急増するセルフSSは本物か?
急増の原因は、ニーズはあるのか、今後への影響は
拝啓 あなたは2月企画&セルフ企画 番目のお客様です。日本特有の「有人セルフ」
がスタートし丸3年経とうとしています。1年目は実験的な要素が強く全国で85ヶ所という少なさでは、
お客様に体感して頂く訳にも行きませんでした。しかし2000年後半より徐々に増え始め、昨年12月には
私どもの東久留米SS八王子SSの近隣にもオープンするまでになりました。一体何が起こったのか、
お客様の反応は、経営として成功しているのか、今後に与える影響も含めて考えて見たいと思います。
セルフSSの月別開店数と累計数(98/4-00/12)とセルフの形態 
1月24日に石油情報センターから2000年12月末現在のセルフSS数356個所が発表されました。
9月末現在では254箇所、それまでは緩やかな増加でしたから、僅か3ヶ月で102箇所の
増加は、やはり急増という表現になると思います。同時期での全国の固定式SS数を仮に53,000、
とすればまだ0.7%ではありますが、確実に増え始めたことは間違いないようです。
ところで日本のセルフはどのような形態なのでしょうか。各種資料から以下推定しました。
 1.セルフサービスのみが90%、フルサービスと選択が出来るスプリット型は10%
 2.精算方式はアイランド式が60%、併設店舗内とキャッシャー方式が各20%
 3.精算時期は、先払い方式が約75%、後払いが約20%で、両方可能というSSもある
 4.支払方法は、利用可能な現金が約70%と多いが、逆に70%しか使えないとも言える。
   その他、クレジットカード60%、プリペイドカード55%、現金会員カード40%
 5.併設店舗は、無し66%、コンビニ等併設が34%、隣地にスーパー等4%
 6.所有形態は、自社所有が70%、土地建物リースが30%
 7.建設形態は、既存建て替えを含む改造が約80%で割合急増中、新設が21%

全国最多は千葉県。販売割合では香川県?
 全国でセルフが多い県を挙げてみると千葉40、香川27、岡山21、埼玉21、神奈川19、
、北海道17、愛知14、東京12などが続いています。一方セルフ皆無県も10月に
宮崎、11月に大分12月に富山と奈良に出来ましたので年末の空白県は長崎のみになりました。
 では最多千葉県の事情を分析してみます。千葉県は東京への通勤圏で人口も多くその割には
地価が高くないために、当初から元売子会社が多数出店し、セルフ実験場?とまでいわれました。
千葉県におけるセルフの平均販売量は推定450−500KL。一般平均の4倍はあるようです。
固定式総数は約2200SSあるのでSS数のセルフ率は1.8%、数量では8%ぐらいだと思います。
 一方香川の27ヶ所ですが、香川県の固定式は576SSしかないので、セルフ数比率は約5%。
しかしセルフSSの販売量は一般の4倍程度と推定できますから、そのセルフ販売数量シェアーは
約20%となり、これは確実に市場に認知された数字と言わざるを得ないと思います。
 千葉が多い理由はわかりますが、なぜ香川県がそんなに多いのでしょうか。これは地元情報に
詳しい特約店の話ですが、地元消防の指導に理解?がありSSに有資格者が1-2名しかいない
時でも運営している。地元には昔からセルフうどんと言うか、生うどんの自動販売機があり、
消費者がセルフという制度を受け入れ易かったのではないか?と解説していました。
 しかし大都市圏以外で出店が多いというのはどちらかと言えば例外で、1年目に1ヶ所開店した
岩手、2年目に1ヶ所オープンした秋田、山梨、佐賀ではその後のオープンが無いなど、地域に
大きな差が見られ全体の1/3は首都圏と北関東に集中している傾向が見られます。
都道府県、元売別セルフSS数表

元売別特徴を考える 
上記表で情報センターから発表されているのは、左列の都道府県数字だけなので、元売別は業界新聞発表等からの当社推計です。従って横集計が合わないかもしれませんがご了承下さい。
元売別では東燃ゼネラルの40ヶ所を始め昨年7月より運営が一体化されたEMGの85ヶ所が最も多くなっています。関係の深いキグナスの23ヶ所は系列内セルフ化率が既に3%に達しており、昨年後半から積極姿勢に転換した昭和シェルの20ヶ所も含め、外資系は積極的と言えるでしょう。
民族系では「新規はセルフのみ?」ともとれるような発表をしたコスモや26ヶ所まで増やしてきた出光が積極的と言われています。比較的慎重な姿勢を取り続けている日石三菱でも40ヶ所台に増えました。しかし分母となる各元売の絶対数は違いますのでそれを加味してご判断下さい。
急増理由を考える
ではセルフの急増理由はなんでしょうか。一言で申し上げれば、元売や大手商社特約店の方針が実験段階から普及促進段階に入った事ですが、本音としては下記の理由もあると思います。
 1.実験店、先行店でのノウハウ蓄積と成功事例報告。
 2.1−2名でも運営が可能という消防指導の実質的な緩和。
 3.セルフSS絶対数の増加で計量機等の設備コストの低下。
 4.街道沿いSS等立地特性を活かしたもの。
 5.土地面積200坪前後の小規模セルフタイプも登場。
 6.先行出店が色々な意味で有利との判断が出店を加速。
 7.特約店等からの返却されたSSで廃止出来ないものをセルフ化している。
7番目のケースを少し説明しましょう。バブル期に高額投資して作った広い面積のSS。当初補填されていた仕入値引や家賃軽減、経営補助が打ち切りられたあと、ハード的にはそこそこの優良物件がその高額家賃の為に元売に返却されました。その中の土地や建物を地主から長期に賃貸借している物件は止めるに止められないのです。そこでセルフに小改造し、元売子会社等がガソリン値引きや家賃補助を受けて再オープンしているものです。このケースにおける支援が差別対価や贈与に当たるか否かは、公取問題を考えるの通り、疑問の残るところですが、相当数あるようです。

消費者からのニーズはあるのか
ではこのセルフ制度はお客様からどのように評価されているのでしょうか。
セルフに対するお客様の意識調査は、業界としてはまだ共有化されていないのですが、石商と
石油情報センター実施の結果を総合すると 以下のことが言えると思います。
 1.セルフを利用したことがある18%、利用の無い人の理由は近くに無い70%
 2.今後も利用する65%、しない14%、わからない21%=積極賛成は約6割
 3.再利用理由、価格が安い90%、手軽簡単、従業員への対応がいや各30%
 4.今後利用しないと答えた方は、思った程価格が安くない80%、給油が面倒55%、
   洗車等を頼みたい35%、汚れる20%、外に出たくない20%
という答えが得られました。また一般にどのような理由でSSを選択するかという設問に対しては、
「家や会社の近く25%、出入りがし易い20%、価格が安い16%」で、セルフが優位な価格は
3番目となっていることは、多いに注目しなくてはならないでしょう。但しどちらの
アンケートも回答数が少なく、これのみで顧客ニーズを判断するのは避けるべきですが、
「ある程度のニーズはあり一度は利用して見たいがまだ近くにない」その一方「従業員への対応が煩わしくないから」というセルフ選択理由は、生き残りの為とは言え、油外商品の元売的マニュアル販売が、お客様に敬遠されていることは業界しとて多いに反省しなければなりません。
市場に認知された価格差は?
では前述アンケートにもありましたセルフ価格は一般価格とどの程度の差で定着したのでしょうか。私もその低さに驚いたのですが、激戦地域では2−3円です。
 千葉県様に他店も次々に参入したところでは、価格がセルフを頂点とした点ではなく、一般のフルサービス店も価格追随し、面として下がったために周辺一般市況との差もせいぜい2円程度しか付けられませんでした。前述の特約店から返却されたSSを改造して始めたセルフは、成功している例が少ないのは、改めて申し上げるまでもありません。
 一方セルフを容認した(してしまった?)地域では4−7円差が現在の相場です。周辺の一般SSが価格差を容認したため、市況の陥没はなかったものの、先行セルフ店の独走を許し、数量確保が出来たこと。その結果損益分岐点指数が3円程度にまで下がり、数量に物を言わせた仕入価格交渉と相まって、更なる安値販売が可能となり、同商圏内に後発店が出店しなかった(出来なかった)ことも手伝って完全に独り勝ち状態が完成したケースは、間違いなく成功事例だと思います。
経営的には成功しているのか?、最終的には立地です
 そして量販に成功したことは仕入価格もある程度安く出来たと言えるでしょう。一般的に元売系列の場合、量販特価があるのは、ガソリン軽油計で200−300KL以上、また特約店単位で1000−2000KL以上ぐらいですから、セルフで400−500KLの量販に成功すれば、周辺一般店の仕入価格と、2−3円以上の仕入れ差は付けられそうです。従って激戦区でも、セルフ店一般店ともガソリンマージン的にはあまり変わらない、という珍現象も起こっているのかもしれません。しかしこれはあくまで自己資本特約店の場合ですから、元売子会社の場合はこの限りてはありません。
 さて各元売とも昨年前までは、実験とかノウハウ蓄積とかいう表現を使っていますので、本当に成功しているのか、黒字なのかは中長期的に投資コストが回収出来る見込みがあるのかまで、正式な発表はされてはおりません。中には実験や先行投資という名のもとに家賃や赤字分が補填されたケースも多々聞いていますので、結論として数量的にはある程度成功したと言えるでしょう。
 これも昨年の石油情報センターにより行われた調査では、黒字が30%、トントンが35%、赤字が35%となっていました。一般のSSでは6−7割が赤字と言われていますからこれが本当ならセルフの方がまし?と言えるかもしれません。
 しかしもう少し深い意味では、セルフは幹線道路とか交通量、背景住宅地の存在等の所謂立地条件が、その成功要因にかなりウエイトを占めていると思います。
「セルフVS一般SS」から「セルフVSセルフ」の価格戦争
 さて前述の千葉の例の通りここまで特定の地域でここまでセルフが増えてくると、セルフ対周辺フルサービス店との競争とともに、隣のセルフとの価格戦争を拡大しているケースが見られるようになりました。セルフ対セルフになれば、大型セルフの場合は、出入りのし易さや設備面などは、ほとんど差がないと考えられますから、正にそのSSが持つ本当の「立地の良し悪し」が勝負の分かれ目になるようです。しかしそれでも敗者が立地の負け分を価格を下げて補おうとすると、もはや底なしの、勝者なき戦争になることは明白です。昨年12月の原油下落以上に看板価格が下がった地域などは、正にこの傾向が現れていると思います。SSの絶対数の過剰は言われて来ましたが、セルフSSの過剰などという問題も近い将来、地区によっては発生して来るのかもしれません。
給油はセルフ、洗車はフルサービスの珍しい現象
 ところで改造前200−300KLのSSがセルフで成功して500−1000L販売したSSに面白い現象が出てきました。すなわち商売の基本であるお客様の絶対数が数倍に増えたのにも関わらず、何もしないで給油だけでお帰えししてしまうのは、もったいないのではないか。洗車やオイル交換などの付加価値販売の機会を実は逃してしまっているのではないか、というような「ネズミの嫁入り」のような素朴な疑問です。
 しかし早くもこの問題に答えを出した特約店も現れ始めました。給油はセルフで、そして洗車やオイル交換などを希望する場合は、ブザーで呼んでもらうと、係員が出てきて、フルサービスをしてくれるという形態です。
 究極のようですが、それだと土日祭日等に洗車要員を配置しておかなければならない。でももし雨が降ったたら?。であれば最初からセミセルフ程度でもよかったのではないかと思ってしまいます。
当社の選択は、
 当社ではセルフを全く検討しておりません。南田無にはスーパーではトップブランドのいなげや殿併設で、冬場には「灯油と洗車」と注文されてお買物に来られるお客様が多数おられますし、東久留米SSではLPGタクシーのお客様が夜間に洗車だけのニーズでご来店されます。その意味ではガソリン給油だけが来店動機ではなく、洗車ステーションを確立しつつあります。また油外商品の利益と人件費も同じになりつつありますし、 1SSの基本社員数は3人ですから、セルフにした場合の人件費削減効果もあまり期待出来ません。その意味では燃料油は200KL程度と少ないかもしれませんが、同じ損益分岐点口銭なら、500KL売ってやっと達成するよりは、少ない数字での達成の方が、装置産業である元売のお役にはあまり立てませんが販売業者としてはベターなはずです。皆様はどうお考えになるでしょうか。 文責 垣見裕司、2001/1/25 NO2