石油業界の快挙!、サルファーフリー燃料供給開始へ
 発表までの裏話、見直される軽油とディーゼルハイブリッドへの期待
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去る9月17日、石油業界として、いやある意味では日本として誇れる発表が石油連盟からありました。
石油連盟加盟の石油精製・元売各社は、正に世界に先駆け2005年1月からサルファーフリー
(硫黄分10ppm以下)のガソリンと軽油の供給を開始するとの発表があったのです。
 今までは、新日本石油の「ヴィーゴ」というハイオクガソリンだけが、サルファーフリーを補償レベル
で提供しておりましたが、来年からは、石油連盟の全元売が日本全国でハイオクガソリンだけでなく
レギュラーガソリンと更に環境問題においては何かと悪者にされてきた軽油も含め、サルファー
フリー製品を、法律に定められた時期を、大幅に前倒しして出荷することになったのです。
これは、正に石油業界の快挙と言えるでしょう。今月は、その発表された内容やその裏話、そして
サルファーフリー製品のもたらす影響等を考えて見たいと思います。(文責 垣見裕司 2004/11/1)

サルファーフリーとは何か

サルファとは、ずはり硫黄(S)のことです。燃料等に硫黄が多く混入されていると、排ガスの中に
硫黄酸化物(SOx)が排出されたり、窒素酸化物(NOx)が増加したり、不完全燃焼等で燃え残った
「すす」等が、粒子状物質(SPM)となったりして、人体や環境に影響を及ぼす諸悪の根源とされて
来ました。この硫黄分を減らすのが「低硫黄化」、更に10PPM (PPMは百万分の1)のまで低減
する事を、事実上すべて取り除いたの同等の効果と言う意味で「サルファーフリー」と言います。
東京都の規制で装着が義務付けられるようになったDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)も
性能を発揮し、東京都の空気汚染は大幅に改善していますが、軽油のサルファーフリーにより
DPFの耐久性が大幅に向上するだけでなく、より一層排出ガスを綺麗にしてくれる、とのことです。

今まではどのくらいの硫黄が含まれていたのか

では、過去からの涙ぐましい、硫黄分の削減の歴史をご紹介しましょう。
第一段階 ディーゼル車から排出されるNOx排出量を減らす為に必要なEGR装置(排ガス再循環)
 への対応の為、1992年10月から、5,000ppm以下から2,000ppm以下まで低減しました。
第二段階 PMの排出量を減らす為の排ガス後処理装置(酸化触媒やトラップオキシダイザー)
 への対応の為、1997年7月から、500ppm以下まで低減しました。
第三段階 2005年の新長期規制に向けたディーゼル車の排ガス対策として、 DPF(前述)等の
 後処理装置の導入が必要とされ、 ガソリン同様に2004年末までに硫黄分を500ppm以下から
 50ppm以下とする規制を決定。 こうした中石油業界は、大気環境対策を先進的に進めている
 東京都などからの強い要請に対し、 自主的な取り組みとして、2003年4月、規制時期より1年
 9ヶ月前倒して、50ppm軽油の全国販売を開始しました。
    過去からの硫黄削減の経緯を表にまとめてみましたのでご覧下さい。


単位PPM 1976年以前 1976-1992 1992-1997 1997-2003/4 2003/4-2004/12 2005/1以降
硫黄含有量 12,000以下 5,000以下 2,000以下 500以下 50以下 10以下

30年前の公害時代まで遡らなくても、ついこの前のバブル期でさえ、5000PPMもあったかと思うと
一市民としては、ぞっとします。それでは、国の法律等の規制値は、どうなっていたのでしょうか。
2004年末までは500PPM、2006年末までが50PPM、そして2007年以降が10PPMですから、2年も
前倒ししての実施は、正に快挙と言えるでしょう。東京都もそのHPで高く評価しています

サルファーフリーガソリン&軽油は、とのくらい環境に良いのか

では、サルファーフリー燃料によって、環境汚染等はどのくらい改善されるのでしょうか。
石原都知事が、ビンに黒い「スス」を入れて振っていたので印象的な粒子状物質(PM、SPM)が
何と99%、窒素酸化物(NOx)が55%以上、削減されると言われています。これらは、DPF、特に
連続再生型の実質能力の向上、耐久性の向上、NOx吸蔵還元型触媒、更には、NOx PM同時
低減型触媒の普及との相乗効果ですが、誠に嬉しくなる数字です。
またエンジンの燃費もよくなのとのことなので、軽油ディーゼルエンジンに限っても2010年時点
で年間70万tも削減されるとのことです。
こんな難しい話を持ち出すまでもなく、最近街中で荷物を積載したトラックが加速している時も
いわゆる「黒煙」はほとんど見なくなりました。環状8号線から西に100mのところに住んでいる私
としては、子供達の事を考えると誠に嬉しい限りです。ちなみに、下図は、東京都のHPに掲載
されていた、10/29 11時現在のリアルタイムでの SPM の 東京都内分布図です。
さして風の強い日ではないので、奥多摩地方と都心の値が大して変わらないことは、この
硫黄分削減をはじめ、DPF等を装着したトラック業界やご当局のご指導の賜物でしょう。

海外の規制を調べてみると

過去の例から言えば、米カリフォルニア州の排ガス規制ではありませんが、日本が一番
遅れているようなイメージを持ってしまいますが、現実はどうなのでしょうか。
現実を調べて見ると、実はアメリカが一番甘く、現時点は、ガソリン300PPM、軽油で500PPM
将来も、ガソリンが2006年から60PPM、軽油が2010年から15PPMです。
また欧州の方は、現時点が、ガソリン150PPM、軽油350PPM、2005年から、ガソリン50PPM
2008年から10PPM、軽油は2005年から50PPM、2009年から10PPMと日本に続くレベルなので
日本の石油業界は、日本の国に対しても国民に対しても、多いにアピール出来るレベルでは
ないでしょうか。石油連盟の方で、資料を出していたので、図を引用させて頂きました。
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気になる対応費用は?、製品価格は上がるのか

では石油業界としてこのサルファーフリーの実現のために、どのくらいの対策費用が必要だった
のでしょうか。石油連盟では研究開発費から設備投資まで「2500億円」を投じたと報じています。
ちなみに2003年度の総消費量は8月企画でご報告の通り、ガソリン6200万KL、軽油3873万KL
ですから、合計約1億KL
です。2500億円を1億KLで割ると、2.5円/Lとなります。
三年償却ならこの1/3の0.8円/L、5年償却なら 0.5円/L。当初は、業界で負担しきれないので、
消費者の皆様にも是非ご負担をお願いしたいと言っていた元売各社でしたが、その後の原油の
大幅値上げという荒波の中に没した感じがあり、今現在、特約店に対し、サルファーフリー化に
伴う値上げの話はまだ来ていないのが実情です。
余談ですが、元売各社の2004年12月末期や2005年3月末期の決算は、前年比も大幅改善が
見込まれていますし、国も多少の補助金を出したそうなので、元売の社会的使命として、価格
には、既に織り込まれているもの、と信じております。

石油連盟、統一見解までの裏話

ところでその2500億円の投資の裏には、元売各社固有の事情があったようです。
比較的最初から投資に積極的だった民族系と、慎重というか「欧米の規制値から見ても日本は
充分先行しているのだから、法規制を満たせば良いではないか」という消極的な外資系との
間には、問題に対するスタンスやその意欲に、かなりの違いがあったのではないかと思います。
その実施が各社の個別対応となるか、或いは石油連盟元売全社が一斉スタートとなるのか
微妙だった時期もあったようですが、ご当局の「トップランナー方式で行こう」というご指導と
石油連盟トップのリーダーシップによって、一斉スタートが実現されたのではないかと、業界人
として、そして一国民として今回の石油連盟の決定を高く評価している次第です。
しかし昨今の外資の経営判断スタンスは、ある意味では極めて一致しています。これはあくまで
個人的な感想ですが、当時の日本石油に興亜石油の持ち株を売ったカルテックス。BPの小売業
からの撤退。エクソンとモービルの合併とその後の日本での対応。ロイヤルダッチシェルの昭和
シェル株のサウジアラムコへの一部売却。これの事実は、「世界第3位の消費国である日本の
マーケットの重要性は変わらない」といくら声高に叫んでも、少なくとも過去からの相対論では、
明らかにそれが減っていることを表していると思います。

設備投資をしなかった元売の精製能力は落ちるのか

では積極的に投資をしなかった一部の外資系は、どうやってサルファーフリーに対応するので
しょうか。ネット等で教えて戴いた話しなので、なんとも言えませんが、「処理速度を落として
脱硫のレベルを上げている」と聞いています。正しいかは分りませんが、能力の同じフィルターが
あるとして、そこをゆっくり通せば不純物はより多く取り除ける、という理解で良いのかと思います。
では、投資をしなかった一部の外資系のガソリンと軽油の生産能力が落ちて、ガソリンの業転
相場が益々上がるのか、と心配しましたが、更にマニヤックな方の話としては、「軽油をより脱硫
する為に処理速度を落すと、その軽油の一部がガソリンにまで分解されてしまう。昨今の灯油と
軽油の業転が高いのは、その為だ」と言う人もあり、「秋にガソリン業転が弱含んだのは、10PPM
に対応しないガソリンの在庫を放出した一次的要素だ」と教えてくれる人もあり、「単に灯油の
在庫を貯めるたに灯油に合わせた原油処理をしているだけで、サルファーフリー問題とは
関係ない」という人もあり、私も、どの見方が正しいのか分りません。
少なくとも 各製油所や精製設備、更には脱硫方法やその設備によって違うでしょうし、私は
精製設備の専門家ではないので、後は読者の皆様にご判断戴けば幸いです。

今度は自動車業界の番 期待されるリーンバーン、直噴、そしてディーゼルエンジン

今まで排気ガス問題となると、自動車業界と石油業界は、対立とは言わないまでも、良い協調
関係をとっているとは、言えませんでした。例えば、前回の東京都の例を見ても、サルファー
フリー等燃料品質の改善が先で、そうでないと、DPFは触媒の性能や耐久性に問題が出る
等のコメント等があったかと思います。石油業界はじっとこらえて、いよいよサルファーフリーを
実現しました。今度は、自動車業界の出番でしょう。
 例えば、2010年の燃費基準の達成の為には、リーンバーン(希薄燃料燃焼)エンジンや、
シリンダーに直接ガソリンを噴射する直噴エンジンが有効とされて来ましたが、既存エンジンに
比べ、Noxの発生量が多くなるのが難点で、NOx吸蔵還元触媒の装着が不可欠でした。
しかし、今までは、この触媒が硫黄によって被毒が発生し、この再生には、燃料を使った
再加熱が必要でした。よってガソリンのサルファーフリーは、触媒の性能や耐久性が大幅に
向上するだけでなく再加熱に使っていた燃料の分も燃費の向上に繋がるので、正に1石3鳥です。
 またディーゼルエンジンの燃費やパワーは以前から知られていましたが、何故か日本では
あまり高い評価を受けていませんでした。それはやはり、トラックの排ガスやあの「すす」から
来るイメージが多少なりとも影響していたでしょう。
しかし、あのトヨタに言わせれば、水素の燃料電池車が一般普及するまでは、軽油のディーゼル
エンジンによるハイブリッド車がもっとも有効であると言っています。
ディーゼルエンジンのもう一つの難点は、振動と音ですが、深夜の住宅地の車庫入れ等で、
気を使った経験のある人も、ハイブリット車なら当社企画でもご報告の通り、微速ではエンジン
オフのバッテリー走行ですから、この振動と音から実質的に開放される日も近いでしょう。
 自動車からの排ガスを低減するためには、自動車技術と燃料品質の両面からその対策を
進めて行くことが極めて重要でしょう。1997年から、財団法人石油産業活性化センターと、
財団法人、日本自動車研究所が、実施している Japan Clean Air Program(JCPN)を国の
補助で立ち上げていますが、両業界が、日本のそして世界の環境の為、一致協力して
問題解決にあたって戴けることを切に希望します。
参考資料 「 【日本よ】石原慎太郎 国政の怠慢」 10/4(月) 産経新聞
 さる九月十七日、石油連盟は政府の予定を一年九カ月前倒ししてサルファーフリー(硫黄分無し)ともいわれる含有硫黄分一〇PPMの軽油の来年三月からの発売を決定してくれた。同連盟会長がわざわざ来庁されて正式の報告を受けた。首都圏のディーゼルエンジンの排ガス対策や不正軽油撲滅対策を評価し、業界もこれに応えて国民の健康のために努力する決心をしたとのことだった。
 その折、会長も一目見て分かりやすいように、同じサイズの二つの小瓶に入れた軽油の煤(すす)を持参してくれた。片方はつい最近まで先進国の中で日本だけが使用していた硫黄分五〇〇PPMの軽油から排出される煤、それに比べて同じリッターの一〇PPM軽油の出す煤は眺めても見えるか見えぬかくらいの微量でしかない。
 以前、ディーゼル排ガス規制に着手し始めた頃私はテレビ出演や講演の折々、渡文明会長と同じように五〇〇PPMの軽油を使って走る車の出す有害粉塵(ふんじん)をペットボトルに入れて持ち歩き、東京ではこれが一日なんと十二万本散布されているのだと説明して回ったが、目で見る情報の効果は覿面(てきめん)だった。
 一番強い反応を示したのは当時東京で開かれていた世界肺癌学会総会に出席していた外国の専門医たちだったが、それが引き金となって首都圏のトラック業界、ついでバス業界も呼応してくれ、東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏一都三県での広域行政としての規制取り締まりが実現していった。結果は東京に限って見ても、一日十二万本出ていた有害粉塵は五万本にまで減り、個別調査の結果として都内の洗濯物の汚染や車の汚染度もはるかに軽減され、複合感染として蔓延(まんえん)していた花粉症も激減した。これはひとえに中小企業の多い運送業界や石油販売業界の骨身を削っての協力のたまものだ。
 私は今でも実施前の状況視察に赴いたトラック会館の相談受付センターで、私の姿を認めた零細企業の経営者が、思わず、「石原さん、こんなことをやられたら俺たちちっぽけな会社は潰れちまうよ」と大声で訴えてきたのを忘れられずにいる。しかし、彼もまたあの決定に我が身の血を流しながら応えてくれたに違いない。
 ディーゼル規制のキャンペーンの折々に私は、死んだ開高健がよく引用していた詩人ゲオルグの『たとえ明日地球が滅びるとも、君は今日リンゴの木を植える』という言葉を披瀝(ひれき)して理解と協力をだ仰いものだった。
 人間が進めてきた文明が醸し出した環境破壊は、地球の温暖化、皮膚癌やアトピーの蔓延、氷河の溶解による氷河ダムの決壊、南太平洋の砂州でできた国家の消滅等々、もはや歴然とした形で現出している。文明が破壊しようとしているものを防ぐ手立ては同じ文明によるしかないが、しかしその前に不可欠なものはまず、それを超えようとする志に他ならない。そしてその強い意思は、現況への正確な認識にこそ支えられなくてはならない。今回の石油連盟のあくまで自発によるサルファーフリーの前倒し精製はそうした志の発露に他ならない。
 それに比べて環境と健康という国家的課題に関しての国政の対応の鈍さは、許せぬなどというより空恐ろしいほどのものだ。昨年、ディーゼル規制を実施して間もなく行われた総選挙で私は親友の西村真悟氏の応援に出かけたが、その折、大阪の大衛星都市堺市の市中で街頭演説していて、国道の交差点に信号の度に止まるトラックやバスの吐き出す排ガスが首都圏に比べて従来通りの汚染度のせいで、演説しながら喉や鼻、目が痛くなるのに改めて気づいた。同じ季節、東京の選挙ではもはや有り得ぬことだったのに。これはいかにも不公平な話で首都圏で実績を上げた試みをなぜ国が未だに実施しないのか理解に苦しむ。現在のトラック業界の実態は、全国で運送事業をしている大手の会社は東京に持っていくと規制にひっかかり罰金をとられるような古い車は大阪その他の地域に回し、首都圏へは新型の装置を施した車を回すという算段だ。
 馬鹿を見ているのは国が動かぬために未だにひどい空気を吸わされている他の大都市圏の国民と、首都圏がせいぜいの行動範囲の首都圏内の零細運送会社で、彼等は骨身を殺(そ)いでの支出によって規制に応えてくれたが、全国範囲で仕事している大手はほとんど痛痒(つうよう)を感じていない。そして他の大都市圏の住民は、首都圏に比べて汚れた危険な空気を吸わされつづけているという、極めて理不尽な結果となっている。
 国に依頼しても動かぬので都独自で実験してみた結果、排ガスの有害粉塵に晒(さら)された母体から生まれたマウスの子供は他に比べて運動能力に劣り、回転する輪車からすぐに転落してしまい、他の能力にも格差が見られる。ということは同じ哺乳類の人間にもそれがあてはまる可能性が大ということで、空気の綺麗な田舎と首都圏以外の土地で育った子供には将来健康上のさまざまな格差が露呈してくるかもしれない。
 石油連盟の前倒し協力もそうした事態を勘案してのことだろうが、ここまで来ているのになんで国は全国一律の規制に踏み切らないのか。これは怠慢というよりも現実感覚の欠如、すなわち行政者として失格であり、ゲオルグの言葉が暗示した人間としての志の喪失としかいいようない。  この国はいろいろな意味で、いかにも危うく頼りない国になりつつある。