新日石と出光の精製提携を大歓迎
 もはや後戻り出来ない出光の英断で、業界再編は最終章へ
新年おめでとうございます。あなたは新年1月及び業界再編企画の 番目のお客様です。
昨年12月10日、石油業界関係者にとっては、業界第1位の新日石と第2位の出光興産の精製提携という
ビックニュースが発表されました。両社は1995年から物流提携を行っていますので「単なる提携の強化」
と重大視しない見方もあるようですが、私は、特に出光にとって「後戻り出来ない道」を歩み始めた決断
として、高く評価したいと思います。という訳で新年企画は、この解説と共にコスモ石油へ与える影響や
精製元売が抱える問題なども含めて、私なりに解説して見たいと思います。参考までに 98/11月
日石三石合併へ同NO2、99/10月日石三菱とコスモの提携強化 もご覧下さい。文責 垣見裕司
出光から発表された内容や質疑応答で明らかとなった内容は以下の通りです。
1. 出光興産は、兵庫製油所(能力8万BD)の原油処理をH15年4月に停止する。
2. 100%子会社が運営する沖縄製油所(能力11万BD)をH16年春を目処に停止する。
3. 不足分の一部は、他の4製油所で増産するとともに、精製委託、輸入、国内仕入で対応する。
4. 75年の愛知竣工依頼、6製油所(83万BD)体制が、一気に4製油所(64万BD)と23%削減となる。
5. 稼働率は、70%からほぼ最高に近い90%前後となる見込みである。  
6. 3の精製委託は、新日石グループの水島や大阪等に不足する4万BD分を要請する。
7. 以上の改善コストは年間約60億円となる。(但し新日石の側の発表とは合わない)
8. 停止後は、兵庫は原油備蓄基地として、沖縄は油槽所として機能を果たす。  
9. 従業員はグループ他4製油所への異動や転職支援等、本人の希望を考慮して対応する。
新日石から発表された内容や質疑応答で明らかとなった内容は以下の通りです。
1. 新日石Gはこれに伴い水島、大阪及び神戸油槽所から製品供給を行う。期間は10年。
2. これにともない水島製油所をH15年4月までに2万BD増強し25万BDとする。
3. 一方、根岸は2(-3+1)万BD削減し34万BDに、大阪は1万BD削減し11.5万BDとする。  
4. この結果、新日石グループの精製能力は、1217千BDとなる。
5. 稼働率は、現行の83%から、ほぼ最高に近い87%前後(ピーク月97%)となる
6. 富山の日本海石油は、現状は黒字採算であるが、今後北陸電力と相談して決めて行く。
7. 以上の処理能力削減の効果は年3億円。両社合計では年50億円と見込んでいる。

近年の常圧蒸留装置(トッパー)能力と稼働率の推移 HSBCW証券伊藤先生提供

処理能力は98年度末の最近のピークから削減されていますが、需要減で稼働率も落ちています。
製油所の所在と原油処理能力(2002年12月末現在)石油連盟等の資料を基に弊社作成
この図を見ても分かる通り、精製能力の余剰感は、関西方面の方が強いのは明らかです。
また兵庫には、接触改質装置はあるものの、FCC(接触分解装置)等の二次設備が手薄で
他の製油所にくらべ、高コストであると言われていました。
そして2000年の4月には14万BDの能力から半分近い6万BDが削減され事、2001年の12月から
1ヶ月間操業を停止したこと、徳山に比べて製品調達がし易いこと等の複合要因も考えると
新日石にとっても、兵庫の閉鎖は、最適の選択と言えるでしょう。近年の廃棄等は以下の通り
年月 01年6月 01年5月 2001年4月 00年6月 00年4月
製油所名 Jomo知多 和歌山海南 日石水島 根岸 室蘭 コスモ堺 コスモ坂出 富士袖ヶ浦 出光兵庫 出光千葉
削減能力BD 100千 50千 30千 25千 16千 30千 20千 52千 60千 20千

精製設備の廃棄は、後もどりの出来ない道
しかし新日石と出光は、1995年、当時では関係者をあっと驚かせた業務提携を行い
現在その量は、年間550万KL規模にもなる製品融通が行われています。
今回の精製委託による製品融通は年間約200万KLのことですから、数量が4割増になる
だけなら、単なる提携強化なのかもしれません。しかし「製油所という設備廃棄がともなう」
という点に、私は決定的な違いがあるように思います。
これは関係者から聞いた話ですが、別の中堅元売のトップが、ある小規模元売を称して
あの会社が元売でいられるのも製油所を持っているからだ」との発言をしたそうです。
元売から「精製」というメーカー機能を100%とってしまったら、元売でいられなくなる。
逆に言えば、販売元売としては、市場から認められる程の付加価値をまだ生んでいない
ということを、自覚されているのかもしれません。
精製元売にとってそれだけ大切な設備を、先に廃棄した今回の出光の英断は、評価にされる
 とともに、新日石との信頼関係もかなりのレベルにまで達したのではないでしょうか。
 今回、発表では「停止」となっていますが、設備廃棄までされるようなので、その意味では
出光は、間違いなく「後戻り出来ない道」を歩み始めたと言ってもよいでしょう。
出光の本当の苦悩は?
では出光の改革は、これで順調に進み始めたのでしょうか。やはり先はまだ不透明でしょう。
日頃「新聞の裏を読め」と言っていた亡き父の言葉を借りれば、例えば、
 「出光は平成18年の上場を目指す」という文字の「裏」にあるニュアンスは
 「上場基準を満たすだけでも平成18年までかかる」という意味も含まれていることを
理解しておく必要があると思います。2002年3月末決算でも、その有利子負債は、連結で
1兆4千億円と発表されています。数年前の「2兆円を超える」と言われたレベルからは、
短期間での大幅な削減であり、銀行の債権放棄とは違う、有税返済であることを考えると
その思い切ったリストラや資産売却は本当に評価出来るのではないかと思います。しかし
今の金融情勢厳しさを考えれば、今後も重大な決断を迅速にし続けなくてはならないでしょう。
その意味で今回の決定は、ラストチャンスとなる英断だと思います。
では、今後の出光はどのような方針で行くべきなのでしょうか。
ご当局筋によれば、元売ヒヤリングの中では、出光は唯一、
 「精製収益に依存することなくリテールで付加価値をあげて行く」と言い切ったそうですから
結論は既に出ているようです。今後はそれをどのように実現して行くかでしょう。
私は販売元売には、特約店や販売店に頼られる、「コンビ二本部」になってほしいと思います。
メーカーでもないのにあれだけ高いロイヤリティを払っても系列店が納得してついて行くのは、
コンビニ本部として、ブランド構築に始まり、商品開発、企画、流通、またPOSシステムや、IT戦略
更に販売教育等そのマージンに見合うだけの付加価値を生み出しているからでしょう。
一部の元売にありがちな、自己満足の販売方針や施策ではなく、系列店からそして、末端の
お客様から、その付加価値を認めてもらえる、販売元売になってほしいと思います。

新日石とコスモの提携は、今後どうなるのか
今回の精製提携が事前に噂として流れ始めた時、「新日石の相手は当然コスモだろう」、
また発表後にも「何故コスモとの提携まで含めなかったのか」との質問を頂きました。
もしそう思う方が多いなら、それは日石とコスモとの提携に対する双方の思いが、あまり
知られていないからでしょう。
私の知る限りでは、日石側からコスモとの提携への批判は、全く聞かないのですが、
コスモ側からは、日石に対する不満や、提携のメリットに疑問を持つ声、極端な話では、
「提携を解消すべき」等の厳しい雰囲気までが漏れ伝わって来ます。
しかし冷静な見方をすれば、改善される総利益を販売数量の異なる2社で割り返えせば、
享受する利益が違うのは、当然の経済原則なので、これは仕方のないことでしょう。
また日石として、コスモに対して時間とエネルギーをかけるよりは、ご当局も大歓迎した
今回の出光との設備廃棄を伴う、精製提携を急ぐ必要があったのだと思います。
また今回の提携発表は、一般紙や証券市場からも好意的に評価されていると思います。
日経平均がバブル後の最安値圏をさ迷う中、新日石の株価は一時1割近く上昇しました。
しかし新日石に対する不満が高かったコスモにしてみれば、提携への評価が高かったことで
新日石から離れるシナリオは完全に消え、残った選択肢は狭まったと言えるでしょう。
これは全くの私見ですが、出光が兵庫という外堀を自ら埋めて、業界NO1の新日石との
「提携」勝ち取ったとすれば、もはやコスモは、坂出か堺、場合によっては、その両方を
廃棄する覚悟がないと、もはや新日石には、喜んでもらえないのかもしれません。
またその提携が、うまく行っているのか、いないのか、私にはよく分からない、昭和シェル
とJomoの両社も、今回の発表を重く受け止めたかもしれません。

精製元売業界が抱える頭の痛い問題
さて、今後の精製元売の再編を占う前に、余剰能力や稼働率、それを解決する設備廃棄を、
別格とすれば、現在の精製元売が抱える3つの問題を私なりにまとめて、おきたいと思います。
 1.短期的には、製品間の需給バランスの不均衡問題。
  従来なら景気低迷でC重油やA重油、そして軽油の需要減退で、製品が余る問題です。
  この解決にはC重油に近い残渣油中間留分やガソリンに分解する装置が必要となります。
  しかし現在は誠に皮肉ながら東電の原発問題でC重油が急騰、つられて、灯油や軽油まで
  上昇し、なんとガソリンが一番安いという怪現象が起きています。
 2.中期的には、環境問題のための低硫黄化への投資でしょう。
  東京都の石原都知事が進めている、ディーゼル車の規制には、低硫黄軽油が不可欠です。
  現行では500ppmの硫黄分を、50ppmにまで抑えなくてはいれません。
  一頃、業界全体で2000億円かかると言われた、低硫黄問題ですが、実は50ppmまでは
  各社とも現行設備の小改造等で、この50ppmまではなんとかクリヤー出来そうです。
  しかし大変なのは、ここからで、燃料電池用に液体石油製品で対応するとなると
  5-10ppmのレベルまで落とさなくてはならず、対応には業界全体で数千億円かかるという
  試算があり、今度ばかりは小手先の改造では対応出来ないようです。
 3.需要が激減する日
  そして最後に申し上げたいのは、需要が激減する200X年以降のことです。広い意味では、
  余剰能力問題や能力設備廃棄問題なのかもしれませんが、次元が違います。
  燃料電池自動車が普及し始める?。また家庭用の電気や給湯も燃料電池になる?。その水素
  供給媒体が石油系製品でなかったら?。洗車も含めた広い意味での、カーケア拠点として
  SSが必要なくなることはありませんが、その水素供給燃料の製造に既存の精製装置が、
  必要かどうかは全く別問題でしょう。
  また既存ガソリン車やハイブリッド車の燃費も向上しています。12/25発売の改良ビィッツの
  燃費は40%UPの25.5km/L。新車購入から完全にスクラップまでの平均車歴は約10年。買替
  前後で比較すれば、使用量は約半分。1年で1割の車が入替わるので年率5%の削減要因です。
  まだ先?と思うかもしれませんが、計算上は10年で(0.95)の10乗=)約60%なので覚悟が必要です。
 
灯油やC重油がガソリンよりも高い訳
精製の事を書く機会は少ないので、ここで前述1の問題を掘り下げて見たいと思います。
実は今、元売や大手商社間等で取引されている業転市場で、過去には、独歩高と言われた
ガソリンの価格より、C重油や灯油の方が高いという珍現象が起きています。
昨年8月企画でも書いた通り、余るC重油に近い残渣油を分解して、中間留分やガソリン分
を作る装置を持てるかどうかで、今後の業界を占えると書きましたが、状況が一変しました。
東京電力の原発問題で、原発が次々に止まり、発電用C重油の需要が、急増したのです。
対策として、重質油を多く含む原油を購入して処理し、不足分を補おうとしていますが、
2-3倍(2-3割ではない)という増加分には追いつきません。加えてC重油や残渣油から分解
していた、灯油や軽油も不足するようになり、加えて現在の寒波で、灯油も急騰しました。
原油を増処理し補うと、連産品であるガソリンが余る。価格は以下のような状況です。
税抜 円/L ガソリン 灯油 軽油 A重油 LSC重 HSC重 原油 備 考
LS=S分0.3%
HS=S分3.0%
2001/12月 22.7 25.1 25.1 21.9 16.3 15.5 15.4
2002/12月 27.2 31.8 31.0 29.8 30.2 25.0 23.?
理想的な姿は、大日本-石油精製
さて話を元に戻します。私は業界再編の究極のそして理想の姿を次のように描いています。
まず出光は2製油所を閉鎖して、4製油所を別会社化する。コスモ石油も同様に、4製油所の内
最低一箇所、出来れば二ヶ所を閉鎖して、精製部門を分離する。その上で、新日本石油精製が
核となって、新日本ならぬ、大日本石油精製を作ることです。これにより名実共にアジアNO1の
規模と効率と、そして低コストを誇ることが出来るでしょう。
その上で、大日本石油精製から供給される低価格の製品を一つ目の武器とする訳です。
しかし現在でも精製コストは3円前後まで圧縮されていますから業界平均との差はせいぜ1円?
程度だと思います。従って、やはり販売に特化した販売元売として魅力を出せるかだと思います。
お年玉その1、米のイラク攻撃があった場合に、一般に業界で言われる3つのシナリオ
今月お知らせしたかった、米のイラク攻撃が原油価格に与える影響も追加させて頂きます。
シナリオ1、攻撃が1週間から1ヶ月の短期で終わる場合(推定確率60-70%)
 価格への影響は限定的、ピーク30数$をつけるものの、その後急落し、ボックス圏内に戻る
シナリオ2、主な攻撃は短期で終わるものの、戦争が長期化する場合。(確率10-20%)
 これは、フセイン大統領が逃亡し、散発的なテロ攻撃が続き、イラクからの原油が長期に
 停止するとともに、周辺諸国も若干の被害を受ける場合です。このケースは、原油価格も
 30数$の高値で長期化すると予想されています。
シナリオ3、イラクの反撃が、無差別で行われ周辺産油国に多大なる影響が出た場合。確率?%
 具体的には、近隣の石油施設や或いはホルムズ海峡へのタンカー攻撃等で、中東原油の出荷
 に多大なる影響を及ぼす場合で、価格は30$から50$になる場合もあると言われています。
 欧米では原油だけでなく、国内の製品価格まで敏感に反応していますが、日本では原油が99.7%
 輸入されているにも関わらず、危機感無く、価格戦争を繰り返しているのは、誠に残念な事です。