輸入に頼る日本のエネルギーコストを考える
 2012年速報資料からエネルギーの輸入&末端コストの徹底検証
あなたはエネルギーコスト企画の 番目のお客様です。 2013/2/1 2000スタート
前月企画の「円安でエネルギーコストが上がる」というテーマが大好評でした。
そして、財務省から2012年12月の輸入データも発表されたので、今月はその続編としました。
ご意見等はこちらから。お返事を書けない場合もありますのでご容赦下さい。文責 垣見裕司

日本のエネルギー輸入コストは  財務省通関統計資料より

まずは下記表をご覧下さい。全てを凝縮しましたので、少し複雑で恐縮ですが、日本の
直近3年間の鉱物性のエネルギーの輸入CIF価格で、輸出入総額や為替データ付です。
2010年の輸出は67.4兆円。輸入は60.8兆円。この時はまだ6.6兆円の黒字でした。
2011年の輸出は65.5兆円。輸入は68.1兆円。2.6兆円という久しぶりの貿易赤字です。
2012年の輸出は63.7兆円。輸入は70.7兆円。その赤字は6.9兆円にまて大幅拡大しました。

貿易赤字の理由は、欧州危機等で輸出の減少ですが、輸入の増大もその要因です。
国内の消費増大なら景気好転の兆しですが、エネルギー価格は3年連続で高騰です。
2012年のエネルギー輸入価格の合計は24兆円で、2010年対比で+6.7兆円の増です。
原発停止でLNG等の輸入が大幅拡大した2011年対比でも +2.2兆円の上昇です。
やはり日本経済にとって、エネルギーコストの大幅上昇は、ボディーブローだと思います。

また総輸入額に占めるエネルギー輸入金額も構成比も28.6%→32.0%→34.1%と上昇
し続けています。震災による原発事故が原因ですが、資源を持たない国日本にとっては、
最重要国策として、エネルギー戦略を本気で考え、即実行する必要があると思います。
しかし、先の衆議院選挙では、大した争点にならず、何も決まっていないのが残念です。
2012年の円レートは79.8円。2013年が仮に93円ならエネルギーだけで4兆円の輸入増です。

各エネルギーの熱量当たりの単価を計算してみる
では、次に上記の各輸入エネルギーの熱量当たりのコストを算出してみます。
各エネルギーの発熱量等は、資源エネルギー庁発表の
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/resource/pdf/070601.pdf
2005年度以降適用する標準発熱量表によるものとします。
表示はMJ(メガジュール)=1,000,000J=0.239Mcal =0.258x10-4原油換算kLです
下記表から、原油、ガソリン、そしてLPGが、それ程大きな差がないのに、LNGは少し安く
二酸化炭素が多く発生し、扱い難い石炭は、極端に安くなっています。
単位 数量単価 熱量 単価/MJ 単価/Mcal
原油 57.5円 38.2MJ 1.51円 6.30円
揮発油 54.0円 34.6MJ 1.56円 6.53円
LNG kg 68.7円 54.6MJ 1.26円 5.27円
LPG kg 71.5円 50.8MJ 1.52円 6.37円
一般炭 kg 9.4円 25.7MJ 0.41円 1.73円
実は今、世界で石炭は、輸入するようなエネルギーではなく、地産地消が原則のようです。
それは石炭が、重たく嵩張り、場合によっては水分を含み、燃焼時のすすや二酸化炭素
の発生が多く、燃料としてのエネルギー効率が悪いからです。
また、空気中の酸素と化学変化して自然発火したり、乾燥し粉末状になると、粉塵爆発の
危険が生じるので、長距離輸送には向きません。従って採掘地付近(山元)に火力発電所を
建設し、そのまま燃料に使われるたりしているくらいです。
最新の石炭火力発電技術 IGCCのご紹介  将来の水素社会の役にも立つ 
前述の石炭のマイナスのハンデを乗り越え、環境規制が厳しい日本で、その運転が始まっている
最新の石炭火力発電は、IGCCというすごい技術によってなりたっていますが、これは将来の
水素社会になっても非常に役に立つ技術なのでご紹介しておきます。

昔の石炭火力は直接燃焼ですが、近年は細かい粉状に加工した超微粉炭を燃やしています。
しかし最新の技術は石炭ガス化複合発電(Integrated coal Gasification Combined Cycle)です。
超微粉炭に空気や酸素を吹き付け加熱すると、メタンCH4他と水と炭素が発生、炭素と酸素が
反応しCO2とCOが発生しますが、最終的には水素H2リッチとCOの混合気体となります。
CO2は回収してCCS等で別途保管(貯蔵)します。この水素リッチの混合気体を燃焼させて
ガスタービンを回すとともに、排熱を利用して蒸気タービンを回して、2度おいしい複合発電を
しているので、最終効率は、50%に達していると言われています。
このIGCC技術を、海外の約束を守れる国や石炭火力発電会社と、ちゃんとした契約を締結
出来るなら、その国の二酸化炭素の発生を大幅に減少させることが出来ますし、それは日本の
CO2削減実績となるので、将来の排出権取引交渉の材料としては、大変有効でしょう。
ちなみに昨今の中国の北京は大気汚染が非常に深刻なようです。主な原因は車の排気ガス
と言われ、車のナンバーの末尾で市内への乗り入れ規制がされているようですが、私は、
粗悪炭の火力発電の煤塵ではないかと思います。   北京の大気汚染 2013-1-28T氏提供

天然ガスやLNGの熱量単位であるBTUって何? その輸入価格は暴騰しているのか
昨年9月企画でご紹介の通り、天然ガスの世界的な取引単位は、100万BTUです。
これは、天然ガスが気体であり、成分の違いによって発熱量が違ったり 液体のLNGに
加工したりするために、体積や重量ではなく、熱量であるBTUに換算して比較する為です。
正式には英熱量(えいねつりょう、British thermal unit)で1BTU=1055J(ジュール)です。
 ちなみに 1J=0.2389calです。100万BTUは、1055MJです。
では、2012年のLNG単価である 68.7円/kgを100万BTU=1MBTU単位に換算してみます。

   68.7円/kg : 54.6MJ/kg = 単価 : 1054MJ/1MBTU
   単価は  1054MJ/1MBTU * 68.7円 ÷ 54.6MJ = 1326円/1MBTU です。

円レートを 2012年平均の 79.8円/$とすれば、2012年の輸入価格のドル建て単価は
1326円/100万BTU ÷ 79.8円/$ = 16.6$/100万BTU となりました。

2012年のLNGの輸入価格を月次でみたのが以下の表です。恐らく夏場のLNG火力発電
用に、少ないスポット市場で大量に購入したのでしょうか。7月には18$を突破しましたが、
その後は、スポット玉が減少し、長期契約の割合が増えたのでしょうか。10月以降は
16$割れとなっており、マスコミで騒がれる程、高くはありません。高騰して時だけ、危機を
煽るような報道だけではなく、下がった時もバランスよく報道されることを期待します。

昨年9月企画の通り、米国の気体価格が4$として、液化コスト約4$、輸送コスト約4$。
その他経費と利益を合わせて約10$とすれば、日本到着のLNG価格は14$ですから、
日本の12月の輸入単価が、15$台なら、ジャパンプレミアムも全体として許容範囲に
収まっているのではないかと思います。但し、今後は、80円から91円に円安になった分
その実コストが大幅に上がってくるのは、間違いありません。


各エネルギーの小売価格と輸入コストと総粗利比較 (業界人向きなので一般の方は次項へ)
エネルギーのほぼ全てを輸入する日本は、各エネルギー業界の総粗利の把握が可能です。
末端価格を消費税税抜価格にし、個別の税金や輸入価格を引いたのが、業界の総粗利です。
但しこれは利益ではありません。例えばガソリンなら、原油開発費、タンカー費、原油備蓄費
精製設備費、精製コスト、油槽所費、輸送費、人件費、SS運営費等の全てを含んでおります。
単位換算が非常に複雑なので、計算違いはご指摘下さい。(本項目は文責除外で願います)。

 以下 前提条件 石油関連税は ガソリン税53.8 軽油32.1円 石油石炭税2.29円(石石税)
 軽油の消費税は軽油税抜価格に5% 軽油の石油石炭税2.29円も加わり 34.39円/L
 LPGの石油ガス税は9800円/kl  石石税は1340円/t LPGは1L=約0.5kg 合計20940円/t
 LPGは1kg 約0.5m3 なので 10m3換算では 20倍=418円/10m3
 LPGの1月CPは 955$/t、 90円/$、タンカーフレート5000円なら CIF 約91000円/t
 LNGの環境税は 1340円/t 1.34円/kg  従って 1.131円/m3
 LPG(プロパン)1m3は 99MJ(24,000Kcal)、都市ガスは1m3=46MJ(11000Kcal)約2.2倍
 LPG1kgは 50.2MJ  LNG1kgは 54.5MJ   都市ガス1m3=0.844kg  
 LNGの1月輸入価格を70円/kgとすると 1m3の輸入原価は 59円  22m3は、1182円
 都市ガスの業務用や工業用(1m3) はあくまで参考単価で基本料金や季節別料金を含まず

灯油 都市ガス LPG 電気 暖房等で競合するエネルギーのコスト比較

自動車燃料をガソリンから天然ガスに変えるのは、エンジンとタンクを変えない限り無理ですが
暖房でしたら機器を買い替えれば変更可能なので、暖房コストを試算し比較してみました。
2001年に電気、都市ガス、灯油価格の徹底比較しているので NO1 2 3 もご覧下さい。
ここで問題となるのが、基本料金をどう扱うかです。使用料が増えると基本料も上る電力。
ほぼ固定の都市ガスやLPガス。基本料がない灯油。その料金体系の仕組みも様々です。
ただここは灯油に厳しく、基本料金なし。すなわち暖房分のみが増えるとして計算してみます。
都市ガスの家庭用の従量料金も複雑なのであくまで目安値です。LPガスは、10m3 7500円と
20m3 12000円(2012年12月エネ庁調べ)の差額から4500円/10m3=450円/m3としました。
 電気は9社平均で1kw(860Kcal)  約24円なら、1万kcal=279円(基本料除き)
 東京ガスは13A、1m3で11000kcal=約135円で 1万kcal=123円(基本料除き)
 LPガスはA、1m3で  24000kcal=約450円で、 1万kcal=188円(基本料除き)
 灯油は 1L、8210kcal(真発熱量)=約96円、  1万kcal=117円です

以上の通り、高くなったと言っても、灯油がまだ一番安いようです。
LPガスは、個別配送が宿命なので割高ですが、新設住宅への無償配管や一部器具等の
無償取付(賃借)等の業界特有の慣習の見直しと、都市ガスと競合する地域での配送や流通
効率化で、都市ガスと同等の価格を目指すのが、災害に強いLP業界人としての私見です。

上記の電気コストは、コタツ等の電熱器です。外気熱を移動して部屋を暖めるヒートポンプ
エアコンのように、投入エネルギーの3倍や4倍の効率(COP値)なら電気が安くなります。
しかし電気エアコンは、外気低温時には効率が悪くなりますし、同じ室温にするのに、直火系
のファンヒーターより多くの時間がかかるのも、本当はコストとして考慮する必要があるでしょう。

ちなみに2000年10月新築の当家は、現在3台の灯油ファンヒーター(3年保障ダイニチ製)
と停電非常用に購入したお餅も焼ける灯油ストーブ(電池式 トヨトミ製)が大活躍です。
寒い朝でも、40秒一発点火で高温風が出てくるダイニチの灯油ファンヒーターは最高で、
我が家ではメイン暖房です。室温が上がり、また外気温が7度以上なら、エアコンのみで設定
温度を維持します。床暖房があれば、最小能力にして床を暖めるのも効果的。要するに暖房
のローコスト化は、部屋の環境と外気温の変化に追随したベストミックスだと思います。