燃料油価格激変緩和事業開始から4ヶ月
 一番難しい出口戦略を考える
あなたは燃料油激変緩和事業説明企画の番目のお客さまです。

石油業界史上初めての国が末端価格に間接的にせよ関与する制度が
開始されて4ヶ月が経ちました。当初は5円/Lの補助からスタートしたことも
あり業界からは賛否両論の声がありましたが、その後、3月10日から25円。
そして4月28日から35円+1/2に拡大されました。もしこの制度がなければ、
ガソリン価格は200円を突破していたことは確実なので、SS業界もそして
一般のガソリンユーザーはもとより、大量に軽油を消費するトラック業界や
バス業界。またA重油にも支給されていたので、温室農業関係者や漁業
関係者の命を救ったといっても過言ではないでしょう。
 しかし現在の制度は一応9月末までとそのHPには記載されています。
参議院選挙が終わった途端に打ち切りはないという楽観論もありますが、
補助金総額と財政を考えると、粛々と縮小されると私は覚悟しています。
 今月は本制度導入後4ヶ月を経て、その効果と今後の出口戦略を考えて
みたいと思います。一部内容が2月企画と重複しますが、ご容赦下さい。
                2022/6/1更新 Ver1  文責 垣見 裕司

燃料油価格激変緩和事業専用HPがあります
まずは右記HPをご覧下さい。https://nenryo-gekihenkanwa.jp/

開始から4ヶ月の燃料油価格激変緩和事業

1月24日、石油情報センターの調査による全国のガソリン税込平均
販売価格が170.2円となり、1月27日から国による燃料価格の高騰
抑制政策が初めて発動されました。 オイルショックの時、本来なら
全油種値上げすべきでしたが、灯油価格を据え置き、その分ガソリン
価格に全て転嫁する行政指導を行ったことはあっても、燃料油の
卸価格について国が元売等に直接補助金を出すのは初めてです。
本制度は基準原油価格から上昇分について、当初は最大5円まで
補助を出す制度なので、値上げの抑制であり、卸価格を下げる制度
ではありませんが、心配したことが起きました。 公共放送のNHKかつ
正確な内容が求められるはずのニュースですら「卸価格を値下げする」
という誤解を招く報道をしていたのです。本制度は値上げの抑制です。
当社取引先のENEOSの原油コストが、日経ドバイ価格より大幅に安く
それが続かない限り卸価格は下がらないのです。
補助金価格決定計算式
4月28日以降の現在までの補助金価格の計算式は以下の通りです
A+B+(C-D)-168円=E 今週の補助金額 5→25→35円に増額
Aは毎週月曜日の全国レギュラーガソリン平均価格(水曜発表)
Bは前週の補助金単価
Cは1週前の日経ドバイの週間平均
Dは2週前の日経ドバイの週間平均
168円は変更無し (当初は170円、171円、172円に毎月上昇)

支給期間は、最初は3月末、その後4月末、現在は9月末まで延長
尚、日経ドバイ平均は当初の月曜〜金曜から火曜〜翌月曜に変更
最初は冷ややかだったSS業界も、今は業界を挙げて大感謝
実は、SS業界の反応は、最初は冷ややかでした。東京都石油商業組合
の副理事長として組合員への説明を行いましたが、その時の頂いた
疑問や意見は以下の通りでした。

@最初の制度が非常に複雑。末端市況と原油価格という二つの変数が
 あり、緩やかにしか連動せず、タイムラグもあり、それが毎週変わる
 ので複雑過ぎる。3月10日からは以下、シンプルな形に改訂された。
 Eは今週の補助金単価。 A+B+(C-D)-172円=E
 Aは毎週月曜日の全国ガソリン平均価格
 Bは前週の補助金単価
 Cは1週前の日経ドバイの週間平均
 Dは2週前の日経ドバイの週間平均 172円は政府の目標とする価格。
 (4月28日からは168円に引き下げられた)
A補助金額が5円と少ない。例えば月間500km走る顧客で、HVや
 軽自動車等、燃費が20km/Lの車なら、月間使用量は25L。5円なら
 一人月間125円。これでは夏の参議院選挙目当てだとの声もあった。
B都心等高い地価や離島など輸送コストが高いSSは既に170円以上
 だが、二ュースで170円が一人歩きし、お客様は170円以下に下がる
 と思ってSSにいらっしゃるのではないか。
Cお客様は政府ではなく現場のスタッフに不満をおっしゃると思いますが
  「この制度は値上げの抑制で販売価格をさげる効果はありません」
 と説明するのもスタッフの役目になる。
Dある意味これが一番正論ですが「経済原則で決まるはずの末端価格
  に政府が直接関与すべきではない」との意見も多かった。


ロシア軍のウクライナ侵攻で一変 灯油、軽油、A重油も対象
しかしロシア軍のウクライナ侵攻により世界の安全保障もエネルギー
情勢も、そして環境問題やSDGs等の取り組みも、それまでの常識が
全く通用しない時代に入りました。 原油価格も高騰。政府も3月10日
より補助金上限を5円から最大25円に拡大。更には4月28日からは、
35円+1/2までに拡大されました。もし補助金がなければ末端価格は
200円突破なので、SS業界のみならず、国民も大歓迎でしょう。


今回はガソリンだけでなく、軽油や灯油、A重油、4/28からジャット燃料
も対象なのが大きいと思います。 寒冷地や豪雪地の暖房はエアコン
ではなく灯油ですし、一世帯当たりの使用量はガソリンより多いのです。
軽油は、物流業者、バス事業者、建設関係者。A重油は暖房用燃料を
使うハウス農家や漁業関係者に大変喜ばれています。

ガソリン税と暫定税率、トリガー条項とは何か

5月からの補助金金額の拡大時には、公明党や国民民主党などから
ガソリン税53.8円のうちの暫定税率分25.1円を一時的に解除すべき
ではないかというお話もありました。
この暫定税率においては2007年。当時野党の民主党がガソリン値下げ
を主張して「ガソリン国会」となり、衆参ねじれ国会だったため参議院を
通過せず、08年4月から25.1円分が値下げされたあと、衆議院で自民党
が再可決し5月1日から復活したので4月末日は全国のSSからガソリン
在庫が消える大混乱がありました。当社2008年2月4月5月HP参照
実はガソリン税は蔵出し税なので、製油所出荷SSは即日値下げ。一方
油槽所は高値税率在庫分がなくなってから下げるという対応が元売ごと
更には、各SSの所在地で対応が分かれたので、現場は大混乱でした。
その反省もあり、高値課税在庫の還付を申告する制度が今は、出来ま
したが、各SS毎に書類を作成する煩雑な作業の必要があるのと、軽油
や灯油、A重油への対策は、別途立案しなくてはいけないので、現行
補助金制度の拡大延長が、SS業界としても有り難かったと思います。

今回4月28日からの35円への補助金拡大は感謝しかありませんが、
唯一残念なのが、二重課税問題の議論が全く無かったことです。
ご存じの通りガソリン税には消費税10%が課税されTAXonTAX
となっています。 酒税も同様に二重課税ですが軽油税は非課税です。
またゴルフ場利用税や入湯税の消費税も非課税なのです。本来なら、
ガソリン税の消費税二重課税問題も議論してほしかったと思います。

補助金の効果。タイムラグはあったものの確実に価格抑制された

今回の補助金は、元売に支給されるので末端のSS業者は、ちゃんと
価格を据え置くのかというマスコミの論調もありました。しかしそれも
最初の1-2週間で、末端価格は下記通り、抑制されたものと思います。
特に4月28日からは、全国の目標平均価格が172円から168円に下方
修正されました。5月23日は168.8円。30日は168.2円となりました。
5月31日WTIの原油価格は、約120ドルですが国内ガソリン市況が落ち
着いているのも、この制度のお陰だと思います。
尚、石油元売各社は、原油価格の高騰から在庫評価益や原油開発
部門等での収益があり、史上最高益が出ておりますが、今回の補助金
は全額特約店や取引先に還元されておりますので、補助金により最高
益が出た訳ではないことは、合わせてご報告しておきたいと思います。

補助金の財源は? その総額はいくらなのか

では今回の補助金の総額は幾らなのか。本年1月から4月末までは、
昨年度の予備費からの充当で4398億円。5月以降9月末までが、
予備費2500億円。補正予算11000億円で合計13500億円です。
よって1月27日から9月末までの約8ヶ月間で17893億円と巨額です。
ではもしこの補助金を9月末以降も1年間続けるとなると、その総額は
いくらになるのか。ロシアウクライナ問題は長期化し、資源価格は高止
まりすることを前提に2021年度の対象油種数量で計算してみました。
補助金単価は満額ではない30円としても総額4.45兆円になりました。

ガソリン 軽油 灯油 ジェット A重油 合計数量
2021年度 4451 3207 1352 331 1013 14852 万KL
30円/L 13354 9622 4056 993 3040 44556 億円

令和4年度の一般会計予算は107兆円

我々SS業界やガソリン灯軽油使用者から見れば、本補助金をずっと
継続してほしいのは間違いありません、しかし物事は必ず両面から
見る必要があるので慎重論も記しておきたいと思います。まず当初
から否定的なのは財務省でしょう。日本の借金は地方も合わせて
1200兆円です。そんな中、令和4年の一般会計予算が発表されました。

支出107兆円の内、国債の元金や利払いが16兆円です。日本国民
として心配なのは収入で、37兆円も公債発行に頼っているのです。
ちなみに右の収入のグラフをクリックして拡大すると見れますが、
相続税は2.6兆円、揮発油税は2.1兆円。石油石炭税は0.66
兆円ですから、1年間激変緩和措置を継続した時の4.45兆円が
如何に大きいかが分かります。
一方環境対策として、脱炭素税等で価格を上げて、その使用数量を
徐々に抑制すべきだという環境重視派の意見があるのも事実なので
SS業界も消費者も混乱のない出口(卒業)戦略を考えないといけません。

市場を混乱させない出口戦略とは

では具体的に補助金をどう減額して行くのかが最後の問題です。
個人的には毎月1回、5円改定でメリハリをつけるのがよいと思い
ますが、7ヶ月を要します。毎月月初に10円の大改定は月末にお客様
が殺到。SSも月末にオーダーが集中し、安定供給が出来ません。
一番現実的なのは、毎週1円ずつ168円の目標価格を上げ、補助金
も35円から毎週1円ずつ下げる方法ですが35週間もかかります。
お客様のご負担は最小ですが、SS業界の激戦区では、近隣の安値
看板を気にして「ゆで蛙状態」になり転嫁が出来ないかもしれません。
最も心配なのは、トラック業界やバス業界。弊社関連ではLPガスの
末端配送です。タクシー等個別に補助金が出ている業界もあるよう
ですが、大口顧客様は値上げが出来ないと本当に大変だと思います。