2008年の石油&SS業界はどうなるのか
 あくまで私見ですが、可能な限りの事実とデータで考察してみます 
新年あけましておめでとうございます。あなたは 原油価格並びに末端ガソリン市況関連企画の
番目のお客様です。本年もどうぞよろしくお願いします。 更新時 218300よりスタート。
新年企画は、今年の「原油動向」「国内需要」「元売と特約店の関係」「SS業界の動向」等がどうなるのか。
誠にむずかしい問題ですが、昨年業界内外から最も多く頂いた質問なので、可能な限りデータを示しながら
私の個人的な見解を申し上げたいと思います。 文責 垣見裕司

原油価格の高騰要因は何か、投機分は一体幾らなのか
何故ここまで価格が上昇したのか、改めて考えてみたいと思います。
まず実需的には、中国のエネルギーの爆食を始めインド等の需要増でしょう。これと相対して
OPEC等では、「増産余力がほとんど無いのではないか」と言う心理的な不安もあると思います。
しかし現実的には、投機マネーの流入と言わざるを得ません。サブプライムローン問題で、債権や
証券市場から、原油市場に更なる資金が入って来たことは、下記のチャートを見ても明らかです。
             
WTI価格推移表 オーバルネクスト社ご提供

では、その投機分とは一体幾らなのでしょうか。それはデイリー等短期ならある程度判断する事が
出来ます。WTIは軽質油、中東原油は中質油ですが、市場のニーズは軽質油です。この付加価値
の差は、例えばサウジアラビアのアラビアン・エキストラ・ライトAXL(超軽質油)、アラビアン・ライトAL
(軽質油)、アラビアン・ミディアムAM(中質油)等に代表される各油種の市場価格差に照らすと、WTI
とドバイ・オーマーン両原油の質から推測するところの価格差は、せいぜい4ドル/B以内でしょう
 従って5ドル以上差があれば、それは投機分の膨らみと言っていいでしょう。 例えば12/10の
WTI終値87.86ドルの時、ドバイオマーン平均は、83.27ドル/Bなので、価格差4.6ドルとある
べき範囲ですが、しかしWTIはその後2日間で、94.4ドルまで、6.5ドルも急上昇し、格差は10ドル
に達しました。戦争が起こった訳でもないのに、我々現業者としては、本当に迷惑な話です。
そして中東原油が、後を追って値上がり始めましたが、17日にはWTIは、もう下がって90.63ドル、
その日、中東原油は87.13ドルで価格差3.5ドルと本当にいい迷惑です。
 しかし上記の話はあくまで数日等短期の話しです。中長期に見れば、実需で決まる中東価格と
言えども、その投機の影響を受け、やはり連動して上がっていきます。しかし実需の現物ですから
買い手も納得しているかどうかは別として、その価格で買って「消費」している訳です。
 例えば、買った後でもその価値の大小が購入者に大きな影響を与える不動産ならともかく、
備蓄分以外の既に、消費して「消えて」しまったエネルギーについて、その投機分が幾らかを
論じても、意味のないような気がして来ました。逆に言えば、実需かつ現物取引で決まる中東
原油は、高値でも、それを受け入れなければならないような気もしてきております。ここまで
考えるとほとんど「禅問答」の世界なので、あとの結論は読者のご判断にお任せいたします。

 ちなみにこちらの表をご覧下さい。この表は、月平均単価なのでかなり冷静に見ることの出来る
指標です。価格差は、最多で10ドル、最少で、ドバイオマーンの方が安いという月もありました。
また石油連盟は、「投機分は30ドル/B、その総額は5兆円分」とコメントしております。
原油価格はどこまであがるのか
「ひと言で言えば分かりません」と申し上げるしかないのですが、長期的予想をする場合は、
代替エネルギー(燃料)の真の実力を考えるのが良いと思います。
埋蔵量にして50−100年分あると言われるオイルサンド、オイルシェル、オリノコタールの開発
コストは、昔30ドル/B、環境コストが上がった今でも、どう高く見積もっても50ドル/Bだそうです。
それに20ドル/Bの利益を乗せたとしても原油価格の上限は、70ドル/Bのはずです。その他、
天然ガスや天然ガス等から作る軽油や中間留分に似ているGTLが本格的に開発されてくれば
原油価格のあるべき価格は、今年中にそうなるかは別として70ドル/Bというのが私見です。

さて、原油価格の纏めとして価格高騰の「犯人」を探してみましょう。
主犯は、投機マネー。しかし共犯は、OPECやロシア等産油国でしょう。以前は、プライスバンドを
設定し、30ドル以上になったら増産すると言っていましたが、いつの間にかそれが50ドルになり
70ドルになり、99ドルになった時は、「原油高ではなく、ドル安だ」と言い訳をしています。
大昔は欧米のメジャー等企業が持っていた利権は、今、産油国の国営企業に移っているので、
それは「国」の責任と言えるかもしれません。
そして第二の共犯は、エネルギーを爆食する中国でしょう。彼らの原油開発は、もはやビジネス
ではなく、武器の提供等もちらつかせた国家戦略のようですから、日本の民間企業の経済レベル
の決断では、とても太刀打ち出来ないでしょう。
そして、もう一人共犯がいるのではないでしょうか。それはずばりメジャーです。影響力は一頃より
大分少なくなったとは言え、多大なる開発利権はまだもっています。確認埋蔵量が少なくなる中、
総資産を増やすためには、原油の単価が上がった方が良いと思っているのではないでしょうか。
そしてその一つの表れが、前述のオイルサンドやオイルシェル等の開発を、本気でやっていると
思えないその姿勢にも、その本音が垣間見えるような気がします。
そして最後の犯人は、私は無策の日本政府を上げたいと思います。何故日本政府も犯人なのか。
これは機会がありましたら改めて私見をご説明することにします。
ちなみに12月19日発表された、2008年の価格をエネ研では、高値90-95ドル/B、基準80ドル/B
安値60-65ドル/Bと3段階で予想していました。
2008年、国内の石油製品需要はどうなるのか
上記の原油価格予想と共に、日本エネルギー経済研究所(通称エネ研)が12月19日、残すところ
あと3ヶ月となった2007年度の需要予想と2008年度予想数量(下記表参照)を発表しましたので
これに私的な解説を加えてみたいと思います。

年度/実績等 ガソリン ナフサ ジェット 灯油 軽油 A重油 BC重油 電力用 燃料油計 LPG
2008年予想 58,978 50,123 5,829 23,690 35,527 20,235 21,863 11,275 216.243 19,018
2007年予想 59,994 50,115 5,790 24,449 36,023 21,379 24,114 12,776 221,846 19,008
2006年実績 60,552 50,078 5,453 24,498 36,606 23,961 22,696 9,350 223,843 18,695
 08/07% -1.7% 0.0% 0.7% -3.1% -1.4% -5.4% -9.3% -11.7% -2.5% 0.1%
 07/06% -0.9% -0.9% 6.2% -0.2% -1.6% -10.8% 6.2% 36.6% -0.9% 1.7%
 06/05% -1.4% -1.4% 6.3% -13.3% -1.4% -13.7% -16.0% -20.7% -5.2% -0.1%

まずガソリンですが、07年度が、本当に前年比1%のマイナス等で収まるとしたら意外な気がします。
恐らく、少しでも安く買いたいという意識で、セルフのスタンドは、108-110%程度伸びたのではない
でしょうか。その反面は、フルサービスのSSは、95%程度という印象を持ちます。また2008年度は、
マイナス1.7%程度で収まるのか。私見ですが、最大4-5%程度は、落ちる可能性もあると思います。

意外なのは、ナフサです。もっと多いか思いましたが、多いのは中国向け等の輸出で、国内需要
として、この程度だそうです。灯油は、2006年度の暖冬で前年比13%も落ちましたが、それを織り
込んだとしても、2007年度の下落が、この程度で収まるのか疑問です。実感としては5%位減っても
おかしくないと思います。2008年のA重油は、10%程度落ちるのではないでしょうか。価格高騰で、
LNGへの燃料転換だけでなく、漁業なら出漁を見合わせたり、農業ならハウス栽培を大幅に減ら
している事実をお伺いしているので、二桁マイナスは当面続くように思います。

明確な数字として現れているのが、電力用C重油でしょう。原発トラブル問題隠しの特需が、一段落
したと思ったら、今度は新潟地震問題です。現時点では、2008年夏の再稼動も難しいという話も
あるようです。ご存知の通り石油製品は、「連産品」なので、電力用C重油の取り扱いは、極めて
むずかしい
でしょう。

一方全国石油商業組合連合会もシンクタンクに委託して調査研究した来て中期の需要予測を、
25日に発表しました。それによると、2015年度でガソリン需要は5400万KL。そして気になるSS数は
35000ヶ所まで減るとのことです。
公正取引委員会より頂いた重たい封筒の中身は何か
 12月中旬、公正取引委員会から重々しい封筒を頂いてしまいました。中をあけると
平成19年(任)第20号、新日本石油に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する
 法律に基づく、事件調査のため必要があるので、報告して下さい
」という報告依頼書でした。
その内容は、「新日石が給油施設を持たず発券店値付けカードを発券して、ガソリン及び
軽油を販売する事業者に対し、給油施設を有している事業者に対する仕切価格に比べ、著しく
安い価格でガソリン等を販売している疑いと 中略 発券店値付けカードによりガソリンを販売
する際の給油代行料について、合理的な根拠を示さず、全国一律の金額を一方的に決定して
いる疑いに対する調査のため
」で、全国約520社の新日石特約店に報告依頼書が来たようです。
 質問内容は、当社の仕入価格や当社が発券する発券店値付けカードの枚数や販売数量、金額、
販売単価、更に当社SSが給油している他店発券のカードの代行給油量やその単価や金額です。
 それも過去3年分の決算内容まで報告するので、正直申し上げて年末には辛い重労働でしたが、
業界の健全化のために頑張って報告させて頂いた次第です。
 これとは別に公取は、元売と特約店との間のいわゆる「特約販売契約書」にもメスを入れ
卸価格の事実上一方的な決定権を記述した契約書の見直しを元売各社に求めていること
も明らかになりました。この公取に対し元売は、「契約書こそ一方的な表現だか、価格は協議をして
決定している」。「そもそも特約店から不満を聞いていない」と答えたそうです。
確かに我々もここ数年は、具体的に改定をお願いしたことはありませんが、それは「納得」している
からではなく、言ってもダメだと諦めているからで、それを「不満がないから」と言われてしまうのは
極めて残念です。ちなみに上記のように答えた元売に対し公取は、「本当に協議しているなら契約
書もそのように直してほしい」と言ったそうなので、過去99年3月に公取問題に触れた時期と比較
すると、随分と毅然たる態度で望んで頂いているようなので、頼もしく思いました。
 公取も一歩前進の指導をして頂いたようなので、我々特約店も「どうせ言ってもダメだ」ではなく、
未来志向の双方発展出来る特約販売契約書の実現に向けて色々勉強してみたいと思います。

 ちなみにある元売は、傘下の特約店に対し、現行の『特約販売契約書』及び『商標等使用許諾
 契約書』の改定を検討している旨の通知をしたようです。その概要は以下の通りです。
  前回の特約販売契約書の改定から既に10年以上が経過し、業界環境の変化に沿った条項の
  見直しが必要となり、公正取引委員会からも、価格決定方法等に関する一部条項について
  見直しを行うよう指摘を受けたので、これを織り込んだ改定を2008年度中に行う予定です。
 
 さて時を同じくして、もう一つ「新日本石油が東京工業品取引所会員になる」というニュースが
入りました。その理由として、「値幅制限や建玉制限が緩和されるなど使い勝手がよくなった」と
コメントしているそうですが、私はもう少し深い意味があると思います。
 今の東工取の石油製品価格は、市場規模が余り大きくないので、正しいあるべき価格を表現
していないと思います。極端な例ですが、米国でハリケーンが精製設備に影響を及ぼし、それが
WTIの先物価格の上昇を経由して、東京のガソリンや灯油が乱高下したことがありました。
 しかし現実は、東京の現物価格の方は、ほぼ需給バランスで決まります。精製設備の修理が
長引き、その対策として日本からガソリンを大量に輸出するというニュースでも流れないかぎり
はやりハリケーンで、日本の製品市況が乱高下するのは、おかしいと言わざるを得ないでしょう。
 しかし新日本石油クラスの現業元売会社が、本気で参加すれば、その価格にある程度影響を
与えることが出来るでしょう。そして今は、原油の輸入CIF価格とRIM社の発表する現物業転価格
しか指標はなかったのですが、この新日石の参加で、東工取価格が第三の参考指標となるかも
しれません。
ちなみに、東工取のHPの関連でTOCOMナビというHPがありますが、ある有識者のご紹介で、
そのトピックスに過去3回程書かせて頂いております。その内容は、当社HPに書いてある
範囲内の事ですが、よかったら一度ご覧下さい。
我々SSはどうなるのか 元売と特約店の関係は変わるのか?、SS業界全体としての動向は
上記3つの事柄からSS業界、特に元売と特約店との関係等については、今年以降徐々に変わって
来るように思います
例えば特約販売契約書ですが、より対等な表現となり、「系列SS店の浮気」をその契約書だけで、
しばることは出来なくなるでしょう。しかしそれは全ての免罪符ではありません。商標法の問題は、
まだ残りますし、元売のサインポールのSSなら、お客様はやはりそのSSで販売している商品は、
その元売の製品だと思うでしょう。その誤解を招かないためには、例えば全計量器等に、
「本日のガソリンは、OO元売の製品は80%、残り20%はJIS規格に合致したノンブランドガソリンです。
前者は元売が、後者のノンブランドガソリンは当SSが責任を持って保証します」と、表示すれば
良いのでしょうか。
 しかしこの製品に万一瑕疵があり、お客様が損害を被った場合は、お客様は、SSと元売と請求
し易い方に請求して来るでしょう。もし元売に請求したなら、恐らく元売は消費者に対しては、
100%損害賠償をするのではないかと思います。その後で、その元売が、その損害を今度は、その
SS運営者に請求してくることとなるでしょう。
 その万一のトラブルが起きなくても他社品を買い続けるなら元売はサインポールを返して下さい。
と言うでしょう。すんなり返せば事は済みますが、いやだと言えば裁判になるのでしょうか。ただ
現実には、裁判という両社にとって最も不幸な事例は、殆ど聞かないのが実状です。
 要するにSS運営者の最終的な自己責任は、変わらないか、むしろより強くなるように思います。
  
 一方仕切価格の方ですが、同系列内の仕切格差は、間違いなく縮小方向に向かうでしょう。
月間100KL、1000KL、10000KL特約店の差もせいぜい、2-3円以内に収まるのかもしれません。
 その代わりと言っては何ですが、SS単位で見ると50KLSSと500KLSSの仕切価格差は、ローリー
配送単位等合理的な理由によって、むしろ2-3円以上になるかもしれません。
 しかし、仕切価格がより合理的な方法によって決まるようになれば、ある意味、本当の最後の
競争が始まると言えるでしょう。その競争は、今より緩和されるという根拠は残念ながら、見当たり
ません。絶対需要が減少する中、むしろ厳しくなると思っていた方がよいでしょう。
 ピーク6万あったSS数も、昨年4万5千。これが4万を切り、更に3万SSになるのは、残念ながら
時間の問題です。そして2万5千で減少が止まるか、2万まで減るか、6月7月11月企画
ご説明したプラグインハイブリッドやEV車の普及次第だと思います。
ちなみに、このプラグインハイブリッド車の普及による主に夜間の電気需要を想定した
電力中央研究所」が試算した非常に興味深い研究報告があるのでご紹介します。
要約すると日本の登録自動車の8000万台が、一回の充電で96km走るPHEV96になったと仮定
すると、現在約年間6000万KLのガソリン需要は、何と4240万KL減の1860万KLになるそうです。
これは2030年あたりの想定のようですが、私は、PHEVよりガソリンを全く使わない、単純構造の
プラグイン電気自動車が、2010年以降は相当台数に普及して来ると思うので、ガソリン需要が
1/3まで減るかどうかは別として、ガソリン販売業者としては注視していかなければならない
出来事だと思います。
我々SSは、どうすれば良いのか
ではSS業界に未来はないのでしょうか。そんなことはありません。例えば弊社商圏のある地区で
最後に3件にまで減ったフルサービスSSが、1件がセルフに、もう1件は廃業したたため、名実ともに
フルサービスSSは当社だけになりました。そうすると発券店値付けカードのお客様は、セルフで
給油しても価格は変わらないのならフルサービスが良いと、弊社SSでのご給油が増えて来ました。
今まで少ないと思っていたガソリン7円、軽油5円の代行給油料も数が纏まれば、貴重な収益で、
これは系列に残ったSSならではの残存者利益が、少しは出て来たように思います。
 勝ち残るSSが2万あるとすれば、そのコンセプトも2万通りあるでしょう。その根底に共通するのは
やはり「真の顧客満足サービスの徹底」だと思います。その実現は、スパルタでやらせるのではなく
やりたくなる仕組みを作り、それが従業員にとっても自己の向上に繋がるよう会社も配慮し、会社と
従業員の目的や利害のべクトルを合わせればよいのです。その具体的な方法は、高圧的な教育
ではなく、自ら気付いてもらうコーチングでしょう。明日から売上が上がるキャンペーン等とは違い、
一見遠回りのようですが、最もまともな近道だと思います。本年も、どうぞよろしくお願いします。
 ご意見ご要望ご感想はこちらから 垣見 裕司 2007年12月27日更新 Ver 2