コスモ坂出の停止発表に続き、JXも室蘭の停止を発表
 またJX国内油槽所5か所の輸入基地化は、何を意味するのか
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2010年11月、出光が徳山製油所を2014年3月に閉鎖するとの発表に続き、本年8月は、コスモ石油が
坂出製油所を2013年7月に閉鎖すると発表。そして10月28日には、日経新聞の一面やNHKニュースで
「JXエネルギー室蘭製油所停止 2014春」との報道があり、JXは、11月2日になって詳細を発表しました。
また10月30日には「JXが日本海側の5つの油槽所を輸入基地化」という燃料油脂新聞の記事もありました。
今月は、製油所・油槽所や高度化法の装備率の達成状況も検証してみます。過去特集も参照下さい。
新日石Jomo合併2008/12EM撤退報道2010/10EM日本撤退2012/2新日石出光提携2003/1
日石三石合併1998/10
 2012年11月2日Ver2  2013/2/15東燃削減追記Ver3  文責 垣見裕司

日本の製油所の配置と その能力

まずは、石油連盟発表の2012年8月末現在の全国各地の製油所の分布と精製能力です。
全国各地に分散しているというよりは、関東と関西に偏在していると言えるでしょう。
大消費地の近くにあると言えばそれまでですが、いつかは来ると言われている、首都直下
東海、東南海、南海地震を考えると、かなり心配な配置であることがわかります

日本の製油所の精製能力の推移と稼働率

次は、精製能力とその稼働率の推移表です。12年もの長い単位で見ると、需要減というよりは
需要収縮という深刻なレベルです。精製能力は、2000年から2011年の12年間で、約16.4%も削減
しましたが、それでも、2005年度は87%という高い稼働率を維持できず、その後6年間で生産量は
17%も減少。稼働率は74%に低下し、固定費の装置産業としては、誠に深刻な低稼働率です。
年 度 末 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
精製能力千BD 5,355 5,274 4,967 4,835 4,965 4,770 4,830 4,895 4,834 4,793 4,616 4,479
年度平均稼働率% 79.1 81.0 81.4 83.0 84.4 87.2 82.9 82.7 78.9 74.5 77.8 74.2
石油製品生産万KL 22,183 2,1651 21,892 22,115 21,745 22,397 21,432 21,771 20,880 19,638 19,497 18,544

恐ろしく古い日本の製油所

下記表は、日本の各製油所の竣工年です。最初の竣工年に全能力が完成した訳ではなく
その後、トッパーが追加増強されているので、あくまで目安として見て頂きたいのですが、
それにしても非常に古いことがお分かり頂けると思います。

韓国の製油所の配置とその能力

次に韓国の製油所の能力を調べてみました。まず驚くのはその規模で日本の数倍です。
この能力差を見るだけでも、その効率やコスト競争力に、相当の違いがありそうです。
また下記の日本地図からは、太平洋側からタンカーで日本海側にもって来るより、
韓国から日本海を経て直接もって来た方が遥かに近く、船運賃も安いことが想像出来ます。

社名(グループ) 製油所名 竣工年 能力BD 番号 JX油槽所名 タンク容量 基数 番号
SK エナジー 蔚山ウルサン 1962年 840 @ 留 萌 46,230KL -- J
仁川インチョン 1969年 275 A 新青森 68,126KL 19 K
GSカルテックス 麗水 ヨス 1967年 680 B 東新潟 120,530KL 21 L
S-オイル 温山オンサン 1976年 575 C 富 山 699,898KL -- M
現代オイルバンク 大山 テサン 1964年 395 D 金 沢 106,219KL 27 N
  油槽所のタンク容量 及び タンク基数は 当社推定

ちなみに韓国の製油所の竣工年を調べてみましたが、韓国もそこそこ古いことが分かりましたが
下記のアジア諸国の製油所能力推移表をご覧下さい。日本は1980年より一貫して減少ですが
韓国は1995年から2005年に大幅増強しています。要するに新しい設備なのです。この表からも
韓国との効率化やコスト競争において、日本の劣性は免れないであろうと思われます。

JXエネルギーが 日本海側の油槽所を5か所を輸入基地化

10月30日の燃料油脂新聞の記事によれば、JXは日本海側及び日本海からアクセスが容易な
新青森も含めて、5つの油槽所に保税タンクを置き、輸入基地化をしたの報道がありました。
JXのHPでは発表されていなかったので、同紙の独自取材のようですが、大変参考になります。

そして11月より、韓国等から灯油等の製品輸入を開始するとの内容も記載されていました。

私はこの油槽所の輸入基地化は、一石三鳥くらいのすばらしい決断と実行だと思います。

@ 震災対策。冒頭でも申し上げた通り、首都直下、東海、東南海、南海地震を考えれば、
  製油所の全てが太平洋側なのです。今さら日本海に製油所を移すことは出来ませんが、
  油槽所の能力を増強し、製品備蓄をすれば、ある程度カバーし、震災対策にもなります。
A 日本海側の製品輸入基地という韓国から近い立地特性を活かしてのローコスト化
  現在日本海側には大きな製油所はありません。従って京浜や関西で生産した石油製品を
  日本本土を半周して、日本海に輸送しています。しかしこの地図を見ても、韓国から輸入
  する方が、距離も近く、遥かにローコストで供給できることが想像できます。
B 消費地精製主義が、緩やかに見直されていくだろうことへの早期対応
  JXも11月2日になって発表しましたが、室蘭製油所の閉鎖とやはり密接に関係しています。

日経新聞やNHK他が、JXエネルギー室蘭製油所停止報道 JXは11/2に発表

10月28日の日曜の日経朝刊1面に「JXエネ室蘭製油所停止14年春 精製能力13%削減」と
大々的に掲載されました。NHKも1分半近くの時間を割いて同様の内容を放送していました。
これに対しJXは、11月2日に、ほぼ報道の通りの内容を発表しました。
要約すると
 1 2014年3月末 原油処理停止(常圧蒸留装置の廃止)する。
 2 新たに設備投資を実施し、二次装置を活用し石油化学製品の製造拠点とする。
 3 石化工場化後は、SKグループと合弁で韓国に新設するパラキシレン製造設備用の
   原料となるアロマ基材等の製造・輸出を行う。
 4  石油製品の物流拠点としての油槽所機能は存続する。
今回の発表では触れられていませんが、今回の廃止は、やはり出光の徳山閉鎖発表時点で
ほぼ決定していと思います。発表のタイミングは、SKと契約や地元対策でしょう。
私は、JXと出光の関係は、世間で言われているより、深く、そして親密だと思います。
比較するのがよいかは別として、少なくともJXとコスモの関係よいでしょう。それを決定的に
したのは、出光兵庫製油所の閉鎖の時だと思います。弊社HP 2003年1月企画参照
出光兵庫の閉鎖により不足する分を、当時の新日石の水島で引き受けるに当たって、
兵庫製油所の撤退費用の一部を新日石が香典代わりに負担した?という話もある位です。
同様に、昨年の出光の徳山製油所の閉鎖もJXの麻里布でのバーターが成立しまので、
その相対で、北海道では出光の苫小牧を残し、JXの室蘭を停止するのは、一般的には
徳山閉鎖と「セット」と考えられているので、業界人なら時間の問題と思っていたことでしょう。
しかし、マスコミは発表したら終わりかもしれませんが、JXはこれからが大変だと思います。
石化工場としては残るので、地元自治体への報告は、閉鎖よりは説明しやすいと思いますが
それでも社員の転勤やご家族、特にお子様たちが通う学校までを考えると大変だと思います。

高度化法の「重質油分解装置設備率基準」の達成と能力削減の定義? 2013/2/15追記

では各社の能力削減発表で、高度化法の重質油分解装置の装備率の基準は達成するのか。
実は、各社のHP等を調べても、分解設備能力の正確な数字は掲載されていませんでした。
従って詳細な記事だったと評価の高い「週刊ダイヤモンド2010年6月22日資料」を元に、それ以降
分解装置の増設は、今夏の東燃川崎の改良(+3千)のみとし削減発表後の能力で再計算しました。
結論は、JX、出光、昭和シェルは達成コスモはあと約50千弱。新東燃はあと153千でしたが
2013/2/14に川崎-68千、和歌山-38千と分解増強+3.45千(各BD)を発表してクリヤーです
重質油分解装置の装備率 装備率の改善率 高度化法計算例 例えば2010年時点で
能力が51万BD、分解装置が5万BDなら
装備率10%未満の9.8%なので、その企業は
9.8%X1.45=14.2%まで改善の必要がある。
これが下記表の目標装備率となっています。
10%未満の企業 45%以上
10%以上13%未満の企業 30%以上
13%以上の企業 15%以上
グループ名
単位千BD
2008年
末能力
基準年
分解装置
処理能力
基準年の
装備率
目標
装備率
目標
能力
14年3月
削減後
能力予定
14年3月
分解装置
装備率
達成 未達成の判定
未達の場合の不足量
JXエネルギー 1792 206 11.5% 15.0% 1373 1212 17.0% 室蘭停止で達成見込
出 光 640 83 13.0% 14.9% 557 520 16.0% 徳山削減で達成見込
昭和シェル 515 88 17.1% 19.7% 447 395 20.8% 扇島120廃止で達成済
東燃ゼネラル 661 28+3=31 4.236% 6.14% 505 556 6.20% 分解+3.45川崎-67和歌山-38
コ ス モ 635 25 3.94% 5.71% 438 495 5.05% 坂出閉鎖予定も57不足
さて今回の検証で一つだけ疑問に思ったことがありました。それは、能力削減の定義です。
疑問のきっかけは、2011年3月15日。コスモ石油が、四日市で50000BD、坂出で30000BD。
またJXも水島ABで合わせて19800BDの能力増強の届出をし、即日増産に入っているのです。
震災から僅か4日間で、設備能力の増強工事など出来る訳はないので、要するにそれ以前の
能力削減時に、実際に設備廃棄をしたのではなかったか、設備MAXまで余裕があり、震災後
書類上の能力を設備能力一杯に上げて申告したのだと思います。一方、御当局に伺えば、
設備廃棄し、会計上も除却の必要がある。そうなると今我々が把握している 2008年の基準年
の能力が本当に設備MAX能力なのかという疑問も湧いてきます。今後も勉強して報告します。