元売のIT戦略は成功しているのか
ちょっとおかしいIT戦略とその実態、コンビニ対比も考える

あなたは9月企画の 番目のお客様です。
 インターネットやNTTドコモのiモードが爆発的に普及している昨今。そのIT革命が
及ぼす効果をようやく認識し始め、遅まきながら本格的に取り組み始めた石油業界ですが、
その成果は、はたして上がっているのでしょうか。どこぞの国の首相はITを「IC」とか
「イット」と読んでしまったようですが、各元売は、特約店は、そしてあたなは大丈夫?
でしょうか。そんな訳で今月はどこかおかしい元売のEC(電子商取引)ビジネスを探って
見たいと思います。文 責 垣見 裕司 2000/8/28 NO4

IT革命とは何か、それがSS業界に及ぼす影響は

 昔、音楽は、レコード屋に行って買いました。それがいつの間にかCDに変わりました。
そして21世紀には、恐らくCD屋?なるものはなくなり、音楽製作者や著作権者がHP等
でローコストで自分の作品を紹介する。そしてユーザーは触りを聞いて、納得すれば、そこ
から音楽や映像までも、ダウンロードして見たり聴いたりするようになるでしょう。
 もしこれが本当なら従来のレコード屋さんもその従業員も、そこにレコードを運んできた
トラックも、その軽油まですべていらなくなってしまいます。これがIT革命の一例です。
 ですから電話線や光ファイバーに乗ってしまうものを販売している業界は「超大激変!」
新聞業界は意外に旧態依然としていて対応がおくれていますから本当は大変だと思います。
 そして宅配便等にのってしまう業界も「大激変」。問屋や販売店を全く通さずソニーの
PS2のようにメーカーが直接ネットで販売するという中抜き現象が起こって来るでしょう。
 でもこれは逆に言えば、本当によい物なら、既存の系列や流通のしがらみに縛られずに
ローコストで販売ができますから、やはり良い事だと思います。
 さて我々の石油やLPガスは幸か不幸か危険物で形状も流体か気体ですので、宅配便で
という訳にはいかないので、我々の業界は、前者の例に比べれば小激変ですむでしょう。
 でも石油業界の方、安心しないで下さい。石油先物が上場された今、石油をネットで購
入したり、プラント関連資材等の調達も検討される等、IT革命の影響は始まっています。
IT革命におけるSS業界の強みと弱み
 ではIT革命をビジネスチャンスとして考える上でSS業界の強みはなんでしょうか。
その一方の雄であるコンビニ業界と比較してみましょう。
1.SS業界の方が絶対拠点数が多い。
  コンビニは都会で見るといかにも多いように感じますが全国約36000拠点、系列別では
  セブンイレブン8,027 ロ-ソン7,264 ファミリ-マ-ト5,450 山崎2,616他 以下の通り。
  石油業界で有名なJomo系ampmも1,177程度です。(コンビニ15チェーン集計99/12月末)
7-11LOWSONFMD山崎サ-クルK サンクスminiSampmSマートココスCストアその他15C合計
8,0277,2645,4502,6162,558 2,5291,3541,1771,0708766632,42236,006
2.SS業界は、その販売網が全国各地に広がっている。(一部元売を除く)
  実は一番多いセブンイレブンでも、店舗が全く無い、空白県が約20県も存在します。
  全国を網羅しているのはローソンの方ですが、高知県では21等と弱点はあります。
3.コンビニより圧倒的に広いSSの敷地面積、店舗面積。
  従って駐車場や倉庫スペースの確保は、コンビニよりは容易といえるでしょう。
  車で、そして比較的大型の重いもの受渡し拠点としては、SSの方が有利といえます。

 SS業界の方は、全国に固定式で53,307ss、日石三菱だけでも全国13000ssあります。
 拠点数と全国展開では完全勝利ですが、その反面かなり深刻な弱みが存在します。
1.SS店舗間で運営やサービスレベルの差が激しくPOSすらないSSも多く存在する。
2.石油製品を運ぶタンクローリー以外、自前の物流をもっていないこと。
3.SSのイメージが、かならずしも高くないこと。汚いSSも多数存在すること。
4.業界経営者に、ニュービジネスを理解し推進するリーダーが少ない。


元売レベルでは各社の取り組みがスタート

 日石三菱は本年1月ソフトバンクコマース、エンパイヤ自動車、ヤフー、カーポイントと
合弁でイーショッピングカーグッズ(ESC)を設立し本年5/29より266箇所でスタート。
2001/3までに2-3000箇所、最終的に7500拠点を目指すとしている。日石三菱の出資は24%。
提供サービスは、ESCの決済受渡業務、カーライフサポート、購入品の取付作業等他。
 出光は本年7月80%を出資し有名プロバイダーniftyを擁する富士通とクルマークを設立
10月より40ヶ所でスタートさせ、5年後に2000箇所400億円を見込む。提供サービスは
カーライフサービス、愛車カルテ、ポイント還元、nifty会員特典他の予定。
 Jomoは、本年7月、トヨタ自動車と組んで、同社の開発したマルチメディア端末
G−TOWERのSS向けを共同開発する。2000年12月より4箇所からスタートの予定。
提供内容は、Eショップ、カーライフサービス、オンデマンドサービス、サッカーくじ他
 コスモは、ネット事業部を設置すると伴に、インターネット自動車販売仲介サービスの
オートバイテルジャパンと提携、ポータルサイトとして運営し、独自決済システムを持つ
コスモカード会員や特約店、SSとの双方コミュニケーション強化、将来300拠点にする。
と民族系を中心に各社花火を上げ始めました。しかし外資の雄エクソンモービルグループ
が、本国アメリカで知り尽くしてはずのITの無限の可能性を知りながら、全く音無し
なのが、非常に気になるところです。
絶賛する業界紙だか、その実態は
 さてこれら元売の取組みに対し、一般紙も業界紙もかなり好意的に紹介しています。
しかしその実態は、どうでしょうか。私は、日石三菱の例しか知りませんが、当初1日
70000ビューのアクセス?件数は、現在20000ビュー以下。この数字はそんなに低くは
ありませんが、その中から、オープン後2ヶ月で一体何件の成約があったのでしょうか。
 日石三菱では「始まったばかりなので、発表出来るレベルではない」と公式コメントを
避けておりますが、しかし実施したSS関係者からは、2ヶ月累計でたったの数件という
悲惨な現状を聞かされています。その数件の中には、自SSの所長や経営者が自分で試した
例が入っていますので、実際は限りなく0に近いと言わざるを得ないでしょう。

何故教えてくれなかったのか

 そして同業者の友人から「垣見さん知っていたなら何故教えてくれなかったのか」と
言われたことがあります。弊社SSも、当初1箇所だけでも参加しようと思ったが、参加
基準や元売の政策方針、価格支援などを総合的に判断すると、誠に残念ながら最初からの
参加は見送ると決定し、問い合わせを頂いた方に、その事実はお知らせしたつもりです。
 ITの世界は実はかなり厳しいと思います。例えば数あるインターネットのベンチャー
企業でも、検索&ポータルサイトなら「ヤフー」ネット販売なら楽天等、勝ち組みという
より、独り勝ち状態に近く、損益トントンという業者は、数少ないと思います。そして
恐らく5年後に収益を上げて存続しているのは、1割もないと思います。

実績が上がらない原因のIT的理由は

 ではその実績があがらない原因は何なのでしょうか。その理由は色々ありますが、
 1.カーショップ等が近くにないので
 2.ネットで車関連品を買いたい。
 3.でもカード決済は怖いのでしたくない。(ここまでなら着払いという方法が存在)
 4.普段自宅にいないので、着払いという方法も使えない。
 5.従って受渡や決済は近くのSSにしたい。
上記の各条件を満たした方をターゲットというのでは、自ら対象をせばめている。
販売商品の価格が、結果的に決して安くなかった。等色々あるでしょう。
 また支店営業所やSSにもインターネット接続パソコンを既に設置しイントラネットを
以前からやっているような特約店でも、新たに専用のハードソフトをすべて自己負担で
購入しなければならないのでは、参加SSが少ないのは当然で、全国に販売網を確保して
しているという唯一のコンビニに勝る点さえも、長所として発揮できてませんでした。


多角化ビジネス展開への甘えをなくせ

 でも私は本当の原因は上記の様なIT的な問題もさることながら、元売の今までのSS
関連ビジネスや油外商品販売、更にはもう少し広い多角化ビジネス展開への甘えの構造に
あると思います。
 まず元売が始める多角化には「やっぱりガソリンを売りたい」という「本音」があり、
それゆえ新たに始めるビジネスは、最初はトントンか少し赤字でも、それは先行投資で、
ガソリン販売において相乗効果があるだろうからまあ始めるか、という甘えがあります。
 しかし私は昨今のニュービジネスが元売やSS業者が片手間な気持ちで始めて成功する
ほど、甘くないと思います。良い例がJomoさんのampmです。あれはSSとの併設
条件を撤廃し単独展開を決意。ampmだけでも食っていける体質に、コンビニ業界でも
対等に戦える体質に!と、経営方針を切り替えられたからこそ、今日の姿がある、石油
業界としては、極めてめずらしい成功例ではないでしょうか。

ではどうしたらいいのか

 私は自分には出来ないことを人にやれとか、「そこのところ何とかならんのか」という
旧日本人的経営者に多い表現は嫌いなので、具体的にどうすべきかを、というより、
チャンスがあれば弊社でもやってみたかったという一つの案を記述したいと思います。

1.まず次世代POSに標準仕様でネット端末として機能を組み込む。従って加盟SSで
  必要な増設機器はプリンター程度に留める。そしてその費用も、ネット手数料と相殺、
  従って収益がなければ支払い延期というような方法で、まず絶対拠点数を確保します。

2.次に当該元売やその子会社、系列特約店、販売店等のグループ各社内限定で、その社員
  等を対象にそのネットでパソコン等OA機器のネット廉価販売を行います。更には、
  幾らまで下がれば買いたいか、というような逆購入入札のようなことをお祭り的に
  実施し希望オーダーを募ります。それがもし千台以上の単位になれば、ネット管理者は
    メーカーと交渉して同様のパソコンをグループ内に廉価販売すれば、SSだけでなく
  それを維持し販売促進していく人達にもハードの普及が図れます。更には当社の様に
  元売や特約店が会社として社員向けに購入費の一部を補助すればなおよいでしょう。
  これによりグループ内でのネット利用が急速に進みます。末端社員自らがネット購入を
  体験して「良かった」という満足感をもって、友人知人、そしてお客様にも自信を
  もってネット利用をお勧め出来るのではないでしょうか。

3.次は広く一般ユーザーへの周知普及段階です。前述ソニーPS2並みの独占販売権
  などは高望みしすぎますが、そこまで行かなくても色々企画はあります。例えば、
  旧日石では過去サザンオールスターズやグローブのコンサートを一部独占的に手掛け
  たことがあったと思いますが、正にその様な人気アイテムを利用し、ネットで予約や
  申込みを受け、そして肝心のチケットの受授をネット加盟のSSで行えば、ネットの
  周知とその利用の起爆剤となることは間違いありません。

4.あとは継続の段階です。そのネットでしか購入できないものを如何に企画し、提供し
  続けられるかが勝負です。それは何もPS2のような物でなくても、後楽園で人気の
  未来日記のようなアイデアでもよい訳です。

5.また我々SS運営者自身も100点とはまでは言わないものの、少なくとも加盟SSは
  サービス運営レベル70点?の最低合格レベルとらなければならないことは、申し上げ
  るまでもありません。尚、本企画は、弊社3番目の特許として出願検討中?です。
  企画流用については是非ご一報下さい。

皆さん、時間と空間そして国境までも超えるIT革命は、業際などという言葉も死後にしていく
でしょう。業界もこの大切な時期にIT革命における物流拠点としてSSの地位を確立する為
元売、特約店、販売店が会社として、そして各社員のレベルまでもが一体となって参画意識を
持てる取組みを考えることが大切でしょう。