公取委は石油・SS業界を救えるか NO4
 系列、業転、複数仕入れ、商標問題を考える
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2013年6月28日の日経新聞朝刊のそれも一面に、SS業界における石油元売と特約店との系列取引
における今までの商習慣や常識を大幅に改善させる可能性のある衝撃的な記事が掲載されました。
もちろん業界新聞等では、今まで何度も指摘されて来たことではありますが、それは業界の中の
コップの中の嵐で終わっていたように思います。しかし今回は、天下の日経新聞のそれも一面です。
単なる冷やかし記事ではなく、かなり明確なメッセージが入っているように思いました。そこで今月は、
予定していた内容を急きょ変更し、この系列、業転、他社買い、商標等の問題について、どのような
メスが入ろうとしているのか。まずは日経新聞の記事や最近の業界紙から紹介したいと思います。
尚、本件は古くて新しい業界問題なので下記も是非ご覧下さい。 2013/7/2 Ver3 文責 垣見裕司

1998年6月系列、複数仕入れ、商標問題を考える   (14年たっても全く進歩していません)
1999年3月公取は石油業界を救えるか、高まる期待とその限界」、そして
2008年1月「他社からの購入を事実上禁止した元売-特約店間の特約販売契約書公取指摘問題」

2013年6月28日金曜 日経1面記事の抜粋は下記の通り
給油所 安値の調達容認 仕入れ制限 元売りに是正要求へ 公取委

公正取引委員会はJX日鉱日石エネルギーなど石油元売り8社に対して、系列販売店が
商社などから安いガソリンを仕入れることを認めるように求める方針だ。
元売りが系列販売店に正規ルート以外のガソリン購入を禁じている取引慣行が独占禁止法
に抵触すると判断した。公取は7月にガソリン販売の実態を調査した報告書を公表する。
この中で、元売り各社に是正を促す。
法的強制力はないものの、是正されなければ行政処分も視野に審査を検討する。

ガソリンは大きく分けて2つのルートで消費者の元に届く。
1つは元売り各社が系列販売店を通じて販売する正規ルートで、流通量の8割強を占める。
もう1つは、正規ルートで販売しきれない余剰品を商社などに卸し、独立系で販売するルート。
商社経由で販売されるガソリンは「業転玉(業者間転売玉)」と呼ばれ、公取の調査では
正規ルートに比べて1リットル当たり平均3.8円安いという。

公取が問題視しているのは、元売りが系列販売店に対し、正規ルート以外からガソリンを
仕入れを禁じている取引慣行だ。安いガソリンの購入を禁じられた系列店が独立系に対して、
不利な競争条件を強いられているのを不適切と判断した。

余剰生産品の流通が始まったのは約30年前にさかのぼる。元売りは
「系列店は元売りのブランドを使用しているため、正規ルート以外からの仕入れは契約違反」
としてきた。しかし、元売りも最近は自社製品以外を混ぜ合わせてガソリンを販売している。
このため公取は「元売りが優越的な立場を利用している」と指摘。取引慣行の是正を求める。

公取の判断の背景にはガソリン小売業界の疲弊がある。
全国石油商業組合連合会によると、需要減によりガソリンスタンドの数は過去10年で
26%減った一方、安値品の流通割合は20%から26%に上昇した。
                                            以上1面より抜粋

従来の流通形態では、系列と独立系のガソリンスタンドの間で価格差があったが
系列側の仕入れが自由化されれば、価格差は縮まる。
一方元売り側は系列店の安値仕入れが広がれば、利益を圧迫され、これまで以上に
余剰生産品の縮小を迫られる。
石油情報センターの調査によれば、「元売り以外から仕入れた経験がある」と回答した
系列給油所は5割以上。現実に公取側も追いついてきた」との指摘もある。
                                            以上4面より抜粋
業界紙 ぜんせき 燃料油脂 石油タイムスも 6/27-28に詳しく掲載
業界各紙も大きく取り上げています。まずは各社の見出しを紹介します。

業転はシェアー10% ガソリン流通 公取実態調査
同系列内 最大格差は6.9円! 割安な商社 割高な一般店   ぜんせき 6/28

業転購入制限 「適切ではない」 格差問題 公取委が見解示す 燃料油脂 6/27

流通議連 元売ヒアリングで具体策でず 規制の在り方、議員立法も検討
公取委 業転の購入規制を指摘 今後の元売の対応策に注目 石油タイムス6/27-28

以上 僅か2日間の記事内容を、以下の通り概略にまとめてみました。
 公正取引委員会は6/25 自民党石油流通問題議員連盟の役員会に提出した
「元売の系列外取引の実態を調査した概要版」とそれに対する会長の野田毅議員の
要旨説明等が元ネタになっているようです。
 公取委の調査では、1年間のガソリン販売量5184万KLの内、1002万KLが系列外に流れ
更にその465万KLが完全な業転玉と認め、以下の3点の適正化を提言しています。

@系列内仕切り格差  各構成要素の額を請求書等に明記
A販売関連コスト(系列価格と業転価格の差)は、一方的な通知ではなく説明及び理解を
  得られるようにすること(縮小すべきだ) 平均3.8円。最大6.9円ある差の縮小を
  結果としてこの格差が、系列店とPBSSとの公正な競争を阻害している

B業転玉の取扱い制限は、やはり問題と指摘しています。
  この取扱いの制限は、すなわち他社からの購入を事実上禁止していましたが、
  それは、いわゆる商標法上の問題でした。これは後程じっくりご説明します。


また同議連の野田会長は、一週間前に実施した主要元売のヒアリングを行った時の状況を
以下の通り報告しています。
「この状況を改善しなければならないという問題意識は、一部の元売を除いて総じて希薄で
 改善にむけた具体策は出てこなかった」と元売の対応不足を報告する一方、
「ガソリンの取引に関する調査概要」を提出した公取委に対しては、報告書の中にあった
「注視していく」とか「まずは関係者間での適切な対応を促す必要があると考えられる」
等のあいまいな表現に対し「それでは今までと全く変わらない。必要に応じて議員立法も」
と激を飛ばしたとも伝えられています。
議員と公取委との緊迫感が分かる ぜんせき6/28新聞
6/25の自民党議連役員会では、説明の終わった公取委に対し厳しい質問が続いたそうです。
A議員
 「元売り間では、商標権を行使しないで形で売っているのに、系列特約店には、
 商標権を主張すること自体が、明らかに優越的に地位を振りかざしていることではないか」
公取 
 「公正であるという認識は持ってない」「報告書でも指摘させて頂いた」
A議員
 「適切ではないがあとは関係者間でと言っても抽象的でこれでは現場は動けない」
B議員 
 「関係者間でやれとポンとなげるのではなく、公取委として具体的な取組を示すべき。
 注視などは、ただ見ているということ。これでは後退だ」 と厳しいやり取りが続いたようです。

参議院選前とは言え、以前よりも数倍突っ込んだ表現は、議連の皆様お蔭でしょう。
但し、以上はあくまで、公取委が自民党の議連の役員会に示した中間報告なので、
一般にはまだ公開されていません。
どちらにしても今回、公取委は業界の秩序回復のために大きな一歩を踏み出し、
業界の不自然な商流に、初めて重い一石を投じた頂いたことは間違いないでしょう。
そして、この指導に対し元売が今後どう対処するのかが注目されるところです。
独禁法 第6章21条の「適用除外」の意味と商標法
さてここで商標法に行く前に、独禁法の第6章21条の「適用除外」 を解説しておきます。

独占禁止法の第21条で「適用除外」は以下のように書かれています。
この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による
権利の行使と認められる行為には、これ(独禁法)を適用しない。 
 例えば著作権や特許を取った商品の権利は、独禁法の適用から除外し、独占的地位を
認めますよという条項です。それは消費者の皆様も容易に理解できると思います。
 そしてその権利は、実用新案、意匠、そして商標と社会的常識として段々低くなります。
 一方商標法の目的は 第1条の通り、商標を保護することにより、商標の使用をする者の
業務上の信用の維持を図り(中略)あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。
とあります。
 要するに、完全な偽ブランド等を販売する悪徳業者から、本来の商標と需要者を保護する
のが目的であって、商標法で持って、例えば特約店や販売店の業転購入を禁止させるのは
商標法の本来の目的ではないとのことなのです。
 
尚、本項目と独禁法と商標法に関しての記述は、筆者が専門家に聞いた範囲での私的な
 見解であって、今回の公取委報告等に含まれているものではありません。
業転と商標法 との関係にも新見解
今回の石油議連に提出された概要の中で非常に大きな意味を持つのは、前項のBすなわち
業転玉の購入を事実上制限している元売は、優越的地位の乱用だと公取が言った点です。
ではもし、特約店販売店のSSで業転玉の購入が許された場合、商標法上の問題がどうなのか
が、当事者としては、一番心配な点です。

以前の話題になった京都の老舗料亭で、神戸牛と表示しているにも関わらず佐賀牛を出した
のあれば、食品衛生法上は問題なくても、重大なコンプライアンス違反です。
従って私の見解としては、2008年1月企画で指摘した通り、お客様はA元売のサインポール
をあげているSSで販売している商品は、そのA元売の製品だと思っているでしょうから、
もし業転を2割程度買うなら、お客様に対し、事前にお知らせる必要があるでしょう。
例えば計量器に「本日のガソリンは、A元売の製品は8割、残り2割はJIS規格に合致した
 ノンブランドガソリンです。前者はA元売が、後者のノンブランドガソリンは当SSが責任を
 持って保証します」と、表示するのです。
もう一つの完璧な方法は、A元売の製油所が出荷元であることが証明できる業転玉を選んで
購入するかのどちらかと思っていました。しかし今回の以下の公取委見解は大きな進歩です。

業転玉と言えども、商社が元売から購入し、適正に販売しているガソリンについては、
品質上系列玉と変わることがなく、また他の元売が精製したガソリンを(その元売が)
購入したものや、共同油槽所において他の元売が精製したガソリンと混合したものを
自社ガソリンとして系列特約店に販売していることが常態化しているにも関わらず
系列特約店に対して業転と混ぜてはいけいない、とは言えない

要するに品質的には元売各社混ぜて合わせいるものを供給しているのが業界の通例なら
特約店や販売店は混ぜるなとは、もはや言えないでしょうと公取が認識したのです。
品質確保法に基づく 10日に1回の分析義務とその義務の軽減認定
ここで改めて系列特約店や系列販売店のメリットも確認しておきます。
 @ 各種クレジットカード決済機能付き元売POSシステムの利用
 A 5-7年等元売のカラーリングの無償サービス。引き取り状況によって10年等もあり
 B 品質確保法に基づく10日に1回の分析義務を元売の証明により1年に1回に軽減出来る
もちろん製品の安定供給等もあるのかもしれませんが、震災時にはプライベートブランドSS
もガソリンが供給された等のお話もあるので、最小限の確実なものに限定しました。

そして今回一番問題となるのかBの分析義務の軽減認定です。
 プライベートブランドSSは、石油協会等に委託して、10日に1回、ガソリンをサンプル缶に
採取して、指定検査場所に送っていますが、全て自分でやるので、性善説に基づいています。
 一方系列組は、元売-特約店-そして販売店と三社で連携し、このルートで供給しているので
分析義務は1年に1回にしてと当局に書面で提出して、分析義務の軽減認定を受けています。

では、この分析義務の軽減認定を受けているSSが業転を買った場合、その軽減認定の
ミニ特権は次の3つのどの段階で消失すると思いますか。
 @ SSが業転を買ってタンクにいれた時
 A SSが業転を買った事実を元売が把握して、SSに軽減認定を取消を通告した時
 B 元売が、当該SSは業転購入が多いので、当局に書面で認定取消を報告した時
SS側の心情としてはBですが、軽減申請は三社で提出しているので@の時点だそうです。
従って、業転を買うSSは、法に基づく分析義務は、しっかり果たしてほしいと思います。
元売も儲からない業転市況で拡大する系列格差
下記表は、ガソリン価格の海上業転、陸上業転、元売指標、ガソリン輸入品、そして原油
輸入価格、そしてガソリン輸入数量の26ヶ月間の推移を表したグラフです。
 例えば2011年8月を見て下さい。海上業転価格より輸入価格の方が8円程度も安く、
月に48万KLという、とんでもない数量が日本に輸入されました。こんなに大量輸入すれば
昨今のLNGのように海外品の価格が上がるのが普通なのですが、この時は上がりません
でした。この時の業界の問題は、国内価格VS海外輸入品だったのです。
 しかし今は、海外品の方がく、大量の輸入品が入って来ている訳でもありません。
しかし国内市況の方が安いのです。季節品の灯油ならまだしも、新仕切り体系で言えば
ガソリンまでもが、原油輸入価格+税金と最低限の精製変動費(約8%)を加えた下限価格
に一時到達し、その混乱でSS業界も価格競争が激化し、誰も利益の出せない業界になって
しまったのです。
 しかしSS業界とは違い、元売は苦労して再編してたった5グループまで集約したのですから
まずは需給を絞り、少なくとも海外からの輸入品レベルまでには業転価格を上げ利益を得る
のが本筋です。そして原油輸入価格と製品価格とのマージンが十分とれている時は、系列
価格を下げて業転価格に近づける等、元売も系列SSもそして結果としてはPBSSも利益を
出せる環境を構築すればよいのです。そしてエネルギー供給責任を担う最後のインフラとして
その社会的責任を果たしていくべきだと思います。
 尚、SS業界向けのコメントは、月刊ガソリンスタンド7月号に詳細を記述していますので、
合わせてご覧頂ければ幸いです。
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