公取は石油業界を救えるか、高まる期待とその限界
石油業界における不当廉売、差別対価、優越的地位の乱用を考える
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先日、エネ庁より特許庁との協議のもと、元売の商標権を侵害しない販売行為について
小売側の要望がかなり取り入れられた具体例が示されました。さあ次は!公取委にも
「ガイドライン」を出してもらい、と意気上がる販売業界ではありますが、、、。
今月は独禁法を冷静に分析し販売業界が期待するようなガイドラインが出して頂ける
ものなのか、私なりに分析してみたいと思います。文責、 垣見裕司2/25.NO5

過去1年の動きをまとめてみると

まず昨年3月SS業界の組合の総本山である全国石油商業組合連合会(通称全石連)は
以下の3点を政府に対し緊急要望しました。
1.不当廉売の迅速な取締り
2.差別的仕切価格の排除
3.元売の恣意的な中小企業淘汰政策の排除
また8月には中小企業庁が中小企業設置法に基づき、公取委に対して
「不当廉売申告の迅速かつ厳格な取締りを求める」という異例の措置がありました。
 政治レベルにおいても「自民党の石油流通議員懇談会」通称一木会(林会長)や
「ガソリンスタンドを考える若手議員の会」が、石油業界の厳しい状況を認識し、
少なくとも公正な基準と成るガイドラインだけでも早急に作るよう当局に対し
働きかけて頂いております。また11月には通産省から公取委に審査専門官が派遣
されるなどいよいよ動きが本格化してきました。

独占禁止法とは何か、石油業界でのポイントは

 私も独占禁止法を少し勉強して見ましたが、いやこれは大変な法律です。
自由経済の基本法である独占禁止法の目的は、企業が公正で自由な競争を行うことを
促進することにより、一般消費者の利益を確保しようとしている法律です。
詳しくは、公正取引委員会のHPに書いてありますのでそちらをご覧下さい。
 では現在の石油業界にとってポイントはどこでしょうか。とかく話題になる
不当廉売、差別対価、元売の優越的地位の乱用について考えて見たいと思います。
 尚、正確を期すため文中には過去だされた通達やガイドライン等を引用している
部分がありますので、説明文がやや硬くなることをお許し下さい。

1.不当廉売

不当廉売を定義付けるとすると、ある商品について
A.その供給に要する費用を著しく下回る価格で B.継続して供給し
C.他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある、ということになります。
これは一般指定(「不公正な取引方法」昭和57年公正取引委員会告示第15号)
で規定されています。そして
Aの「供給に要する費用を著しく下回る価格」については実務上「仕入価格」を
一つの基準(不当廉売のガイドラインは昭和59年に出ておりここに明記されている)
としていますが、仕入価格を上回った例でも注意された例があります。
でも仕入以外の「適正な販売コストとは」という具体的な額の算定に長期間かかり
問題が先送りされてしまうより「仕入価格以下」という販売業者には大変厳しい
数字でも、これを基準に早急に審査して頂く方が、今の業界には必要だと思います。
 最近の例として広島で灯油を18L398円で販売する業者に対し、昨年12月
周辺業者から調査申請された件は、40日で「注意」のスピード回答がでました。
 しかしその業者は引き続き同じレベルで販売を継続しているようなのでそれ以上
の処分である氏名の公表をしてもその業者に「消費者の味方」と宣伝されてしまい
もはや処分は意味を持ちません。
 ですから私の感想としては、仮に注意等の回答が出されても、その処分に限界が
ある以上、現行の独禁法だけでは安値業者の廉売は防止出来ないと思います。
 またその仕入価格は相当安い訳でしょうから、次の差別対価の問題の方がより
重要になるかと思います。

2.差別対価

例1.同元売の同出荷場所から同製品が同地域の同数量のA店とB店の卸価格差
例2.同油槽所等から出荷される同石油製品について系列品と無印品の価格差

以上2点は差別対価に当たるか、またそれは価格差にしてどの程度が許容範囲かに
ついて考えてみます。差別対価は上記一般指定では「不当に地域又は相手方により
差別的な価格をもって、商品若しくは役務を供給し…(以下略)」とされています。
 ここで留意すべき点は、「不当に」(=公正な競争を阻害するおそれ)価格差を
設けることが禁止されており、必ずしも理由が付かない価格差があることだけでは
元売間競争の結果だと言われてしまうとそれが道義的には灰色でも現行法体系では
それだけでは違法とならないのが現実です
 では何が公正な競争を阻害するおそれがあるかと見る点は、個別に判断するしか
ないのですが、典型的には元売業者が他の元売業者を駆逐するために特定の地域で
ダンピングをしかけるような行為が例として挙げられます。
 また差別対価は同一の物でなければ成立しないことです。業転玉と系列品が同じ
品目と評価できるかという点がポイントですが、品質は同じでも元売得意の
ブランド料や品質保証を含む付加価値がついていると言われてしまうと、独禁法上
これを同一の物と評価するのは難しいように思えます。
 ですから私もガソリン価格ページにありますように
原油に税金等を加えた小計Aが12.0円。経費小計B 8円のうち、97年度の
精製と販売変動費は、石油精製・元売全29社の平均で3.6円なので仮に4円とし
(精製変動費.副原料、薬品、燃料、電力・水道、外注作業費用等の合計1.65円)
(販売変動費.運賃、販売手数料、外注作業費用等の合計)1.95円で計3.60円)
それにガソリン税53.8円を加算すると届けで約70円という数字を下限指標。
また中部商品取引所の公の無印製品価格は届けで75円は、期せずして業転価格に
近く、これが継続的に供給されている現状を見てこれを中間指標。
そして一般特約店の系列仕切80円を上限指標として、具体例を出したかったので
すが、価格差だけの問題ではないことが分かり、誠につらいものがありました。
 でもこの70円と80円。ガソリン税抜価格で比較すると16円と26円で高い
方から見ると実に38%値引きで、コスト論からでは説明の付かない訳です。しかし
販売業者から見れば許せない価格差でも、安い方の店は他元売との競争状態でその
元売にとって転籍されては困る重要な拠点なので安くした、という理由でOKなら
本当に恣意的な特約店選別もこの表現で通ってしまうので極めて危険だと思います。
 それでも元売に対して何とかしたいというの方は、元売卸価格の「不当廉売」や
(某大手団体への販売価格や元売子会社の決算時や会社合併時の累積債務清算は
 原価70円割れの価格で整理されていると推測出来る?るものがあるようです)
視野を広くして、親子会社間の利益移動のいわゆる移転価格問題や贈与税の発想
更に原価割れを継続しているのであれば株主代表訴訟の可能性もありますが、
これは独占禁止法の問題ではないことも付け加えなければいけません。

3.優越的地位の乱用

 取引契約や商標権を盾に他社製品買いを禁止しておいた上で、業転や元売子会社に
対する価格より割高な系列価格による買取を強要することは本件に該当しないか。
 また元売社有SSの賃貸料がバブルの崩壊等で一般不動産賃貸市況が大幅に下落
しているにもかかわらず一方的な価格提示できまるのは本件に該当しないか。

 優越的地位の濫用の優越的な地位とは、当該事業者の要請が自己にとって著しく
不利益なものでも、経営存続上これを受け入れざるを得ないような場合を言います。
 従って石油業界は、いやなら買わない更に転籍すればよい、という選択肢があり
今回エネ庁よりでた商標権に該当しない例の公表で、よりそれが広がった訳ですから
(系列元売から出た製品を同じ元売の商社や特約店から購入し販売したものやタンク
 とノズルを分け、無印製品を販売していることが判別出来るなら、サインポールは
 そのままでも商標権の侵害には当たらないという内容で歓迎しています。但し
 サインポールはSS単位という個別契約がある場合はこの限りではありません。)
本件に関するガイドラインの策定は事実上難しいのではないでしょうか。
 またこれは全く私見ですが、元売の社有SSの家賃については、共通指標を設ける
のがよいと思います。全部のSSは無理でも、ある特約店から返還されたものは、
販売数量などの下限をつけた上で系列内特約店で家賃入札するのが良いでしょう。
これにより価格が決まれば仮に元売の取得価格からの割り返しで赤字でも、もはや
元売は「贈与税がかかるので安く出来ない」とは言わなくなると思います。
 

違反した場合の罰則は

今回の水道管等のヤミカルテル疑惑問題では公取委は最も重い刑事告発がなされて
それを受けた検察当局は強制捜査に踏み切ったようですね。古い過去では1974年の
石油や1991年の業務用ラップはいずれも製品価格をつりあげるカルテルでしたが
今回のようにシェアー配分カルテルでの強制捜査は始めてだと思います。
 最も重い罰則例は、私的独占や不当な取引制限違反で刑事告発された場合で、
刑事裁判となり最高1億円以下の罰金という内容のようです。
 公取委の措置には課徴金を除くと勧告、警告、注意がありますが、正式な法的な
処分は勧告だけです。課徴金については「対価に係る」カルテルに対してのみに対し
てかかりますので、不当廉売、差別対価、優越的地位の濫用のような不公正な取引方法
には課せられません。
 その勧告等に従わない時でも公取委に出来ることは「社名や違反内容を公表する」
という程度の内容です。しかし販売業者の不当廉売の場合とは違い、それが元売に適用
される場合は「氏名の公表の効果」は十分あるので、自ずと第2指標である業転価格に
上限下限が近づき、卸価格が適正化の方向へ向かうことは期待出来ると思います。
 また販売事業者から見ると疑いがある場合でも、不問というケースは多々あります。

頼れるものは自分だけ

 例えばある特約店が確たる証拠を入手し元売の差別対価の調査依頼をしたとします。
仮に運良く注意や勧告を公取にだして頂いたとしても、今の法律はそこまでです。
 そして仕切価格を子会社や業転並みの価格に過去に遡って値引きさせたいのなら、
残念ながら民事裁判で長い間戦うしかな訳ですが、これは経営的には全く非効率です。
ですから最初の前項3の元売政策があったとしても、それが市場の私的独占を狙い、
価格を高騰させ、結果として消費者の不利益にならない限りは、中小企業保護法では
ないのでこの法律で元売と戦う?零細特約店を守るのは無理がありそうです。
 要するにその元売さんからは大切にされなかったことは事実ですから、転籍すれは
よいことですし、もし他の元売が声をかけてくれなければ、それは自社の魅力が足り
なかったとあきらめ、誠に残念ではありますが、早く業界を撤退すべきでしょう。
 公取も努力しておられますが、それは個別要因に外科的即効性があるというより、
漢方薬のように、全体としてあるべき姿に向かってゆっくり効く薬に思えます。
 ましてや組合を通して元売を訴えてもらい、その結果自社の仕切りが安くなる
ことを期待しておられるお方は、もはやおられないことを願っておのます。

今こそモラルを

 住専管理機構の中坊社長様は、明らかに不良債権となりうることが分かっているのに
それを紹介したS銀行を訴えました。そして「裁判で「クロ」にならなければ、銀行は
何をしてもよいのか」という明言を残しました。最初は受けて戦うという姿勢を見せた
銀行も結局は和解に応じ銀行に最後のモラルのかけらが残っていたような気がします。
 石油業界も同じでしょう。販売業者が淘汰されても納得出来るのは、純粋に公正な
自由競争により敗北した時だけでそれが元売のさじ加減で決まったのでは許せません。
 また元売子会社でも競争力がないのに助けていれば業界の正常化は益々遅くなり
悪影響を及ぼすだけでなく、そのような元売政策に嫌気の指した本当に良い会社が業界
を去って行くことは、正に業界にとっての損失です。元売に最後のモラルが残って
いることを節に希望します。
 最後に本企画は、元売様始め見識者の皆様他多くの方より立場を超えご指導頂き
本当にありがとうございました。この場を借りて深く御礼申し上げます。