原油高騰でも微増となった石油需要
 しかし、今後は? 高騰した石油製品と天然ガスや電気との競合を考える
あなたは3月企画並びに ベストミックス暖房探求記 No1   番目のお客様です。
先日、昨年12月の石油需要が発表されましたが、一連の寒波の影響で暖房油等を中心に大幅
需要増となりました。その影響もあって、2005年1年間でも、石油製品全体で微増となりました。
今月は、その分析とともに、今後予想される「現実」を解説してみたいと思います。掲載時43,000件 v2

12月単月でも、1年間合計でも、微増となったガソリン需要

まずガソリンの12月販売は5635千KLで前年比102.1%と伸びました。
年間でも61,609千KL前年比100.7%です。各月を個別に見れば前年割れもありますが
これは値上げや値下げ等に伴う、仮需要や在庫調整の可能性があると言えるでしょう。
 従ってこれだけ価格が上がっても実は総需要は、落ちていなかったことがわかります。
一部マスコミ等で、限定給油が増えていること等から、「消費者のガソリンの買い控えにより
 その需要は減退している」と言った表現をしているものもありますが、この数字を見る限り
お陰さまで「まだ」微増していると言えるでしょう。
 

減少を余儀なくされたハイオクガソリン

しかし一つだけ大きく影響を受けたものがあります。それはハイオク需要(ハイオク比率)です。
上記表には記載しませんでしたが、昨年12月は16.1%で前年同月の16.9%を0.8%も
下回りました。また年平均でも16.9%まで落ち、前年比0.7%も低下しています。

通常ハイオクガソリンの仕切価格は、レギュラーより10円高です。それをSSでは、そのまま
10円高で販売しているので、実はSSには収益的な直接メリットはありません。
元売がキャンペーンでもやらない限り、販売意欲は、あまり高くはないというのが、SSとしての
正直な本音ですが、やはりお客様としては、加速体感やクリーン性能を多少犠牲にしても、
少しでもガソリン代を削減したいのが、今のニーズなのかもしれません。
 しかしSSとしては、もう少し詳しく説明する必要があると思います。例えば
レギュラーが100円で100Lすなわち、10000円使うドライブをしたとしとします。
これを110円のハイオクと燃費向上効果が仮に5%とすれば、必要なガソリンは95L、
 すなわち 110L X 95円 = 10450円となり、ハイオクの加速感等の体感コストは
 450円(約4.74円/L)と考えることが出来るでしょう。
そして現在の価格、レギュラー130円、ハイオク140円で同じ計算をすると、
     100LX130円=13000円       95Lx140円=13350円
 よってハイオク体感コストは、350円(3.68円/L)まで減少することが分ります。
もっとも、「10450円で出来ていたドライブが、13000円かかってしまうようになったから、
 ハイオク体感コストどころではないの」とお客様に言われてしまれば、全くその通りです。
ちなみに、より趣向商品と言われる「洗車収益」についても昨年は前年割れと聞いています。
洗車データ等の全国集計はありませんが、SS業界内では「前年並ならよい方」と言われて
いますので、お客様のガソリン価格高騰対策の余波がここにも現れているのかもしれません。

今後のガソリン需要はどうなるのか

ではガソリン需要は今後も伸びるのでしょうか。実は私はかなり悲観的で早ければ、今年か
来年からは、減少が始まるのではないかと見ています。その理由は簡単。一般に車が新車として
登場し、中古車市場を経て、完全にスクラップされるまでの車齢は10年と言われています。
すなわち10年前の大衆カーであるカローラが、今の大衆カーであるヴィッツやフィットやマーチに
毎年1割の車が変わっていくという訳です。そして10年乗り燃費の悪くなったカローラと、新車の
ヴィッツの燃費は、どのくらい違うでしょうか。仮に「50%」違うとしたら、年5%の需要が、車の
入れ替え需要だけで、消えていくこととなります。更にホンダが発表したように、大衆車にも
安価なハイブリッドカーが本格登場したら、その減少は益々顕著になるでしょう。
需要が伸びている時でさえ価格競争をしてしまうSS業界ですから、今後はより慎重な経営を
していかないと、本当にガソリン収益に依存できない時代が、来てしまうのかもしれません。

灯油、軽油、A重油他

軽油については、12月3358千KL、前年比97.4%、また年間でも37342千KL前年比
98.1%と落ち込みました。これは軽油の高騰とそれを末端に転嫁出来ない物流業界の皆様が、
爪に火をともす思いで配送効率化をされた結果ではないでしょうか。
また微量だとは思いますが、排ガス対策で新車を購入されて燃費が向上したり、更に天然ガス
車等への転換など、環境対策の要因もあるのかもしれません。
注目の灯油は、12月5080千KL(前年比129.8%)、年間で29489千KL、前年比107.6%
と大幅な伸びとなりました。一般家庭の新築等ではオール電化住宅が無視できないレベルまで
増えていますが、本格的な寒さには、直火系の燃料が有効であることを証明したと言えるでしょう。
A重油は12月2916千KL、前年比104%、年間で28627千KL、前年比98.1%です。
BC重油は、12月2415千KL、前年比113.9%、年間で26,610千KL、前年比98.1%
この重油を電力会社の発電用に限ってみると、12月の重油合計は電力9社計で1082千KL
前年比約2倍の大幅増となっています。

ちなみに、我々東京人は、電力消費量のピークは、残暑厳しい8月20数日の午後2時?という
イメージですが、例えば北陸電力さんの需要ピークは、冬場にあるのをご存知でしょうか。
2005年8月が2485百万kWh、2006年1月が2747百万kWhですので、驚きです。
 ヒートポンプエアコンの熱効率が落ちて、バックUPに入っている電熱ヒーターを一斉に使い
始めるからではないかと勝手に想像しておりますが、それを補うのは、ベース電力として発電
している原子力ではなく、やはり石油火力発電で対応していることと思います。
 さてこれらの燃料油を合計した日本の総需要は、12月24,162千K、L前年比106.3%
年間で 237,996千KL 前年比100.7%となりました。

心配される今後の需要

前述の通り、ガソリンは、一両年のうちに緩やかな減少傾向が始まるとは思いますが、決定的な
代替燃料がないために、突然の需要大幅減ということはないでしょう。
しかし熱供給燃料としての一般家庭用灯油や、工業用灯油やA重油等は、LNGや更に電気という
代替エネルギーがあるために、石油業界にとって中長期的な影響は避けられないと言わざるを
得ないでしょう。その理由は、原油高騰で価格競争力を失いつつあることが主要因です。
では、その熱コストを改めて計算してみましょう。

 灯油1Lが税込 80円/Lとすれば、灯油の総発熱量は、8770kcalなので 91.2 円/1万kcalです。

 都市ガス13Aの場合は、11000kcal/m3(1立方m当りのカロリー熱量引き下げ前で試算)
 家庭用の単価は、100m3使用時、基本料金込 約120円/1m3なので、1万kcalでは109円となり
 近年値上がりしたといっても、家庭用では、まだ灯油の方が「安い」と言えます。

しかしLNGの産業用大口料金体系では、その単価は、50円/m3を切るレベルまで下がります。
実際には、定額と流量の二種類の基本料金があり、その上で 従量料金単価 X 使用量が
加算されるので、素人が大口契約例を見たくらいでは判りませんが、1万lcal当り約50円と
思っていれば、間違いないでしょう。 導管供給というランニングコストが殆ど掛からないビジネス
だからこそ出せる価格体系なのでしょうが、石油にとって脅威であることは間違いありません。

これはあるプラント施工者から聞いたのですが、A重油や灯油からLNGへの燃料転換工事で
大変忙しいとのことです。そしてその内容を聞くと、体力のある良いユーザー程、設備投資意欲が
あり、イニシャルコストをかけてでも、燃料転換をしていくとのことでした。

究極の脅威は やはり電気か

では天然ガスの最大の弱点はなんでしょうか。それは、事実上導管が来ているところしか、供給
出来ないということです。勿論、タンクローリーでの輸送も出来ますが、大気圧ならマイナス160度
まで冷却しないと液体にはならないという物性から、経済コストでの輸送が難しいという欠点です。

その意味では最大の脅威はやはり電気でしょう。「北の国から」のあのドラマならともかく、その
普及率は限りなく100%に近いでしょう。ではその熱コストを計算してみましょう。
詳細は、ベストミックス暖房探求記 No1 No2 No3で詳しく書いていますのでご参照下さい。

  電気は 1kwh(=860kcal) 約22.2円とすれば、1万kcal = 258円/1kwh となります。

でもこれは電熱器として使った場合で、昨今のエアコンCOP値は、既に「5」を越えています。
しかし室外機等を毎年メンテナンスする方は皆無なので、その実行値は、80%程度でしょう。
あるエアコンのカタログによれば、外気温2度の時、暖房出力5.4kwの消費電力は1765Wなので
   5.4kwX 860kcal =4644kcal = 1.765kw X 22.2円 = 39.2 円 よって
  39.2円/0.4644kcal / 80% = 105.5円/1万kcal となることが分ります。

ここからは、全くの私見ですが、IHクッキングヒーターは、電磁波の問題等まだスッキリとして
結論が出ていない等、メリットデメリット双方あるので個人的にはまだ使いたいとは思いません。
しかしエコキュートの方は、エネルギー業者としてそれなりに勉強しておく必要があると思います。

エコキュートは本物か 

エコキュートが、エアコンと同じ外気から熱をもらって、水を暖める(最大90度)ヒートポンプ方式で
行われていることは、ご存知だと思います。しかしエアコンから受けるヒートポンプのイメージは
空気のような比熱の低いものでさえも、生暖かい温度にしか上げられないのに、何故最大90度
もの加熱が出来るのでしょうか。

それは、ずばり「冷媒とその高圧縮圧、そしてそれを支える技術の違い」と言えるでしょう。

従来エアコンの冷媒である いわゆるフロンガス(R22等)の吐出圧は、一般的に約1.8MPa。
このフロンがオゾン破壊をもたらすことにより開発された代替フロン(R410A等)は2.8MPa。
しかし、この代替フロンもオゾン層こそ破壊しないものの、地球温暖化に与える影響は、
実はフロンガス並みにあることが分ってきたので、新しい冷媒の開発が待たれていました。
そしてこの「エコキュート」に使われている冷媒が、なんと「CO2」であると聞き、まず驚きました。
そしてCO2の吐出圧は、10MPa(昔でいう100気圧)以上の超高圧であると聞き、また驚きです。

ある研修会で、都市ガス系の講師が、「一度事故でも起こした後の技術なら一人前?」と
意味深な私見を述べられていましたが、一応理工学部出身の私としては、「すごい」というより
直感的には「怖い」とか「本当に大丈夫?」思ってしまったことも事実です。

この様な技術論議はともかく、間違いなく言えることは、工業用にしろ家庭用にしろ、イニシャル
コストをかけて一度燃料転換をしてしまったら、多少原油が下がったくらいでは、石油系の燃料に
なかなか戻ってはこないということです。
 当社としては、2001年 2002年 2003年のHPの通り、家庭用における灯油暖房は、
外気温が2度以下になる寒い時だけ使用し、外気温が7度以上になる昼間は、冬でもエアコン
による室温維持が、実は一番ローコストであるという結果を報告しましたが、これからは、
本HPでも何度も取り上げている燃料電池や、自然エネルギーである太陽電池も含めた
お客様のニーズによって最も良い「ベストミックス」をご提案することが、エネルギーのプロとして
必要になって来るでしょう。
 今の原油価格の長期的な高値時代を、石油業界としてどう対処するのか。 この根本問題を
如何に解決するか。その答えを早期に見つけ、お客様にいち早くご提案して行くこと必要だと
思います。       文責  垣見 裕司   ご意見等はこちらから