シェールガス、シェールオイルからLPGが変わる?
 近未来のLPGの復権と家庭用燃料電池のランニングコストまで考える
あなたはシェールガス・オイル・LPG企画の 番目のお客様です。 2012/8/29 スタート
読者の皆様もご存じの通り、アメリカでは、シェールガスという非在来型の天然ガスの産出によって
エネルギー革命が起こっていると言われています。オバマ大統領就任時は、グリーンニューディール等
環境にやさしいエネルギーでアメリカを再生!という耳にやさしい選挙用アピールを行っていましたが、
現実には太陽光発電パネルを作っていた会社は、安値中国産等におされて撤退や廃業。結局は、
化石燃料に頼っているのが実情です。さてシェールガスについては、今さらという感じがありますが、
その価格が下がって来ると、開発が価格の高い原油をにらんでシェールオイル等に拡大してくる。
こうなると天然ガス随伴原油(コンデンセート)の如く、LPGも相当量産出して来ると期待されます。
おりしも、家庭用燃料電池も24時間稼働型のエネゴリ君登場なので、今月は、シェールガスからLPG。
そして原発代替エネルギーとしての家庭用燃料電池を支えるLPGまでを解説します。文責 垣見裕司

シェールガスは天然ガスなのに新エネルギー? 在来型ガスと、どこが違うのか

従来の天然ガスは、イメージ図の通り、砂岩とガスを通さないシール層に囲まれ、溜まった状態を
掘り当てていました。一方シェールガスは、より深く、ガスを多く含んだ頁岩(けつがん)の中に
含まれているガス分を取り出しています。その存在は従来より知られていましたが、
@深く掘ってから水平方向に掘り進む技術と A高い水圧で頁岩にひびを入れ、そこからガスを
回収する「水圧破壊法」という技術が確立し、B昨今の原油高、LNG高で、商業ベースに乗るよう
になったことが、シェールガスの開発の成功要因だと思います。



このシェールガスの生産は2000年頃から本格化しました。正確な生産量やその推移は把握して
いませんでしたが、2010年、米国での天然ガスに締めるシェールガスの割合は、たった10年で
23%にまで拡大してようです。また在来型天然ガスと合わせるとその埋蔵量は、250年を超える
とのことで、正に革命が起きたと言えるでしょう。

その一方、シェールガスには、悪い話も二つあるようです。一つは、地下深くと言えども水で地層を
破壊するので、地下の有害物質が井戸等の飲料水に混入したり、また普通の井戸水から天然ガスが
出て来て非常に危険であり、かつ環境が破壊されているという報告があることです。
もう一つは、地震です。米中部で起きるマグニチュード(M)3以上の地震が、10年前に比べ何と
6倍以上に急増していることが、米地質調査所(USGS)の調べでわかったそうです。
もともと地震があまり起きない地域なので、シェールガスの採掘地下に大量に注入された水により、
断層の摩擦が減少、ずれが起こり易くなって発生した「人為的な地震」ではないかと言われています。

天然ガス価格を下げたのは間違いなく、シェールガス
ではシェールガスの大量産出で、米国の天然ガス価格はどうなっているのでしようか。
下記はNY市場に上場されている天然ガス価格の週足を期近でつないだものです。



同時期の原油価格(WTI)と比較すると一目瞭然。原油価格は2008年のリーマンショックで2008年
夏以降、急激に下がり、2009年1月に32ドルまで達しました。その後は、もみあいながらも上昇を
続けています。しかし天然ガスは、もみあいながらも減少を続け、一時は最高値の16ドル/100万
BTU(熱量単位です)の約1/8となる 2ドル弱まで下がりました。
日本の輸入する天然ガス(LNG)価格。 日本は「足元を見られているのか」
現在の日本は、原発停止で大量のLNGを輸入しています。そのLNG輸入価格は、17-20ドル/
100万BTU程度です。従ってアメリカの8-10倍。これだけを見て、「日本はぼられている」という
テレビ評論家を見ますが、大事な情報が欠けています。

世界で天然ガスと言えば、パイプラインで供給される気体状のガスをいいますが、日本は島国
なので輸入する時は、液化してLNGにして 専用タンカーでもって来ないといけません。
そのLNG化のコストは、液化コスト約4ドル、タンカーコスト約4ドル。その他費用合わせて、推定
約10ドルだと思つています。従ってアメリカが輸出設備を作り、液化輸出基地に4ドル程度で
供給してくれるなら、将来、14-16ドルくらい採算価格で日本に輸入してくることは可能でしょう。

もう一つの高値原因は、LNGのスポット市場の規模が非常に小さいことです。2010年LNGの
世界市場は約22000万トン。その中で世界最大のLNG輸入国は、何と日本で31%。第2位が
韓国で14%と聞けば、如何に市場規模が小さいかがわかると思います。2011年3月の震災と、
その後の原発停止でLNGスポット玉を大量に買い付ければ価格は上昇するのは、当然です。
「ぼられている」と無責任な発言をするなら「あなたが安く買ってきて」とお願いしたいくらいです。
アメリカからは、まだ輸入出来ないが、やがて緩和へ カナダからの輸入も模索
こんなに天然ガス価格が下がっても現在では、日本はアメリカからLNGを輸入することは
出来ません。現在アメリカのLNG輸出基地は10数箇所。その輸出能力は、年間1億トンと
日本の11年度の輸入量を上回る規模ですが、エネルギー安全保障の観点から、その輸出先を
自由貿易協定加盟国(FTA)のみに限定しているのです。従って韓国等のFTA加盟国は既に
許可申請されています。しかし私は、天然ガスの価格がこれだけ下がって来ると、米国内の
開発業者からも、輸出規制の緩和を求める声が上がってくると思われるので、近い将来、
日本向けの輸出にも道が開けるのではないかと思っています。
 またもう一つ物流上の問題もあります。シェールガスの産地は米東部に多いのです。
米国内の業者にとっては、大消費地に近いという利点ですが、東海岸からLNGタンカーで
輸出する場合、東部のメリーランド州基地が有力で、東京ガスや商社が交渉を行って
いますが、許可が下りても 輸入出来るのはしばらく先だそうです。その理由は、あの
パナマ運河を通行する関係上、その拡張工事時が終わる2015年以降にならないと、容量
15-17万m3のLNGタンカーは、幅の上限が32mの今の運河基準では通行出来ないのです。
そのパナマ運河を通っても、東海岸からの輸送日数は約30日。東南アジアやオーストラリア
からは1週間程度なので、液化コストと並んて輸送コストが高い事実に変わりありません。

一方、輸出の法的制約を受けないカナダからの輸入を検討する動きも広がっています。
日本の商社も鉱区の権益を獲得していますが、開発地域はロッキー山脈東部なので、
その輸出には、西海岸までパイプラインの敷設が必要等の問題もあるようです。

古くて新しいロシア産 原油&天然ガス。そのパイプライン構想は本物か

ご存じの通りロシアは、韓国と並んで日本に最も近い
国の一つです。そして石油や天然ガス等の天然資源
にも恵まれています。古くは、サハリン1、サハリン2の
日ソ共同プロジェクトもありました。しかし日本にメリット
が出てくるとなると、環境問題等何かと理由をつけては
実質値上げしたり、持ち分の低下を迫ったりして、日本
でも、そして国際的にも、長期的な対ロシアビジネスは、
難しい?危険?というのが正直な印象でしょうか。
しかし、しばらく期待せずにいたら、右図の通り、ロシア
極東部の天然ガスパイプラインや原油パイプラインは、
着々と整備されていました。頼らないが、交渉はしてみる。
そして中東や米国より安ければ買いますよ。こんな心と
時間とお金に余裕をもった交渉が出来るなら、古くて
新しいロシア原油やLNG、そして天然ガスパイプライン
構想も、検討だけはしておく価値があるでしょう。
図は8/19の東京新聞です。問題あれば、削除します。

シェールガスからシェールオイルへ  そしてLPGの価格の安定化に期待

シェールガス価格は、前述の通り近年大幅に値下がりし、新規開発は採算に合わなくなって
来ました。しかし原油価格は、再び上昇しています。これに目を付けたメジャー等の開発会社は
シェールガスで培った技術を使って、価格の高いシェールオイルの開発に着手しました。
こうなると随伴ガスとして産出される割合が、より多くなることが期待されるのがLPガスです。
例えば、近年LPGの対日輸出数量を大幅に伸ばした中東のカタールは、天然ガス随伴LPGです。
本当は、カタールからのLPG大量輸出で、LPG価格は下がるのではないかと期待されたのですが
実はサウジの国内使用料が大幅に増加したので、LPGを下げるまでには至らず、相変わらずの
乱高下です。これはLPGが公正な市場価格によって決まっているのではなく、サウジが一方的に
通告してくるCP価格で決まっていることに問題があります。次表は、これはサウジ発表のプロパン
のCP価格とアラビアンライトという原油価格との熱量換算値の推移表です。

2011年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
プロパン $/t 935 820 820 875 945 855 815 835 790 735 750 770
AL熱量換算 128% 106% 98% 97% 98% 95% 90% 91% 90% 84% 86% 84%
2012年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
プロパン $/t 850 1,010 1,230 990 810 680 575 775
AL熱量換算 95% 108% 126% 97% 82% 76% 73% 94%

その対策としては、輸入先の多角化しかありませんが、実は、弊社のガス仕入れ会社である
エネオスグローブは、北米最大のエネルギー事業会社であるエンタープライズ社と輸入契約を
結びました。輸入開始は2014年とまだ先ですが、石油以上に高い中東依存度の分散化と価格
安定化には非常に良いニュースで、同社の努力に深く感謝したいと思います。ちなみにLPGは
直接的な天然資源ではないので、米政府の輸出許可を必要としないところもまた幸運な話です。
実はこのLPG。石油業界にとって、家庭用燃料電池の普及には、大切なエネルギーなので
非常に期待しているのです。

新型燃料電池SOFC(固体酸化物)型の特徴とその実力(従来はPEFC 固体高分子型)

JXエネルギーは、昨年10月より、SOFC型の燃料電池の発売を行っておりますが、この
燃料電池は、従来型が新しくなったのではありません。詳細は、JXエネルギーのプレス発表
の通りですが、全く違う特徴を持った別な製品だと思って頂いてよいでしょう。要するに
運 転 方 法 発電効率 熱効率 起動時間 重量 発電方法
新 型 24時間連続運転 45% 42% 130分 92kg 固体酸化物
従来型 毎日起動停止 37% 50% 50分 125kg 固体高分子
@発電効率が、高くなったが、これはセルの反応温度が高いためです。
Aその反応温度が高い分、立ち上げは、何と130分もかかってしまいます。
Bそこで効率を考えると、連続運転の必要があるのです。
C従って夜等、最低電気需要が700W以上あり、お湯等熱を大量に使うニーズがベストです。
Dその他、発電ユニット本体の容量が従来比46%も小さくなったのも特徴です。
発電量が700Wと比較的少容量なのと、本体価格270万円(工事費含まず)は、ほぼ一緒です。

新型燃料電池(SOFC型)のランニングコスト 今の実力は

JXエネルギーのHPでは、4人家族、電気需要450kWh/月 給湯需要1200MJ/月という
標準家庭を想定、深夜の一番需要の低い時を 200W/h、最大は1200W/hと設定しています。
しかし私の印象では、この標準家庭では、ランニングコストのメリットは、出しにくいので、
現実的にはレアケースだと思いますが、最低電気量は、標準家庭の3.5倍の700W。
すなわち24時間、発電能力一杯で運転出来て、給湯熱量を全て使って頂くというチャンピオン
データを得やすいケースで、LPG価格が幾らなら、現在の電気代、例えば25円/kwより
安くなるのかを計算してみます。

 0.7kW x 24h x 365日 = 6132kW が機器の年間発電量。この電気発電量(使用量)を

電力会社の単価を25円/kWhとすれば、年間153,300円 を払っていることになります。
この6132kWを燃料電池での発電時のコストは、発電効率が45%なので、必要なLPG量は
 
 6132kW ÷0.45 = 13,626kW で 1kW = 860kcal プロパン1m3 を23,680kcal なら
 13,626kW X 860Kcal/kW ÷ 23,860Kcal/m3 = 494m3  約 500m3 です。
 この量で電気会社への料金を割ると 153,300円÷500m3 = 約 307円/m3 です 

一方年間500m3のLPGを使用した時に出る熱は、 この家が給湯等の熱エネルギーに
使用していたLPGから差し引くことが出来るので、
   500m3 X 0.42 = 210m3  のガス使用量は減る計算となります。
但し、実際は発電に合わせて運転しているので、熱はリアルタイムに使えない場合もあり、
貯湯漕にて一時保管するので、放熱ロスを仮に約20%、使える割合を約80%とすれば

   210m3 x 80% = 約168m3 給湯用(熱利用)のLPGの使用量を節約出来ます。
   よってプロパン単価 300円/m3なら 約50,400円(年間)の節約になります

補助金等を利用し、2015年の本体価格が仮に80万円。同クラスの給湯器が30万円。
差額50万円。工事費は、燃料電池も従来給湯も同じとして、年間のランニングコストの
メリットが、5万円ある上記のデータなら、何とか10年で回収出来ると思います。
あとは、LPG単価や放熱ロスを変えるなりして色々計算してみて下さい。
ただ、ランニングコストだけを見れば、まだ厳しいことは、正直否定出来ないと思います。
また10年経過した段階で、DC-AC変換機以外は、20年は使えると言われている太陽光と
違って、丸10年で大幅な有料メンテナンス工事が必須になるのを忘れてはいけません。


最後に水素を発生させるための源燃料です。その供給を導管に頼っている都市ガスは、
都市部だけなので、燃料電池を全国普及させるには、やはりLPGが不可欠です。
脱原発時の電力不足解消という大役も担える可能性のある家庭用燃料電池ですから、
LPG価格の輸入段階での安定化と、国内物流と商流の更なる効率化で、販売価格の
低減と安定化を図り、弊社もLPG業界の一員として、日本各地への家庭用燃料電池の
本格普及に貢献できる日が来ればよいと思います。
その他の原燃料としては、元は気体なので硫黄分の少ないGTLやNGL等も可能性が
ありますが、脱硫ナフサや脱硫灯油は、液体なので改質は大変かもしれません。