東日本大震災後の石油&エネルギー業界
 原発代替火力電力用C重油大増産?でガソリンは余るのか

本報告の 番目お客様です。Ver3 6/13更新 初掲載27日開始時13500
5月企画の最後に震災後の業界はどうなるのか等の疑問も含めて、メモ程度に書いた
編集後記と業界の重要課題が大反響。決して私がその明確な答えを持っている訳では
ないのですが、私見でよろしければ、謹んで紹介したいと思います。 文責 垣見 裕司

原油価格の上昇要因は
まずは、下記のWTIの日足グラフをご覧下さい。
2月中旬までは、90ドル/Bで揉み合っていましたが、下旬から急騰しました。
理由は、アフリカのチュニジアに始まったネット民主化革命がエジプトに飛び火し
更に産油国であるリビアにまで至ったことが大きな原因だと思われます。

それまでよく用いられて来た中東地域に「潜在」していたの「地政学的リスク」が
「顕在化」したので、ある程度は説明のつく、そして我々消費側としても、上昇分
の一部は許容しなければならないと思います。

他にも米国の景気や在庫等、色々な理由が投資家によって語られていますが、
その一つの上げ要因として、日本発の東日本大震災による福島原発問題、
日本のみならず、世界的に原発の新規開発が遅れ、相対的に石油需要が増す
のではないかという「思惑」です。確かドイツは原発廃止をタイムスケジュール
入りで決めたり、イタリアでは、反原発の国民投票が成立したことから言えば、
反原発=石油等火力発電用の燃料増は、容易に想像がつきます。しかし
ドイツにしてもイタリアにしても、結局は、原発大国のフランスから電気を買えば
同じこと?という冷めた見方もあるようです。



さて上記グラフの5月5日は、高値の110ドルから100ドルまで一気に10ドルも下落
しました。この急落理由も色々言われておりますが、アルカイダのビンラディン氏
が米軍の特殊部隊によって5月2日に殺害され、その報復が心配されてましたが
今のところ平穏で対テロの緊張状態が大幅に緩和されるという見方のようです。
上がるにせよ下がるにせよ現物の産油施設が被害を受けたり、ホルムズ海峡が
封鎖された訳でもないので、とにかく先物価格が「変動」しないと利益を生み出せ
ない投機筋の「風説の流布」だと私は思っています。
原油価格のあるべき姿は70-80ドル/B  (ドル安換算80-90ドル)
2008年の原油高騰以前から「70ドルがあるべき姿」を本HPで発表し、当時の
株式新聞の取材にも、はっきり述べさせて頂きました。その70ドルの理由は、
原油換算で100年分以上あると言われるオイルサンド オイルシェール オリノコ
タールの開発コストが、約50ドル/Bとし、これに開発者の利益を20ドル乗せても
70ドルで採算にあう。よって長期的に100ドルを超える状態が続けば、この原油
代替燃料の開発が進むというのが、私の単純な根拠です。

その一方、日本の景気が低迷し、更に日本が大震災にあったにも関わらず
1ドルが80円というのは、如何にもドルの下げ過ぎです。では幾らが適正なのか。
私の実感で言えば、1ドル=100円程度が適当でしょう。以前聞いた話ですが
世界中で売られているマクドナルドのビッグマックを仮に同じ価値として、それを
基準にした購買力幣価で換算すると、実態に即した為替レートになるそうです。
 よって原油価格は70-80ドルが適正で、上限を80ドルとすれば、ドル安分だけ
2割高いすなわち96ドル。これに中東等の民主化革命によるリスクが顕在化した
価格までは、許容されるのではないかと思います。

 短期で決着したチュニジアやエジプトに対し、リビアは相当時間がかかって
いますが、心配していたサウジアラビアやUAEのアブダビやドバイが、一応平穏
なのが、昨今の原油価格の安定にも寄与していると思います。。
この辺については、月刊ガソリンスタンド4月号に「ネット革命と見えないその後」
と題し、見開き4ページに渡って解説していますので、是非ご覧下さい。
原発代替の火力発電 その内の石油火力用重油は何万KL必要なのか
今回の東日本大震災に於ける石油業界として心配は、各石油製品の需給の
微妙なバランスが崩れるのではないかということです。石油はご存じの通り
連産品で、原油からガソリンや電力用C重油だけを生産することは出来ません。
その各石油製品が、どのくらい取れるのかという割合(得率)は各原油で、概ね
決まっています。従って、電力用C重油の需要のみが高まると、震災後はむしろ
減っているガソリン等の需要と相反し、ガソリンが余り、ガソリン卸市況がくずれ
またSS業界全体が全く利益の出ない状態に戻ってしまうのではないかという
心配です。まずは、過去の各石油製品、特にC重油の実績を見てみましょう。

年度 ガソリン ナ フ サ ジェット 灯 油 軽 油 A重油 B・C重油 内電力用 燃料油計 原油受入
西暦 千kl 千kl 千kl 千kl 千kl 千kl 千kl 千kl
2010 58,202 46,668 5,154 20,340 32,867 15,412 17,330 195,973
2009 57,464 47,320 5,283 20,056 32,388 16,043 16,434 5,564 194,988 3,609
2008 57,428 42,861 5,676 20,249 33,728 17,891 23,159 10,477 200,992 8,416
2007 59,041 48,533 5,916 22,666 35,586 21,369 25,354 11,892 218,465 11,347
2006 60,552 50,078 5,389 24,503 36,606 23,961 22,696 7,638 223,785 6,847
2005 61,422 49,431 5,145 28,265 37,136 27,780 27,009 9,744 236,188 7,960
2004 61,476 49,026 4,906 27,977 38,203 29,100 26,557 7,955 237,245 5,712
2003 60,561 48,442 4,502 29,109 38,130 29,752 30,195 9,452 240,691 5,669
2002 59,830 48,598 4,603 30,622 39,489 30,138 29,517 8,184 242,797 5,770
2001 58,821 46,286 4,995 28,499 40,957 29,295 27,635 6,546 236,488 4,912
電力用重油はC重油の内数。原油受入は燃料油計の外数。両数字は電気事業連合会発表

 近年でC重油の販売量が多いのは2007年度ですが、これは2007年7月16日に
発生した新潟県中越沖地震(M6.8)で、一地域としては世界最大の821万kWの
柏崎刈羽原子力発電所が全面停止した影響です。詳細は2007年8月企画参照
 それ以前は、2002-2003年度も多いのですが、実はこれも原発停止の影響で、
いわゆるトラブル隠し問題です。この時は、福島第1第2と新潟の柏崎刈羽原発が
両方止まったので、やはり深刻な事態でした。2003年4月企画で詳細解説済み
東京電力の火力発電所と使用燃料
では、今年の夏の石油火力は、どのくらいの電力用重油が必要なのでしょうか。
実は近年多くの石油火力発電所が廃止されております。一例は以下の通り。

廃止時期 廃止火力発電所名 廃止号機 廃止能力
1999/03 千葉火力発電所 1-2-3-4号機 60万kW
2000/03 横浜火力発電所 1-2-3号機 52.5万kW
2004/12 横須賀火力発電所 1号機 26.5万kW
2004/12 横浜火力発電所 4号機 17.5万kW
2005/03 川崎火力発電所 1-2-3-4-5-6号機 105万kW
2005/03 横須賀火力発電所 2号機 26.5万kW

一方、重油や原油のみを使用する発電所の新規建設はなく、新規はほとんど
LNGです。唯一の例外は、2003年12月の常陸那珂火力1号機(100万kW)と
2004年12月稼働の広野火力発電所5号機(60万kW)で何と石炭専用燃焼です。
従って既存の重油及び原油使用でLNGが使えない火力発電所が何機なのか。
これが我々の知りたい電力用重油ニーズの分母となります。以下一覧表。

発電所名 所在地 発電能力 単機能力と 使用燃料
鹿島発電所 茨城県神栖市 440万kW 60x4 100x2 重油原油
広野発電所 福島県双葉郡 380万kW 60X2 100X2 重油原油 60x2石炭
横須賀発電所 神奈川横須賀 227万kW 35x2 重油原油 3x1軽油 14LNG軽油
大井発電所 東京都品川区 105万kW 35X3 原油専用
 他の姉崎、横浜などは重油とLNGの両燃料使用可能なので省略した
東京電力の主力石油火力発電所も被災していた
 上記表を見て何か気が付くことはありませんか。実は、福島原発の陰に隠れて
余り大きく報道されておりませんが、鹿島火力発電所や広野火力発電所等国内
最大級の火力発電所も実はかなりの大きな被害を受けていたのです。
 火力では極めて大きい能力を誇る鹿島発電所の再稼働は、4月6日、7日、8日
そして20日ですが、広野については、7月に向けて全力で対応中とのことなので、
まだ稼働していないのです。
 そういう背景を勘案して、電気事業連合会発表の4月の発電内訳や使用燃料
実績をご覧下さい。これによれば少なくとも4月までは、重油を増やせるような
状況でなかったことがよくわかると思います。よって私の結論は、「電力用C重油
需要は、心配される程多くはない。ガソリン下落の要因はむしろ他にある」です。

 電力10社計 発受電 電力量(発電内訳) 前年対比表 単位MkWh %
発受電電力量 水力 火力 原子力 新エネ 他社受電 揚水動力
2011年4月 69,094 4,797 36,354 17,085 195 10,911 -247
前年対比 91.6 72.5 93.7 76.1 93.7 88.2 57.8
2011年5月 68,980 7,065 37,489 14,696 206 10,024 -500
前年対比 95.3 99.8 118.6 68.5 90.5 79.6 85.6
        
 電力10社計 使用燃料実績 Kl   石炭 LNG t 
消費数量 石炭 t 重油KL 原油KL LNG t ナフサKL
2011/4消費 3,256,631 308,981 397,558 3,417,227 44
2011/5消費 3,203,382 404,777 480,737 3,609,136 964
2011/6消費 3,537,372 500,700 465,394 4,032,585 787
2011/4受入 3,481,294 505,196 449,164 3,656,449 0
2011/5受入 3,141,350 519,884 503,647 3,697,211 0
2011/6受入 3,815,657 548,913 606,439 4,456,439 0
  出所 電気事業連合会    http://www.fepc.or.jp/ 2011/7/21 更新
電力用C重油 や 「原油の生焚」きと言っても
 一般にC重油は、硫黄分3.0%のハイサルファーC重油と、硫黄分0.3%の
ローサルファーC重油がありますが、電力用C重油は、このローサルC重油
より更に低い、0.2%とか 0.18%と呼ばれるC重油を使用しています。
 特に東京湾内は、地元自治体の環境規制が厳しく、通常のローサルC重油
ではなく、この電力用C重油しか使用が許されていないようです。
 このサルファー規制を緩和すれば、他の元売の生産したローサルC重油や
輸入品のローサルC重油が使える訳ですが、今のところ規制緩和の話は、
まだ聞いておりません。
 一方原油の生焚きですが、これが可能なのはインドネシア産の「ミナス原油」
のみと言っても過言ではありません。この原油は蝋分(ろうぶん)が多いため
流動点が高くパイ プで流すためには原油を加温して流動化しなければならない
コストのかかる原油ですが、硫黄分は中東原油の2%以上に対し、ミナスは0.1%
と非常に低いのです。また重油に精製すると硫黄分は約倍の0.2%になり、量は
半分になるので、重油ではなく原油のまま燃料にする使用方法が適しているの
だそうです。東京電力では大井火力発電所が、実質このミナス原油指定です。
 
                主な原油の性状表
原油の性状 単位% API比重 硫黄分 揮発油 灯軽油 残渣油 残渣硫黄分
アラビアンライト 33.0 1.89 25.0 27.0 48.0 2.86
イラ二アンライト 33.5 1.46 21.1 22.9 43.5 2.53
クェ―ト 30.5 2.62 19.5 24.4 53.2 4.00
ドバイ 30.5 2.10 24.3 21.6 54.1 3.00
オマーン 32.7 1.11 21.5 23.6 55.0 1.62
マーバン(アブダビ) 39.7 0.78 24.3 31.9 42.5 1.60
ミナス(スマトラライト) 33.9 0.09 8.9 31.6 59.5 0.11
   各留分は蒸留範囲の温度により変化する   出所 石油連盟
ガソリン安の原因は、電力用重油の増産要因だけではない
 硫黄分0.18%という超ローサルファーの電力用C重油を生産出来るのは、
私はJX社と富士石油の2社に限られるのではないかと思っております。従って
その増産要請も全元売に来るのではなく、JX等特定の元売会社に絞られる。
そうなるとJXでは、ガソリンがあふれるのではないかと心配をしておりました。
 
            各石油製品の生産得率の推移

年度 % ガソリン ナフサ ジェット 灯油  軽油 A重 B・C重 重油計 燃料油計
2009年度 27.36 10.28 6.47 9.66 20.40 7.93 11.68 19.61 93.78
2008年度 25.41 9.27 7.08 9.08 20.63 8.27 13.46 21.73 93.21
2007年度 24.89 9.78 6.37 9.88 18.83 9.25 14.19 23.44 93.18

この表を見れば一目両全ですが、近年精製業界は、白油化ニーズ増加を見据え
ガソリンの等の得率を上げる為に多くの設備投資をしてまいりました。この3年間
だけでもガソリンが2.5%増え、逆にC重油は3.8%も落として来たのです。従って
11万klのC重油を作ると、27万KLものガソリンが増産されてしまいそうですが、
でもご安心下さい。実際は処理する原油を例えばマーバンからミナスに換えれば
ガソリンの得率は、15.4%も下がるのです。要するにある程度の電力用重油の
増産要請が来ても、処理するミナス原油と余るけど引き取らなくてはいけない
中東原油等の在庫調整は必要ですが、かなりの対応が出来るようです。
 それなら何故、5月に入ってからガソリン業転価格が、他の油種に比較し大幅に
下落したのか。単純に言えば、お客様の不安で過度に増加した需要に、生産が
やっと追いついたのと同時に、自粛等で冷え込んだ本当の需要が明らかとなり
在庫が急増。更に余剰となったガソリンの製品輸出の再開も諸事情で遅れた
ことなどもあります。しかしそれも一時的な話で、根本的には、自社系列で販売
出来ないガソリンを安く市場に放出する元売がいることに他ならないと思います。

参考数値 各燃料の発熱量比較 重油 1kl = 原油 1.04kl = LNG 0.75t = 石炭1.52t
100万kWの発電所運転に要する燃料の年間必要量
 LNG 約100万t    重油 140万kl   石炭 200万t  原子力核燃料 21t
 重油 1L = 40870 kJ(9760kcal)    原油 1L = 39340 kJ 
 石炭 1kg = 26890 kJ LNG 1kg = 54560kJ 都市ガス1m3 = 43070kJ
編集後記(5/31販売数量追加) 今月書き切れなかった内容と来月予告
1 垣見油化直営SS 節電策のご紹介 月刊ガソリンスタンド6月号参照
   東電5000万kWは何とか確保? でも節電は必要効率的に!
   家庭もSSもベース電力対策とピーク電力対策を分けて考えると効率的
2 2015-20年以降の原発不足は、燃料電池自動車が解決する驚愕の近未来
3 格安レンタカーこそ 被災地復興ビジネスとして 最適ではないか
4 2011年4月の各石油製品の販売数量は以下の通り。やはり売れてません
  東北被災地での販売数量は、機会があれば追加掲載したいと思います。

千kL ガソリン ナフサ ジェット 灯油  軽油 A重 B・C重 燃料油計
2011/4月 4,204 3,244 346 1,362 2,571 1,168 1,240 14,137
前年比% 88.2 87.1 77.0 74.7 94.0 87.5 102.4 88.1
2011/5月 4,582 3,509 252 694 2,418 939 1,331 13,726
前年比% 99.5 96.1 68.0 88.1 102.1 91.7 101.5 97.2