ロシアのウクライナ侵攻と欧米の経済制裁
どうなるSWIFT排除後のエネルギー価格
あなたはロシアのウクライナ侵攻企画の番目のお客さまです。

3月こそ昨年暮れに環境省から発表された温室効果ガス排出量の解説
をしようと思ったのですがロシア軍のウクライナ侵攻が開始されました。
それも当初想定されていたウクライナ東部のロシア支配地域だけでなく
ウクライナ全土の1000箇所以上の軍事基地はもとより、首都キエフにも
ロシア軍が迫っており、ウクライナ軍も徹底抗戦しているようです。
こうなると悠長に環境問題を語っている場合ではありません。
これにより北海ブレントは一時、129$/BやWTI127$/Bとなりました。
そこで今月はロシアのウクライナ侵攻とG7他各国の経済制裁等の対応。
そしてエネルギー価格や日本への影響を考えてみたいと思います。
改めて環境やSDGsは平和時のみに語れることを痛感しています。
 2022/2/28 14時初掲載 3/15 11時更新  文責 垣見 裕司

現代の国際社会において先進国の武力行使があっていいのか
このニュースを聞いた私は本当に驚きました。米国による「ロシアは
ウクライナへの侵攻を決意した」との発表は聞いてはいましたが、
それはウクライナ東部の親ロシア派支配地域への侵攻の話で、
ウクライナ全土への攻撃や侵攻まではしないと思っていたからです。

業界人として思い出すのは、1990年8月のイラクのフセイン大統領が
始めたクゥエート侵攻です。先進国ではなくまた国際感覚もなく権力
を握ってしまった裸の王様なら武力侵攻もあるのかとは思います。
 この時は珍しく、国連でも米ソ一致し米国やサウジアラビアも
一緒になったいわゆる多国籍軍が結成され、翌年1月17日に開戦し
そして僅か3日でイラクは完敗し停戦となりました。
この多国籍軍の大勝利は、その後の某北国を始めとする独裁国家
の暴走抑止には大いに役立ったと思います。

しかし今回は先進国かつ大国で世界第2位の軍事力を持ち、国連の
常任理事国であるロシアがその兵力を後ろ盾に威圧しただけでなく
米国が参戦せず経済制裁だけと判断した途端に武力侵攻したことは
本当に重大な国際法違反です。正に第二次世界大戦後の最大の
「ロシア対EU米国他西側諸国」の決定的な対立になった思います。

ロシアのウクライナ侵攻は、何故今だったのか

何故今なのか。北京オリンピックの終了を待っていたこと。国連常任
理事国委員会の議長だったこと。欧州諸国はエネルギーの多くを
ロシアに依存しているので、その影響力が大きい冬である必要も
あったと思います。でも私は、ウクライナのゼレンスキー大頭領が
米国訪問の際、バイデン大統領に「ウクライナのNATO加盟はいつ
許されるのか」とその行程表を求めたことだと思います。ドイツや
フランスはウクライナの加盟はロシアを刺激するので、慎重だった
ようですが、もし一気にNATOへの加盟承認となれば、ロシアは
もう手が出せなくなるので、今だったのではないかと思います。

諸外国からの軍事支援は

米国は400億円分の武器。オランダは携帯型地対空ミサイル200基を
ウクライナに搬送中とのことですが、私が注目したのはドイツです。
当初ロシア軍がウクライナに侵攻した時でも軍用ヘルメットの5千個の
提供を発表したのですが、国内外から批判があり、日本時間の26日
には、支援の意味合いを大幅に拡大し、対戦車砲1000発と携帯型
地対空ミサイル「スティンガー」500発を提供すると発表しました。
これは一兵士が、ロシア軍の戦車や戦闘ヘリを無力化出来るので
効果は大きいと思います。ドイツのシュルツ首相は武器提供の理由を
ロシアの侵攻は世界大戦後の秩序全体を脅かすものだとしています。

基本は経済制裁。一番強力なSWIFTからの締め出しで各国合意

G7他欧米各国の対応の基本は経済制裁ですがどこまでやるのか。
その議論は分かれていましたが、一番強力な「国際銀行間通信協会」
通称SWIFTからのロシアの締め出しを決定。そして27日夜には、
岸田総理は日本もこの制裁に加わると発表しました。
これによりロシアと全ての国との送金が事実上不可能になります。
制裁対象は、ロシア最大のズベルバンクや第2位のVTB他10銀行で
その資産合計は、ロシア全体の約80%を占めるそうです。またロシア
中央銀行保有の6300億ドルの外貨準備も自由に使えず、ロシア通貨
ルーブルが下落した場合でも、買い支えが出来ないことになります。
日本も都銀や地銀が利用

経済制裁は両刃の剣

ただ「制裁」というと、何か一方的にダメージを与える印象ですが、
貿易を止めることなので、参加国は相当の返り血を浴びるでしょう。
日本にとって一番心配なLNGは日本の総量の約8%をロシアから
購入していますが、これが正に入ってこなくなる可能性があります。
(下記サハリンU参照)でも私は賛成です。大げさではなく、米国が
ウクライナで参戦すれば第三次世界大戦のきっかけになるでしょう。
しかし何もせず傍観すれば中国の武力による台湾侵攻も許容される
こととなります。従って日本だけが制裁に参加しないという
選択肢はないと思いますので、究極的には私は賛成します。

ロシアの経済力は世界12位だか、陸続きの欧州との関係は深い

ではまず、ロシアとはどんな国なのか。面積こそ世界一ですが、
人口は約1億4000万で日本をわずかに上回る程度です。
経済規模は米国の10分1以下、日本の3分の1以下、G7各国は
もちろん韓国をも下回る世界で12位の国です。
そんな国が米国をゆさぶり、世界の問題で発言権を確保できるのか。

第1はまず武力です。通常兵器は必ずしも最新鋭でないのかも
しれませんが、核兵器の保有数は米国をもしのぐようです。
第2は膨大な石油と天然ガスという資源をもっているからでしょう。
エネルギー生産大国ロシアの2020年の世界シェアは、原油生産が
約12%(世界 シェア3位)、天然ガス生産が約17%(同2位)と米国や
サウジアラビアに次ぐエネルギー大国です。

輸出量でも天然ガスは世界1位、石油はサウジアラビアに次ぐ世界2位。
国家財政のほぼ半分を、石油と天然ガスが支えているのです。そして
欧州各国は、多かれ少なかれ、ロシアの天然ガスに依存しています。

欧州にとってロシアからの エネルギー関連製品の輸入シェアは、20年
で原油29%、石油製品39%、液化天然ガス15%、天然ガス 37%です。
原油では、欧州全体で日量200万〜300万バレルを輸入しています。
天然ガスでは、特にドイツの輸入シェアは55%と高水準です。しかし
ドイツのショルツ首相は22日、ロシアからの天然ガスパイプライン
ノルドストリーム2のプロジェクト承認停止を発表。米国はこれに
対応するため、米国からの欧州へのLNG輸出を3倍にしたそうです。
しかし原油と違ってLNG施設やインフラにはその能力に限界があり
昨年来からLNG価格が急上昇しています。
欧州にとって短期的には
ロシアからの天然ガス依存から脱却するのはかなり難しいでしょう。

ロシアと日本との関係。貿易額とその主要品目 単位100万ドル

ではまず、日本とロシアの貿易状況を調べました。
日本の輸出(A) 日本の輸入(B) 収支(A-B)
2016 5,125.6 11,285.0 △6,159.4
2017 6,005.8 13,802.8 △7,797.0
2018 7,297.3 15,577.3 △8,280.0
2019 7,173.9 14,311.7 △7,137.8
2020 5,870.4 10,706.0 △4,835.6
日本からの輸出品は
自動車(41.9%)、自動車の部分品(11.0%)、ゴム製品(5.4%)
建設用・鉱山用機械(4.8%)、 原動機(4.5%) 2020年

日本の輸入品は、
液化天然ガス(21.9%)、非鉄金属(21.2%)、石炭(17.0%)、
原油・粗油(16.8%) 魚介類(9.0%)備考:2020年
  カッコ内は輸出入の構成比です

ロシアのウクライナ侵攻による日本への影響を考える

ロシア軍やウクライナの動静は、テレビや新聞マスコミ情報しか
持っていませんが、今回の侵攻で何故資源価格が高騰するのか。
エネルギー業界人として私はこう思うという範囲で解説します。

ウクライナは日本から数千Kmも離れた国ですが、エネルギーという
意味では、今は正に世界が繋がっているので影響は大です。
2020年の日本の輸入に占めるロシアの割合は原油で4.1%、LNG
の8.2%、石炭の14.5%です。
サハリンでは、「日本の商社が石油や天然ガスの権益を持っている
ことを主張し供給が止まらないようにしたい。ロシアが供給を絞れば
国際社会で信用を失う」との
経産省の幹部の話が報道されましたが
これはSWIFT制裁前の話なので今まで通りというのは無理です。

もしロシアからの輸入が全て止まった場合は別の国からの輸入量を
増やしたり、国内の電力・ガス会社のLNG在庫を融通し合ったりして
対応したいところですが、欧州の方が更にロシアに依存しているので
他の国からの輸入量を増やすのは難しいでしょう。私の意見としては
国内の中で、やりくりして対応するしかないのです。

私の考える国内対策は

まず原油ですが、これは原油や製品での備蓄が合計200日以上ある
ので大丈夫です。石炭に関しても製鉄意外なら石油で対応可能です。
問題はやはり輸入の約8%を占めるLNG=天然ガスですが、その
用途は主に何だと思いますか。東京ガス+大阪ガスと中部地方の
東邦ガス3社合わせての販売量と東京電力1社(今はJERA)の発電の
使用量が、同じくらい使われています。しかし在庫はせいぜい2-3
週間でこれは備蓄ではなく流通在庫です。ただ発電なら何とか石油
火力で代替が出来ます。電力供給の余力を示す予備率が一番低い
1-2月を乗り切ったので、暖かくなる3月を迎えるのも好材料です。
あとは第三次世界大戦がこないことを祈って、消費者の皆様。5%程度
節電をして、余裕の少ないこの3月を乗り切って行きたいと思います。

原油価格の推移  3/2更新   お薦めはチャートパークです

WTI原油価格は、ロシア軍が侵攻した24日に一時100$/Bを突破。
その後は92〜93$/Bまで下落したもののSWIFT制裁決定発表で
再び98$/Bまで高騰。その後3/2に107.41$/Bまで上昇しました。
本日時点でのグラフを掲載しても直ぐに古くなりますので、読者の皆様
には最新価格をご覧頂きたく思います。お薦めはこちらです。
2月HPで掲載した「燃料油激変緩和措置」の今後 3/8更新
2月HPでもご紹介した通り、原油価格の上昇は5円を既に突破し
ガソリン末端市況は、2月21日の時点で172円まで値上がりしました。
これでも補助金がなければ、177円になっていたということです。
これに対し政府は、最大25円までの補助金増額を発表。
3月10日より実施されることとなりました。尚
今回より
基準原油価格方式ではなく以下の計算式となりました。

A+B+(C-D)-172円=E 今週の補助金額
Aは毎週月曜日の全国レギュラーガソリン平均価格(水曜発表)
Bは前週の補助金単価
Cは1週前の日経ドバイの週間平均
Dは2週前の日経ドバイの週間平均
172円は当面継続の予定


尚、国会等では4月以降も継続と岸田総理は答弁しておりますが
エネ庁HPは3月末までとしています。予算の関係でしょうか。

以降主要ニュースのアカラルト追加です

1. ルーブル暴落 3/1 3/2 3/8 追加 お薦めサイトはこちら
  まだG7ヶ国がSWIFT制裁を発動していないにも関わらず、
  ルーブル/ドルは、2/25の83ルーブル/$から最安値の
  119ルーブル/$まで僅か1日てで約3割も下落しました。
  3/8現在では 2/24の1.46ルーブル/円から0.84ルーブル/円
  まで43%も下落しています。
2. ルーブル政策金利 9.5%から何と20%に引き上げ 3/1
  通常、自国通貨が下落した時は、手持ちの外貨すなわちドルを
  売って買い支えるのてすが、それが出来ないためかロシア中央
  銀行は政策金利を9.5%から倍以上の20%に引き上げました。
  私が調べた範囲では、アルゼンチンの42%次ぐ高さで次は
  トルコの14%ですから、もうこれは国家破綻レベルです。
  2047年償還のロシア国債の金利は侵攻前一桁から現在30%
3. 中立国スイスがEUと同等の対ロシア制裁発表 3/1
  スイス銀行にあるロシア国籍の預金者の資産1兆3千億円を凍結。
  秘匿性が高くブラックマネーすら預かると言われているスイス銀行が
  ロシア国籍というだけで預金凍結する効果は非常に大きいでしょう
4 国連臨時総会ロシア非難決議 3/3 賛成141 反対5 棄権35
  2014年クリミア半島併合無効決議の100ヶ国から大幅増加
  反対国は、ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリア。
  棄権国は、中国、インド、イラン、イラク、カザフスタン、ラオス
  キューバ、モンゴル、パキスタン、ダジキスタン、南アフリカ他
5 各国の軍事支援状況 3/2東京新聞 3/15日経
国名/支援内容 ヘルメット 対戦車 対空 その他
ドイツ 5000 1000 500
スウェーデン 5000 5000
ファイランド 1500 2500 弾丸15万
ノルウェー 2000
カナダ 100 ロケット弾2000
 英 国 3615  ○
 オランダ  50 200  ○
 デンマーク 2700
 ベルギー 200
オーストラリア  ミサイルや弾薬など5000万$相当
E U  武器調達資金45000万ユーロ