首都圏大停電はありうるのか
 今だからこそ、電気を始め日本のエネルギー問題を考える
あなたは4月の 番目のお客様です。
皆様もご存知の通り、東京電力の原子力発電のトラブル隠しで失った信頼回復の為に、東京電力は
17基ある原子力発電所の点検作業を実施しており、この4月にはすべての原発が止まる予定です。
その原発停止分の発電量を補うため原油や重油等による火力発電を行っておりますが、その余裕は
極めて少なくなっております。もしこの時期に戻り寒波が来たら、或いは時ならぬ猛暑が来たら?。
一部の週刊誌等には、「首都圏(1都8県)の大停電」等の記事もみられますが本当なのでしようか。
おりしも3/20の日本時間の11時40分に米国等のイラク攻撃が始まり、石油においてもその供給に
不安材料が出て来ましたので、今月は電気を中心に日本のエネルギーについて考えたいと思います。

東京電力管内の原発の現状

東京電力では、下記の通り17基の原発を持っておりますが、4月15日までにすべての原発が
止まる予定になっています。東電の発電能力における原発の割合は約30%。しかし販売電力と
しての割合は、既に42%を占める原発の全面停止だけに前代未聞の大事態と言えるでしょう。
2年前の米国カリフォルニア州での大停電の原因が、ねじれた自由化の弊害だったとすれば、
今回は「原子炉の損傷隠し」という言わば日本的要因なのが、極めて印象的です。

号数 出力
万kW
停止日又は
(停止予定日)
停止理由 号数 出力 停止日又は
(停止予定日)
停止理由



1号 46.0 2002.10.26 定期検査



1号 110.0 2002.9.3 シュラウド損傷
2号 78.4 2003.3.31 定期検査 2号 110.0 2002.9.20 シュラウド損傷
3号 78.4 2002.7.18 定期検査 3号 110.0 2002.8.10 シュラウド損傷
4号 78.4 2002.9.16 シュラウド損傷 4号 110.0 2003.1.7 定期検査
5号 78.4 2003.2.11 定期検査 5号 110.0 2003.1.7 定期検査
6号 110.0 (2003.4.15) 自主検査 6号 135.6 2003.1.27 定期検査



1号 110.0 2003.1.7 定期検査 7号 135.6 (2003.3.29) 自主検査
2号 110.0 2002.9.3 シュラウド損傷
3号 110.0 2002.9.16 シュラウド損傷
4号 110.0 2002.10.13 シュラウド損傷 原発合計 1730.8

東京電力の発電能力と最大電力 

平成12年度の認可出力による発電能力は、合計5884万kWで、その内訳は下記の通りです。
構成比30%を占める原発が一時的にせよすべて止まる訳ですからやはり大問題です。
さて最も重要な過去の最大電力は、どのくらいだったのでしょうか。平成7年の最高電力は、
5,865万kW
でしたが、平成12年の5,924万kWまで、それ程大きく伸びていなかったのですが
平成13年の7月24日に、6,430万kW、前年対比+506万kWという大幅な伸びとなりました。
ところでこの最大電力 6,430万kWという数字は、東京電力の発電能力を上回っています。
すなわち東京電力は、管内での販売電力を管内の発電所や福島や新潟の原発等、自前の
発電所だけでは賄えず、電源開発や日本原子力発電等の発電会社や他の電力各社から
融通してもらっている訳で、その量は、1,151.5万kWにもなります。この融通分も含めた
合計 7,035.8万kWが現在の、いや今となっては昨年7月までの東電の発電能力でした。

水   力 火    力
水力計 一般 揚水 火力計 石油 石炭 LNG/LPG その他 原子力 風力 合計
出力万kW 850.8 217 633.8 3,302.6 875.7 0 2,426.6 0.3 1,730.8 0.1 5,884.3
箇所 160 24 3 1 188
構成比% 14.5 3.7 10.8 56.1 14.9 0 41.2 0.0 29.4 0.0 100.0

近隣電力会社も余裕は無く、周波数変換のボトルネックも存在 

その解決方法として、近隣電力会社からの融通分を増やせばよさそうなものですが、東電と同じ
沸騰水型である東北電力の女川(宮城)や、中部電力の浜岡(静岡)原発も、同様の問題があり
「柏崎や福島から来るはずの110万kWを、自前の火力で埋めているのでその余力はない」との
との東北電力のコメントがあります。
それでは関西電力など西日本の電力会社からの融通は期待出来ないのでしょうか。
残念ながら東西では周波数が違い、西の60ヘルツを東の50ヘルツに変えるための変換施設が
新信濃と佐久間にありますが、上限で90万kWという制約があります。また中部電力が新清水で
建設中の30万kWの変換施設も、送電線の用地問題等で完成が遅れているとの事で、すぐに
利用するというのは、難しいようです。

東京電力の対策は

では現在の具体的な対応はどうなっているのでしょうか。東京電力では、
長期間止めていた火力発電所の運転再開や、新設火力発電所での運転開始の繰り上げや、
試運転電力の活用、そして予定していた火力・水力発電所の定期検査や補修期日の変更等
可能な対策を行っていると発表しています。

1.休止中の火力発電の運転再開
 (1)通年運用停止火力の状況
   鹿島火力   3号(60万kW) 14年11月26日 運用開始
            4号(60万kW) 15年 1月 8日 運用開始
            5号(100万kW) 14年 9月 8日 運用開始

 (2)長期計画停止火力の状況
   横須賀火力  8号(35万kW)  14年11月27日 運用開始
            7号(35万kW)  14年12月27日 運用開始
            6号(35万kW)  15年 2月21日 運用開始
            5号(35万kW)  15年 7月上旬 運用開始予定
            2号(26.5万kW) 15年 7月上旬 運用開始予定
   川崎火力    5号(17.5万kW) 15年 2月 4日 運用開始
   鹿島共同火力 2号(35万kW)  14年12月 3日 運用開始

2.試運転電力の活用
  常陸那珂火力1号 (100万kW) 14年12月13日 運用開始
  品川火力1号系列3軸(38万kW) 15年 2月14日 運用開始
  富津火力3号系列2軸(38万kW) 15年 1月27日 運用開始
  富津火力3号系列1軸(38万kW) 15年 5月中 運用開始予定

東京電力の主な火力発電所とその能力 

平成12年度の認可出力による発電能力では、その主な発電所の内訳は、下記表の通りです。

発電所名 所在地 認可最大
出力千kW
単機容量
(千kw)
使用燃料
千葉 千葉県千葉市中央区蘇我町2 2,880

360 × 8 基

LNG
五井 千葉県市原市五井海岸1 1,886 265 × 4他2基 LNG・重油・原油・NGL
姉崎 千葉県市原市姉崎海岸3 3,600 600 × 6 基 LNG・重油・原油・LPG他
袖ヶ浦 千葉県袖ヶ浦市中袖2の1 重油・原油
川崎 神奈川県川崎市川崎区千鳥町 1,050 175 × 6 基 LNG
横浜 神奈川県横浜市鶴見区大黒町11 3,500 350 × 9他2基 LNG・重油・原油・NGL
南横浜 神奈川県横浜市磯子区 1,150 350 × 2 他1基 LNG
東扇島 神奈川県川崎市川崎区東扇島 2,000 1,000 × 2 基 LNG
鹿島 茨城県鹿島郡神栖町大字東和田 4,400 600×4+1000×2基 重油・原油
大井 東京都品川区八潮1の2の2 1,050 350 × 3 基 原油
広野 福島県双葉郡広野町大字下北迫 3,200 600×4+1000×2基 重油・原油・天然ガス・NGL
品川 東京都品川区東品川5の6の22 380 380 × 1 基 LNG
八丈島 東京都八丈島八丈町中之郷 3.3 3.3 × 1 基 地熱

1日の時間帯別電源構成比と負荷曲線の推移

冒頭で発電能力に占める原子力の割合は約30%、
また総販売量に占める割合は42%とご説明しましたが、
これをピーク日に近い1日でご説明します。
まずベース電力としては、貯めておいてタイムリーに使う
事が出来ない流込式の水力、一定出力での連続運転に
適している原子力、そして環境特性には若干難があるも
のの、コストが安い石炭火力がそれを担います。
次にミドル供給力として、負荷追随制が良く、また高く環境
特性が優れているLNG等のガス体エネルギーが使用され
その次にようやく石油火力の出番となっています。
そして最ピーク時においては、貯水式や調整池式の
一般水力に加え、夜間汲み上げておいた水を使って
発電するコストとしては最も高い揚水式水力発電で
その最ピーク時を凌ぐという供給構図になっています。
また月別の最大電力は、公表されていないようですが、
月別の総販売電力量は下記表の通りです。

2001-2002年 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 年度計
販売電力量億kWh 214 209 222 251 270 241 217 215 223 242 235 216 2755

激減して来た電力用重油

しかし石油業界人としては誠に残念なのですが、石油火力は、原子力にその座を奪われた
だけでなく、コストでは石炭に、環境面ではLNG等にその存在を徐々に奪われていったのが
実態で、近年の電力向けの重油の使用量は、すべり的な減少を続けていました。

   電力向けの重油出荷、電力10社計、(原油を除く)
年度使用量 H13 H12 H11 H10 H9 H8 H7 H6
重油千KL 8,684 11,649 12,937 13,280 14,678 16,363 19,059 22,362
前年比(%) 74.5% 90.0% 97.4% 90.5% 89.7% 85.9% 85.2% =====

それでも責任を果たしている石油業界

これだけ長期に需要が減少すれば、供給側もそれなりの対応をしなければ、企業として存続
出来ない事は明らかで、石油各社は、製油所や油槽所の廃止、内航タンカーの大幅削減等
後戻りの出来ないリストラ対策を行って来ました。そして昨年の夏、原発問題を迎えましたが、
その後の電力向けのC重油の伸びが、事の重大性を表していると思います。
    電力向けの月別重油出荷量、電力10社計、(原油除く) 一部推計
単位千KL 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 合計
H14年度 309 254 398 638 653 899 923 1,179 1,521 1,444 1,295 1,045 10,560
H13年度 665 638 728 1,356 1,206 585 503 480 660 651 713 497 8,684
前年比% 46.5 39.8 54.7 47.1 54.1 153.7 183.5 245.6 230.5 221.8 181.6 210.3 121.6
この表からも分かる通り、前年比50%以下で推移した需要が8月以降増加に転じ、11月以降は
正に2倍以上のペースになっています。この急激な需要増に対応している事は、石油業界として
社会的責任を果たしている訳で、この点はもっとアピールして良いのではないかと思います。
また今冬が寒かったこともありますが、灯油卸価格の高騰を始め、中間留分や更にガソリン卸
価格まで高騰したことは、電力向けの需要増の影響が、少なからず出ていると言えるでしょう。

電力需要と予備率

さて今年の冬はかなり厳冬でしたが、12月以降の電力の供給はどうなっているのでしょうか。
これは非常に厳しい綱渡り状態と言わざるを得ず、予備率は1桁にまで落ち込んでいます。
すなわち12月、1月、2月の最大電力を5400万kWと予想すると、予備力は12月で200kWで
予備率4%、1月は300kWで予備率6%、2月は200万kWで予備率4%、そして3月には、需要は
5100万kWに減るものの、稼動していた原発も順次停止するので、予備力は限りなく0に近づく
ということを、東京電力自身も認めています。この予備率0という話がどくらい本当なのか
分かりませんが、前述のカリフォルニア州では、予備率7%割れで発動する「ステージ1」。
予備率5%割れの「ステージ2」では供給遮断を可能とし、1.5%割れでは、輪番停電を実施する
「ステージ3」として危機管理計画を作成しているので、深刻な数字であることは確かなようです。

首都圏大停電はあるのか

さて一部の週刊誌では「首都圏大停電」と何かと書き立てられた原発問題ですが、本当に
そんなことが起きるのでしょうか。資源エネルギー庁では、原発の安全性に問題ないという
見解に変わりはないようですし、大停電になった時に日本経済や、首都機能に与える実害
それに伴う補償問題や責任問題を考えるとそれは避けられるのではないかと思っています。
これは私のあくまで個人的見解ですが、地元自治体も、振り上げた拳を如何にして下ろすか
という段階に入っているのではないでしょうか。早ければ最後の原発が止まる4月中旬か
遅くとも5月中には、原発再稼動の了承が得られるのではないかと思っております。

今我々一般消費者がすべきこと

だからと言って我々一般消費者が何もしなくて良い、と申し上げているのではありません。
実は近年の電気の需要の伸びは、平成元年対比で134%になっていますが、用途別に見ると
電灯用が150%、業務用が167%と、産業用のそれに比べ大幅な伸びになっています。
            契約形態別販売電力量の対比
単位億kWh 電灯 業務電力 小口電力 大口電力 その他 電力計 合計 民生比 産業比
平成11年度 840 715 319 834 34 1902 2742 69% 31%
平成元年度 558 429 270 748 40 1487 2045 61% 39%
伸び率% 150.5 166.7 118.1 111.5 85.0 127.9 134.1 +8% -8%
また欧米の使用形態と比べても、冷暖房用の需要は欧米諸国の1/5程度だそうですが、
格段に日本の方が多いのは、1家にテレビは2-3台が当たり前という家電製品よる使用量
だそうです。確かに各種電気機器の性能は高まってはいるものの、現在の極めて不景気
といわれる経済状態の中でも、恐らくその絶対台数が増えているからでしょう。
従って、短期的には省エネをもっと身近なものとしてとらえ、自宅等の電気使用量や
使用エネルギー全体を、前年以下に抑制する等の工夫が必要でしょう。

消費者に密着した分散型発電の普及を目指して

将来の日本の電力エネルギーについて、1人1人が1度じっくり考える必要があると思います。
私個人はお台場や幕張に原発があってもよいと思っていますが、東京都民の一人として
原発を設置させて頂いている、近隣住民の方々に深く感謝をするととともに、10年先には、
燃料電池等での送電ロスのない分散型発電を普及させて行くのがよいと思います。
既にLPG等のガスエンジン型のヒートポンプエアコンは50万台にも達し、それにより節電した
電力は100万Kw型の原発3基分と言われているのも一例ですし、太陽光発電等も夏の日中の
ピークカットには最適なので、このようなベストミックス型の省エネを、国全体で推進していく
のがよいと思いますし、我々のような中小のエネルギー企業でも十分役に立てると思います。

番外編、石油業界人として、イラク戦争に思う

さて大変遺憾ながら、米国によるイラク攻撃が始まりました。私個人としては新聞やテレビ
以上の情報は持ち合わせていませんが、石油業界人として、マスコミにはあまり、報道されて
いない事実をご提供したいと思います。

Q1、世界の石油生産量66,692千BDの内、2,355千BDと構成比にしてわずか3.5%のイラクが
   何故そんなに注目されているのでしょうか。
A1、私は生産量ではなく、可採年数にして130年という1125億Bの埋蔵量にだと思います。
   生産量では同量の英国北海油田の可採年数は6年ですから決定的な違いがあります。

Q2、脱石油、脱中東を図れという安易な解説者の発言にたいして
A2、前述の原発問題の対応を挙げるのでもなく、電気が二次エネルギーである事を考えれば
   少なくとも向こう10年、長ければ20年は、石油に頼らざるを得ないというのが、日本の実情
   ではないでしょうか。その先については、燃料電池等が進めば水素が二次エネルギーの
   中心になってくるでしょうから、日本近海にも大量に存在するというメタンハイドレードの
   開発し、メタンから水素を取り出すなんてことが主流になるかもしれません。

Q3、脱中東を図れという安易なご意見に対して
A3、皆さん昨今の中東依存度をご存知でしょうか。
   第1次オイルショックの1973年度は、77.5%、第2次オイルショックの1979年度は、75.9%
   10年前の湾岸危機の1990年度は、71.5%でしたが、96年度に80%を超えてからは、上昇し、
   2001年度には、87.9%にも達しています。
   その理由を一言で言えば、供給能力が高く、コストが安くことがあげられると思います。
   現在の石油は、平常時は全くの自由取引となっていますから、経済原則に従った取引と
   中東以外の高い原油を開発したところで、それはすべて石油会社の負担となります。
   その一方有事においては統制されますから、コスト以上の値上げは出来ない訳です。
   従って、単に中東依存度を減らせというなら、法律等を作り中東以外の原油の引き取りを
   義務付ける一方、それに見合う必要コストは、備蓄義務同様、既存の石油関連の税金の
   中で国が負担する等の具体的な制度が必要でしょう。
 
                                               3/28 文責 垣見裕司