WTI最高値更新以上に深刻な中東原油の高価格
 国内のガソリン卸市況、末端市況も大幅値上げへ
 

あなたは原油価格並びにガソリン市況関連企画の番目のお客様です。(4月更新時70000件)
3月17日に続き4月1日もWTIが最高値を更新しました。原油の高値は極めて遺憾ですが、一般のマス
コミはWTIが上がらないとトップニュースとしては取り上げてくれないので、この意味は大きいと思います。
石油業界の方は勿論ご存知と思いますが、日本の原油コストを事実上決めている中東原油価格は
2月時点で既に過去最高価格を突破しており、石油業界の仕入コストを確実に押し上げおります。
元売各社は、4月は5円/L前後の値上げを発表しましたが、2月や3月の値上げ分を含めるとなんと
8円にも達します。昨年9月以上に値上げ待ったなしの状況となった石油業界について可能な限りの
実データを示しながら、業界人としての説明責任を果たしたいと思います。 文責 垣見裕司

最高値を突破したWTI
3月17日、WTIが昨年10月25日につけた最高高値をついに突破し、NHKのニュース等でも
ようやくトップで報道されるようになりました。まずは1月企画同様その動きをご紹介します。

                       WTI 期近つなぎ 週足 


2003年9月からほぼ1本調子で上げて来ましたが、昨年10月25日のピーク 55.67ドル/Bから
本年2月7日の 44.6ドル/Bまで一度は下落したものの、その後徐々に上昇し、僅か40日後の
3月17日、ついに最高値で 57.6ドル/B と急上昇しました。

最も深刻なのは、中東原油の最高値、そしてWTIとの格差縮小は何を物語るのか
しかし昨年の10月と比べて問題なのは、日本の原油コストを事実上決める中東原油価格が
2月の時点で既に過去最高価格を突破し、石油業界の仕入コストを確実に上げていることです。
そしてもう一つ注目したいことは、WTIと中東原油との格差が急速に縮まっていることです。
具体的な数字でご説明しますと、WTIが最高価格をつけた昨年10月の月間平均は、$53.09/B
これに対しオマーン39.75ドル/B、ドバイ、37.54ドル/B。従ってドバイ、オマーンの平均とWTIとは
14.44ドル/Bの差がありました。しかし本年 2月の平均では、ドバイ39.87ドル/B、オマーン
41.07ドル/B と 2月の時点で既に過去最高価格になっただけなく、月平均価格で、48.05ドル/BになったWTIとの格差は、7.58ドル/Bと 10月に比べて約半分にまで縮まっていることです。
更に、3月の価格では、ドバイ45.72ドル/B、オマーン47.20ドル/Bまで上昇するとともに、WTIとの
格差縮小の傾向は変わってはおりません。

月平均 $/B ドバイ オマーン 平均 WTI 格差
2004年10月 37.54 39.75 38.64 53.09 14.45
2005年02月 39.87 41.07 40.47 48.05 7.58
2005年03月 45.72 47.20 46.46 54.62 8.16

 今まで原油高の要因は、中国や米国の旺盛な需要はあるものの、中東情勢の不安感を
煽った投機資金が主因であるという見方が一般的でした。多くのアナリストも、WTIと中東原油
の油種的な差は、せいぜい10ドル/Bなので、それ以上は、投機プレミアムであると解説して
来ました。それがもし本当なら10ドルを割った現在の格差は、もはや投機による高騰ではなく
実需の逼迫による価格の上昇であると判断せざるを得えないのではないでしょうか。
 その一つの表れが、3月16日にイランで開かれたOPEC総会です。結論として加盟10カ国で
2700万BDの生産枠を直ちに50万BDを引き上げるとともに、それでも高騰が続く場合は、
5月1日より更に50万BDを再度引き上げる事を決定しましたが、その発表の後も原油市場が
高騰し続けている状況を見ると、その増産発表は現状の闇生産の追認に過ぎず、実際の
増産余力は、サウジ以外殆どないのではないかと市場が判断しているのかも知れません。
 北半球の冬季需要のピークを過ぎた4月以降も、中東原油が高値圏で推移する場合は、
再び投機筋の資金の大量流入のきっかけとなり、まさかと思われていたWTI 60ドル/Bの
突破も「想定の範囲」に入れなくてはいけないのかもしれません。いずれにしろ日本の原油
輸入価格は2月以降、確実に上昇している重大な事実を、是非ご認識頂きたいと思います。
元売の卸価格値上げは、3月4月合計約8円という大幅な額となった
この原油コストUPに対して、元売は卸価格の値上げを発表しました。
2月の卸価格値上げは、約1円。しかし末端市況は、一部の安値底上げと限定的でした。
3月の卸価格値上げは、2月分も含めた1月比約3円50銭という絶妙の表現になりました。
そして外資系最大手元売が3月第1週の週末から値上げをすると発表、全元売が出揃った
のをきっかけに、初めは様子を見ていたSS業者も第1週から第2週にかけて値上げし、
末端市場は、4円程度上がったのではないでしょうか。
しかしそれは、石油情報センターで発表している日本全体のガソリン市況で見てしまうと、
2月価格の116円から3月価格117円と+1円に留まっていて、まだ弱いような気がします。

さて各元売の4月の卸価格の値上げの発表は、5円前後の極めて大きな幅となりました。
その2月からの合計は、約8.5円。これを3月と4月の2ヶ月で転嫁しなくてはならないので
昨年の4月から9月1日までの5ヶ月間で累計8.8円の値上げをさせて頂いたことから思うと
今回は、極めて短期にその値上げを実施しなくてはならなくなりました。
暴騰した灯油業転価格にみる需給環境
では、石油各製品の現物市場の動きはどうなっているのでしょうか。
ます灯油から説明しますと、灯油に限っては、原油高騰の動きというよりは、需給バランスが
その原因だと思います。昨年11月に43円まで高騰した灯油が、12月の暖冬の影響を受けて
一時38円まで下落しましたが、その後の寒波等で需要が急増し、京浜地区で1月39.3円、
2月42.5円、そして3月下旬には、なんと52円まで、高騰しています。
 その原因は、出荷増による在庫の減少でしょう。石油連盟の3/16に発表された統計によれば
灯油在庫は、1693千KLで前週比89千KL減少し、この週報を発表して以降、最低レベルにまで
落ち込んでいます。
 一部の新聞では「価格を上げるために原油処理を絞っている」という表現が見られましたが
同時期の精製設備の実稼働率は、前週の94%から更に上がって95.1%なので、事実上フル生産
に近い言えるでしょう。


一方ガソリン業転価格は、1月の88.9円から 2月90.7、3月93と緩やかに上昇していましたが
3月の月末から98円と急騰しました。灯油需給が逼迫し、社会的使命として安定供給をして
来ましたが、3月下旬以降需要も落ち着き、ガソリンを中心とする生産になったのでしょうか。
 もう一つ今のガソリンの業転価格が上がりにくいかった要因として忘れては行けないのが、
季節別すなわち夏と冬の需要格差です。例えばガソリンは、昨年8月5848千KLと猛暑等で
過去最大を記録しましたが、2月には、推定4600千KLまで落ち込んでいます。
一方灯油は、ピークは月間約 5000千KLですが、夏場は、900千KL程度まで落ちますから、
その生産や在庫管理の大変さは容易に想像出来るでしょう。
さて今後はどうなるのでしょうか。原油は遺憾ながら高値安定が続いてしまうと思います。
私が業界に入った頃は、「原油が長期的に30ドル/B以上になると、砂の間に原油が混ざった
「オイルサンド」等の開発が採算に乗るのでそれ以上は上がらない」と聞いた記憶がありますが
投資から回収までかなりの時間がかかるのか、短期的キッシュフローを重視する時代になって
しまったまか、一向にその話は聞きません。一方国内の各石油製品の現物価格も1月企画
申し上げた通り、次の項でご説明する定修もあり暫くは堅調に推移すると思います。
ピーク時は全精製能力の22%にも及ぶ定期修理で、
そしてこの時期、価格形成の要因として忘れては行けないのが、精製設備の定期修理です。
現在、日本国内の原油処理能力は、4769千BDですが、装置産業の宿命として、毎年か
少なくとも数年に一度は、どうしても定期点検や修理が発生します。業界では略して「定修」と
読んでいますが、ある時期に稼動を停止して定修に入る精製設備は、全体でどのくらいの割合
になると思いますか?。実は2005年の定修計画をお伺いしましたのが、下記表の通りです。

全体能力 4769千BD 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
休止能力  (千BD)  402 1,041 498 256 60 208 135 77 52
休止率   (%)  8.4% 21.8% 10.4%  5.4%  1.3%  4.4%  2.8%  1.6%  1.1%

5月は、なんと全能力の22%も操業を停止するのです。前述の通り、現在の稼働率は95%
ですから、4月から6月くらいまで需給逼迫が予想されます。現に昨年の業転価格の高騰は
この定修がそのきっかけになったとも、言われています。
従ってこの「定修」や万一の時の「故障」等でも安定供給や、中国等の経済成長による化学
原料の不足等を総合的に考えれば、現在の精製設備は、適正能力で、「1割過剰である」
という一部マスコミのコメントは、適切ではないと思います。
一時下落した末端市況も再び上昇、そして4月5月は大幅値上げへ
では、肝心の末端市況の動きはどうなのでしょうか。
石油情報センターは、都道府県単位の発表なので、激戦区の価格変動を即座に把握する
のは難しいのですが、11月で税込み120円/Lにまで上がった全国平均のガソリン価格は、
12月 119円、1月 117円、2月には 116円まで下落しました。そして 3月23日に発表された
3月10日価格は 117円と1円だけ回復しました。
これは、あくまで日本全体の平均ですが、当社SSのある西東京方面では、11月に確かに
118円くらいまで上昇後下落を初め、2月には108円まで9円も下落しました。
その間卸価格は 12月に 3.5円/Lしか下がっていないので、如何に厳しい状況か、ご理解
頂けると思います。そして3月は、第1週末の外資系大手元売の値上げをきっかけに
市場が動き第2週からは、112円/Lまで回復しました。しかし4月は、5円前後の卸価格の
大幅な値上げとなり、今年の累計で8.5円。従って最低でも11月の末端価格の120円から
122円以上をお客様にお願いして行ゆくこととなりました。
大幅値上げで需要は減るのか
ところで、現在の原油高騰は間違いなく第4次の「価格」オイルショックといえるでしょう。
勿論、ドル安分や他の物価等の換算をする必要があるので、単純比較は出来ないと
思いますが、第1次、第2次オイルショックと比べて決定的な違いが一つあると思います。
 それは、ガソリンで言えば、平成11年2月のボトムである90円から昨年11月の120円まで
なんと30円も、それこそ、約60円近い税金を除けは、30円が60円になったにも関わらず
需要が全く落ちない、すなわち価格高騰による需要抑制効果が今回はないということです。
 その理由は、何でしょうか。産業用燃料の場合には、省エネや効率化が進み、製造コスト
に占める燃料費の割合が、当時より大幅に少ないからと言われていますが、末端ユーザー
に直結しているガソリンに関しては、お客様に負担する余裕があるということでしょうか。
 ご当局等も原油高は、経済や景気への悪影響を懸念はするものの、何か具体的対策を
講じるというよりは、「注視」しているという表現に留まっているように思います。
 ちなみに3月22日、総合エネルギー調査会から、平成16年度の実績見込みと平成21年度
までの需要想定が発表されました。
 平成16年の実績見込みでは、ガソリンが6118万KLで前年比1%増、4878万KLのナフサと
479万KLのジェット燃料が前年増となったものの、それ以外の油種は、全て前年割れで
特に電力用重油の25%近い落ち込みが全体を引っ張り、燃料油合計では、23550万KLの
前年比2.2%減となりました。
 そして今後5年間の需要想定は、年平均でガソリンこそ0.1%と殆ど横ばい、その他は
微減となり燃料油全体では、毎年1%の減少と見込んでいるようです。
お客様に対する十分なご説明が必要
さてこの原油高騰に当たって、我々販売業者は、何をすれば良いのでしょうか。
私は「原油価格の記録的な上昇」という原因がこれだけハッキリしている値上げですので
自信を持ってご説明し、その転嫁をお願いすべだと思います。
 昨今SS業界は現金販売が圧倒的に増えてきました。多くの業界経営者は決して
「単に看板表示価格を上げれば値上げ活動はお終い」と安易考えてはいないと思いますが
では、現金お客様にどのくらいこの「歴史的な原油価格の高騰という背景」ご説明しているか
多少心配になります。
 当社SSでは一般紙や業界紙を問わず、原油価格の高騰記事等があると、それを各SSに
配布しレジカウンターや休憩室の机、そしてトイレ等にも張り出すようにしております。
また所長や従業員には、「お客様に自信を持ってご説明するとともに、これを良い機会ととらえ
お客様にご納得して頂けるまでじっくり対話をしてほしい」と指導しているところです。
今月企画に記載したデータも、その説明資料の一部ですが、もしよろしければ、SS経営者の
皆様にとって、当社HPの各種データがご参考になれば、幸いです。

     ご意見ご要望ご感想はこちらから 垣見 裕司 2005年4月2日更新 Ver 3