苫小牧 日本CCS調査(株)視察報告記
 今回改めて勉強させて頂いたこと
あなたはCCS関連企画の 番目のお客様です。
ENEOSグローブ特約店経営者研修会のご縁で日本CCS調査株式会社
の北海道苫小牧CCS実証試験センターを視察させて頂きました。
私自身はCCSの知識は一応あると思っていましたがそれは間違いでした。
 1 何故苫小牧なのか。北海道には油田や天然ガス田があったので、
   その廃坑にCO2を多く含む廃ガスを入れていると思っていた
 2 排気ガスには色々な物質が含まれているが、それまで大気放出して
   いたのだから、分離コストを考えるとそのまま圧入している?
 3 圧入するのは、気体状の二酸化炭素他だろう?
 4 大深度の地下に埋めているとは思うが、陸上地下か海上地下かは
   全く重要なこととは思っていなかった。実は大違いでした
皆様は、即答出来ますか。というわけで、今月はCCS現場の初視察報告
です。尚、以下は私はこう理解したという報告で、日本CCS調査株式会社
様の公式見解ではありません。また一部内容には誤解が含まれている
可能性があります。そこをご了承頂いた上でご覧下さい。
               2023/7/21 初掲載  更新 文責 垣見裕司

日本初の 大規模CCS実証試験の事業の概要
2008年より経済産業省の事業として開始。2008年から2011年まで
 プロジェクトの準備 候補地絞り込み作業
 全国115箇所が調査され2012年2月に苫小牧に決定
2012年から2015年まで
 地上設備の建設、圧入井戸の掘削
 安全性確保にかかる調査、検討、法規制対応
 事前モニタリングの実施
2016年〜2019年 (2018年よりNEDOの事業として継続)
 2016年より圧入開始、
  年間約10万d、地下1000mと2400mの異なる深さと異なる
  井戸(貯留槽)への同時圧入制御及び安全システムの検証
  CO2分離回収のエネルギー検証
 2019年11月。累計30万dの圧入達成
2020年〜2023年以降も継続
 漏れは無いか圧力等のモニタリングの実施
 貯留槽でのCO2の挙動観測、自然地震や微少振動解析
 安全性確保の評価と法規制対応
日本CCS調査株式会社https://www.japanccs.com 
本 社 千代田区丸の内一丁目7番12号 サピアタワー21F
苫小牧CCS実証試験センター 北海道苫小牧市真砂町12番地
会社設立日2008年5月26日
事業内容  二酸化炭素(CO2)の分離・回収、利用、輸送及び
  地中貯留技術の調査、研究開発、事業化調査、実証試験
資本金2億4,250万円 資本準備金2億4,250万円
株主 大手電力11社、石油元売等6社、大手商社4社、都市ガス2社
製鉄関係4社、プラント会社5社 他 合計33社
CCS事業の全体像が youtube で公開されておりました。
驚き1 二酸化炭素だけを分離、99%まで高めていた
CCSに使用するガスは隣地にある出光苫小牧製油所の水素製造
装置の生成ガスからPSA(圧力スイング吸着装置)を通ったオフガス
をパイプラインでもらっていますが、その量は25000nm3/h、その代表
成分はCO2=51.6%、H2=38.8%、CH4=6.6%、CO他だそうです。
恐らくは大気中に放出していたでしょうから、そのまま地下に埋めると
思っていたらCO2だけを分離回収しているそうです。
 本プロジェクトではアミン溶液を使い2段階吸収法で純度99%以上に
高めているそうです。
 
驚き2 二酸化炭素は気体ではなく臨界圧力まで高め液体で圧入
二酸化炭素は冷やすと液体ではなく昇華して固体=ドライアイスに
なりますが、31.1℃の臨界温度以下で、7.382MPa(74気圧)以上なら
液体となり、その体積は1/300になります。
従って液体して、より狭い
場所に多くのCO2を封じ込めること。そして地下貯留層に少しでも
不純物質を埋めないことが目的だと理解しました。
またこの臨界圧力の液体の二酸化炭素は、気体の性質も持つので
圧入先の砂岩等に溶け込み易いのだそうです。


驚き3 炭酸ガス圧入の為の井戸はゼロから掘っている
今回の驚き3は、過去に掘った油田や天然ガス田の跡ではなく、
液体の二酸化炭素を埋める井戸を新たに2本ゼロから掘っている
とのことでした。

今回は実証実験も兼ねているので2本。深さも1200mの萌別層と
深さ2800mの滝ノ上層という砂岩等で出来た貯留槽に掘ったそうです。
そこに大きな空洞を作るのだと思ったら大間違いです。砂岩の性質
を利用し、液体の二酸化炭素を、砂岩に染み込ませて、貯めていく
という表現が正しいようです。

そしてもう一つ重要なことは、染み込み易く貯め易い砂岩層の上に
液体やガス体を一切通さない主に泥岩などで校正される遮蔽層が
あるかということで、これが無いと圧入しても漏れだしてしまうのです。
全国100箇所以上から適地を選んだこともあり、苫小牧の地下には
下記のような理想的な地層が存在しているようです。



驚き4 陸地の直下ではなく水平掘削法を使って海底地下に埋めている

最後の驚きは、陸上の地下ではなく、水平掘削法を使って、わざわざ
海底の地下に埋めていることでした。海底の地下には「海洋汚染
防止法」があり、それを遵守すれば海底地下にCO2を埋めることは
可能のようですが、陸上の地下に埋めて良いという法律がないというか
そもそもCCSを想定した法律がないそうです。水素スタンド建設の為の
法律がなく、ブラントの規模で規制されてしまう苦労を思い出しました。

現在モニタリングをしている

2019年11月22日に、累計圧入量30万dを達成。現在は漏れ等が
ないか、圧力や振動等を監視しているそうです。遮蔽層を壊さない
ために封入圧力には上限値を設定しているそうです。
萌別層の封入圧力上限値は12.6MPa、深い滝ノ上層は38MPaです。
実際はこれを大幅に下回る11MPaと33.5MPaで予定貯留量を達成。
この結果、萌別層だけでも572万d程度までCO2を吸収出来る計算に
なるそうですが、国の実験なので、30万dを超えては圧入しないそうです。
尚、2018年9月6日には北海道胆振東部地震M6.7が発生しました。
震源地は、貯留地点より水平距離で約30km。深度も37kmなので
かなり離れていました。その時の同センターの震度は5弱。
地上設備は異常なし。本来は地震が発生すると圧入は自動停止するの
ですが、丁度停止していたので自動停止の検証は出来なかったそうです。

年間20万dと100万d実用化モデルの設備コストと運転コスト

今回の実証試験の全ての設備の建設費用は300億円。それで30万dを
CCSしたとすればCO2 1d当たり初期費用は10万円/dの計算で
あってますでしょうか。ただ今回の知見により、年間20万dの実用化
モデルの設備コストと運転コストがありましたので、記載しておきます。
ガソリン1klで2.32dのCO2排出なので、25819円。1L当たり
25.8円なので、合成燃料よりはCCSガソリンの方が安いようです
設備構成 設備コスト 運転コスト 20万d合計 100万d合計
コスト分類 円/t 円/t 円/t 円/t
分離回収 335 3.0 1860 16.7 2195 19.7 4669
CO2圧縮 385 3.4 2174 19.5 2559 22.9
共通設備 132 1.2 686 6.2 818 7.4
井戸貯留 922 8.3 4635 41.7 5557 50.0 1517
 合 計 1774 15.9 9355 84.1 11129 100 6148