出光株主総会で創業家が統合反対を表明
 業界の大前提が崩れた?その後を考える
あなたは本企画の番目のお客さまです 2016/6/29 7/8 10/23追加ver2

Googleで当初の本ページが大変なことになっています。「出光昭和シェル経営統合
で検索すると 何と三番目でヒットするのです。出光や昭シェルの経営陣やまして
出光創業家とお会いする機会など一度もないのに、東洋経済の2つ記事に続いて
3番目です。本ページは事実の纏めとそれを私がどう思うかという「推測」に分けて
書いていますが、読者から頂く本HPでは書けないような膨大情報に支えられている
ので正しいのでしょうか。このGoogle 第三位のヒットは続編を書けという叱咤激励
と解釈し11月企画は 出光昭和シェル経営統合続編 完成してました。
   以下2016年7月企画です         2016/10/23
  
さて大変驚くのは、石油業界全体が今後生き残るための大前提となっていた
「出光と昭和シェルの統合」が、出光創業家の反対表明で、ご破算になるかもしれ
ないという懸念が出て来たことです。出光と昭和シェルの統合が破談となれば、
シェアー50%を超えるJXと東燃ゼネラルとの統合に多大な影響が出るのは必然です。
今月企画は、本当は柔らかい話題を予定していたのですが、急遽この問題に変更
して解説して見たいと思います。                      
                                       文責 垣見裕司

6月28-29日にNHK他 日経新聞他等で報道された内容は以下の通りです

6月28日火曜日に開催された出光の株主総会で、創業家の代理人で、筆頭株主の
日章興産の代表取締役にも就任していた浜田卓二郎弁護士が挙手したそうです。
株主総会に出ていた訳ではないので、あくまでマスコミ情報の要約です。

1 出光と昭和シェルの合併に反対する
2 昨年秋、名誉会長 出光昭介氏に対する説明なしに合併を決めた
3 両社は異質の企業文化。出光独自で合理化、販売努力の時期だ
4 合併に賛成の10人の取締役の再任の反対

これに対し、出光の月岡社長は、出光の良さが統合で失われることはない。
統合は日本のエネルギーの安定供給につながる。創業家の皆様にもご理解を
頂いていると 真摯に説明したそうです。採決は50%以上の賛成多数で、人事も
含めて原案の通り可決されましたが、合併承認は、2/3以上の賛成が必要なので
色々論議を呼んでいるようです。その他あくまでマスコミ報道ですが、創業家の
主張を纏めてみました。


1 出光には労働組合がない大家族主義 昭和シェルにはある
2 出光はイランと関係が深い 昭和シェルはサウジアラビアの支配下
3 2015年7月は統合形態は継続協議なので反対はしなかったが
  2015年11月発表の統合では、保有する出光株式が希釈化
してしまう

出光の公式コメント 2016/6/28 本日の一部報道について

日経 出光家、突然の反旗 合併で影響力の低下危惧か 2016/6/29 1:09
出光、創業家が合併反対 昭和シェルと「社風違う」 2016/6/29 1:03
出光家、突然の反旗 影響力低下危惧か (2016/6/29 1:09) [有料会員限定]
JX・東燃ゼネ統合に影響も (2016/6/29 1:13) [有料会員限定]
昭和シェル・出光興産株、乱高下 (2016/6/29 1:14)
「合併反対33.9%」の衝撃 出光 創業家の乱 (2016/6/28 16:55)
「創業家の議決権は21.2%」会社側 (2016/6/28 19:33)
出光、昭和シェルとの合併「今後も協議継続」 (2016/6/28 18:15)
出光創業家、昭和シェルとの合併計画に反対表明 (2016/6/28 15:23)
昭和シェル株、一時11%安  (2016/6/28 15:58)

出光の公式コメント 2016/6/17 統合スケジュール(遅れ)に関するお知らせ


出光の大株主と株主構成
下記表は、出光の決算資料他からの株主構成の表です。
順位 株主氏名 持ち株数 持株比率 合計比率
1 日章興産 16.95
2 出光文化福祉財団 7.75
3 出光美術館 5.00
出光正和(昭介氏長男) 1.51
出光正道(昭介氏次男) 1.51 以上
出光昭介(出光名誉会長) 1.21 33.92%
4 出光興産社員持ち株会 3.80
5 三菱東京UFJ銀行  3.21
5 三井住友銀行 3.21
5 三井住友信託銀行 3.21

ここからは筆者の推測ですが、私も同族会社の経営者兼株主として、やはり
一番引っかかるのは、創業家の持ち株比率の希釈化です。折角高いコストを
かけ、今となっては時価より非常に高い買い物をして、子会社にするにも
拘わらず、何故子会社と親会社が対等の精神で合併しなくてはならないのか。
昭和シェルや同社の特約店に対して敬意を払うのは結構だが、精神面で十分。
本当に対等合併する必要はない。例えば出光ホールディングの下に新精製
会社、新販売会社を作れば、創業家の株主比率はそのままに実質的に
競争力のある業界で生き残れる会社を作ることは可能だと私も思うからです。
 一方会社側は、2の福祉財団と3の出光美術館は公益財団なので、創業家に
帰属するものではないとしています。更には、創業家の持ち株比率をちょっと
強引に下げる「増資」という最終手段もありますが、これは火に油を注ぐでしょう。
どちらにしろ、経営統合は社内外に痛みを伴うものです。特に合併を主導する
かつ親会社の立場になる出光側に、経営陣と創業家の対立は、どちらにしても
マイナスだと思います。

出光がロイヤルダッチシェル(関係会社)から買う昭和シェル株の価格は高いのか? 

では改めて当社HP2015年8月企画 出光による昭和シェル株購入をご覧下さい。
1 RDシェルの子会社SPCOは、出光に昭和シェルの株式33.24%を売却する
2 価格は1691億円。一株当たり1350円。7月30日終値1170円に対し15%の増額
3 売却時期は、公正取引委員会等の審査を経て 2016年上半期の予定
4 出光は、昭和シェルに対し、対等の精神で経営統合を目指す。      です。
あくまで結果論ですが、現在の昭和シェル株の価格は、6月29日終値で927円
ですから、その差額420円x12526万株=約526億円は、良く言えばのれん代、悪く
言えば投資有価証券評価損です。もし株価が上がっていれば、儲けなので正に
結果論ですが、株主や創業家から見れば高い買い物に見えるでしょう。

また 公正取引委員会の承認が得られなければ、恐らく違約金なしで本契約は
無かったものとみなすという特別条項は入っているとは思いますが、その一方
出光の株主総会で否決されたら、買わなくていいという、買い手だけに都合の良い
条項は流石にないと思います。
まずは、修正発表されたタイムスケジュールの通り、本年9月中に、出光がRD
シェルから昭和シェル株を買うことが出来るのか、それまでに創業家と落と
どころを見つけられるかを注視したいと思います。

JXと東燃ゼネラルの統合にも少なからず影響はある

さてJXの特約店の私としては、JXと東燃ゼネラルの経営統合に対してどんな影響
があるのかが気になります。結論としては相当あると思います。
本来公取の合併の審査は、個別案件ごとの審査ですが、石油業界については、
それぞれの経営統合が進めば2強になるので、業界全体としても審査検討する
と漏れ聞いています。6月17日に発表された 出光の経営統合のスケジュールに
関するコメントにも「公正取引委員会の企業結合審査が継続中なので取得時期を
変更(遅れ)することが必要となった」と表現しています。
そしてJXと東燃ゼネラルの経営統合検討発表も2015年12月で、出光と昭和シェル
の経営統合を前提としていることは明らかです。さもないと50数%のJX+東燃という
売上高11兆円の巨大企業と、売上高2〜3兆円のその他元売になってしまいます。
更に都道府県別や各種石油製品別に見れば、7〜8割以上のシェアーを占める
場合もあるので、仮に出光と昭和シェルが破談になった場合でも、JXと東燃の
統合が認められる可能性はないとは言いませんが、制約条件が沢山付くことは
間違いないと思います。

新業界再編図を作成しました

今年も 石油連盟様を始め、色々なところで講演を仰せつかっております。
7月12日北見、13日に旭川、19日には大阪にも参上します。その講演資料として
上記4社合併検討までも表現した 新業界再編図を作成しました。
よくわかる石油業界で使用して来た今までのものよりは分かり易いと思います。


 その他比較的大きな以下の物流提携がある  1
1999/10 昭シ⇔jomo、
 2 1999/10日石三菱⇔コスモ  3 2002/12出光⇔新日本石油 4 2013/3昭シ⇔東燃ゼネ

業界関係者のご意見は

6月28日29日30日は、色々の方とお話ししました。直接間接も含めてですが
いつくかご紹介しましょう。

まず出光の株主総会に出席した方のお話しを間接的に入手しました。
創業者の意見に対し、
「そうだそうだよくぞ言ってくれた」という雰囲気は無かった
そうです。むしろその後の出光の販売店(一般的に特約店のことを出光は販売店と
呼ぶ)とおぼしき方は、会社側の擁護に回り、出光精神を持ちつつ、業界に生き
残れる会社を目指してほしいとの発言に拍手があったそうです。この雰囲気で
取締役の再任等が無事可決される流れになったとのことでした。
新聞やマスコミはどうしても大混乱があったと報じたい訳なので、その辺は
割り引いてみないといけないと思います。
 また出光の若手社員クラスの話では、当然出光佐三社主は全く知らず、社史
や「海賊と呼ばれた男」で読む世代は、大家族主義は精神としては分かるが、
上場後に普通の会社に少し近づいて「安心」しているのも事実だそうです。
 一方特約店の店主は、やはり経営統合の賛成派の方が多いようです。
もちろん出光の名前も残してほしいのは本音のようですが、名前が残らなければ
破談になってもいいという強硬論者は少ないようです。
 また2014年の年末年始時点では、大反対をした昭和シェル特約店経営者が
多かったように聞いています。しかしその後、JXと東燃ゼネラルの経営統合が
発表された後は、一弱元売の特約店になるよりは遥かに良いとの論調に変わった
ようです。出光の対等発表が精神だけでなく、社名も所在地も白紙で決めるとの
誠意ある態度を信頼したのかもしれません。

私個人の意見は

実は私は、出光と昭和シェルの経営統合は大賛成です。仮にJXと東燃ゼネラル
の統合が公取で認められず、3強+コスモ+太陽体制になったとしても賛成です。
やはり今の国際時代に、日本というコップの中での戦いよりは、世界全体と伍して
いける元売に育ってほしいと思います。
 特約店の中には、マークにこだわる経営者も多くいます。私で言えば、コウモリ
マークやサンライズマークに愛着がないはずはありません。それこそ三菱石油や
同特約店の皆様、そしてJomoの社員や特約店の皆様も同様だと思います。
でも今この期に及んで、三菱マークは残すべきだった、Jomoマークは残すべき
だったという特約店社長は皆無に思います。それが正に時代の変化なのです。

 更にJXと東燃ゼネラルの統合で言えば、三菱石油との統合やjomoとの統合の
時のように早急にマーク統一はしないと聞いています。はいそれでよいのです。
4〜5年経って、新マークが出来て、新マークとJXマークと東燃ゼネラルマークの
共存する時代を経て、新マークなら塗り替え費用は元売持ちですよーと言われ
ながら順次統合するソフトランティングでよいのです。
最も統合効果が出るのは物流なので、製油所や油槽所、タンクローリーの運行
の効率化は大いにやっていけば、数字上の効果も上がると思います。
 
 さて最後に出光創業家を納得させる方法を考えてみます。やはり高いコストを
数百億ののれん代かけて子会社にしたのだから、経済原則にのっとり、「対等」
は精神的な配慮に留め、創業家の株主割合が下がらない方法なら、組合問題
やサウジ問題は根本原因ではないように思います。昭和シェルを上場子会社
として残し、ブランドも二つ残し、精製と物流のみ共同運用する方法だってある
はずです。もっとも出光と創業家はもう話がついていて、昭和シェルに子会社化
を納得させる為の芝居だったという穿った見方もあるようです。そこまでシナリオ
が書けてるならそれはそれで大したものだと思います。
どちらにしろSSの現場をみればジョイフルホンダを下回るような誰も勝者がいない
集団自殺市況が続いています。彼らの本音も元売が統合して3グループになれば
少なくとも今よりはマシになると期待しています。出光幹部の皆様には、創業家様
と良くお話し頂いて、あるべき業界の姿にして頂ければと思います。

7月8日 追加 創業家は本気だった

本企画を書き終わった6月30日の段階では、私がお話し出来た約20名の内
約1割の方が出来レースだった。即ち出光と創業家との話は出来ており、昭和
シェルの経営統合を有利に進めるための芝居だったという見方です。

しかしその後色々出て来る情報はそれを否定するのが殆どです。以下いくつか
その例を上げます。

1 月岡社長の 取締役再任決議は正に薄氷だった。
賛成割合 月岡社長 松本副社長 関大輔副社長 関洋副社長 単位
今回 52.3 58.8 58.8 58.8 %
前回 91.6 96.6 96.6 96.6 %
事前予想が分からない英国のEU離脱の国民投票でも勝利した離脱派は51.8%。
要するに2%の差は全く読めない差なので私は出来レースではないと思います

2 出光美術館の定款を変更 同美術館の持つ株式の効力を明確にした
 毎日新聞 7月8日ニース によれば、創業家側は今月4日、合併を決議する
臨時株主総会に備えて反対投票に万全を期す動きに出た。昭介氏が理事長で
出光株を5%保有する公益財団法人「出光美術館」の定款を株主総会の議決権
行使に支障ないよう変更した。会社側が「公益財団は公益性が高く私物化はでき
ない」として出光美術館などの議決権を封じようとする動きに対抗したとも言える。

3 ブルームバーグ6月30日記事 も参考になりますので是非お読み下さい。

7月8日追加 出光-昭和シェル経営統合破談の場合のJXと東燃統合への影響

仮の話ですが、石油業界のシェアーが下記の通りだとします。
JX 35%、出光 17%、  昭和シェル15%、  東燃 17%、 コスモ10%
この石油業界において、JXと東燃が統合して 52%の1強とその他10数%の会社が
3社出来る業界図Aを公取が認めるか。更にJXと東燃に加え、出光と昭和シェル
が統合して52%、32%、その他10%元売が出来る業界図Bならどうかという疑問です。
 今時 談合などということは石油業界や、ましてやSS業界はありえないので、
後者の二強とその他元売の方が 承認されやすいと思っていましたが、次の
日経記事を見る限り、色々な説があることが分かりました。
日経web 7月5日の配信 出光創業家の昭和シエル統合反対、公取審査に影響も
によれば、「1強+3普通元売の方が、2強多弱よりも市場価格高止まりのリスクは
薄まる」としています。色々な見方があると感じました。

既に確定したことで考えると、公取に反対されなければ、出光は約定に従い
RDシェルから昭和シェル株を買わなくてはなりません。その段階で、昭和シェル
は出光の子会社となるので、公取的には、出光が昭和シェルと対等な経営統合
をするか、或は子会社で留まるかは、どちらにしても支配下会社なので、両社は
一体のものとしてみなされるのではないかと思います。

どちらにしてろ、7月11日には出光経営陣と創業家の会談が持たれるそうなので
今後ともこの問題を注視して行きたいと思います。