2018年、石油業界重大ニュース
 出光と昭和シェル、全道停電、原油乱高下、国内市況他
あなたは12月企画の 番目のお客様です。2018年も気がつけばもう年末。
月日の過ぎるのがこんなに早いと思うのは、いよいよ歳のせいでしょうか。
さて年末恒例の業界重大ニュースをお送りします。重要度順番というよりは、話の
流れ順ですが皆様のご参考になれば幸いです。2018/11/29文責 垣見裕司

NO1 出光昭和シェルの経営統合 創業家一転同意報道で決着
まずはこのニュースを上げました。一時は出光経営陣と創業家との間は
泥沼状態でしたが、第三者のそれも投資家で自身も大量の出光株を保有
するM氏の存在がやはり大きいと思います。 唯一共通の利害は、出光株
の価格です。暴落だけは絶対避けたいのは三者同じでしょうから、後は
メンツの問題でしょう。 出光、昭和シェル両社から発表された詳細を見ると
対等なのは「精神」だけになったかもしれませんが、あのエクスプレスも
EneJetになる時代なので、経済原則に従った当然の結果だと思います。
NO2 北海道地震 全道停電 最後の砦はやはりSSとLPガスだった
今年の日本は、本当に多くの自然災害に見舞われた年でした。 6月18日に
発生した大阪北部地震。また6月28日から7月8日にかけて、台風7号の影響
を受けた西日本を中心とした豪雨の死者は、15府県にも渡り死者227名。
行方不明は現在でも6名となっています。
伊勢湾台風の時代ならともかく、気象衛星を初め、観測や解析技術が格段に
進歩した現代で何故これほど多くの死者が出たのでしょうか。再発防止の
ための方法はないのでしょうか。
 気象庁や自治体は情報や警告は出していましたので、最後は各市民レベル
での対応でしょう。 「過去自宅まで水は来たことはない」という思い込みは
捨てて、本気で避難するしかありません。体が不自由で自力で階段が上れ
ないならなおさらです。
 また今回の台風21号と24号の猛威には本当に驚きました。今までと決定的に
違うのは、最大勢力を保ったまま、大阪という大都会をおそったことでしょう。
関西国際空港の水没やタンカー接触での空港の閉鎖かつ孤立化は私自身も
想定外でした。 北海道地震の全道停電で北の玄関口である千歳空港も同時期
に閉鎖となりました。観光立国日本の信用にも関わる重大事です。
北海道の全道停電については、私も電気を売る業界人として本当に考えさせら
れました。  全道停電を防ぐことは出来なかったのか。泊原発が止まって以降、
全道需要の約半分を1ヶ所の石炭火力発電所で供給しているなら、やはり防げ
なかったのかもしれません。その可能性は過去6年間もあった訳ですが、命に
関わる真冬でなかったのが、せめてもの幸いです。
 ニュースで、ヘリコプターの取材映像で病院屋上から「自家発電用の燃料求む」
を見ました。 そのSOSにも出荷元が停電なら、我々SSや特約店はどうすること
も出来ないのが、本当に歯がゆかった次第です。
ちなみに停電となった途端に北海道のSSは、どこも長蛇の列が出来たそうです。
しかし製油所や油槽所も停電ですから、通常出荷など出来るはずもありません。
災害対応或いは住民拠点用SSとしての自家発電機の整備も必要ですが、在庫
のある各油槽所の自家発電整備の方が先かもしれません。
 またLPガスも大活躍しました。そもそも北海道は導管配給による都市ガスは
割合的にはごく一部なので単純比較は出来ませんが、震源地近くの家そのものが
土砂で流されたところや、液状化で配管が断裂したような重大な被害を別とすれば
LPガスは、その軒先在庫がものを言って安定供給を果たせたのだと思います。
ただ残念なのは、LPガス機器の多くが、家庭用の100V電源を必要としたので
停電時にはLPガスの威力を十分に発揮出来なかったことですが、LPガス用の
発電機の普及にはもう少し時間がかかるでしょう。
NO3 原油価格はWTI 75ドルまで高騰の後、暴落し 50ドルまで大暴落
今年は原油価格が高騰していましたが、10月過ぎから一気に暴落し、乱高下の
年となりました。ニューヨークのWTIなら昨年の7月の45$/Bから、本年10月には
75$まで上昇しました。その価格上昇要因としては地政学的リスクの健在化です。
 本年5月、イスラエルの米国大使館のエルサレムへの移転や、やはり米国の
イランの核合意破棄に始まるイランからの原油輸入禁止発表です。
 直近ではサウジ記者のトルコ国内のサウジ大使館内での暗殺。それにサウジ
皇太子の関与がささやかれトルコVSサウジの緊張感は増しました。
 しかし冷静に原油需給の把握をすれば、2017年対比で2018年は 日量130万
BDも需要は増しているものの、生産の方は235万BDも増加している。中でも
米国の増産は一国だけで212万BDにもなっている。その結果、2017年1月より
減少し続けて来たOECD諸国の原油在庫が2018年6月から上昇に転じた。
 更に米中貿易戦争の深刻化に伴い、中国の景気低迷の可能性が高くなった。
(後半の原油需給は、日本エネルギー経済研究所11/22発表レポートより引用)

NO4.元売各社は最高益
このような状況を受け、元売各社の卸価格は、国内需給を引き締めたのか、
徐々に値上がりしていきました。 この時期の原油CIF価格と資源エネルギー庁が
公表しているガソリン卸価格との差、すなわち元売の粗利を見てみます。
計算式としては、エネ庁卸価格はガソリン税込みで消費税抜きなので、この価格
から原油CIF価格と石油石炭税2.8円を引きますが、エネ庁卸価格は、ローリー
運賃も込みなので、その分は加味する必要があります。
2016年の1〜2月の元売粗利は11円から13円程度でしたが、そこから回復して、
高い時は18円抜けた時もありました。
下記グラフは、消費税とガソリン税53.8円を除いたものです。
上から石油情報センター発表のガソリン末端価格、エネ庁調査のガソリン卸価格、
原油CIF価格、そして元売粗利とSS粗利の推移です。

NO5.国内市況も乱高下 160円から安値地区は、140円割れも散見
このような原油価格の上昇を受け国内のSS末端市況も上昇。2016年4月の
118円の時はSS粗利が8円しかないという最悪の時期がありましたが、その後
JXTGの誕生で業転市況等が堅調となり、また元売子会社の価格政策もある程度
見直されて、末端市況とSS粗利は回復し、少しは改善されました。
しかしそれは10〜12円が、13〜15円になったという程度の話です。それに読者の
皆様も実感されていると思いますが、石油情報センターの末端価格は、善し悪しは
別として、かなり高めに出ている気がします。
東京の11月価格なら159円とのことですが、筆者の会社のSSは何故か激戦区で
近隣最安値は消費税込みで140円割れまで出ています。
 ちなみに筆者のエリアである東京都内のガソリンスタンド数は、組合加入ベースで
852SS (10月31日現在)と、ピークの1/3まで激減してしまいました。
 先日お会いした消防総監や都の幹部からもSSの減少を心配されてしまいました。
 我々はSSは、赤字から黒字になって安心するのではなく、事業継続に必要な再投
資可能な利益を上げ営業を継続することこそがお客様への責任なのだと思います。
NO6.今年もコストコ新規出店新三郷店は9月オープン
今年もまたコストコの新SSが誕生。埼玉県三郷市の新三郷店は9月27日開店です。
コストコは、山形県のかみのやま市に日本1号店を2015年8月20日にオープン以来
僅か3年で全国に12店舗まで拡大させ、更に既存店での併設が噂されています。
このコストコのガソリン価格は、周辺の元売直系最安値セルフより5円以上安く、
また灯油は、地域安値店より10円以上安いこともあり、周辺SSには死活問題です。
 地元SSは何度も公取に訴えていますが、4400円の年会費を取っていることもあり
多くが「注意」程度に収まっています。
 関係者からは、コストコの最終利益の約半分を年会費収入が占めていると話を
聞きました。お客様からするとその年会費分も、ガソリン価格に上乗せして考えて
頂く必要がありそうです。
 そうなるとガソリンしか買わないけど、コストコの会員のお客様と、他の一般商品を
多数ご購入されるお客様とでは、自ずと本来のガソリン価格は変ってくる訳です。
 コストコが新規出店すると、周りの中小SSが10軒つぶれる。最終的にお客様が
それでいいとおっしゃるならそれで良いのかもしれませんが、北海道の全道停電でも
実証された通り、ガソリンや灯油、LPガスはネットでは買えないので、危険物としての
上記商品を供給するインフラは、ある程度の数はあった方が良いと思います。
NO7.JXTG エクスプレス 後継、EneJet発表 10月から各地で誕生
 EssoとMobil、ゼネラルの旧東燃ブランドがENEOSマークへ統一が発表された
のは2017年7月でしたが、旧東燃ゼネラル系のセルフで一定の評価を得ていた
エクスプレスはどうなるのか。これは特約店のみならず、業界関係者から注目されて
いました。それがEneJetになると発表されたのは、本年1月の同社の新年会でした。
 当初は、エクスプレスをそのまま使うという噂もありましたが、世界ブランドである
エクスプレスを、そのままENEOSブランドで使うというハードルは高かったようです。
しかし旧TG系特約手の反対もなく、10月から粛々とEneJetSSが誕生しています。
 そのJXTGも新人事となり新社長には大田氏が、そして杉森社長はJXTGHDの
社長になりました。この杉森体制は長期政権になるのではないかと、私は勝手に
予想しています。
NO8.次世代燃料供給インフラ 研究会、規制緩和議論始まる
 資源エネルギー庁は、本年2月、燃料供給インフラの効率的な維持と次世代化に
向け、過疎化・人手不足等の足下の課題克服や中長期的な産業構造変化に対応
するため、次世代燃料インフラ研究会を発足させました。そしてその実現に向け、
保安規制の見直しの必要性等を提言するとのことで、5回に渡る議論の結果が、
7月に報告書に纏められました。
 それを拝読した私としては、消防法を初めとする諸規制に対し、何をどう緩和
すべきかなのかを、もっと具体的に書いてほしかったと思いました。例えば規制
見直しに向けた実証等とありますが、「保安当局も含めた国、自治体の適切な
連携・役割分担の下での新たな燃料供給体制確立に向けた技術実証を今後3年
間程度で規制見直しと必要な実証を集中的に実施」だけではよく分りません。
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180705001_2.pdf
NO9 全国求人倍率 更に上昇  人手不足は深刻な業界問題
 本HP11月の通り、人手不足は超深刻、人口ピラミッドを見れば一目瞭然。
40-45歳の男性の約500万人に対して20-24歳のこれから業界に入って来て
ほしい若者は300万人しかいないのです。 今年も全国各地の講演にお招き
頂きましたが、元売再編に目処が付いた今、聴講者の最大の関心はこの
人手不足問題です。 どう採用してどう育てるか。私の結論は、ES向上に本気
で取り組み、若者に選んで頂ける職場を作るという発想の転換が必要です。
 職安別求人倍率が8を越える東京では、私は都石の経営情報委員会の担当
理事なこともあり、人手不足対策に関連して、24時間営業の大幅自粛とか
平日の完全休業日の設定とかをご検討きましたが、都石の11月理事会で
「労働環境改善提言として3項目が宣言文として承認されました。近々都石の
方から発表になると思います。
No10 電力自由化は大成功、 都市ガスはJXTGも参入発表
 まず従来電力会社から新電力に変えたのは全国で14.5%、電力会社内での
プラン変更も含めれば、21.7%です。 更に東京電力管内を見れば、19.4%と24.1%
ですから、消費者への恩恵は十分ありました。
 一方都市ガスの自由化は、関西における関西電力と大阪ガスの競争で近畿
こそ9.8%ですが、中部北陸は7.6%、大票田の関東は、まだ3.6%という状態です。
 都市ガスの自由化が今一つ進まない理由について私は、
 @全国どころか首都圏と東海圏を繋ぐパイプラインがない。
 A卸売り市場がない。B熱量調整装置がない。CLNGタンクの問題と
 D末端の保安問題が未解決など色々あると思います。
以上難しい環境ではありますがJXTGが来年2月から参入を発表したので大変
楽しみにしています。
本年も大変お世話になりました。来年もよろしくお願いします。