北海道全道停電とインフラ問題を考える  
 
そして私たち一市民に出来ることは何か
あなたはエネルギー問題企画の番目のお客様です 2018/9/27 Ver1

皆様もご存じの通り、台風21号で関西空港のA滑走路と第一ターミナルが水没。
タンカーの接触事故もあり、同空港は一時完全に閉鎖されてしまいました。
そして今度は、北海道胆振東部地震(以下北海道地震)の最大震度7で、厚真町の
大規模土砂崩れや札幌市の一部の住宅地の液状化など、甚大な被害を受けました。
 しかしそれと同等以上に大きな影響は、北海道電力の最大の火力発電所である
苫東厚真火力発電所が、その震源地の近くにあり、1 2 4号機が全て停止した為、
戦後の日本では恐らく初めてとなる「ブラックアウト」を経験したことでしょう。
その影響で北の玄関口でもある新千歳空港も一時全面閉鎖となりました。
先進国の日本で、そして外国人観光客が激増する今の日本で、関空と新千歳という
二大空港の同時閉鎖などあって良いものなのでしょうか。
空港の問題はさておき、エネルギー業界の一員としては、電気と石油の問題に絞り、
何故ブラックアウトが起こってしまったのか。防ぐ手段はなかったのか。泊原発停止
のせいだけなのか。今後の対策は。そしてそれは首都東京でも起こりうるのか。
その時、我々一市民でも出来る対応とは何かを色々考えてみたいと思います。
                                    文責 垣見裕司

北海道電力の発電所の一覧表
まず、北海道電力HPより主な発電所の一覧を下記に示しみました。
汽力発電所名 出力(kW) 仕用燃料 運転開始
苫東厚真 1号 350,000 石炭 1980/10
2号 600,000 1985/10
4号 700,000 2002/05
知内 1号 350,000 重油 1983/12
2号 350,000 1998/09
伊達 1号 350,000 重油 1978/11
2号 350,000 1980/03
苫小牧 1号 250,000 重原油・天然ガス 1973/11
奈井江 1号 175,000 石炭 1968/05
2号 175,000 1970/02
砂川 3号 125,000 石炭 1977/06
4号 125,000 1982/05
ガスタービン発電所
 音別
148,000 軽油 1978/05
ダム式発電所
 新冠
 高見
200,000 新冠川系 1974/08
200,000 静内川系 1983/07
揚水式発電所
 京極
1号 200,000 尻別川系 2014/10
2号 200,000 2015/11
泊原子力発電所
加圧水型軽水炉
1号 579,000 低濃縮二酸化ウラン 1989/06
2号 579,000 1991/04
3号 912,000 2009/12
石狩湾新港発電所 1号 569,400 LNG 2019/02

上記は10万kW以上の主な発電所です。その他、島に設置されている
礼文4450kW 1971年、 沓形7650kW 1975年、 焼尻1110kW 1976年、
奥尻4000kW 1977年などの内燃機型の発電所もあります。

北海道内における主な発電所の配置地図

上記の主な発電所を下記の地図にプロットしてみました。
札幌を中心とした西部の大消費地に近いところに集中しています。

ブラックアウトの構造的要因は、発電所が道央の沿岸部に集中していること

急な電源喪失に対するシステム対策の不十分さはあるものの、需要も供給も
札幌を中心とする北海道西部に集中していたことが、まず上げられるでしょう。
では、何故内陸部にも大型の火力発電所を作っておかなかったのでしょうか。
 これは小学校の社会科で習ったような気がしますが、国内の石炭が安定かつ
安価に確保出来ない現代においては、石炭や石油、或いはLNGなど、火力発電
の燃料は船で輸入し運んで来るしかないので、立地は当然沿岸部となります。
また送電ロスの関係からも大消費地に近い発電所がよりベターなのだと思います。

北海道電力にとって本当に残念だったと思うのは、泊原発が長期間運転出来ない
ことを想定して、石狩湾に建設中で2019年2月稼働を目指していたLNG火力発電
が間に合わなかったことでしょう。
もっとも震源地から遠い知内、伊達、奈井江なども地震で一端停止しているので
石狩湾のLNG火力が、もし完成後でも、緊急停止していたかもしれません。

全道停電 ブラックアウトは防げなかったのか

北海道電力からは、総括的な報告はまだ無いので、以下は筆者の推定です。
地震は6日の未明でした。その時の電力需要は310万kWと言われています。
その需要の約半分を、苫東厚真発電所の廃止した3号機を除く 1 2 4号の
3機合計165万kWで補っていたことが最大の原因でしょう。
実は、9月6日午前3時8分の地震発生時点で、苫東発電所の2号機と4号機の
緊急停止を、北海道と本州を繋ぐ北本連携設備は感知し、直ぐに本州から
北海道への送電を開始。同11分までに60万kWの送電と、50MHZの周波数
調整を完了し、少なくとも15分程度は、ブラックアウトを防いでいたようです。

 しかしその後 苫東厚真の1号機も緊急停止し、北本連携システムで来た
60万kWの直流電源を、交流にするためのシステムの電源も喪失し、本州から
の貴重な電力さえも送れないこととなり、北海道内の全域約295万戸のブラック
アウトとなってしまったようです。
この10数分で、札幌以東の電力消費地への電力供給を止めていたらブラック
アウトは防げたのでしょうか。北海道電力の記者会見によれば、事前に想定して
いた電源喪失は、129万kWまでで、最大の火力発電所の全3機が全て停止する
ことまでは想定していなかったようなので、それは無理だったかもしれません。

復帰になぜこれほどの時間がかかったのか

大きな原因は、苫東厚真発電所の1号機 2号機 4号機の損傷が、単なる安全
のための緊急停止ではなく、物理的な故障を抱えていたからでしょう。
ボイラー管が破損した1号機でさえ、再稼働は9月19日で、2号機は10月まで
かかり、タービンの羽を損傷した4号機は9月25日でした。(当初は11月と発表)
その一方、地震の揺れの直接被害を受けなかった火力発電所の再稼働も決して
早かったとは言えません。色々調べて見ると、全電源を喪失してしまうと、火力
発電所と言えども、自力では再稼働が出来ないとのこと。そこで近くの水力
発電所から、「種火」となる電力をもらって、再稼働したと聞いて二度驚きました。
ある意味8月企画のダム式水力発電の威力が、ここでも示された形となりました。
一方同じ水力発電でも、貯めた水を落として発電したり、電気でくみ上げたりして
巨大なバッテリーの役割を果たす揚水発電所である京極発電所の立ち上げは
9月13日からとこれも早いとは言えないでしょう。
 また皮肉なのは、各家庭の太陽光発電は独立回路にすれば、使用出来るものの
大型の太陽光や風力は、電圧変動が激しいので、事実上系統連携が出来ず、
使えませんでした。
全道停電の経済損失
今回の地震では40数名もの人命が失われました。謹んでご冥福をお祈りします。
一方、ハードの被害としては、厚真町の土砂崩れは、広範囲の凄い被害です。
また札幌市の一部地区の液状化した住宅地の被害も大変なものでした。
元々はそこが谷であった場所を造成したことを知らずに、買ってしまった人に
とっては、そのお気持ちをお察しするばかりです。
その一方、地震の揺れの被害はそれ程でもないのに、1日以上の長時間停電に
よる経済損失は、計りしれないものになるでしょう。
コンビニやスーパーの冷凍食品の損失。劣化の早いまた収穫タイミングが短い、
農産物。直ぐに腐ってしまう牛乳などの乳製品。工場の停止による納期遅れ。
そして観光客の予約のキャンセルなど、考えたら切りがありません。
スーパーやメーカーの商品廃棄だけで82億円と報道されていました。
当社も保険を販売してはいますが、地震保険は倒れた建物などの直接的な被害
を担保するもので、二次的な被害である停電による営業損失までは担保しません。
 唯一対応可能なのが「特定地震危険補償利益保険」ですが、保険引き受けの
対象地域が細かく設定されているなど、大変複雑かつ決してお安くはないので、
当社もこの商品を販売したことはありません。

停電になった途端にSSに発生した長蛇の列

東日本大震災や熊本地震の例を出すまでもなく、停電が長引いて市民が不安に
なると、必ずと言って良い程、SSにはガソリンを求める車の長蛇の列が出来ます。
何故でしょう。私は非常時においては、車は万能避難所になるからだと思います。
12V(場合によっては100V)の電源、椅子、180度のフラットとはいかないものの
ベッド。ラジオ、場合によってはテレビ。暖冷房ありで、プライバシーもありです。

今回の北海道地震は、幸い出光の苫小牧等に大きな被害はなかったようですが
小規模な自家発電機はあるものの、正常な出荷は、電気の復旧を待ってから
始まったようです。製油所からのローリー直送地域はまだしも、油槽所も最低限の
自家発電機しかないので、停電状態で出荷を継続することは難しいでしょう。

テレビのニュースを見ていて心が痛むのは、病院の屋上をヘリコプターから撮影
した映像です。自家発電機の燃料求むです。しかし元売からの直送が主流の現在
の石油製品納入体制においては、停電が回復し、元売の製油所や油槽所からの
出荷が開始されることが大前提です。内陸に物流タンク在庫やタンクローリーを
もっていることは、多大なるコストとなり、それは平時に経費となって会社経営を
圧迫します。従って平時から納入しているお客様の緊急優先が現実的です。

首都直下地震でブラックアウトはないのか

テレビやマスコミの報道を見ておりますと、首都直下型の地震でも、東京電力
管内においては、ブラックアウトする確率は極めて少ない。その理由は、多くの
火力発電所がネットワーク的に動いているから大丈夫なのだとのことでした。
 確かに多くの発電所が動いているのは事実ですが、分散されているとは、
私は思えません。端的に言えば、東京湾内にそって原油タンクやLNGタンク、
そして発電所が林立しているので、東京湾直下のM7クラス、震度7クラスの地震
が来たら、東京湾内の発電所は、一度安全点検の為緊急停止するでしょう。
そうなったら、ブラックアウトのリスクは高まります。名古屋や大阪も火力発電所
が海に面しているところに集中しているという意味では同じだと思います。
また東京湾の入り口は、細くなっているので、外洋で発生した地震の津波の高さ
は、大したことはないと思いますが、東京湾内直下の地震で、海底が隆起したら
海水は逃げ場を失う訳ですから、津波の被害は現在の想定外となるでしょう。
酷なことを申し上げるようですが、震度7の首都直下型が来たら、その完全復旧に
私は電気は1ヶ月、都市ガスは3ヶ月かかることと覚悟しています。
この期間を一個人として、そして一企業としていかに乗り切るか。ここから先は、
心配しながら対策をとるのではなく、むしろ楽しんで防災対策をしたいと思います。

飲料水と中水 そしてスマホやテレビの電気の確保

読者の皆様は、自宅なり会社なりでペットボトルによる飲料水は、一応確保済と
思います。私がお薦めしたいのは、中水です。トイレ用の水です。もちろん配管が
OKの場合に限ります。私の自宅と垣見油化の直営SSでは500Lの雨水を貯めて
います。そして万が一の時の消火用の水やトイレの水として使いたいと思います。

今回の地震でスマホの電源のために、市役所に行って並んでいる姿がありました。
私は防災お宅ですので、会社でも自宅でもやっている対策をご紹介します。
まず車がある人は、車のシガーライターから、USB電源として充電するグッズが
ありますので平時に買って、車に常備しておいて下さい。5年落ち以降の車なら、
最初からUSB電源がついていると思います。
ご家庭なら単一単二単三の電池を買い込んでおくのも一案ですが、自動車のバッ
テリーを早めに替えて、まだ使えるバッテリーを自宅にとって置き、万一の時は
DCACインバータで疑似100Vを作りだせば、携帯の数十台の充電は簡単です。
ちなみに下記写真は、垣見油化の8階の他、自家発電機のない各店舗で確保
している停電対策の自作グッズです。良品の中古バッテリーとDCACインバーター
定格出力は 100Vで 500W。バッテリー容量は 12V 95Ah 中古なので75%として
12V x 95 x 75 % = 100V で 855W 分あります。 100V 85Wで まあ10時間です
携帯充電はせいぜい 5V 1A=5W 2時間で満充電とすれば 85台分でしょうか
写真紹介 本社等 簡易100V確保の例 雨水を保存し中水として利用(自宅)