水素スタンドに水素を運ぶ方法とコストを考える
 誰も教えてくれないので強引に試算してみました
東京戦略会議 近未来自動車は、水素では番目です
4か月連続ではありますが、今月も水素スタンドへの水素搬入問題を考えます。本当は
SS業界の大問題、すなわち、原油高騰による価格UP、消費税UPと、天候不順の三重苦で
ガソリン販売数量が減少している。またガソリン高騰の煽りを受け、お客様の限られた予算
の中、洗車収益が減少しているのではないか。SS業界の利幅は益々減少し、大赤字が続い
ているが、原油CIFから業転価格との差額である元売マージンは、昨年10-12月比で大幅に
回復している。このSS業者が感じる不公平感は爆発しないのか。
しかし更に不思議なのは、これだけマージンを取っているはずの元売の第一四半期決算が
よくないのは何故か。調べてみて、書きたいことは沢山あるのですが、それはほとんど
書けないことだと気が付きました。よって今月は、水素関連講演時に、一番多く頂く質問である
「製油所等で作った水素を、水素スタンドまで如何にローコストで運ぶかという水素搬入方法」
について、誰もそのコスト数値を公表してくれないので私が推定したいと思います。正しい
数値を教えて頂ける方は是非メール下さい。           2014年9月1日
                                            文責 垣見裕司

9月、10月、11月講演予定

まず今後の私の講演予定をお知らせです。大変嬉しかったのは、石油連盟主催
の講演を聞いて、石商の研修会にも是非来てほしいとの依頼があったことです。
「また聞きたい」と思い、行動して実際に呼んで頂けるのは講師冥利に尽きます。

 9月10日 久々の垣見SSスクールです
 9月11日 北海道超大手同業会社の販売店研修会で、灯油とLPGのセミナー
 9月24日 東京都石商幹部への東京水素戦略会議の報告
10月08日 某石商の研修会のあと
10月08日 その石商の青年部会でもお話させて頂きます
10月15日 北海道の某石商の研修会(石連札幌講演のご縁です)
10月21日 某大手商社の販売店会です。今年で4支店目です
10月24日 第4回 東京水素戦略会議
10月28日 某大手商社の販売店会です。今回で5支店目です。

11月18日 第5回 東京水素戦略会議
11月19日 某元売若手特約店会でのFCVと水素スタンドに特化した研修会

ただ残念ながらHPをご覧の皆様が、気軽にご参加して頂けるものはありません。
是非、業界のお仲間等を集めて、呼んで頂ければ幸いです。

水素スタンドの現在の建設コストは オフサイト4.6億円 オンサイト5.8億円

では今月の水素の搬入方式の前に現在の水素スタンド(以下水素STと略します)の
建設コストは一体いくらなのかを推定してみたいと思います。
以下は、2013年度に水素供給補助金申請された平均値として、MITIの
「水素燃料電池戦略ロードマップ」に掲載された資料を基に作成しました。
ここで改質器コストは、オンサイト補助金28000万円、オフサイト22000万円。
補助金差額6000万円から 補助率50%を逆算して12000万円としました。

改質器 圧縮機 蓄圧器 クーラ 充填器 各配管 機器工事 土木工事 合計万円
オンサイト 12000 14000 5000 3000 6000 6000 5000 7000 58000
オフサイト 機器系28000万円、工事18000万円 オフサイト合計 46000万円
街の中に水素STを作る法律が無く、多くが「プラント等を作る法律」で作ったことや
実証実験等を兼ねているケースでは、多くの計測器を必要としたために高くなった
という話を聞きますが、ガソリンスタンドが3000万円〜10000万円で出来ることを
考えると、非常に高いことが、お分かり頂けると思います。

製油所等で作った水素を水素STまで運んで来る方法とガソリン換算推定コスト

既に実施されている及び今後有望とされる水素搬入方法は以下の通りです。
但し、導管によって水素スタンド敷地内に来ている都市ガスを改質する方法は、
3のオートガススタンドやLPG充填所等に水素STを増設や併設する場合と同様に
輸送問題は存在しないと言えるかもしれません。
当然、この場合は、他の水素輸送コストと、改質器の初期投資コストやランニング
コスト、メンテナンスコストとの競争になるのだと思います。

1 水素カードル(鋼鉄製 19.7MPa) トラック輸送方式 JX杉並水素ST
2 水素トレーラー(CFRP35⇒45MPa) 置換方式 JX海老名中央ST
3 LPG オンサイト改質方式 JX名古屋神の倉ST (都市ガスも同様)
4 期待される有機ハイドライト方式 現時点では実施水素ST無し
5 液体水素搬入方式 岩谷産業 有明水素ST 尼崎水素ST+東京も

1 水素カードル方式の場合

JX運営の杉並水素ステーションは、私が二番目に拝見した水素STです。
http://www.noe.jx-group.co.jp/company/rd/h_station/move_tokyo.html
水素STのスペックとしては、水素カードル供給方式です。
圧縮設備 能力 50Nm3/h 。 55Nm3 = 約5kg なのでFCV約一台分です 
圧力 40MPa とあるで、差圧 5MPaで FCV には 35MPaで充填しています。
私が拝見した2011年8月には、写真の通り50L容器20本 19.6MPa仕様の
カードルが3セットありました。よって最大50Lx20本x3セット=3000L=3m3の
容器に19.6MPaで入っている訳ですから、約200倍して60Nm3の水素です。
それを40MPaまで高めて蓄ガス設備 内容積 300L×12本 とありますので
3600L=3.6m3の容器に最大400倍=
1440Nm3の水素が、蓄ガス容量でしょう。
FCV 一台 約 55Nm3=5kg として26台分です。バスが来たら心配です。
ちなみに下記のイメージ図では、最大3セット詰めるユニック付きのトラックで
運んできて、2セット交換してトラックは基地に帰るのが効率的に良さそうです。

さてここからは、かなり強引なコスト計算です。カードル1個で1000L=1m3の
約200倍の200m3 ということは、FCV 1台 50m3として たったの4台分です。
これは、カードル3基のトラック1台で FCV 12台分しか運べないので、
運営者の皆様がコストを出したがらないのがよく分かります。
一方、ガソリンを運ぶ16KLタンクローリー(新車で約2000万円)は、
車1台40Lとして400台分を運んでいると言えます。
仮に16KLタンクローリーと11tトラック+カードル3個が同じコストとしても、
一般的なガソリン運賃2円の100倍??。ガソリン換算1Lで200円?、よってこれから
先のコスト計算は断念します。
ちなみに下のイラストを11トントラックとしてカードル3基で運べる水素は、
1m3x3基 x 200倍 = 600m3 水素は1kg=11m3 なので たった54.5kg
要するに11トントラックで運ぶ水素は54.5kg。これがよく「鉄を運んでいる
のか、水素を運んでいるのか分からない」
と言われるゆえんです。

2 JX海老名中央水素STの場合は 水素トレーラー方式

杉並水素STは2010年12月。そして海老名中央は、日本初のSS併設型として
2013年5月に完成しました。 当社HPは2013年10月 JXHPは以下の通り
http://www.noe.jx-group.co.jp/newsrelease/2013/20130419_01_0794529.html
この3年弱での、規制緩和と技術革新はどこまで進んだのでしょうか。
水素の輸送に関し、鋼鉄製から炭素繊維複合容器(CFRP容器)が可能となり
また圧力も鋼鉄製の19.6MPaから、CFRPの35MPaとなり、更に規制緩和で
45MPaまで可能となりました。そして下記の専用のトレーラーも開発され、
トレーラーの後方部を水素STに置いて来る効率的な方法となりました。
私が見学させて頂いた2013年10月の時は、トレーラーではなくカードルに
よる供給でしたが、そのトレーラーのイメージは下記イラストの通りです。
300LのCFRP容器が24本。よって1回で運べる水素量を計算すると
0.3m3x24本x400気圧÷11m3/kg = 262kg 。見学時の資料にも260kgとあり
ましたので、45MPaまでは、気圧に比例した、体積縮小となるのでしょうか。
この水素トレーラー方式なら1回で260kg。FCV 1台5kgとすれば52台分で、
杉並のカードル方式の12台から、効率は4倍以上改善されましたが、ガソリン
16KLローリーとの比較では、まだ違います。それにトレーラーの後方部を
水素STにおいて来るとなれば、初期投資は2倍ということになってしまいます。
よってあえて輸送コストを算出すれば、ガソリン換算で100円/Lとしました。

3 JX名古屋神の倉水素ST等 LPG改質 (都市ガスLNG改質もほぼ同様)

JX名古屋の神の倉水素STは、2012年秋の工事中に拝見させて頂きました。
この名古屋でLPG改質を選択して頂いたことを、私は高く評価しています。
そして全国のLPG関係者、特にLPG充填所やオートスタンド経営者は、その
可能性が広がるので、実は大いに期待して良いと思います。
LPGは、全国に既存の物流網があります。人口カバー率では垣見推定で99%
以上あると言っても過言ではないでしょう。同じ水素の物流問題が発生しない、
都市ガスは、導管エリアしか水素スタンドの可能性がないのと比べれば、
圧倒的な違いです。LNGで運べばいいという都市ガス関係者の反論も聞こえて
来そうですが、既に長い歴史を持つ天然ガススタンドも、LNGによる供給方式は
一カ所もないう事実は大きいかもしれません。
 ただこのLPGを源燃料とするオンサイト改質は、当然改質器が必要です。
冒頭のコストによれば、改質器は1.2億円。8月26日の日経新聞にも
「大阪ガスがLPガスから水素発生」と題し、300Nm3/hの能力で1台2億円
とあるので、まだまだ高価なようです。
 従ってLPG改質の場合は初期投資1.2億円のうち補助金で半分ご負担頂ける
として、6000万円と、前述の気体水素の輸送コストが合計が、6000万円を
何年で上回るのかが勝負です。仮に前述のトレーラー方式が現在でガソリン
換算100円として、月間100KL = (1台50L換算で月2000台)が来るのは相当先
になるかとは思いますが、6000万円÷(100KLx100円)=6か月で元がとれます。
反面、月に平均100台しかこなければ、120か月=10年となります。
10年後には、また新たなそして安価な輸送技術や方法が出来ていると思いますが
改質器のコストも量産等で大幅に下がるのでしょうから、今は結論を出せません。

家庭用燃料電池エネファームを並べて見たら (お宅ネタです)

ではかなり安くなってきた家庭用燃料電池エネファームの改質器部分を10台
並べてみたらどう?と考えるのは私だけではないでしょう。以下計算してみました。
JXのSOFC機は電気出力 0.7kW で 発電効率は43% から、水素発生量は
毎時 0.7kW÷0.43=1.628kW/時 ということになります。
水素の熱量は1Nm3で 12760kJ 。熱量単位換算は 1kW = 3600kJなので
1.63kW x 3600kj/kW = 5868kj/時。よって水素発生は 5868/12760 = 0.46m3/時
FCV1台 約5kg=55m3 が必要だとすると、エネゴリ君を100台ならべないと
毎時 1台供給できないようです。改質器のみを30万円としても100台で3000万円。
SSに10台ならまだしも、100台並べる場所もないですね。以上お宅ネタでした。

4 期待される有機ハイドライド方式

まだこの方法での水素STは存在しないのですが、恐らく石油精製元売としては、
最も期待しているだろう方法なので、紹介させて頂きます。
一言で言えば、水素を有機ハイドライドという石油系の物質にして運ぶ方法です。
例えば、既に実験プラントを作った千代田化工建設の商品名なら「SPERA水素」
スぺラ水素です。トルエンに水素を反応せてメチルシクロヘキサン(MCH)という
液体にします。その長所は沢山あります。

1 常温常圧で安定した液体であること
2 1モルあたり-205kJという 比較的低い反応熱と触媒で反応すること
3 SS等での水素の取り出しも比較的容易であること
4 水素を運んだトルエンは、何度でも循環して使えること。
  (但し反応前のスペラ水素と反応後のトルエンを分ける二つタンクが必要)
5 危険物としてもガソリンと同じ第4種第一石油類なので、タンクローリーや
  灯油等のタンクがそのまま使えること。
既に実験プラントも出来ているので機会があれば見学に行きたいと思います。

ちなみに垣見推定ですが、約30KL 22.7トンのタンクローリーで運んでいる水素
は1600kg(NEDO水素貯蔵フォーラム2009資料より))なので、FCV5kg換算で、
約320台分、 ガソリン換算で1L当り 3円弱の輸送コストまで下がります。
但し、前述のLPGや天然ガス同様の改質器と、二つ分のタンクは必要ですが、
反応は単純なので、LPG改質よりは、遥に安価だと思います。
50Nm3/hという小規模ながら、トルエン+水素⇒スペラ水素⇒トルエン+水素という
デモプラントも稼働していることから、そのやる気は本気だと思います。
詳細は 千代田化工建設株式会社様のHPでどうぞ
http://www.chiyoda-corp.com/technology/spera-hydrogen/

5 液体水素供給方式 岩谷産業の2カ所+ 東京水素ステーション発表

最後にご紹介するのが、20-30年後の各家庭への導管供給なんていう究極の方法
を別にすれば、やはり液体水素供給方式は、最も効率的と言えるでしょう。
現在は、岩谷産業が2003年6月にオープンさせた東京江東区の有明水素ST、
また2014年7月に尼崎に作ったのは、全国初の商用(液体)水素STです。
更に2014年8月28日には、ビッグニュースをリリースされました。何と

東京タワー直下に水素ステーション建設するとのこと。概要は
名称    東京水素ステーション(仮称)  東京都港区芝公園4-6-15
敷地面積  1,097u (332坪)  水素供給 液化水素オフサイト供給
供給能力  340Nm3/h (1時間当たり6台の満充てんが可能)
充てん能力 70MPa (メガパスカル) 〈=700気圧〉
設備構成 液化水素貯槽、ドイツ・Linde社製水素圧縮機、蓄圧設備、充填器
着工  2014年9月予定    完工 2015年3月予定  早いです

液体水素供給方式のメリットと 克服すべき課題

設備はよくわかる石油業界でも紹介したリンデ社の進化型で建設費は約3億円。
まだ高いのですが、冒頭に示した4.6億円からは、安くなりつつあります。
水素は液体にすると800分の1になるので輸送という意味では非常に効率的です。
例えば20klの液体水素ローリーや、最大40KLの水素トレーラーもあります。
大型に出来るのは、水素の液密度が0.07kg/Lと非常に軽いからです。
このトレーラーで運べる水素は重さにして、2800kg。よってFCV 1台5kgとすれば、
560台分でガソリンの20KLトレーラーに匹敵する効率です。
以下液体水素のメリットです。
 1 とにかく輸送効率がいい
 2 昇圧のコストが極めて低い(限られたスぺ―スで気化させれば圧力は上がる)
 3 昇圧設備コストや昇圧ランニングコストは格段に安く、省スペースとなる。
 4 液体水素は-253度。その温度からの気化なので、充填時の冷却の必要なし
 5 タンクの保温技術の進歩によりボイルオフレートは0.3%/日まで下がり、
   従来のような液体水素=大量消費を必要としない
 6 将来液体水素のままの充填も可能となれば、ランニングコストは更に下がる
しかし克服すべき問題も少なくありません。それはやはりマイナス253度という
極低温での液体水素充填ポンプの凍結防止や金属の耐久性、またFCVに搭載
されたタンクや配管バルブ等の耐久性でしょう。以下はJARI提供のシステム図。
既に液体水素の直接供給を暗示しています。

液体水素の体積収縮は 1/800 そして70MPaでの充填圧は80MPa?から思う

水素は冷却し、-253度まで下がると液体になりその体積は1/800になります。
逆に、水素の臨界温度である-240度以上ならどんなに加圧しても液化しません。
仮に将来液素のままで、FCVに直接充填が可能となったらどうなるのか。そう800倍
の体積に膨張する訳ですが、そこが極低温に耐えられる密閉空間だったら、どん
どん圧力は上がり、800倍 ≒ 800気圧 あれ 80MPaですね。要するに70MPaの
FCVのタンクには、液体水素並の体積比で水素が入っていることになります。
我々はLPガスタクシーに乗るとき、タンクの中のガスが液体か気体かなどは
全く意識しません。要するに-260度の極低温と80MPaの超高圧での使用に
何の問題もなく耐えられる、充填ポンプや、バルブやタンクが開発されれば、
水素も LPガスも 全く同じように扱えるのかもしれません。
ちなみに天然ガス車のタンク圧は20Mpaです。80MPaのタンクがを積んで規制緩和
されたら 航続距離は4倍になりそうですが、さにあらず。メタンガスは、20MPaを
超えると、それからは圧力に見合う体積収縮はしなくなるそうなので、天然ガス車
20MPaというのはそれなりに意味があるそうです。逆に考えると石油系の燃料が
密度が高く取扱い易いエネルギーであるかが、よくお分かり頂けると思います。

東京水素戦略会議での私のプレゼン内容は以下の通り
  7月4日プレゼン資料と  7月30日プレゼン資料です。感想はこちらから