日本の電力危機を考える
 猛暑や自由化だけない本当の理由とは
あなたは7月電力危機企画の番目のお客さまです。
3月22日の停電危機については、本HPで、地震や一時の寒さだけではない
本当の理由を書かせて頂きました。その私でさえ、夏は太陽光があるから
何とか大丈夫と思っていたのですが、10年に一度どころか、事実上最短に
近い梅雨明けとなり、6月では観測史上初めてとなる40度も記録しました。
 しかしテレビのコメンテーターは、現状を非難するばかりで本質的な議論が
見えません。そこで今月は、昨今の電力危機。その原因は自由化なのか。
環境優先政策やESG投資の弊害ではないか。その対策についても考えて
みたいと思います。(緊急-勿来発電所9号60万kW故障、復旧の目処無し)
             6月30日 11時初掲載  文責 垣見 裕司

直接的な原因は
まず現在の電力危機の直接的な原因を考えてみたいと思います。
第一は、3月16日の宮城・福島地震の影響で、
東北電力、原町火力1号(石炭)100万kW、同2号(石炭)100万KW
       新仙台火力3-1号(天然ガス)52.3万kW
相馬火力、新地火力1号(石炭)100万KW、同2号(石炭)100万kW
JERAの広野火力6号(石炭)60万KW
等合計で500万kW以上の火力発電所が止まっていることです。
第二は、6月としては過去例のない早さで梅雨があけ、猛暑となり
電力の最大需要が真夏並みの500万kWを突破していることです。
しかし本当の根本的な原因は2016年の電力自由化と太陽光の
普及だと思います
それ以前は総括原価方式で極端な話、一年に
1日しか発電しない老朽火力の維持経費も保障されていました。
それが自由化で役割が各段階で、JERA等の発電と、送配電と、
販売顧客対応に分けられたので、発電会社には供給義務がなくな
りましたが、老朽火力の維持経費も保証してもらえなくなったのです。
一方太陽光はFIT等で保護を受け1350万kWまで普及しました。
そして太陽光が優先電源となりましたが、曇りや雨、夜間は発電しな
いので、変動電源に対応するための火力発電も本当は残す必要が
あったのだと私は思いますが、 2016年の自由化以降20年までの5年
間で約1000万kWの老朽火力が廃止や停止に追い込まれたのです。

ちなみに6月30日から緊急復帰予定のJERA姉崎火力5号(天然ガス)
60万kWも、1977年稼働開始で45年前の老朽火力なのです。

6月29日の需給バランスの概要   東京電力でんき予報より

事前のでんき予報では使用率のピークは9時から9時半で、需要予想
4819万kWに対し、供給力4967万KW。使用率97%は、警報レベルです。
一方需要のピークは14時〜15時で5886万KWを予想しているようです。
10時より1000万KWも多いのですが、隣接電力会社からの融通と3月に
ご説明した揚水発電で補っているのでしょうか。
また下記グラフからも分かる通り、太陽光は12時前をピークにゆるやかに
減少し、夕方から急減します。しかしビルや建物、地面に溜まった熱は、
そう簡単に冷える訳ではなし、夕方から夜には照明需要が増えるので、
16時から19時くらいまでが、最も厳しい時間帯のようです。
ちなみに、最高気温が1度上がると需要は150万kW増えるそうです。
以下余談。日本標準時は明石で東京との時差は21分。関東では11時
 39分に太陽は南天位置。東京の太陽光発電のピークはこの頃。
 3月25日でも太陽光は1361万KW発電したので6月29日より多い
 気温は低い方が発電効率がよいというのは数字からも事実か)

自由化の失敗ではなく、過度の環境優先政策とESG投資の弊害か

昨今の電力危機に対して「自由化の失敗」と説明するテレビコメンテータ
がいましたが、その方は当時「地域独占と総括原価方式のダブル特権
はおかしい。自由化すれば電気代はもっと安くなる」とも言っていました。
視聴率を気にした、視聴者受けのいい大衆迎合発言なのでしょうか。
私自身は、自由化が悪いのではなく、過度の環境優先政策と耳に
優しいESG投資の弊害だと思います。

例えば、ENEOSに代表されるように、ESG投資の美名の元、化石燃料
を扱っているとういことだけで株を売られてしまったら、会社は、5-10年
かかる石油や天然ガス開発のような長期投資は出来ません。
火力発電会社も同様でしょう。福島地震で被災した老朽火力はもう再建
せず、廃止にしてしまう方が簡単です。また今から最新火力発電を作ろう
とすれば環境アセスメントも含めて5-7年くらい必要でしょう。

省エネ 企業向けは効果大、一般家庭は改善幅は少ないか

我々使用者側が出来る対策は節電です。
大企業レベルでは、電力を大量に使う工場などを一時的に止める対策は
非常に高価がある反面、製造製品の品質管理や製造ロス等を考えると
実害は非常に大きいと思います。
また大企業は、既にコスト削減を限界までしているので、気持ちやかけ声
だけではむずかしいものがあると思います。
一般企業単位での節電は、メリハリがあるので効果は大きいと思います。
例えば家電量販店が、夕方以降売り場の照明を半分にしたり、展示用の
テレビ電源を半分落とせば確かに効果はあると思います。
また来店されたお客様にも、節電意識が高いお店という意味では、むしろ
好印象を持たれると思います。
一方一般家庭においては、そこまで効果があるかは少し疑問に思います。
私の印象では、「節電やもったいない意識があるお客様は、照明なら、
白熱灯から蛍光灯、そしてLEDに既に交換しているからです。
白熱灯なら60W、電球型蛍光灯なら15W、LEDなら5Wです。その5Wの
LEDを消しても、現実的にもそう大きな効果はないと思います。
以前東京都は白熱灯をLEDに無料で交換するキャンペーンを行いました。
その呼びかけに応じて交換する人は、既に対策済みです。従って無関心な
人をどう動かすかですが、2000円のポイントで行動するか拝見します。

資源エネルギー庁 試算 一般家庭の夏期の電力使用割合


以上は、資源エネルギー庁がだしている、一般家庭の夏期の電気が
何に使われているかのグラフです。やはり、エアコンが一番多く、
無理のない範囲でとは言っておりますが、健康第一でお願います。

EVのバッテリー利用も一長一短?使うときはデメリットも覚悟を

皆様はV2Hという言葉をご存じですか。クルマVehicleから家Homeを
意味しEVの電力を、家庭用に利用することです。3月22日の停電危機
は揚水発電が救いましたがEV電池を分散型揚水発電的に使う話です。
出来る事は出来ますがデメリットの方が大きいかもしれません。
例えば40kWh電池を積む日産リーフが、月間500km走り、月2回充電
したとします。 一方4人家族の月間電気使用量は約400kWhです。
車を使わない日は、太陽光で充電し、夕方からはEVの電力を一日
約15kWh、月間20日間、合計300kWh使ったとします。
日産は8年16万kmまで通常使用の範囲かつ一定条件下でこれを
保証していますが、車としては月2回、しかし家庭用として月20回も
充放電する使い方は、許容範囲でしょうか。月間500km。3年で
18000kmしか走っていないのに、3年目の車検で電池交換なら
むしろコスト高です。

ではどうすればよいのか

私は、環境に悪いと言われてしまう火力発電だからこそ、国がエネルギー
国家戦略をしっかり立案し、少なくとも再生可能エネルギーの変動電力
の補完分等については、国の負担で最新火力発電建設の投資をするか
民間が投資するなら減価償却の終わる最低20年単位でその維持コスト
をしっかり保証すべきだと思います。
原発については、私はソフトラディング派ですが、緊急避難的な最低源
の再稼働はやむを得ないと思います。但しトイレの無いマンション問題
(核廃棄物処理問題)は全く解決していないので、40年使用期限問題を
なし崩し的に60年に拡大延長するのは賛成出来ません。
また国民に対しては自由化の長所短所をもっとしっかり告知すべきだと
思います。自由化は、エネルギーコストが安く競争が働くときは、新規
参入が増え、結果的に国民は安い電力を享受出来ます。実際、電気代
当時安くなりました。しかし化石エネルギーのほぼ全てを輸入に頼る日本
としては、資源価格が高くなったら、発電所を持たない新電力の経営は
厳しくなり、末端価格が上がるのは残念ながら当然のことだと思います。

ちなみに、冬場の予備率は更に低くなり、東電管内は1%程度です。
冬場の電力は暖房需要なので、集合住宅は無理かもしれませんが
一戸建てのお客様は、灯油のファンヒーターか、電池のみで動く
灯油ストーブを本気でお薦めしたいと思います。


緊急、常磐共同火力勿来発電所9号(60万kW)故障停止、復旧の目処ただず