航空燃料がないって本当?
精製能力は充分あるのに地方空港に届かないその理由
 
航空燃料不足問題の番目のお客様です。

私が初めてこの問題を知ったのは、本年6月10日の北海道新聞の記事でした。
「ジェット燃料不足?」の見出しに、私の第一印象は 「そんなはずはない。
航空燃料は、中間品なので、灯油、軽油と留分が近い。近年灯油が温暖化等で
その需要は大幅減しているので、元売というか製油所としては、灯油需要減を
補ってくれるし、冬場に需要が集中する灯油と違い、夏休み等でもジェット燃料
の需要は旺盛なのでむしろ大歓迎のはず」。というものでした。
 しかしよく記事を読んでみると、その原因は総合的というか複合要因だった
のです。正に、石油元売が原油を精製し、製品を製造し、タンクに貯めて
それを内航船で日本各地の油槽所に運び、その油槽所からは主に、タンク
ローリーで空港のタンクに運び、一度貯油し、今度は飛行機の運航に合わせて
航空機1機、1機にタイムリーに給油しなくてはいけないのです。
 ちなみに元売や石油連盟はまだこの問題にコメントしていないようです。
私はジェット燃料やそのサプライチェーンについては全く素人なので、内容が
正しいかどうかは分かりませんが、今月はこの話題をご報告させて頂きます。
                   
  2024/6/28 初掲載 7/1更新 7/23更新  文責 垣見裕司

航空燃料不足報道
主だった報道機関のニュースだけでも以下の様に多く存在しました。
幸い石油業界が悪い、元売が悪いという記事はないように思います。
日時 報道機関 タイトル URL
6月22日 日経新聞 [社説]官民で航空燃料不足の克服を リンク
6月19日 読売新聞OL 地方空港で増便断念、海外の航空会社 リンク
6月18日 朝日新聞デジ 燃料不足で国際線が飛ばない?地方空港で問題化 リンク
6月19日 NHK 燃料確保できず海外2社国際線運航取りやめ新千歳 リンク
6月18日 産経ニュース 訪日客急回復で需要逼迫、輸送体制確保へ対策検討 リンク
6月19日 北海道新聞デジ 道内訪日客回復にも影響 輸送人手不足の解決焦点 リンク
6月18日 北海道新聞デジ 国際定期便 週14往復中止 燃料不足で新千歳空港 リンク
6月10日 北海道新聞デジ 航空燃料不足道内で拡大 国際新規就航や増便断念 リンク
6月8日 北海道新聞デジ 旅客機燃料各地で不足増便できず訪日客誘致に支障 リンク
6月19日 航空新聞社 労働規制がジェット燃料安定供給の「壁」に リンク

報道内容を要約すると
各地でジェット燃料の供給不足問題が生じ、航空会社の新規就航、増便、
チャーターなどの戦略に影響が発生している。特に北海道では新千歳空港、
帯広空港。北海道以外では広島空港などで、燃料供給不足問題の煽りを
受け、海外航空会社の臨時便や増便などに支障が出始めている。

政府は対策を急ぐとして、国土交通省と資源エネルギー庁が
「航空燃料供不足への対応に向けた官民タスクフォース」の設置を決定
第1回目の会合を6月18日に開いた。
同会合には民間から航空会社、空港関係者、石油元売のほか、石油連盟、
全国空港給油協会、日本内航海運組合総連合会等の関連業界団体。
国からは国土交通省航空局、海事局、観光庁、資源エネルギー庁が参加。

第1回目会合では、@空港に燃料を供給する際に使用するローリーや
輸送船の不足。A各労働規制が敷かれたことにより輸送手段が制約され
航空会社が増便・新規就航、チャーターを設定しようとしても、燃料を
確保することが困難になっているという構図が明らかになってきた。

具体的には、北海道の新千歳空港、帯広空港、広島空港等から、
ジェット燃料の安定供給に関する要望書が航空局に寄せられている。

国土交通省の航空燃料供給不足への対応に向けた官民タスクフォース

国土交通省内のHPに上記の官民協議会HPが設置されました。
既に1回目 2回目の内容が公開されています。
https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk5_000154.html
 6月18日の第1回協議会の内容はこちら
  資料3 事務局(国土交通省航空局)提出資料
  資料4 事務局(国土交通省海事局)提出資料
  資料5 事務局(資源エネルギー庁)提出資料
 6月26日の第2回協議会の内容はこちら
  資料1 議事次第
  資料2 関係者発表資料(定期航空協会)
  資料3 関係者発表資料(BOAR)
  資料4 関係者発表資料(北海道エアポート(株))
  資料5 関係者発表資料(石油連盟)
  資料6 関係者発表資料(日本内航海運組合総連合会)
  資料7 関係者発表資料((一社)全国空港給油事業協会)

二回の協議会の報告から見えて来た複合原因

上記の報告資料に全て目を通すのは大変でしょうから、私の独断で
以下に要点を纏めてみました。引用資料は6-18-5-2で表します。

1 近年製油所の統廃合が進んだ。2009年日海石富山、2012年帝石、
  2013年コスモ坂出、2014年JX室蘭、2015年南西西原、2023年
  ENEOS和歌山、2024年西部山口 6-16-4-2 5-2
  但し、製油所の能力的には問題はない(筆者評)

2 需要減にともない内向タンカーの総輸送量は過去30年で
  6億トンから3.2億トンに減少している。6-16-4-1
  一方輸送量と輸送距離を掛け合わせたトンキロは
  2335億トンキロから1618億トンキロと数量ほど減っていない
  それは製油所数の減少に伴い物流距離か伸びていることを
  意味している。
3 内向タンカーや白油タンカー隻数は減少している。
  それを大型化することで対応してきた。 6-26-6-8-9  6-26-5-3





4 ジェット燃料の需要は国際線の方が遙かに多い。
  但しコロナの時に激減したが、今はかなり回復した。 6-26-5-1
  ジェット燃料は基本は国内精製だが、必要に応じ輸入している。

5 働き方改革で、内航船の船員が実質的に不足し稼働率が低下した。
  またタンクローリーのドライバーも常に不足している。大型運転免許
  危険物取扱資格、牽引免許等が必要で、育成に時間がかかる。
   6-26-3-5-6
6 特に地方の空港給油事業者の給油作業員が不足している。
  航空会社ごとに異なる給油プロトコルは、効率化の妨げである。
  中堅作業員に過度な負担。若年者を採用するも離職率が高い。
  6-26-5-7  6-26-7

同じ飛行機でも国内線と国際線では搭載する航空燃料の量が異なる

皆様、ボーイング777-300ER(国際線仕様)の最大搭載燃料は
180KLで、ドラム缶約900本分です。主に国際線のB787-10は126KL。
国内線に使う予定だった787-3は48.6kL。国内線は東京-札幌、
東京-福岡ざっくり900km。国際線の東京-ニューヨークなら11000km。
要するに行き先を考えて燃料搭載量を決めているのです。
我々灯軽油も含めて月間160KLを販売するガソリンスタンドは、通常
16KLのタンクローリーで月10回(3日に1回)。20KL大型トレーラー式
タンクローリーは、敷地が広く販売量の大きいSS向けに運んでいます。
働き方改革でただでさえ人手不足のタンクローリー業界。新千歳空港
は内陸の空港なので、出光の苫小牧から30KLのタンクローリーで運んで
いるようです。鉄道のタンク車の例えばタキ1000なら45トン=約50KLの
ガソリンやジェット燃料が運べますが、千歳空港で鉄道のタンク車を
見たことはありません。苫小牧から千歳空港まで約20Km。パイプ
ラインがあれば効率的と思います。また1年を通して使ってくれるのでは
なく、臨時便への対応となると関係者の皆様のご苦労をお察しします。

当面の対応策は、石油連盟様の提言を引用させて頂きました

石油業界としては、国内生産を基本としつつ、必要に応じて輸入も行う
ことでジェット燃料の量的確保を行い、引き続き安定供給に努める。
今後の需要増を見据えた安定供給に向け、官民連携して以下の取組を
着実に進め、関係事業者の予見性を高めることが必要。
■ 内航業界における内航船の船腹量・船員の確保と、それに向けた
  国の支援と対策
■ 人手不足が進行する中、外航エアラインの需要増加に対応したトラック
  業界におけるローリー乗務員の確保と、それに向けた国の支援と対策
■ 給油事業者の需要増を見据えた給油作業員の増員確保と、それに
  向けた国の支援と対策
■ 航空各社ごとに異なる給油プロトコルの統一化
■ 国は、新規就航・増便許認可に際し、給油・グラハン要員の確保状態
  を事前確認
■ 石油会社の生産・調達計画の検討に資するよう外航エアラインの時間的
  余裕をもった確度の高い就航スケジュールの提示と商談に向けた調整
■ 関連する規制の緩和  ※インバウンドは、経済成長のための重要な政策
  これに係る全体的なフレームワー クを短・中長期的視点で官民が連携し
  計画的に検討する必要があるのではないか。

羽田空港における給油プロセス図 引用元はこちら

国土交通省HPより東京羽田空港の給油フロセス図を入手しました。
内向タンカーが空港に接岸したら、パイプラインで貯蔵タンクに直接
給油出来る理想的なシステムです。圧巻なのはここからで給油量の多い
国際線の駐機場所まで燃料パイプが敷設されており、要求される給油量
に対して連続給油が出来るハイランド給油システムが完備されています。
新千歳空港でもこのハイランド給油システムが導入されているようで、
平成30年 国際線スポット増設に伴うハイドラント給油配管増設を行い
国内・国際線計50箇所→ 56箇所になり、令和4年に国内・国際線
合計で56箇所→68箇所に増設されたと報告されています。

成田空港に給油プロセス 成田空港給油施設株式会社

航空機燃料不足問題は、前述の通り一部の地方空港の問題と思って
いましたが、6月27日に成田空港のトップが会見を開き、成田でも
週57便の新規就航が出来ない。また成田で給油出来ないので
乗客数を減らして出発地で帰りの燃料まで積んで来る便もあると
コメントしていました。 6月27日 日テレ 
もし日本の基幹空港である成田空港でも燃料不足となると話は別です。
追加調査したところ成田空港給油施設(株)HPにたどりつきました。
納入方法は、千葉港から成田空港までパイプラインが通っていました。
以下 航空燃料輸送システム からの引用 
成田国際空港で使用される航空燃料は、石油会社製油所などから
タンカーにより運ばれ、 東京湾内の千葉港頭石油ターミナルに荷揚げ
されます。そこから全長約47kmのパイプラインで四街道石油ターミナル
を経由して、成田国際空港内の第1給油センター まで運ばれて貯蔵。
第1給油センターからは、空港のエプロンの地下に網の目のように
埋設されたハイドラント配管により航空機直下まで払出されます。
また第2給油センターへも移送され、貯蔵されます。 引用終わり。

各空港の航空燃料の納入方法とタンク容量と推定備蓄日数 調査中

以下表は、今一番知りたい内容で順次調査中です。最新情報をお持ち
の方は是非教えて下さい。国内及び国際は筆者推定の出発と着陸を
合わせた発着回数。着陸機には給油しないので、給油対象は約半分
以下としました。斜体太文字はあくまでも筆者推定です。
空港名 輸送方法 タンク容量 日数 給油/日 国内/日 国際/日
成田空港 パイプライン 144000KL 16.5日 8683KL 140便 600便
羽田空港 内向タンカー  69400KL 6.6日 10500KL 830便 283便
新千歳空港 タンクロ-リ- 3000KLx4 6日 2000KL 367便 34便
広島空港 タンクロ-リ-  800KLx3 6日 400KL 54便 4便
帯広空港 タンクロ-リ-  200KLx2 6日 60KL 14便 0便

 成田空港は成田国際空港(株)HP-2023年度実績を1日平均
 羽田空港の発着回数は2023年度国際線利用実績と
 羽田の国内線は旅客ターミナル利用実績からの推定
 羽田空港の給油量は三愛オブリ様HP 350便/日X30KLで推定
 千歳と帯広は北海道エアポート様HP 2024年5月実績発着回数
 広島は広島国際空港様HP 2023年度着陸回数を12で割り2倍

7月23日追加  7/16の官民協議会の内容は基本中の基本だった

7月16日に開催された3回目の官民協議会の内容が発表されました。
リンクを張るほど内容が多くないので、以下に掲載しました。

航空燃料供給不足に対する行動計画(案)

1.短期の取組
   需要量の把握 各空港における需要量の把握
   供給力の確保 ジェット燃料の増産、輸入の拡大
   輸送体制の強化
    ローリー及び既存船のフル活用による輸送力確保
    
給油作業員の確保・育成に向けた取組の強化

2. 中長期の取組
   供給力の確保 ・ 製油所等及び空港のタンクの増強等
   輸送体制の強化
    ローリーの台数確保、船舶の大型化、老朽化した荷役設備更新等

 この内容を見て 実は驚きました。
 こんな当たり前のことを、国が決めて各業界や各会社に
 通達(お願い)しなくてはいけない内容なのでしょうか。

今一つしっくりこないので、参加した関係者にお伺いしてみました。
以下はその情報を元にした筆者の推測です

1 各空港会社は増便等の希望を検討段階から 各空港の運営会社
  並びに各元売と情報交換を密にする必要がある。
   その連絡が遅いと石油元売も製油所の増産や不足する場合は
   ジェット燃料の輸入計画を建てられない。
   物流の確保も同様
  よって石油元売会社に早めに知らせる仕組みを導入する

2 石油元売会社も前年比だけでなく、需要に応じた精製計画をたて
  それを柔軟に実行出来るようにしなくてはいけない。
  そして石油元売も航空会社と定期的かつ迅速な情報交換が必要