イワタニ水素ST 芝公園 視察報告
 &日本のエネルギー問題を考える
水素では番目。東京戦略会議で番目。近未来自動車では
番目のお客様です。 2015/5/1  16:更新 Ver5   

この5月は、日本のエネルギーを考えるには最適の時期です。例えば2014年度の
日本の貿易統計が発表され、鉱物系のエネルギー数量やその価格を調べること
により、エネルギーを輸入に頼る日本の実情が見えるからです。
また電気事業連合会からも2014年度の日本の10電力会社の総販売電力量や発電
及び他社からの受電状況が発表されていますが、これも非常に有益なデータです。
そしてエネルギー輸入国日本において、国内でも作れる究極の姿は、やはり水素
社会でしょう。当初、コストは高いかもしれませんが、国や自治体、特に東京都の
強力なバックUPがあれば、それは必ず実現するでしょう。という訳で今月は、結論が
先になってしまいますが、岩谷産業様のご厚意で実現した、「イワタニ水素ステーション
芝公園」の見学報告からさせて頂きたいと思います。
                                      文責 垣見 裕司

4月13日の開所式には安倍首相もご出席=国の決意が分かる

ご存じの通りこの水素STは、4月13日にオープンし、開所式は、安倍総理も
ご出席され盛大に開催されたので、それだけ国の力の入れ方が分かります。
以下は、官邸のHPに掲載された写真です。我々石油業界の代表でもあり、水素
社会の普及に貢献された渡文明JX名誉顧問のご出席は、大変嬉しく思います。

首相官邸HPより 挨拶する安倍首相    テープカットの一番左は渡文明氏

岩谷様とは、東京水素戦略会議は勿論、トヨタ系シンクタンクテクノバ社主催の
通称「水素STビジネスモデル検討委員会」からのご縁なので、一度見学させて
ほしいとお願いしておりましたが、少人数ならばとお許しを頂き、4月27日に都石
の荒木理事長様始め、幹部の皆様と訪問してまいりました。

「イワタニ水素ステーション 芝公園」の概要は

「イワタニ水素ステーション 芝公園」の設備等の概要は以下の通りです。
・所在地 東京都港区芝公園4-6-15 ・敷地面積 1,097u (332坪)
・液化水素オフサイト供給 ・供給能力 340Nm3/h(1時間当たり6台の満充填が可能)
・充填能力 70MPa (メガパスカル) 〈=700気圧〉 充填時間3分(満充填=約5kg)
・液化水素貯槽24m3 ドイツ・Linde社製水素圧縮機(イオニック・コンプレッサー)
蓄圧設備(サムテック製)300Lx3本、(法定貯蔵量751m3)。
ディスペンサー(トキコ製)、プレクール(水素ガス冷却機器)他

特長 ショールーム(「TOYOTA MIRAI ショールーム」)を併設し、昨年末発売された
燃料電池自動車「MIRAI」を展示。映像などを使って車両や水素などの特長を紹介。
2020年の東京オリンピックパラリンピックを契機とし、今後水素社会への進化が
期待される東京の中心からその実現に向けた情報を発信する施設となっている。

以下 岩谷産業様のプレスリリースです。
2015/4/13 http://www.iwatani.co.jp/jpn/newsrelease/detail.php?idx=1225
2014/8/28 http://www.iwatani.co.jp/jpn/newsrelease/detail.php?idx=1181
私が思う最大の特徴1 液水縦型24m3タンクとリンデ社 5段式圧縮機
今回の見学で、私が一番見たかったものは、24m3の巨大な液水縦型タンクと
リンデ社の5段式圧縮機です。以下私の推測で岩谷様のコメントではありません。
まず液水タンクは、縦型設置です。大きさのイメージは、弊社で申し上げるところ
12tのタンクトレーラー(24KL、LPG比重は約0.5なので12t(下記写真左)です。
これとほぼ同じ大きさのタンクが縦型に設置されているので極めて壮観です。
(下写真右)縦置きにする理由は省スペースでしょう。では地震等での耐震性は
大丈夫なのでしょうか。はい大丈夫だと思います。その理由は水素の軽さです。
LPGの比重が0.5なのに対して、液化水素の比重は何と0.07。よって最大20kl
入っているとしてもその重量は約1.4tしかないので、全く問題ないと言えるでしょう。
また液水タンクは、断熱の為の真空層があるので、極めて強靭で、建築強度的
には、構造柱そのものが建っているようなものでしょう。
タンクの断熱性=自らが液体であり続けるために必要な気化熱を示すボイル
オフレートBOLは仮に1%/日だとしても、毎日最大200Lx800倍=160m3の
気体水素が発生します。これは約18kgの気体水素なので 1日4〜5台の需要
があれは、全く無駄にはなりません。

私が思う最大の特徴2 ドイツ リンデ社 5段式水素圧縮機
もう一つはドイツのリンデ社の5段式圧縮機です。飛行機等の星形に配置された
エンジンと理屈は同じですが、それぞれのピストンの実際の負荷が同じなるよう
設計されています。恐らく体積は違うので、絶妙な技術が必要なのでしょう。
下の図はピストンが同じ位置のイラストになっていますが、恐らくは奇数と偶数で
交互になり、昇圧されていくものと思います。
問題はこれを動かす電気モーターの省エネ性能で、私の推定では約100kwです。
例えば100kwのモーターで1時間回して、実際の圧縮数量を300m3。電気代を仮に
最大20円/kwとすれば、2千円で300m3の水素を80MPaまで昇圧しているのです。
単価にして7円/m3。水素の末端売価100円/m3からも良い数字のように思います。
これは天然ガス(20MPa)スタンドを運営の方には、考えられない安さでしょう。

液体水素への今後の期待

本HP9月企画http://www.kakimi.co.jp/2014-09.htmでもご説明した通り
私の考えるところの現在の水素STにおける最大の問題は、製油所等で作った
水素を如何に水素STまでローコストで運んで来るかです。その中で液体水素
の最大の利点は、これを解決する輸送効率が極めて良いことです。例えば
20kl液水ローリーなら1400kg。FCV 1台5kgとして 300台分を運んでいる
とも言え、現在のガソリンタンクローリー16kl=50L の300台に匹敵します。
しかし 私の期待する液体水素方式はこれだけではありません。
例えば70Lの密閉された加熱タンクに液水をいれ大気で加熱するとします。
そうすると800倍の気体水素となり 800気圧(80MPa)になります。
気体になっても、まだかなりの低温ですから、プレクール設備も必要もなく
そのままFCV充填すれば、極めて効率的なそしてローコストでかつ省設備
スペースの充填システムが出来そうです。私はこのシステムが2019年までに
実用化され、そして規制緩和もついてくれば、都心の屋内式等200坪前後の
既存GSの灯油設備の代替として設置が可能ではないかと思います。
 拝啓 岩谷様、そして世界に寛たる日本の水素関連機器メーカー様。
是非ともこの技術の実用化とローコスト化をお願いする次第です。

ピークを脱した日本のエネルギー輸入価格 一覧表



ピークを脱した日本のエネルギー輸入価格 本文

まず嬉しいのは、ここ半年の原油及びLNGやLPG等の世界的な価格下落で
日本のエネルギー輸入価格が、間違いなくピークを脱し、低減していることです。
円レートこそ2011年度の年度平均79円から2014年度は110円と+30円となり
直近レートは120円ですので、非常に心配をしておりましたが、原油を始めとする
資源価格の大幅安で、ピークだった2013年度の28.4兆円から何と3.3兆円も
下がりました。これは当然貿易収支の改善にも寄与し、日本の貿易赤字は
2014年度は前年比4.6兆円も改善しています。また2015年3月単月では貿易黒字
になったそうです。円安誘導の最大のデメリットとも言える資源輸入価格の高騰が
ピークを脱したことは、日本にとって本当に良いことだと思います。
 但し、長期的視野に立てば、資源価格は必ず高騰してくるでしょう。
資源価格が一時的に安くなった今こそ、国内でも作れる水素社会への投資を
国策として始めるべき時だと思います。

電力の総需要は 2010年度以降 毎年低下

電気事業連合会HPより取得したデータを、再構成し以下にまとめてみました。
総発電量と他社受電量は5年間で確実に減っています。日本の国民性でしょう。
原発停止で火力発電量の増加量やその割合の上昇も一目瞭然です。
尚他社受電分がどのような発電をしているかは不明なので、火力を小計で割って
火力比率を算出してみました。
一方10電力会社の販売総計も記しました。電力ロスをどう計算するのか。詳細は
不明ですが2014年度なら 1-(8230÷8928)=と仮定して計算してみました。
電力の専門家の方々。もし違っているようならご指導下さい。
総販売量の内、大口電力の割合は、32%もありますが、例えば東京電力の利益は
9割を一般顧客から得ているとの報道が以前あったように思います。今後の自由化
でそれがどうなっていくのか。注視していきたいと思います。

電自連発表 火力発電用の使用燃料は

では、上記の発電電力を得るための化石燃料は何を使ったのでしょうか。同じく
電気事業連合会HPでは詳細を発表しています。再構成し以下にまとめてみました。
まずは震災前の2010年度からの5年間の推移です。震災による原発停止で、
増えたのは比較的再稼働が容易な石油系燃料でした。しかしそれも僅か2年。
LNGへのシフトは容易に想像が付きますが、コストの安い石炭が増えているのは
余り知られていません。
しかし驚くは、原発が全て止まっている2014年度でさえ、その火力用燃料は前年比
それほど増えていないことです。上記表の通り絶対需要が96.9%ですから、それも
納得です。今後は、原発70基まで増えた太陽光が順次稼働を始めるので、今年度
以降の火力発電やその使用燃料は、徐々に減っていくことでしょう。

日本全国の 207社の都市ガスの販売実績 日本ガス協会より

では、今月企画の最後に都市ガスの販売状況について、簡単に解説しておきます。
日本ガス業界によれば、全国に207社ある都市ガス協会加盟の都市ガスの販売は
下記表の通りです。
震災前からの比較でも家庭用は殆ど変わりません。ある意味オール電化攻勢が
下火になった等の理由があると思いますが、反面伸びてもいません。
エコジョーズ等消費機器の省エネ性能が向上しているからかもしれません。
本件については来月、エコワン導入1年企画と題して ミクロネタをお送りします。
 一方、商業用(業務用)は2014年度、微減しています。さて驚くのは、都市ガス
販売における工業用の割合が実に多いことです。導管配給は石油業界のタンク
ローリー輸送と違って、インフラさえ作ってしまえば、従量コストが発生しないことを
最大限活かしたものでしょう。
実は、著書 よくわかるガスエネルギー業界では、詳しく書いているのですが、
2007年の段階で、販売量割合では、何と59%が既に自由化されているのです。
その意味では、都市ガスの自由化と言っても単位使用量の少ない、そして保安の
確保や、売上金等の回収にもコストのかかる自由化がどう進むのかも、今後注視
していきたいと思います。

  
単位は1m3当り41.86MJ=1万kcalに換算。ちなみに東京ガス13Aは45MJ