ハリケーン「カトリーナ」によるWTI最高値更新と IEA要請によるガソリン輸出が国内市況に与える影響 |
「カトリーナ」は、正確な死者数を未だに把握出来ないばかりか その被害額は300 億ドルを超える最初は鈍かった日本の対応
とも言われ、史上最大のハリケーン災害となりました。実は今回被害のあったメキシコ湾地域は、
米国の原油生産能力の27.5%、天然ガス生産能力の19.4%、 石油精製能力の47.4%を占める
石油・ガス施設の大集積地でもあります。被害が最も酷かった30 日頃には、原油の生産停止は
142.8 万B/D、ガスは8.8bcf/d へと拡大しました。
また石油精製能力についても、8 箇所が運転を停止し精製能力144.9 万B/D(米国全体の8.5%)が
失われ その後一部が復旧したものの、9 月7 日時点で合計精製能力111.9 万B/Dが全面停止し、
原油供給不足等により処理量を落としている製油所を合わせると9カ所が影響を受けました。
そして運転再開の目途が立っていない4 箇所の大規模製油所もあるとのことです。
この非常事態に対し、IEAは9 月2 日、加盟国に日量200 万Bで30 日間合計6000万バレルの
石油備蓄放出を要請しました。米国はこれを 原油で放出、欧州各国は、製品備蓄が多いので
ガソリンで放出すると伝えられました。この発表に対しWTIは、70ドル/Bの高値から一時8ドル/B
近く下落し、一応の落ち着きを見せたに見えましたが、、、
では、このIEAの要請を受けた日本の対応は、どうだったのでしょうか。シミュレーション 24万BDを増処理すると何が起きるのか
資源エネルギー庁は、石油連盟に要請、石油連盟も前向きに検討すると発表しました。
さて200万BDの内、日本の分担は12.2%なので24.4万BDです。よって30日間計で732万B、
すなわち116万KLを放出せよという計算になりまが、業界人として考えると、これは膨大な
数量であると言えます。具体例で申し上げれば、日本最大の精製会社である新日本石油
精製の、その最大の製油所である神奈川県の根岸製油所は、1製油所としても日本最大の
34万BDという能力を誇っています。
もし今回のIEAの要請をまともに考えれば、その日本最大の製油所の約2/3の精製能力を
米国向けに1ヶ月間振り向けて出来た、ガソリンを中心とする石油製品を米国や少なくとも
海外に輸出せよ、ということになりますが、こんなことが出来るか考えてみましょう。
日量B/D 総量万B 構成% 万KL換算 米 国 100.0 3,000 50.0 477 日 本 24.4 732 12.2 116 ドイツ 12.0 360 6.0 57 韓 国 9.6 288 4.8 46 フランス 9.2 276 4.6 44 イギリス 7.3 219 3.7 35 スペイン 7.0 210 3.5 33 合 計 200.0 6,000 954
現在の日本の製油所の稼働率は実質90%以上。夏場のピークこそ過ぎたものの、この時期民間備蓄3日分取り崩しの効果は?
としてはフル稼働に近いでしょう。百歩譲って仮に日本の全製油所が系列を超えてフル稼働し、
1ヶ月間24万BDを増処理したとして、それを輸出する余剰タンカーは、どこにあるのでしょうか。
近場の韓国や中国、せいぜいシンガポールに短期間やり繰りするならまだしも、米国本土まで
往復1ヶ月以上かけてガソリン等の石油製品を持って行くことは、タンカー配船面から見ても
極めて難しいと思えます。
更に石油は「連産品」であるという問題もあります。日本は全燃料油に占めるガソリン比率は
約25%程度です。二百歩譲ってタンカーを無理やり手配し、現物でガソリンを輸出出来たとしても
他の余った油種は、国内の現物市場に業転品として放出するのでしょうか。
もしそんなことをしたらガソリン以外の石油製品の業転価格の下落は明白で、原油の仕入が
棒上げ状態の中、ガソリン以外の製品価格が下がるということは、元売各社は絶対に避けたい
でしょう。こう考えて行くと、現物としてのガソリンを精製し、米国まで持って行くことが、如何に
難しいかお分かり頂けると思います。
では「民間備蓄原油の3日分取り崩し」も発表されましたが、こちらの効果はどうなのでしょうか。WTIの動きは
米国の場合は、国家備蓄の放出なので、市場外から忽然と100万BDが市場に投入されること
になり少なくとも放出期間中は、それなりの効果があるでしょう。現にWTIが一時的に下がった
大きな要因の一つであると思います。
しかし日本の場合は、民間備蓄で各社が既に所有している言わば市場内在庫です。徐々に
取り崩し、在庫がキャッシュになるという中期的な財務メリットはあるかもしれませんが、原油は
のスポット契約割合はせいぜい20%。更にそのスポットでもタンカー配船とともに中長期的に
輸入しているので、その効果は、早くても10月中旬以降、多少現れるか、という程度でしょう。
従ってあくまで私見ですが、日本の原油備蓄取り崩しは、米国の国家備蓄放出に比べれば、
国内市場に与える影響やその即効性は、米国より低いと言わざるを得ないと思います。
ちなみに日本国内の総需要を仮に年2億4千万KLとすると月間では2千万KL、よって3日分は
200万KLとなるので、IEAの日本の割りあて116万KLに対しては、一応適切な数字でしょう。
またIEAも「その実施方法等の詳細は各国に委ねる」と含みは残していたので、日本政府や
石油連盟の「積極的に協力するものの、具体的には今後検討していくことになる」という発表の
その後の対応を注視していました。
以下は、WTIの価格変動です。カトリーナ来襲でピークとなりその後一応下落しています。国策並みのエネ庁主導で 実現したガソリン現物輸出の影響は
9月20日はある意味象徴的な日となりました。今後もガソリン輸出は続くのか
新日本石油の精製子会社である新日本石油精製
仙台製油所から、現物のガソリン2万5千KLが、
アメリカに向けて出荷されたからです。
それも、新日本石油1万KL、出光、コスモ、Jomoが
各5千KLという系列を超えた協力であり、合計25千KL
という量を、一応短期にまとめ上げたことも意義深いと
言えるでしょう。
当初元売各社は、前述の通り、ガソリン在庫量の
少なさや他の製品との生産バランス、或いはタンカー
手配等を理由に「前向きに検討するも具体案はこれから」
という姿勢を見せていましたが、これが急変したのは
何故でしょうか。
それは対米貢献で目に見える成果を出したいご当局の強い要請が第一要因でしょう。
その結果エクソンモービルが9月8日にガソリン原料のアルキレート22千KLの輸出を発表、
それが突破口となり、13日には昭和シェルが24千KL(後に26千KLに増量)、そして14日には
新日石1万KL、出光、コスモ、Jomoの各元売5千KLの輸出が相次いで発表され合計73千KL
の現物ガソリンが集まることとなりました。
このご当局の気合の入れ様は、仙台でのセレモニーからも分かります。当初課長クラスの出席
の予定が、急遽近藤資源・燃料部長が出席することとなり、新日石の西尾社長も当日の予定を
大幅変更して仙台に駆けつけるとともに、Jomoは瀬野副社長、出光が西村常務、コスモが近藤
常務という怱々たる顔ぶれになりました。これは行政指導といよりは、国策事業と表現する方が
よいかもしれません。
ところで一部の新聞にしか書かれなかった話があります。この3社が共同で出荷するタンカーには
昭和シェルが13日に昭和四日市で積んだ26千KLのガソリンも既に積まれており、実は輸出する
ガソリンは、合計で51千KLになっていたという話です。悪い話ではないので、あまりオープンにされ
なかった理由は不明ですが、国内では適当なタンカーを手配出来ず、香港船籍を昭和シェルが
積んだ後の空きマスを、系列を超えて使った等の「大変さ」の表れと勝手に解釈しております。
さて今回売却価格等の情報は公開されていませんが、常識として国内業転の税抜き価格と
シンガポール等での海外現物価格の間ではないかと推測しています。またアメリカまで製品を
運ぶタンカーの運賃は、見当が付きません。 通常20万トンクラスの大型タンカーによる原油の
輸送なら、その運賃と保険料は、CIF-FOB=IFなので 2から3ドル/B すなわち、1Lあたり約2円
程度でしょうが、今回は緊急スポットなので、その倍くらいまではあるのかもしれません。
今回実現した73千KLが、日本の国内需給にとってはどのような数字なのか、考えてみましょう。今後の石油製品の現物市況はどうなるのか
日本のガソリンの年間需要を約6000万KL(月500万KL)、1日当りを 16.6万KLとすれば、7.3万KL
は0.4日分となります。こう考えると少ないように思えますが、石油連盟発表の直近の国内ガソリン
在庫は、わずか200万KL、すなわち12日分しかなく、非常に少ない事がお分かり頂けるでしょう。
従ってIEAの放出要請116万KLの内、日本のガソリン得率は25%なので、理想的にはその4分の1
である29万KLを輸出出来ればベストなのかもしれませんが、これは現実離れした数字であること
がお分かり頂けるでしょう。
元売各社のコメントとしては「要請があれば今後も協力したい」と発言しているものの現実的には
前述の通り石油は連産品であり、他の油種の需給バランスが大幅に崩れることを考えれば、
非常に難しいものと思っています。
さて今後の国内ガソリンの現物市況の見通しだが、間違いなく言えることは、卸市況において10月のガソリンの末端市況はどうなる
下げ要素がほとんど見当たらず、当分の間、堅調に推移するということでしょう。ガソリンは勿論
灯油や軽油も万一余れば、「輸出」という選択枝が可能となり、市況は底堅いと思われます。
唯一緩むとすれば、原発の発電も順調に回復したこと、原油の価格高騰で、A重油やC重油の
需要が、LNGにシフトしているので、C重油が余るという「逆ネック」です。余ったから捨てるという
訳にも行かず、貴重な製品タンクを徐々に占有して行く状態は、連産品や需給バランスの難しさを
感じずにはいられません。しかし精製元売の名誉の為に申し上げれば、世界的には日本企業の
分解や脱硫の能力は優れおり、結果としてコストの高い軽質原油を買わなくても、同等の効果を
得ていると思います。特に、新日本石油(精製)、Jomo、昭和シェル等では平均以上の実力を
持っているのではないでしょうか。しかしそれでも得率ベースでは、数%違えばよい方でしょう。
C重油は2004年度は前年比12%減、2005年度も10%程度減少すると予想されているので
これはかなり大変な数字だと思います。さて本項の結論ですが、国内現物市況は、今回のように
ガソリン大量輸出の実績が出来たので緩む要素が見当りません。灯油や軽油もガソリン程では
ないにしろ同様の傾向でしょう。一方A重油、またC重油は、弱含みと考えられるでしょう。
今年に入っての新日本石油の系列価格改定と原油CIF価格、京浜地区の業転価格、
12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 合計 建値改定額 前月比 −0.8 +1.1 +2.2 +5.1 +2.4 −1.3 +3.1 +3.1 +2.3 +17.2 原油CIF価格 25.9 25.0 26.8 28.1 32.7 34.1 33.5 37.0 38.9 ?40? +14.1 ガソリン業転 88.7 88.8 90.6 93.7 99.5 98.2 98.5 104.4 106.7 109.0 +20.2 ガソリン末端 119 117 116 117 122 124 123 125 129 131 +12
そして石油情報センター調査の末端レギュラーガソリン価格推移を表に纏めてみました。
昨年12月対比で、原油は14.1円上昇、元売は業転価格の高騰や約5%程度を精製の為に
自ら消費する「自家用燃料」等のコストUP分も含め 17.2円の卸価格値上げをしてきました。
この間ガソリンの現物価格である業転価格は、なんと20円も上昇し、系列価格は勿論、仮に
業転品を買える立場でも、SSの仕入れは、大幅に高騰したのがお分かり頂けるでしょう。
しかし末端市況の方は、残念ながら+12円しか上がっておりません。更に申し上げれば、
弊社SSでも、全国平均価格が取れているのは、23区にある 亀戸SSくらいで、八王子や
南田無に至っては、126円や124円というレベルでの販売を余儀なくされております。
可採年数にしてあと30数年という有限の資源が、ドル/バーレルでは過去最高価格で輸入
されているにもかかわらず、日本では恵まれていると言われる水資源より安い価格で、
販売している事実を我々業者は、真剣に考えなくてはいけないでしょう。
また消費者の皆さん、日本のガソリンは、世界で一番高いと思っていませんか?。
下記表は税込為替換算1L当りの数字ですが、総額ではアメリカに次いで二番目に安く、
値上がり幅は、実は一番低いのです。また9月には、税金が日本より高い欧州で日本以上の
上昇が続いていますので、9月の税抜きでは下記の中で一番安い国になるかもしれません。
SS業界の皆様、お客様にこの窮状をしっかりご説明して値上げにご理解を頂きましょう。
ガソリン 英国 ドイツ フランス 日本 アメリカ 2005/9月(一部推定) 192 190 180 130.4 93.5 9月(一部推定)-税金=税抜 -121=71 -115=75 -110=70 -60.4=70 -18.5=75 2005/8月 182 178 169 129 77 2004/12月 160 151 140 119 53 2003/12月 142 144 129 105 44 2002/12月 142 133 125 105 47 2001/12月 126 103 104 105 38
消費者の皆様、このSS実態をご理解頂き、是非値上げにご理解頂けるよう、お願いします。
ご意見ご要望ご感想はこちらから 垣見 裕司 2005年9月30日更新 Ver3