしれません。
しかしこの「コストや耐久性安全性という技術面」とは違った意味で、最も重大な事は、やはり水素供給ステーションを如何に確保するかというインフラ整備の問題です。実使用年数が約10年の5000万台もの車に改質装置を積んで水素を作るより、5000箇所の水素ステーションで、水素そのものを供給する方が、「総合的にはやはり効率的である」と言わざるを得ないでしょう。
万一水素が切れてしまった時も、最寄の水素ステーションまで走れる電気を家庭等のコンセントで充電出来る装置がついていれば、解決出来そうです。
水素供給ステーションとして最も期待されているのは、やはりインフラ拠点が既に整備されているガソリンスタンドであることは間違いありませんが、既存法規と現状の技術でのガソリンスタンドとの「併設」となると、現在の関係法令では、非常に広大な面積を必要としたり、燃料電池車の本格普及まで、その実需が見込めず、ビジネスとしてのスタートが難しい等、根本的な問題があることは事実です。しかし、それを乗り越えた後には、SSの新たなるビジネスチャンスとしての「無限の可能性」を秘めていることは、間違いありません。

しかし水素ステーションの実験は既に始まっている

「出来ない理由を考える前に、どうしたら出来るかを考えよう」は当社の第二標語?ですが、現在は、経済産業省が実施する燃料電池システム実証等研究補助事業として、財団法人 日本自動車研究所と財団法人エンジニアリング振興協会がJHFC(Japan Hydrogen & Fuel CellDemonstration Project)を結成し、その取り組みがスタートしています。
具体的には既に、横浜大黒(ガソリン改質)、横浜旭(ナフサ改質)、荒川千住(LPG改質-東京ガス日本酸素)、江東有明(水素貯蔵型-昭和シェル岩谷産業)、川崎(メタノール改質)等各水素ステーションが供給を開始しています。また車に水素タンクを積載した移動ステーションも含め、今後10数箇所程度の水素ステーションが誕生する見込みです。
   新日本石油が管理運営する、横浜・旭水素ステーションの概要は以下の通りです。
原料 ナフサ
水素製造方式 <ナフサ分解>水蒸気改質・<水素精製>PSA
水素製造能力 50Nm3/h(乗用車1台分を約40分で製造)
水素の純度 99.99%以上(燃料電池に有害なCOは1ppm以下)
充填能力 <圧縮水素>25/35MPa<連続充填能力>乗用車5台またはバス1台充填
特長 装置のスキッド化により、設置工事の短縮が実現。

よこはま動物園ズーラシアの近くにある横浜・旭水素ステーションは、 日本初のナフサ改質型の水素供給施設です。地下タンクに貯蔵されたナフサから高純度の水素を製造し、 燃料電池自動車に高圧水素として充填する仕組みになっています。石油業界では、石油精製の過程で硫黄などの不純物を取り除くために、 ナフサなどの石油から大量の水素を製造していることから、新日本石油(株)が長年にわたり培ってきた水素製造技術が 、ステーションの随所に応用されています。

普及版ハイブリットカーは、当面のベンチマークカー?

燃料電池車の本格普及を考える上で、もう一つ忘れていけないのは、現在販売されているハイブリットカーやゼロエミッションカーの実力でしょう。
ハイブリット車の研究開発や市場投入で優位に立つトヨタ自動車は、「燃料電池車の本格普及が遅くなれば、それだけ長い期間優位に立てる」という確たる戦略をきっともっていることでしょう。その戦略を証明するかのように、1997年、世の中をあっと言わせた世界初のハイブリットカーであるプリウスを大幅リニューアルした新型プリウス(右写真トヨタHPより)を先月発売開始しました。
先日試乗させて頂きましたが、97年型の年費28km/Lを2割も上回る35.5km/L(10.15モード)を誇るとともに、1496ccのエンジン(77PS、トルク11.7kgm)とモーター(68PS、トルク40.8kgm)がベストミックスされたパワーユニットが生み出す加速感は、もはや環境カーのイメージを超え「スポティー」を感じた程でした。
一方ミニバンタイプのファミリーカーとして大人気のエスティマハイブリッドも大幅に性能UPするとともに、一般車としては最も大きな車種である、トヨタ-アルファードにも、ハイブリット車がラインアップされた事は、環境をイメージした車、或いは一部のマニアックな人が買う車から、次世代のスタンダードカーと言えるレベルに達しつつあるのではないでしようか。
また日産もカリフォルニア州から「ゼロエミッションカー」の称号?を得たリーンバーンエンジンを多くの車種に設定し始めています。従って冷静に考えれば、「ハイブリット」か「ゼロエミッション(リーンバーン型エンジン」かは別として、既に発売されているエコカーの時代が、暫く続くことは間違いないでしょう。

新日本石油が誇るLPG仕様定置式1kw燃料電池も最終実証試験へ

さて次は燃料電池「車」の方から、分散型発電システムとして注目されている定置式燃料電池システムの方に話しを移しましょう。
本年1月、新日本石油が世界に先駆けて、LPG仕様の1kw定置式燃料電池システムを横浜市他にレンタルすると発表し、着実にその実績を積み上げていることは既にご承知の通りです。1年間のみの期間限定で、将来の目標価格?のまだ10−20倍程度ではありますが、それが高いかどうかは別として、やる気とお金があるなら我々特約店レベルでも、燃料電池を自らの手で試して見ることが出来るのは、誠にすばらしいことで、当社も挑戦される特約店の末席に加えて頂こうかと思っております。発表されている性能や目標値は以下の通りです。

種類 固体高分子型(PEFC) 燃料 LPガス
処理系 吸着脱硫 水蒸気改質 低温シフトC+CO選択除去方式
発電出力 1kw(交流) 200V単層3線式
効率 発電 32%(目標36%) 
排熱 40%(940kcal/h)
真発熱量基準
合計効率 72%
貯湯容量 150-300リットル 家族数等で選択
運転 自動起動自動運転 集中監視機能搭載

定置式燃料電池システムの普及への課題は、省庁の枠を超えた規制緩和

定置式燃料電池を普及への課題を考える時、前述の「車」同様、「コスト」「耐久性」「安全性」が最大の課題であることは間違いありませんが、定置式の場合は、車よりインフラの問題が遥かに少ない、すなわち既存のLPガスや都市ガスからの水素製造が容易なので、私は「規制緩和」という人的な問題をあげたいと思います。具体的には、
 1.電気事業法
 2液化石油ガスの確保及び取引の適正化に関する法律(高圧ガス保安法)
 3.ガス事業法(都市ガスの場合)、(高圧ガス保安法)
 4.消防法
 5.建築基準法
等が複雑に絡み合い、大きな障害となっています。分かりやすく言えば、明治時代の法律で現在のネット犯罪を裁けないのと同じように、そもそも燃料電池というものを全く想定していない段階で作られた法律のみで、それを規制することに無理があると思います。

具体例としてあえて現行法で「小型燃料電池」の位置付を考えると、電気事業法では「発電設備」で
エンジンコジェネ同様「自家用電気工作物」と見なされ「電気保安主任者選任」が必要?となります。
これは、我々供給業者が持っていれば良いというのではなく、使用者である各家庭で「電気主任技術者」の資格が必要で、かつ「保安規程」の作成と届け出義務等、小規模工場並みの条件が必要です。

必要な規制緩和の具体例

 さて話しが難しくなりましたので、簡単に4点にまとめ見ました。
1.電気事業法を改正。
 運転停止時の配管内の水素を窒素での置換義務を緩和する。
 効果としては、窒素タンクや置換のための配管も不要となり、運転の起動や停止時の
 プロセスが簡易になり、ハードコストや設備工事コストも軽減出来る効果があります。
2.消防法による離隔距離の緩和
 小型コジェネまたは一般電気工作物、しかし発電設備扱い。
 建物から0.5m+本体厚み0.5m+2m=3m 必要?となりますが、一般家庭で、建物から
 敷地境界まで4mもあるような、大邸宅はまずありません。
3.各種必要資格者選定義務の廃止もしくは大幅緩和
 少なくとも使用者であるお客様には、電気主任技術者等の選任や保安規程の提出を
 不要にすることは、最低限必要な緩和策です。
4.国の明確な指導による電力会社等への売電制度の創設。
 太陽電池による発電では、消費者が購入している電気料金(23円kwh)での売電が認め
 られています。燃料電池の効率的運転の為には、10:00-17:00等せめて昼間だけでも
 電力会社に買電を義務付けてはどうでしょうか。 

国による明確な支援と法整備とともに最後に必要なものは

しかし本当に必要なのは、法整備とか規制緩和という言葉で表現されるものではなく、もっと根本的な「資源がない国、そして環境問題を最優先に考える国=「日本」の国策として、分散型発電を推進し、ベストミックス方式で、電力の安定供給を図る」という基本的な大方針を決定するとともに、その必要性を国民の皆さんにしっかりと伝え、国民全体のコンセンサスを得て、目的達成のための邁進していくというご当局のリーダーシップではないかと思います。それは、東京電力の原発トラブル隠し問題等があった今だからこそ、出来ることでしないでしょうか。
もう一つ必要なのは、我々業界関係者の「熱い思い」でしょう。業界の垣根を超えて世界に「先駆けて分散型発電システムの勇である燃料電池を普及させて行く」という「熱い思い」が必要だと思います。そして、都市ガスだ、LPガスだ、脱硫灯油だ いやナフサだ等「水素供給媒体を売る」という発想ではなく、お客様の立場にたって考え、お客様が必要としているエネルギーを、お客様の使用形態に合わせ、ベストミックスした形でご提案してゆくことが重要だと思います。
弊社はメーカーではなく、一弱小流通業者ですが、来るべき燃料電池時代のために、LPG仕様の定置式燃料電池システムのモニターテストに立候補して、色々に可能性を勉強して見たいと思います。