WTI原油は、75ドル/Bと最高価格突破、中東原油も急上昇
 ガソリン現物市場も上昇中、待ったなしの末端価格値上げ
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皆様もご存知の通り、3月21日以降、WTI価格が一本調子での上昇を続け、高値を更新しています。
そして石油業界の方はご存知と思いますが、日本の原油コストを事実上決めている中東原油は、
実は2月時点で既に過去最高価格を突破しており、石油業界の仕入コストを確実に押し上げおります。
またガソリンの現物業転価格も急上昇しております。これは原油が上がったこともさることながら、
この時期に予定されている精製設備の定期修理に、東燃やコスモの事故が重なったからでしょう。
また系列仕切りも大幅上昇しています。元売各社は、5月は4円/L前後の値上げを発表しました。
出光の様に異例の月中からの値上げを発表した元売もある程です。にもかかわらず、4月中旬までは、
値上げどころか、一部地区で戦略に基ずくとは思えない乱売合戦等も発生し、結果として一進一退の
理解に苦しむ、末端市況が続いています。しかし4月の最終週からようやく値上げ機運が高まってきました。
そこで今月は、原油から末端市況に至るまで、少し詳しく、また可能な限りの実データを示しながら、
業界人としての説明責任を果たし、SS業界の5月値上げにご理解を頂けるようお願い申し上げます。
   文責 垣見裕司  Ver2 (皆様からのご要望によりデータを6月末な一部更新しました)

最高値を突破したWTI
改めて過去からのデータで振り返ってみましょう。それまでのWTIの最高値は、あのハリケーン
来襲の2005年 8/30の 70.85ドル/Bでした。しかし、その後は下落し、2005年11/18には、
55.40ドル/Bまで下落しました。その後2006/1/23には今年のピーク68.80ドル/Bをつけるものの
2/16には57.55ドル/Bまで下落、北半球の先進諸国の需要期も明けて、需要的にはピークを
過ぎ価格も落ち着くのではないかと思われていました。
しかし、結果は下記表の通りです。3月20日過ぎから、ほぼ一本調子に値上がりし、4/11には
今年1/23の高値69.2ドル/Bをあっさり突破すると、4/18には過去最高値の70.85ドル/Bを
何の抵抗もないが如く、あっという間に突破してしまいました。

                       WTI 期近つなぎ 週足 

原油価格の急上昇原因は何か
では何故、ここまで上がったのでしょうか。旺盛な中国等の需要もありますが、ここ1ヶ月で
更に増えたとは聞いておりません。米国がドライビングシーズンを向かえるというのも、後から
つけた理由のように思います。以降はあくまで私見ですが、やはり供給面の不安材料を、
投機筋が煽っているような気がします。
まずはナイジェリアでの武装勢力の攻撃で、日量50万バレル以上もの生産が止まっており、
これは同国の全生産量の25%に当たるそうです。この武装勢力は「パイプラインはあるのに
地元住民が使う道路はない」と地元にも石油収入の分配を求めており、相当根は深そうです。
また生産がストップしている同50万バレルの相当部分は、世界的に需要が大きな軽質油で
あるだけに、軽質油と重質油の格差拡大にも繋がっているようです。
そして相変わらず落ち着かないイラク情勢は、各国軍隊の撤退が秒読みなことを考えると
素人目に見ても、むしろ深刻化しているのではないでしょうか。
しかし今回の急騰は、やはり「イランの核問題」だと思います。全く未確認情報ではありますし
投機筋が相場を煽るために流しているのかもしれませんが、「米軍によるイラン核施設への
ピンポイント攻撃が近いらしい」とのそれらしいネタに過剰反応しているのかもしれません。
最も深刻なのは、日本の輸入価格に直接影響を与える中東原油の値上がりだ
さて今回の原油値上がりで声を大にして申し上げたいのは、投機的なWTIだけでなく、
日本の原油コストを事実上決める中東原油価格が、じりじり値上がりしていることです。
より冷静に判断するために、デイリーの一喜一憂ではなく月平均で検証してみましょう。
下記表の通り、月平均ではWTIのピークは2005年9月の65.55ドル/Bでした。同じ9月の
オマーンは、58.35ドル/Bで過去最高、ドバイのピークは8月でしたが56.6ドル/Bでした。
結果ドバイとオマーンの平均は57.445ドル/Bで9月がピーク。この時のWTIとの格差は、
8.1ドル/BのWTI高でした。
そして1月には、ドバイとオマーンが過去最高値を突破しました。WTIも上昇しているものの
最高値には達しておらず、結果としてその格差は6.69ドル/Bと縮まる傾向を見せています。
更に2月を見て下さい、オマーンドバイの平均は58.1ドル/Bとほぼ最高値圏ですが、WTIは
61.93ドルと一応の許容範囲の留まっています。結果その格差は3.8ドル/Bまで縮小しました。
オマーンやドバイ原油は基本的には実需の世界ですから、投機資金は、あまり入ってこない
と思いますが中東原油の値上がりを見て再び投機資金がWTIに入っているという、アップ
スパイラル状態で上昇しているような気がします。
この井戸元価格の上昇は、当然我が国に輸入CIF価格を押し上げることとなり、2005年1月
のCIF価格25円/Lから2006年6月の48円/Lまでなんと23円/Lもの大幅上昇となっています。
ちなみに3月のFOB価格が既に決定しているので4月のCIF価格は、ある程度推測出来.ので
5月までの推定値を記しました。あくまで推定ですが、5月は3月比+5円くらいになりそうです。
                    (11月末にデータ更新)
OMAN DUBAI 平均 WTI 格差 CIF $/B 円レート 円/KL 累計
2005/1 39.187 37.920 38.554 46.852 8.299 38.34 103.66 24,998 0.00
2 41.076 39.868 40.472 48.053 7.581 41.04 103.83 26,805 1,807
3 47.214 45.841 46.528 54.630 8.103 42.57 104.83 28,071 3,073
4 48.193 47.204 47.699 53.218 5.520 48.45 107.15 32,652 7,654
5 46.407 45.398 45.903 49.871 3.969 51.12 106.02 34,088 9,090
6 51.947 51.083 51.515 56.420 4.905 49.40 107.90 33,525 8,527
7 53.463 52.828 53.146 59.026 5.881 53.17 110.60 36,986 11,988
8 57.521 56.600 57.061 64.993 7.932 55.45 111.54 38,905 13,907
9 58.353 56.536 57.445 65.553 8.108 59.34 110.21 41,135 16,137
10 55.229 53.960 54.595 62.269 7.675 59.85 113.34 42,668 17,670
11 52.525 51.389 51.957 58.343 6.386 57.54 116.67 42,222 17,224
12 54.195 53.198 53.697 59.448 5.752 54.75 119.52 41,162 16,164
2006/1 59.257 58.440 58.849 65.538 6.690 56.22 116.10 41,054 16,056
2 58.612 57.605 58.109 61.926 3.818 60.91 116.92 44,794 19,796
3 59.190 57.817 58.504 62.966 4.463 60.93 117.49 45,027 20,029
4 65.542 64.144 64.843 70.161 5.318 61.22 117.45 45.269 20,271
5 66.299 65.000 65.649 70.961 5.312 66.44 113.51 47.440 22,442
6 66.167 65.220 65.694 70.970 5.276 67.76 112.08 48.027 23,029
7 70.215 69.165 69.690 74.463 4.773 67.96 115.33 49.302 24.304
8 69.968 68.765 69.366 73.083 3.717 71.90 115.89 52.340 27.342
9 61.007 59.816 60.411 63.895 3.484 72.04 116.78 52.918 27.920
10 57.383 56.424 56.903 59.138 2.235 64.44 117.94 47,803 22.803
ノンブランドガソリン現物価格も大幅上昇(2006/10/末更新)
この原油コストUPに対して、国内の製品市場や卸市況は、どうなったのでしょうか。
2005年1月価格をベースに比較すると、下記表の左から3-4番目は、ガソリンノンブランド
市場のいわゆる業転価格です。この価格は1000KL等、船レベルの大きなロットなので、
海陸格差、ロット格差、更にはSSへのローリー運賃等合計で2円から4円を加えたものが、
ノンブランドSSの購入可能価格です。その価格は、ご覧の通り、2005年の1月の88.9円/Lから
本年7月末日現在の121.0円まで、何と32円も上昇しているのが分ると思います。
また元売各社も度重なる値上げを発表しました。新日本石油を例に取れば2005年1月対比で
その累計値上げは5月分の値上げも含めて、なんと26円にも達しています。
その右の列の「卸価格」は、資源エネルギー庁が我々末端SSの卸価格を調査した結果です。
記名式で毎月報告しているので、SS業界では、当らずしも遠からずという信頼は得いている
とても参考になる価格です。これも、昨年1月対比 23円もの大幅値上げとなっています。
このエネ庁調査の卸価格の値上がり幅が、元売発表より少ないのは、我々SS軍団が、
元売からの値上げ通告を少しでも下げてもらうべく頑張っているという現われかもしれません。
月/ 円/L 原油CIF幅 京 浜 西日本 平均 累計 新日石発表 卸価格 累計 市況 累計
2005/ 1 比+0.0 88.8 88.9 88.9 +0.0 単月 累計 96.3 税抜 117 税込
2005/ 2 1.8 90.6 90.8 90.7 1.8 1.1 1.1 96.8 0.5 116 -1.0
2005/ 3 3.1 93.7 94.0 93.9 5.0 2.2 3.3 98.5 2.2 117 0.0
2005/ 4 7.6 99.5 99.6 99.6 10.7 5.1 8.4 103.4 7.1 122 5.0
2005/ 5 9.1 98.2 98.3 98.3 9.4 2.4 10.8 105.1 8.8 124 7.0
2005/ 6 8.5 98.5 97.5 98.0 9.1 -1.3 9.5 103.7 7.4 123 6.0
2005/ 7 12.0 104.4 103.2 103.8 14.9 3.1 12.6 106.9 10.6 125 8.0
2005/ 8 13.9 106.7 105.8 106.3 17.4 3.1 15.7 109.8 13.5 129 12.0
2005/ 9 16.1 108.9 108.7 108.8 19.9 2.3 18.0 111.7 15.4 131 14.0
2005/10 17.7 106.3 106.3 106.3 17.4 0.9 18.9 112.5 16.2 131 14.0
2005/11 17.2 101.3 101.3 101.3 12.4 -0.5 18.4 111.4 15.1 130 13.0
2005/12 16.1 100.5 100.7 100.6 11.7 -0.9 17.5 110.0 13.7 129 12.0
2006/1 16.1 102.7 102.9 102.8 13.9 1.3 18.8 110.5 14.2 128 11.0
2006/2 19.8 106.1 106.2 106.2 17.3 2.0 20.8 112.4 16.1 130 13.0
2006/3 20.0 111.3 111.4 111.4 22.5 2.1 22.9 114.5 18.2 131 14.0
2006/4 20.3 114.5 114.6 114.6 25.7 -0.4 22.5 114.8 18.5 131 14.0
2006/5 22.4 121.5 120.5 121.0 32.1 4.3 26.8 118.9 22.6 135 18.0
2006/6 23.0 121.3 120.4 120.9 32.0 -1.1 25.7 119.2 22.9 136 19.0
2006/7 24.3 121.6 121.5 121.6 32.7 0.9 26.6 120.2 23.9 137 20.0
2006/8 27.3 123.6 123.6 123.6 34.7 4.3 30.9 125.2 28.9 144 27.0
2006/9 27.9 116.2 116.3 116.3 27.4 0.2 31.1 125.0 28.9 144 27.0
2006/10 22.8 108.0 108.0 108.0 18.1 -4.7 26.4 120? ?24? 141 24.0
(卸価格は税抜き、末端価格は税込み。SS粗利等を算出の場合は、消費税6-7円を引いて下さい
何故末端市況は、今まで上がらなかったのか
では、系列仕切も、業転価格もこれ程上がっているのに、何故末端市況は、今まで
上昇しなかったのでしょうか。やはりこれも業転価格との連動で考えると良いでしょう。
2005/12月の業転価格をご覧下さい。原油輸入CIF価格は、決して安くなっていないのに
灯油等を大増産する必要があったのでしょうか、結果としてガソリンの需給が緩み
価格が下がったのを見て、業転連動で買える大手SS業者が安値販売を始めたのが、
きっかけだと言われています。
しかしこのような大手店は数から言えば実は少数で、市場では点の世界です。
この超安値販売を「面」の世界に広げてしまった一つの要因に、元売子会社特約店の
存在があります。業界で言われている各元売子会社の運営力からすれば、ガソリン1L当
7円から10円利益がないとやっていけないはずなのですが、一部では税込み120円を
割るような価格で、安易に追随していたSSが少なくありませんでした。
上記のエネ庁調査卸価格からすれば首を傾げたくなるような販売価格であり、一体
仕入価格はどうなっているのか疑いを持ちたくなるような状態でした。
結果として、本年4月価格は、2005年1月対比で、CIF価格+21.5円、業転+25.5円
系列元売値上げ+22.5円、エネ庁調査卸価格+18円も上がっているにもかかわらず
末端市況は、14円しか上がっておらず、4円もSS業界が負担していることが分ります。
更に激戦地区では124円、そして超激戦地区では120円割れとなっていましたので、
末端価格は税込み、卸価格までは税抜きで記ししているので、利益どころか、粗利すら
ほとんど無いレベルであることが、ご理解頂けるでしょう。
しかしやはり124円等では、生き残っていける会社はありませんでした。今回の値上げでは
さすがの元売子会社系特約店も、積極的に値上げし始めたように思います。
精製設備の定期修理と精製設備の事故は、業転市場をより堅調に推移させるだろう
この時期の業転価格の形成の要因として忘れては行けないのが、精製設備の定期修理です。
現在、日本国内の原油処理能力は、常圧蒸留装置で476万BDですが、我々でも馴染み易い
KLでの月間能力に換算すると 476万BDx159L/1000L x 30日=2366万KLとなります。
エネルギー業界としては、不需要期にあるこの時期に、「定修」が予定されていますが、
操業を停止して定修に入る精製設備は、全体でどのくらいの割合になると思いますか?。
その計画数字をお伺いしましたが、4月131万KL相当(全能力比6%弱)、 5月387万KL
(同16.5%)、6月363万KL(同16%)、7月208万KL(同9%)とのことです。従って
4ヶ月合計停止能力は、1090万KL(11.5%)という膨大な量で、昨年の868万KL(9.4%)
一昨年の878万KL(9.4%)から比較しても、今年の定修は大規模であるとこが、お分かり
頂けると思います。
更に東燃の堺やコスモ石油千葉での精製設備の事故は、出荷等短期的
には問題ないそうですが、積み増しすべき製品量が足りなくなるのは間違いなく、少なくとも
需給が緩むことはないと思われます。
SS業界としては、とにかく値上げさせて頂くしか生きる道はない
では、肝心の末端市況の動きはどうなのでしょうか。まず弊社の基本方針としては、
値上げさせて頂くしかない」ということです。ここまでご説明して来た現実がある以上、
仮に隣のSSの経営判断にかかわらず「私どもは値上げをお願いしなくてはならない」という
覚悟です。その時期も正にこの週末というか月末までに値上げを完了したいと思っており、
既に掛売りのお客様には、値上げのお願い文書を請求書に同封するなりして、お願いに
回っております。
しかしこの当社の判断は、4月の最終週にはSS業界全体の機運になって来たようです。
元売である出光が、異例の月中からの値上げを発表したこともあるのでしょうか。
当社SSの近隣でも、4月26日前後から値上げを始めたSSがみられるようになりました。
また前述の通り今回ばかりは、元売子会社系特約店も値上げに踏み切ったようで
4月28日の現在では、ほとんどのSSが値上げ後の看板表示をしているように思います。
お客様に対する十分なご説明が必要
さてこの原油高騰に当たって、我々販売業者が忘れてはいけないことがあります。
それはお客様への説明責任です。「原油価格の記録的な上昇」というこれだけ原因が
ハッキリしている値上げですので自信を持ってご説明し、その転嫁をお願いすべきでしょう。
昨今のSS業界は現金販売が圧倒的に増えてきました。
「単に看板表示価格を上げれば値上げ活動はお終り」と安易に考えている経営者は
少ないと思いますが、現金のお客様にこの「歴史的な原油価格の高騰の背景」を、正しく
ご理解頂けれるよう、ご説明出来ているのか多少心配になります。
 当社SSでは一般紙や業界紙を問わず、原油価格の高騰記事等があると、それを各SSに
配布し、レジカウンターやゲストルームの机、そしてトイレ等にも掲示するようにしております。
また所長や従業員には、「お客様に自信を持ってご説明するとともに、これを良い機会と
とらえ、お客様にご納得して頂けるまでじっくり対話してほしい」と指導しているところです。
今月企画に記載したデータも、その説明資料の一部ですが、SS経営者の皆様にとって、
或いは多くの消費者の皆様にとって、当社HPの各種データがお役に立てば幸いです。
     ご意見ご要望ご感想はこちらから 垣見 裕司 2006年8月1日更新 Ver 5