3月22日の東電管内の停電危機
 地震と寒さだけではない本当の理由
あなたは3月緊急企画の番目のお客さまです。

ロシア軍のウクナイナ侵攻だけでも大変な3月22日火曜日のことです。
政府は21日の夜、2012年の警報制度創設以来初めてとなる、
電力逼迫警報を1都8県(東京電力管内)に発令したのです。
 先進国である日本のそれも首都が、16日に地震があって火力発電所が
止まっているとは言え、寒さ等は事前に予測出来ているのですから、
大停電が発生してしまったらやはり大問題でしょう。
 マスコミでは、3月16日の震度6強の宮城・福島地震の揺れの影響による
6基の火力発電所の停止と3月下旬の東京としては珍しい雪という悪条件が
重なったのが原因とのことですが、果たしてそれだけでしょうか。
 私の考える本当の理由を解説したいと思います。  
   3月25日 18時 校正前仮掲載 4月1日更新。 文責 垣見 裕司

3月22日に何が起こったのか
事前の東京電力の「でんき予報」によれば当日の予想最大電力は
4840万kw、供給力も4840万kwで、需要ピーク量、使用率ピーク時
いずれも100% で「非常に厳しい」という状況でした。
その第一原因としては、3月16日の宮城・福島地震の影響で、JERAの
広野火力6号機(60万kW)と東京電力管内に送電している東北電力の
新地発電所 (100万kw)が、長期停止していることです。それに加え、
Jパワーの磯子火力発電所1号基(60万kW)は19日未明からトラブル
で停止。同2号機(60万kW)も故障で20日から停止していたのです

以上の通り多くの火力発電所が停止している中、天気も最悪でした。
お彼岸後の東京では珍しいみぞれとなり最低気温は1.8度。東京電力
によれば、3月は気温が1度下がると100万kW(原発1基分)が必要と
なるとのことで、本当に厳しい寒さも一応二つ目の理由でしょう。
私が考える3つ目の理由は、太陽光が本当に多くなって来たことです。
例えばこの原稿を書いている3月25日の13時では、太陽光だけで
1360万kW。すなわち原発13基分も東電管内だけで発電していて
全電力量に対する割合いは38%にもなるのですが、これが知られて
いません。22日の太陽光はほぼゼロです。この差は仮に原発が動いて
いたとしても対応出来ません。すなわち出力変動が可能な火力は、
太陽光と同規模、残す必要があるのです
。グラフ参照。

東京電力の対応は

この危機に対し東京電力は21日夜から企業や家庭に出来る限りの
節電を呼びかけるとともに、北海道・東北電力から最大117万kw、
中部以西から最大60万kw の融通を受けるとともに、自家発電を
持つ企業から最大2万3000kw調達する予定でした。
実はここでも小さな不幸が重なりました。東京電力と中部電力には
50ヘルツと60ヘルツの違いがあり、この周波数変換を伴う東西の
地域間連系線は210万kWの容量があります。では何故60万kWしか
使えなかったのでしょう。実は120万kWは随時使われいた。30万kW
は点検中でやはり使えず増加分としては60万kWしかなかったのです。
そして注目の22日が始まりました。しかし東北電力管内の使用率も
98%に達したため東北からの送電は停止。
この結果、需給率は早くも
午前10時の段階で101%ととなり、午後2時時点では107%になりました。
100%を超えても停電しなかったのは、使用率の計算で供給量に含めない
「非常用蓄電施設」として、ダムにためた水を流して発電する揚水発電所
が含まれていないからとのことです。
そして萩生田経済産業大臣は14時に緊急記者会見を開き、更に5%の
節電を呼びかけて、ようやく国民に危機感が伝わり、産業分野は勿論
家電店など商業分野や一般家庭の節電も始まりました。

欧米資本の撤退発表らの軍事支援は

以下は東京電力が3月22日の深夜に発表した資料を筆者が書加工しま
した。14時位までは推定節電幅は大きくありませんでしたが、やはり
萩生田大臣の緊急記者会見の効果は大きかったと思います。


3月25日の電力需要と太陽光の占める割合を調べてみる

3月25日金曜日13時の電力需要と太陽光発電割合は以下の通りです。
3日前の22日13時の需要は4700万kW。25日の13時は3500万kW。
一方太陽光は1361万kWもあります。太陽光は気分の良い時しか働かない
我がまま息子です。その息子がサボった時は、同等以上の能力を持つ
老体の父親の化石燃料火力が、陰で支えているという感じでしょうか。

揚水発電の存在意義とその長所と短所

今回の電力危機を救ったのは間違いなく揚水発電です。通常のダム
水力は、水を一回使うだけですが、揚水発電は下流にも水を貯め、
電気の余る時に、上流のダムに汲み上げる巨大な蓄電地です。
本来は出力調整が容易ではない原発とセットで設置され、電気の
余る深夜に汲み上げて1日の電気需要の調整を担っていました。
原発が止まっている今は、正に太陽光が余剰になる時に活躍して
いるのです。作ってしまえば、ランニングコストは安く、かなりの発電
容量があるのが長所です。短所は、上流のダムに水がなくなったら
終わりで、22日夜19時の揚水発電の残りは35%でした。もし23日が
22日と同様の寒い曇天なら停電を余儀なくされていたでしょう。

東京電力管内の揚水発電所の1時間当たりの発電能力

ではその揚水火力の発電能力ですが、私が調べた範囲だと原発7基分
の768万kWもありました。但し貯水能力の把握は出来ませんでしたので、
最大発電量を何時間継続出来るかのkWhは不明です。

過去5年間で廃止もしくは長期計画停止された火力発電所

天気の良い時だけ東電管内で1500万kWも発電する太陽光は自己中
息子で、息子が休んでいるときは年老いた父親の火力がそれを支えて
いるとお話ししました。その老体火力ですが、本HPでも2021年9月企画で
2021年2月から4月の僅か3ヶ月間で500万kW以上の火力発電所が、
廃止又は長期停止していることをお話ししました。経済産業省の発表に
よれば、2016年以降で何と1729万kWの老朽火力が廃止または長期
計画停止をしているのです。もちろん新設計画もありますが、それが
完成しても176万kWの供給能力が減少しているのです。4月1日にも
JERAは9基合わせて383万kWの老朽火力の廃止を発表しました。
でも今回の事を考えれば、老朽化火力と言えども、廃止出来ないこと
になります。それこそ、過去1年間で3月22日のためだけに、これらの
老朽火力発電所を維持しておくコストは一体誰が負担するのでしょうか。

自由化のデメリットと過度の環境優先政策の弊害から出た必然

本HPでは電力の自由化も取り上げて来たので、改めて皆様に質問です。
東京電力さんは大きく分けて下記の5社があります。では、停電させては
いけない供給義務を負っているのは、どの会社でしょう。分かりますか。


結論を先に言えば、発電を担う東京電力フェルパワー(JERA含む)
ではなく、送配電を担う、東京電力パワーグリットなのです。
従ってJERAの立場なら、1年間で数日しか動かさない、効率の悪い
老朽火力は、どんどん廃止したくなります。最低源必要な容量を維持しろ
というなら、全く発電しなくても1年間の設備維持費はほしいところです。
自由化前は、これが「総括減価方式」で全て守られてしました。
電気料金で言う本来の「基本料金」は、この使わなくても最低源の容量
は確保しておいてもらうための費用であり、発電機を動かした時の
変動コストが、従量料金のはずだったのです。
しかし電力は自由化されました。中には「基本料金はゼロ」という会社も
ありましたが、それは基本理念を全く分かっていないことになります。
これは必然かもしれませんが、新規に参入してきた新電力が昨年1月
以降、倒産や事業撤退が既に30社以上になっているのをご存知ですか。
自前の発電所がなければ、卸売電力市場から買わなくてはいけませんが
昨年1月はLNG不足で、今年の2月はウクライナ問題でエネルギー価格
が高騰し、安い時は10円以下で買えた卸売電力が、2月平均は約24円
だそうです。お客様には契約した例えば15円で供給しなくてはいけない
ので大赤字でしょう。その代表例は、新電力14位のホープエナジーです。
日経新聞に破産申請へ(3月23日朝刊)と書かれてしまいました。

太陽光他再生可能エネルギーは火力とセットでコスト算出

昨今、環境に優しいということで、もてはやされて来た太陽光発電ですが
雨天や夜の発電量はゼロです。従って、雨天や夜に発電をお願いする
火力発電の維持コスト等も本来は太陽光発電側で負担することを、
真剣に考える必要があるかもしれません。
またこれは何度も申し上げていますが、まだまだ化石燃料による火力が
必要なのに、SDGsやESG投資だと言って、化石燃料業界から資金を
引きあげてきた環境優先政策の弊害でもあります。更にウクナイナ問題
で資源価格が高騰した事は、世界も日本も化石燃料を必要としているこ
とを証明してしまいました。投資家の皆様、再生可能エネルギーと同等
以上に化石燃料業界への投資をお願い致します。
最後に私の結論です。今回の電力危機は、起こるべくして起こった必然
です。自由化すると決意した時から、悪条件が重なったら停電する程
よく言えば効率的、悪く言えば余裕がない。安さを選ばされた電力業界
になってしまったのです。でも今から出来る対策は、幾らでもあります。
例えば停電時の暖房も意識した電池式の灯油ストーブも有効です。
直火禁止の集合住宅は無理でも1戸建ては必然です。
国家としては
エネルギー戦略を不都合な真実も含めて選挙前から議論してほしいです。