今年の原油市況、現物業転市況、末端市況はどうなる 調整を始めたWTI、暖冬で暴落の灯油、ガソリン下落を考える |
一言で言えば判りません。このHPで何度も申し上げているとおり、昨今のWTIの価格は、変動が大きかった昨年のガソリン、軽油、灯油の業転価格
実際の需給バランスで決まるのではなく投機筋の思惑一つで、乱高下しているからです。
下記グラフは、昨年9月からのWTI期近繋ぎ価格の週足チャートです。
2003年9月から、ほぼ1本調子で上げて来ましたが、10/25のピークから僅か1ヶ月間で
6月の水準である40$台に急落、しかし直近で再び46$まで上昇して来ました。
この動きは、実需要因では全く説明のつかない動きでしょう。幸いにしてバスケット価格やドバイ
&オマーン価格の変動は、ここまで激しくないので、現業者としては多少助かっています。
ではこれらの投機要因や地政学的リスクを除いて、冷静にファンダメンタルズを分析しましょう。
1.中国の旺盛な需要はもう少し続きそうである。
2.サウジアラビア等では若干の設備増強が進められたり、原油以外でも天然ガス等の開発は
多少進むものの、イラクの増産はあまり進まないし、他の産油国の増産余力は低い。
この事実には変わりはないので、WTIで40$ ドバイやバスケット価格で30$を大幅に
割る事はないのではないかと予想しています。
またもう一つ言えることは、昨今の環境問題の高まりから、軽質油や低硫黄油へのニーズが
今年も更に高まることは間違いなく、WTIのような軽質油へのニーズを中質油が中心の中東
原油では満たしきれないというミスマッチは今年も続き、その価格差は、よりはっきりしてくる
のではないかと思います。
その意味では、WTIの産出量は25万BDと決して多くはありませんが、軽質油の代表という目
で見れば、中質油であるドバイ原油との格差は、投機プレミアムや地政学的なリスクは行き過ぎ
ですが、この軽質-中質格差も多少はあるのではないかと思っています。
少しは増産余力がある中東諸国が、この軽質化問題にどう対処して行くのかは、見ものです。
次に元売と商社や大手特約店間の取引指標として重要な業転市況について考えてみます。今年の業転価格は、どうなるのか
下記の通りガソリン業転は、昨年12月の80.6円/L(税抜26.8)の水準から上昇を始め
6月の97.9円までほぼ1本調子で値上がりし、ボトム比なんと17.3円/Lも上昇しました。
しかしその後は、7−8月の記録的な出荷量だったにもかかわらず緩やかに下落し始め
12月は90円割れまで急落しました。(何故でしょうかこれは後で解説します。)
逆に夏場、出足の遅かった灯油軽油は、灯油の史上最低在庫等の要因から急上昇し
11月には42.9円まで高騰したものの、暖冬で全く需要が伸びず11月からは急落しました。
しかし需要は、ここ数年低迷している軽油もサルファーフリー問題で支えられているので
しょうか、堅調な価格を維持しています。この業転高に影響してか、今までは大手運送会社
に買い叩かれていた直売大口軽油ですが、トラック協会へのインタクク販売軽油価格は、
11月でボトム比10円台の値上げに成功したと聞いています。(下記表12月は当社推定)
販売業者の方からは怒られそうですが、比較的堅調に推移するのではないかと見ています。系列仕切価格の一年間の動きと 元売のコスト改定発表に思うこと
1.原油処理能力の向上に繋がる大きな投資はなく、トッパー能力が増える事はない。
2.二次処理設備の稼働率は、極めて高く、余剰品が昨年以上に出ることは考え難い。
3.中国の旺盛な需要に引っ張られた、石油化学品の高騰は続いているので、成分の近い
ガソリンがこれ以上下落すれば、化学品原料としての輸出は更に増え、需給は締まる。
4.ガソリンと軽油のサルファーフリー化で、一部外資系は最少の投資で、そのスペックを
満たしているので、実質的な生産能力は低下しているのではないかと言われている。
5.サルファーフリー化で日本国内の自動車燃料は世界最高水準となった為、近隣諸国
からの製品輸入は、スペックUPしなければならず、海外製品価格が下落したとしても
見えない品質の壁が出来たと言えるので、輸入品が大量に増えるとは思えないこと。
6.3月末期決算では、史上最高収益が予想される元売各社は、その学習効果から、
業転価格が大幅な下落をするような製品の放出は、しないのではないかと思われる。
以上がその理由です。では「暖冬要因の灯油の下落は判るが、何故ガソリンが12月に90円
割れとなる大幅下落をしたのか」という業界通の鋭い突込みが聞こえてきそうですね。
実は、石油連盟基準を満たさなくなったガソリンを一部外資系元売が放出したところ、過去は
価格維持も含めて、買っていた元売が買わなかったので、あまり売買量を伴わないまま
価格だけが下落してしまった、とある筋から聞きました。もしこれが本当なら、今月からは、
90円割れのガソリンはなくなりそうですが、どうなるかは楽しみです。
昨年一年間は、仕切価格上昇分の転嫁にそのエネルギーを注いで来た様な感がありますが先物価格はどうなるのか
元売のコスト改定発表は、1年合計でいくらになったのでしょうか。新日石の例で確認します。
(円/L 12月は当社推定)
月 ボトム月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合計 建値改定額 +2.7 −0.5 +3.7 −0.8 −0.1 +3.8 −1.9 +1.9 −3.4 +5.4 原油CIF価格 10月 19.6 22.3 23.9 25.9 25.1 26.1 28.5 27.7 28.1 ? 27 +7.4 ガソリン業転 12月 80.6 88.3 93.3 97.9 93.6 96.8 95.8 93.1 92.9 ? 91 +10.4
まず忘れてはいけないのは、4月からの消費税総額表示です。本来の値上げと消費税が
加算されましたので、お客様からの随分高い?という印象が極めて強かったことです。
しかし仕入価格は、相変わらず税抜での論議なので、一般紙等の、税込売価105円
−税抜仕入95円 = 業界粗利は 10円ある などと言う表現は、極めて遺憾です。
そしてもう一つの問題は、元売が発表しているコスト変化の累計が、昨年1年間で+5.4円
なのに対し、末端市況は、税抜の比較で3月比、12月価格で 10円以上も上昇しているが
これは上がりすぎではないか、という誤解です。
元売は、「12月のコスト変動は-3.4円」と発表しておりますが、これが新聞に掲載される時は
「新日石、12月仕切は-3.4円の値下げ」と発表されてしまい、如何にも全特約店の価格が
一律で 3.4円 安くなるような誤解を招いてしまいます。しかし実際に満額下がるのは、元売に
とって過去、その理想的な高い建値で請求し回収し続けられた、非常に市況の良い一部の
ケースの話でなので、業転価格の変動や市況の変動、そして元売の言うコスト改定が、ミックス
されたような形で決められている我々一般的な特約店の仕切価格は、実際その半分くらいしか
下りませんでした。また他系列からは安くなったのだろうと疑心暗鬼を生み、結果的には
12月の市況混乱に繋がって行ったような気がします。
販売元売と言えども、我々特約店の企業秘密である仕切価格の変動を「毎月」公表する
社会的義務は無いと思いますので、コンプライアンス上公開する必要があるなら、原油通関等
のコスト変動で良いと思います。また一番大切なお客様にとっても「9月に3.8円も値上げして
10月は1.9円値下げで、11月は、また1.9円値上げ」では、かえって混乱してご迷惑でしょうから
個々の販売元売なり、特約店なり、SSなりが、各段階で良く相談し、3ヶ月ターム等、ある程度
加重平均しても良いのではないかと思います。
以上が実情ですので、マスコミの方や一般消費者様におかれましては、コスト変動の発表が
イコール仕切改定額では無いことを、よくよくご理解頂ければと思います。
ガソリンの末端市況はどうなる
次に東京工業品取引所の灯油の先物価格の動きをみてみましょう。上記表は、東工取の
灯油先物の期近繋ぎの週足です。業者間の価格決定方式は、RIM価格やCIF連動が多く
この先物価格を一部なりとも考慮にいれているところは、まだほとんどありませんが、
100KL単位で、京浜地区のどこにでも取りに行ける「企業力」と「物流的力」があれば、
期日が来れば、実際その価格で買えることが出来るので、買ったことこそないものの、
注目して見ている現業者は極めて多いでしょう。また取引量が20KLの名古屋市場は、
我々現業者にとっては、利用し易い市場といえるでしょう。
しかし昨年の変動は、あまりにも多き過ぎました。これでは、リスクヘッジという本来の目的
ではなく、「変動することから利益を生み出す」一部投資家に、石油業界が翻弄されてしまう
のではないでしょうか。10/25に48円という高値で売った人がいるということは、48円で買った人
もいる訳で、その後の暴落で大損をしていることでしょう。
実は、この10月から11月の価格変動の仕掛人は、外人投資家であるという話を聞きます。
東京市場は、海外から見れば、また商いが少なく価格をコントロールし易いということで、
WTIの変動を見ながら売り買いしたという話を聞きました。一見、海外価格と連動することは、
開かれた市場で歓迎すると申し上げたいところですが、現業者としては、国内の現物スポット
価格とリンクしてほしい、と思います。
と言うのも日本の石油製品の質は、世界一と言っても過言ではなく、言い換えれば、最高の
「品質という見えない壁」に守られた、市場であるとも言えるので、海外市場=国内現物市場と
言うほど簡単ではないからです。色々な要因を加味し、本当の意味でのリスクヘッジの出来る
開かれた市場になってもらえればと思っています。
12月の一部地域でのSS末端市況は、「3.4円のコスト安変化」という新日本石油の発表以上に我々SS業者がすべきことは
末端価格は下落を始めてしまいました。当社直営も、11月上旬の 120円/Lの販売価格は、
11月下旬から段階的に引き下げし、12/29現在は、なんと110円まで下がってしまいました。
これは税抜きで言えば、104.5円。再び低マージンでの2005年のスタートを余儀なくされました。
では、改めて今年の末端市況は、どうなるのかですが、それには、業転価格がどうなるかを
しっかり把握する必要があると思います。前述の通りですが、改めて纏めてみると
1.原油処理能力の向上に繋がる大きな投資はなく、トッパー能力が増える事はない。
2.二次処理設備の稼働率は、極めて高く、余剰品が昨年以上に出ることは考え難い。
3.中国の旺盛な需要に引っ張られた、石油化学品の高騰は続いているので、成分の近い
ガソリンがこれ以上下落すれば、化学品原料としての輸出は更に増え、需給は締まる。
4.ガソリンと軽油のサルファーフリー化で、一部外資系は最少の投資で、そのスペックを
満たしているので、実質的な生産能力は低下しているのではないかと言われている。
5.サルファーフリー化で日本国内の自動車燃料は世界最高水準となった為、近隣諸国
からの製品輸入は、スペックUPしなければならず、海外製品価格が下落したとしても
見えない品質の壁が出来たと言えるので、輸入品が大量に増えるとは思えないこと。.
よって昨年末のガソリン90円割れは、急速に改善され、その後は底固く推移するので
系列卸価格も、昨年同様しっかりするものと思われます。
そうなれば、12月年末時点での一部地区での安値混乱市場は、是正されて来なければ、
ならないはずです。もしそれでも超安値で乱売合戦に参戦するなら、もはや自己責任で
販売する必要があるでしょう。昨年1年間仕切転嫁に苦労したので、その学習効果もあり、
一部地域での乱売戦が、短期で収束することを願っております。
では、我々SSは何をすればよいのでしょうか。その答えや方法は生き残るSSの数だけあるの
ですが、私どもは、市況や販売価格に「一喜一憂」しないようなSS経営をしようと思います。
「そんな事が簡単に出来れば苦労はしない」とのお叱りも聞こえてきそうですが、実は根本が
「わかれ」ば、そしてトップが本気で「かわれ」ば、意外に早く確立出来かもしれません。
その具体的方法は、、、今年の3月企画でゆっくりお話しすることにしましょう。
それでは、本年もどうぞよろしくお願いします。
ご意見ご要望ご感想はこちらから 垣見 裕司 2004/12月27日更新 Ver 3