今 ガス体エネルギーが面白い シェールガス革命&日本も世界初のメタンハイドレード試掘成功他 |
東日本大震災の原発事故で日本の多くの原発が停止し、日本のエネルギー政策は、大幅転換原発停止による電力不足は、やはりLNGによる火力発電で補っている(データ更新)
を迫られました。耳には優しい再生可能エネルギーは、太陽光を中心に確かに頑張っています。
資源エネルギー庁が3月13日に発表した資料によれば、2012年4月から12月までに導入された
再生可能エネルギーによる発電設備は、117.9万kWです。(下記表参照)
この内約95%の111.9万kWが太陽光発電なので、見掛け上原発1基分増えたことになります。
そして企業が売電を目的として設置したメガソーラーなどの非住宅用と一般的な住宅用も合計
した太陽光発電設備は、昨年3月末の480万kWから12月末までに、591.9万kWに拡大。
2013年3月末の当初計画は、680万kWとのことだったので、大幅に超える見通しです。
大幅増の理由は、昨年7月より始まった固定料金買取制度(Feed-in Tariff)でしょう。
当初1kWあたり50万円していた設備費用は、じりじり下がり、後半には、40万円を切るように
なりました。従ってまだ稼働こそしていないものの、昨年12月末までに認定を受けた新規設備は
523.6万kWもあります。要するに12月には原発1基分の118万kWしかまだ設置されていないが、
それは、数か月後には、約5倍の523万kWになり、それは、11月から12月の1か月間で
159万kW分が増えたという解釈でいいものと思います。
この認定設備容量524万kWの内の7割の385.7万kWが非住宅用太陽光なので、太陽光の
設置場所がある企業等が、この制度を利用して参加したのでしょう。ちなみに弊社も本年2月に
20kWを申請させて頂きました。完成は、5月の予定です。
ベース電力になるという意味で、長期的には私が最も期待している地熱発電は、調査と開発
期間が長いので、昨年12月までの期間では、実績ゼロというのが現状でした。
その他、風力は、3.4万kW、中小水力は0.3万kW、バイオマスが2.2万kWに留まっています。
太陽光の推進は私も大賛成ですが、その能力と限界も、把握しておく必要がありそうです。
以上間違いなく言えることは、これらの太陽光の設置が順調に進んでいるので、今年の夏の
晴天時のピーク時対策には、かなり有効で、原発の再稼働がなくても乗り切れると思います。
しかし太陽光発電は、曇りでは大幅に発電量は落ちますし、夜は全く発電出来ません。LNGには何故備蓄義務がないのか
結局、その不足分はLNGの火力発電で補うしかないのです。
下記表は、電気事業連合会発表の電力10社の火力用発電の消費エネルギーです。
石炭はトン、原油石油はKL、LNGはトンなので、比較しにくいので、右枠の年度計の下に
熱量換算ベースの使用燃料割合表を付けました。
すばり全火力発電の内、この12か月間では、LNGが55%を担当したことになります。
電力10社の 火力発電用の燃料消費実績 2012年4月-2013年3月 電事連発表
その一方、各燃料の毎月の対前年伸び率をご覧下さい。震災1年後までは、各原発の停止もあり
2012/4月から同9月までは、大幅な伸びを示していましたが、10月以降はかなり落ち着いている
ように思います。
ところで原油の備蓄は180日あるのですが、LNGには何故か備蓄義務がなく、実在庫は30日程度LNGの総需要を見れば一目瞭然 LNGに業界の垣根はもはや存在しない
しかないことは余り知られてはいません。その脆弱さは、2月企画でお示しした通り、一時期非常に
高い発電用のLNGを買わざるをえなかったことにも表れていると思います。
では何故、LNGには備蓄義務がないのでしょうか。現在ある法律なら前文等に大抵その理由
が書いてありますが、法律が無い理由を特定するのは、かなり難しいことです。
よってあくまで私の個人的な推定ということでお許し下さい。私は3つあると思います。
1. 石油備蓄法の歴史的背景
石油備蓄法は、第一次オイルショックを受け、その対策の一つとして昭和51年(1976年)4月
に施行されました。当初は民間備蓄で90日分が目標とされ、最初はタンカー備蓄という形態
もありました。やがて民間での90日備蓄の費用負担は多大となるなか、国家による備蓄も
始まり、現在では民間備蓄義務70日、国家備蓄は数量で約5000万KLとなっています。
重要なのはこの時代の一次エネルギーの構成比です。
石油(LPG含む)73.4%、石炭16.4%、水力5.3%、天然ガスLNG2.5%、原子力1.5%です。
要するに石油さえあれば、何とかなると思われていましたし、また都市ガスも今のように
メタンが多い13Aではなく 6A等いろいろな炭化水素が混ざったものだったので、
事実石油さえあれば何とかなったのです。
2. LNGの物性上の特性とコストの兼ね合い
LNGは、天然ガスという気体状のガスを、多大なるエネルギーを使って冷却して液化し
1/600の体積にしてLNGタンカーに積み込みます。 当然LNGタンカーでの輸送時にも
冷却し続けなくてはいけないのですが、気化する時に熱を奪う性質を利用しています。
タンカーの方もステンレス等の球形タンクに断熱材等をで保護して、冷却コストの低減化
を図っています。現在最新鋭のタンカーでも 自然気化率(ボイルオフレート)は1日当たり
積み荷の0.1〜0.15%と非常に少ないのです。そしてLNGタンカーは、自分の積み荷の気化した
天然ガスを使って航行しているのです。
日本到着後も当然この液体状態に保つためには-162℃を維持しなければならず、常時
冷却用エネルギーを要します。従って長期保存するとこれらのエネルギー量が大きくなり
備蓄の意味が低減しています。従ってLNGはなるべく短い時間で消費するよう輸送計画が
組まれ、長期備蓄も行われていませんでした。
この物性の違いは、備蓄タンクの形状をみれば、一目で分かると思います。
原油は、圧力を伴わないので円筒状のタンク、液化石油ガスLPGは、沸点(液化温度)が
高いので、球形タンクなのに対し、LNGは絶対的な断熱が必要なので、半地下もしくは、
地中岩盤内保存等の必要があり、そのコストも莫大となります。
3. 国家のエネルギー戦略と 今後の長期需要の関係
それでも本当に必要ならLNGの国家備蓄を国の予算ですべきだと思います。
しかしその前提となる国のエネルギー長期戦略が明確でないので、LNGを扱う民間会社も
自らの最低限の流通在庫しか持っていなのが実情でしょう。
例えば前民主党の脱原発を信じて、LNG備蓄タンクを作る為に投資したら、自民党政権に
なって原発が半分以上 復活して、LNGの絶対需要が大幅に減った。
或いは、昨年9月企画の通り、シェールガス革命で、欧州への売先がなくなったロシアの態度が
柔軟になり、例えばロシアが日本への海底パイプラインを整備したいと言って来て、もしそれが
実現して、日本に気体のパイプライン網が出来たら、高コストのLNGを備蓄地下タンクは
必要なくなるからです。
ところで 読者の皆様にずばりクイズです。
2011年度において、東京ガスの天然ガス(LNG)の総販売量(≒輸入量)と同年と東京電力の
発電用天然ガスの使用量(≒輸入量)は、どちらが、どのくらい多いと思いますか。
弊社社員に聞いても その多くの回答が、東京ガスなのです。しかし現実は下円グラフの通り。
電気事業連合会では、電力10社の使用料のデータを毎月報告しています。単位は重量でトン。
一方、日本ガス協会 でも毎月発表しています。単位は体積のm3。
LNG 1トンは 1220m3なので、トンに換算すると下記表となりました。
そんな中、エネルギーの多くを輸入する日本にとって大変嬉しいニュースが飛び込んで来ました。
愛知三重県沖の水深1000m、その海底から更に300mの深さの氷状のメタンハイドレードの試掘を
していたのですが、無事メタンガスの回収に世界で初めて成功したのです。メタンハイドレードは、
天然ガスの成分であるメタンを水分子が籠状に取り囲み、海底下や低温高圧の元で、シャーベット
状に結晶化した物質です。「燃える氷」ともよばれ、愛知県の渥美半島沖から 九州沖の太平洋岸に
広く分布されるといわれその総量は、一説には、日本の天然ガス需要の100年分という嬉しい数字も
あります。事業主体は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(通称JOGMEC)です。
このメタンハイドレード調査は、2001年のフェーズ1が始まりました。その成果として
東部南海トラフに於いて開発可能性が高いメタンハイドレード濃集帯を確認。地震探査による
メタンハイドレードの存在推定手法を確立し、更にメタンハイドレード原始資源量を確率論的に計算。
そしてカナダでの陸上産出試験で、メタンハイドレード濃集帯の生産手法として減圧法が有効で
あることを科学的データに基づき実証。
そして2009年度よりフェーズ2が開始していますがこの最大のイベントが、今回の海洋産出試験です。
今後2015年までのフェーズ2。そして2016-18年までのフェーズ3で、商業目的の産出準備や経済性、
環境影響等を総合的に評価し、実用化を目指す計画になっているようです。
しかしご苦労もまだまだ多いようです。また今回の試掘でも3月12日にガス回収を確認したものの
わずか6日後の18日頃には、ポンプが故障し、予定より早く、試験を終了。
カナダの陸上での試験の時も、水の中に入っている泥の対策に苦労したとのことです。
あくまで私見ですが、商業生産開始が10の段階とすれば、まだ1とか2のレベルとは思います。
しかし資源のない日本としては、原発再開が難しい今、資源輸出国に対して、一つのカードを持った
事は間違いないと思います。すなわち、来年の天然ガスを下げることは無理でも、輸出国に対し
「そんな高値政策を続けるなら、米国のシェールガス革命の如く、本気でメタンハイドレード開発を
進めますよ」と主張出来るでしょう。その開発は国内投資ですから、万一価格が同程度までに
下がれば、それは国富の流出を食い止めるだけでなく、国内経済対策にも繋がると思います。
赤色がい確率でメタンハイドレードが存在すると思われる場所↓
写真と減圧法概念図はJOGMEC提供 地図はメタンハイドレード資源開発研究コンソーシアム提供
今回の大震災で、最も強かった家庭用のエネルギーインフラは、LPガスです。
ガソリンや灯油と違い、首都圏でもパニックは起きず、津波被害のなかった被災地では、
電気や都市ガスよりも早く復旧し始めたのは、阪神淡路大震災同様LPガスでした。
また昨今、非常に注目され、急激に普及を広げているのが、原発の集中発電の対極にある、
分散発電としての家庭用燃料電池です。
その発電には、純度の高い水素が必要なことから、水素発生の源となる燃料は、
事実上LPガスや天然ガスに限られています。
また2020年までに到来すると言われている水素社会でも、オンサイト型水素製造なら、
その主役は、天然ガスとLPガスなので、ガスは本当に重要なエネルギーなのです。
その中で都市ガス業界は、地域独占と総括原価方式で、自由競争のない世界でしたが、
昨今の電力業界への指摘や改革論議は、都市ガス業界にもそのまま当てはまるでしょう。
一方、LPガス業界も個々の家庭に個別に配送するという宿命はあるものの、その末端価格は
都市ガスに比べて高止まりし、その結果LPガス需要は減少に転じているのは残念です。
しかし昨今、その長年の業界の常識や商習慣を見直し、流通や配送の合理化効率化を進め
都市ガス並みの競争力ある価格を目指すべきではないかとの機運も高まっております。
世界に目を転じても、米国で起こったシェールガス革命で米国の天然ガス価格は下がり、
結果としてロシアの欧州向けの価格も下がり、日本への波及も期待されています。
このシェールガスで培った技術は、シェールオイルの増産となり、米国WTI原油価格は、
中東や北海原油との比較で下落しています。また随伴的にLPガスも産出されることから
米国からのLPガスの輸入も増え、その高い中東依存度の解消も期待されています。
そして待ちに待った日本近海のメタンハイドレードの試掘も始まりました。
正にこれからは業界の枠を超えた、いやその業界という概念そのものが意味をもたなくなる
ガス体エネルギーの時代が来るでしょう。HPでも何度も取り上げている水素もガスなので、
正にこれからはガス体エネルギーから目が離せません。私も改めて勉強してみたいと思います。