ホルムズ海峡封鎖問題は新局面で長期化へ
 武力行使から経済封鎖 日本の対策は功を奏すか
あなたはホルムズ海峡封鎖問題の番目のお客様です。
米国とイランの戦争でホルムズ海峡が実質封鎖されてから既に6ヶ月。
誰も予想していなかった封鎖ですが、米国の武力行使から経済封鎖という
方針転換で、問題解決は更なる長期化の様相を呈しています。
 幸い日本経済は何とか回ってはいますが、補助金が出ていて価格上昇が
抑えられている石油製品とは裏腹に、あらゆるものの価格は上昇し続けています。
日本政府はどのような対策を講じるのか。皆様から頂いた質問への答えも含め
今月はアラカルト方式にしたいと思います。

 2026年9月1日初掲載 文責 垣見 裕司

米国の新たな方針「経済的追放作戦」とは

米国新たな対イラン方針「経済的追放作戦(Operation Economic
Outcast)」はトランプ政権が発表した「軍事攻撃から経済圧力への転換」
を象徴する大規模な制裁措置です。ベッセント財務長官はこれを軍事
作戦に匹敵する「史上最大の金融攻勢」と位置づけ、「抜け穴ゼロ」の
戦略でイランの資金源を徹底的に断つことを目指しています。
特に重視されるのは、@デジタル資産、A技術、B金、C航空、D海運の
5分野です。これらの領域でイランと取引を行う第三国の企業や団体に
対しても、米ドルの決済システムから排除する「二次制裁(セカンダリー・
サンクション)」を大幅に強化・拡大しました。
軍事衝突を回避しつつ、イランと関わる世界中の組織に米国かイランかの
二者択一を迫り、イランを国際社会から完全に孤立させる狙いがあります。
要するに対イランは勿論ですが、イランと取引する国への断固たる姿勢
とも言えます。当然イランから大量に石油等を買っている中国は、大反論
しています。

私の個人的な感想としては、米国が武力行使での問題解決が出来ない
事を認めたというか、少なくともコストパフォーマンスが悪すぎて、戦争
継続が難しくなった。また秋の中間選挙も見据えた決断だと思います。
しかし改めて考えると、最初から経済封鎖だけもよかったのではないか
と思うのは、私だけではないと思います。昨年6月のように、核施設と
防空施設のみへの空爆だけ数日行い、あとは経済制裁の強化なら、
イランもホルムズ海峡の封鎖まではしなかったと思います。
いずれにしろ、武力行使がないことは、これ以上戦死者が出ないこと
なので、その点は良かったと思います。

ホルムズ海峡とパブ・エル・マンデブ海峡の現在の船舶通行量は

信頼出来ると思われる、英国海軍諜報機関や海運分析会社ケプラー
などの最新データをAIに調べてもらった通行量比較は以下の通りです。
2026年2月までの平均的な船舶通行量は、色々な数字がありますが
ホルムズ海峡で1日平均 約120〜140隻です。(出入り合計)
バブ・エル・マンデブ海峡は、1日平均 約50〜60隻です。

直近の8月下旬は、ホルムズで海峡を離脱した船舶は、1週間89隻、
入港した船舶は103隻です。自動識別システム(AIS)で確認できる
通行量は、戦前の隻数より約90%減少しています。
バブ・エル・マンデブ海峡の8月下旬は 1日あたり22〜32隻 程度です。
これまでのフーシ派による攻撃に加え、サウジアラビアを標的にした
新たな海上封鎖の動きなどから、依然として通常の半分以下の水準です。

経済産業省も認めたルート変更 スエズ運河経由は50-55日 

政府や元売各社は、ホルムズ海峡通らない迂回ルートについて
「安全上の理由」から、どこを通っているか発表はしてませんでした。
しかし今後の見通しを明らかにした際、パブエルマンデブ海峡を
通過する予定だった原油タンカーは、スエズ運河を経由するルートに
変更する。よって到着も約1ヶ月遅れると発表しました。
一般に中東からは、約20日。それを例えば、サウジのヤンブーから
スエズ運河経由で、地中海を通り、日本へはアフリカ南端の喜望峰周り
で来るので、50-55日かかると言われています。

スエズ運河の通行料金は例えば20万トンタンカーなら概算で
満載時は約1円/L、空での通行時は約0.7円/Lとのことです。
パナマ運河は、干ばつ等の水不足で通行量が制限されている
と聞いていますが、スエズ運河は、海水面でそのまま繋がっている
ので、船舶数の通行量制限は一応ありません。
また通行出来るタンカーの大きさも原油タンカーとして一般的な大きさ
である20万トンまで可能というも救いです。但し30万トンは不可です。
これは2014年に行われた拡幅・増深を行う大プロジェクトのお陰で、
双方向の同時通航が可能となり、通航時間が大幅に短縮されました。

これは余談ですが、スエズ運河→紅海→パブエルマンデブ海峡は
本来は、欧州や地中海諸国から、アジア諸国への海上貿易ルートです。
また逆のアジアから欧州への海上輸送ルートでもあります。
今回のパブエルマンデブ海峡の影響は、結果として、欧州アジア間の
通行量の減少となり、その影響でスエズ運河の通行量も減少しています。

政府の対応策 エネルギー需給強化パッケージ

政府は、8月26日、エネルギー需給構造の強靱化に向けた我が国GXの
加速について "POWERR GX“を発表しました。我々に関係するのは

1.原油等の特定経路への依存度の低減
  原油等の安定的な輸送の確保の実施に関する指針(多角化指針)
   の策定含め、調達先・輸送経路の多角化の推進による資源・燃料の
  サプライチェーンの強靱化を図る
(1)原油等の調達多角化
  原油等の輸入にかかる安定的な輸送確保のため、輸送コストの差に
  着目した支援を通じ、緊急時・平時のリスクとコストを平準化@
  原油等について、安定供給に必要な保険キャパシティを含む安定的な
  海上輸送を確保
  非ホルムズ経路増強に資する代替パイプラインの建設支援A
(2)原油やナフサをはじめとする石油製品の供給対応強化
  ナフサ利用分を前提にした国家備蓄(原油の形で長期備蓄可能) B
  調達先多角化のための輸送費用平準化
  ナフサ以外の原料にも対応したナフサ分解炉等の設備投資支援や、
  化学製品のリサイクル推進
  安定供給に懸念が生じる可能性がある川中製品の供給体制の強化

以上について@ABについて私見をお許し下さい。
@は大賛成です。170円ターゲットの補助金については、今でも必要ない
 と思っていますが、この形での補助は大賛成です。
A前述のサウジのヤンブーまでやUAEのフジャイラまでのパイプラインの
 増強支援を意図しているようです。現地の産油国も喜んでくれるのが
 絶対条件ですが、大いに賛成です。
Bこれは疑問です。まで今まで備蓄義務がなかったので備蓄するのは
 大賛成です。まずは原油の備蓄日数を計算する時の分母に入れる
 必要はあるでしょう。しかし原油で持つという意味は分かりません。
 石油製品は連産品です。ナフサだけを単独で増産することは難しいので
 やはりあらかじめ製品の状態で備蓄しておくべきだと思います。
 一般的にその他の石油製品の需要のバランスは、中東原油からの
 得率に何とか合わせています。ナフサの需要だけが、この一般的な
 原油の得率からは多いのが特徴です。よって輸入も含めガソリン同様
 危険性の問題もありますが、製品で持つのが良いと思います。

政府発表の詳細は以下 HPのPDF資料をご覧下さい。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai17/shiryo1.pdf

日本の原油とナフサの輸入数量とCIF価格

2026年4月企画から発表しているCIF統計の評判がいいので、今月も
掲載します。7月原油は昨年年間平均比で104%を確保しました。
しかし価格は、戦争前の2倍以上です。ナフサの価格も高止まりです。

各石油製品の販売、生産、輸入、輸出、在庫等の需給状況

以下は各石油製品の需給状況です。実態が分かりますの掲載します。

前表の輸出増は、正常化への第一歩か

前表からは色々分析出来ますが、注目して欲しいところを赤字にしました。
まず心配されるナフサですが、原油数量が一応確保出来からでしょうか。
生産が前年比の104%まで、販売も95%まで回復しました。
生産については、全油種でも前年比113%と大幅な伸びを示しました。
その結果、ガソリンの輸出が31万KLと前年の2倍に増加しました。
この輸出増が、近隣国の需給正常化に役立っているとしたら嬉しいです。
軽油の78万KLで前年比241%も同様です。
その結果、各油種の製品在庫数量も回復して来ました。
あとは、とにかく高い価格にどう対処するかでしょうか。

170円から175円に上がる話は立ち消えか

その価格ですが、直近8月末現在、政府の補助はガソリンで何と32.5円。
昨年末に廃止されたガソリン税暫定税率24.3円分の代替財源も無く
約57円の財政負担ですが、国民には余り知られていません。
個人的には末端価格を操作するような補助金は賛成しません。
むしろ一度の投資で、それ以降のランニングコストを抑えるような
例えば苫小牧港から新千歳空港へのパイプライン建設等、価格を
直接的にさげ、働き方改革と人手不足解消にもなる投資が良いでしょう。
そんな時、政府は目標価格を175円に引き上げるらしいという話が
聞こえて来ました。実現しなかったのは、岸田総理時代同様、官邸での
承認の際、国民感情を意識して「待った」が掛かったのではないかと
勝手に推測しています。私は今でも2週間で5円ずつ補助金を減らし、
固定価格ターゲット補助金から卒業すべきと思います。

北欧4カ国初訪問報告 速報 

北欧4カ国を訪問して来ました。ガソリン価格は以下の通りで、日本の
2倍以上です。特にノルウェーは北海油田産油国なのにこの高値です。
また日本では寒い地方はEVの電気暖房で走行距離が極端に落ちるので
EVは敬遠されますが、何故北欧で新車におけるEV比率がこんなに高い
のか。これは11月に改めてご報告させて頂きます。