ロシアのウクライナ侵攻から1年の出来事
 天然ガス視点から見る戦争への軌跡
あなたはロシアのウクライナ侵攻企画の番目のお客様です。

2022/2/24のロシアのウクライナ侵攻から早くも1年が経過しました。
日本の一民間人である私が出来ることは限られているのですが
まずこの1年何が起こったのかを客観的に把握したいと思います。
次にエネルギー特に天然ガスに注目して、武力侵攻が始まるまでを
調べてみることにしました。ノルドストリームとドイツとロシアの関係。
それまで、ウクライナを通る陸上の天然ガスパイブラインにどのような
影響を及ぼしたのか。そして天然ガスが結果として、政治利用される
のみならず、事実上の武器になってしまった経緯が分かってきました。
最後には、私なりの結論と今後の展開を予想してみたいと思います。
情報元は日本語で発表さたれマスコミ情報なので、本当に正しいか
否かは分かりませんので私はこう思うというレベルでお許し下さい。

 2023/2/28 初掲載  文責 垣見 裕司

この1年間の主な出来事
この1年間を私なりに纏めてみました。現地or日本時間の誤差があります
 月日         主な出来事 と  垣見注釈
2月24日 ロシア軍、ウクライナ侵攻 戦争ではなく特別軍事作戦表現は遺憾
2月25日 チョルノービリ原発ロシア軍占領 世界が驚き汚染土に塹壕の愚
26〜28日 米欧、SWIFT排除で合意    現実的には効果は限定的か
3月上旬 一時首都キーウまで数kmに迫る ベラルーシ国境からキーウは近い
3月4日 南部ザポリージャ原発も占領  原発が戦争の人質になる2例目
何度か停戦協議あるも実現せず
4月上旬 キーウ近郊からロ軍撤退  ブチャ他で市民の残虐遺体多数
4月7日 EUロシア産石炭禁輸合意 5月には石油の禁輸も合意
4月14日 ロ軍黒海艦隊旗艦モスクワ沈没 米欧が供与したミサイルの効果か
5月18日 フィンランドスウェーデンNATO申請 ロシアの思惑とは逆効果
5月20日 南部マリウポリ製鉄所、ウ軍降伏 一般住民や子供もいた
6月1日 米国高機動ロケット砲供与 以降供与品のレベル徐々に上昇
 時期不明 ロシア、ノルドストリーム段階削減発表 8月末から事実上停止?
6月23日 EU、ウクライナとモルドバを加盟候補国にすると発表

 月日    主な出来事    垣見注釈
7月3日 ロシア、東部ルガンスク州制圧宣言
中旬 ウクライナ軍、ロシア国内の弾薬庫に攻撃
8月1日 国連とトルコの仲介で黒海より穀物輸出開始 
上旬 ザポロジエ原発に砲撃 
9月1日 IAEA(国際原子力機構)がザポリジエ原発視察 
上旬 ウクライナ軍、東南部で反撃開始 ハリコフ奪還
9月21日 プーチン予備役30万人招集発表 ロシアの若者海外へ脱出
23〜30日 ロシア、ウクライナ東南部の住民投票強行
〜30日 プーチン大統領 各州の併合発表
9月27日 ノルドストリーム1.2 4本中3本パイプ破壊 原因不明ロシア関与か
10月8日 ウ軍、クリミア大橋一部爆発 ロシアの補給路遮断目的か
10月10日 ロシア上記の報復として大規模ミサイル攻撃
自爆ドローンで電力インフラ施設破壊 国民の戦意を削ぐ狙いか
11月11日 ウクライナ軍、南部ヘルソン州左岸奪還
12月6日 ロシア国内空軍基地にウ軍ドローン攻撃 効果限定的も意味は大
12月6日 G7、EU、ロシア原油に上限価格 効果は限定的か
12月21日 ゼレンスキー大統領、米国訪問、地対空ミサイル 供与発表
2023年
1月4日 フランス、装甲車の供与発表
1月5日 ロシア正教、クリスマス停戦宣言するも実現せず
1月11日 プーチン侵攻司令官にゲラシモフ参謀長 人事更迭も最終カード
1月14日 英国は戦車チャレンジャー2の供与発表
1月25日 ドイツ戦車レオパルト2供与発表 対ロシア慎重姿勢のドイツ決断
米国もエイブラムス戦車供与  但しF16等戦闘機の供与は否定
2月8.9日 ゼレ大統領、英、仏、ベルギー訪問 武器支援拡大を訴える
2月20日 バイデン大統領、キーウ電撃訪問 事前にロシア連絡と聞き驚き

見事に外れた私の予想は以下の通り

1.ウクライナが想像以上に善戦、クリミア半島のように短期に終結せず
2.ロシア軍が想像以上に弱かった。低い士気、訓練名目、指揮命令系統
3.ロシア通貨ルーブル、一時大幅下落も直ぐに回復する。資源保有強し
4.ロシア国内から多くの西側諸国が撤退するも経済への影響は限定的
5.中国、黒海の対岸にあるトルコ、インドはロシアへの一定の配慮あり

天然ガスの視点で今回の戦争までの歴史や出来事

どこまで遡って始めるかは悩みますが、取りあえずソビエト連邦崩壊
から始めることにします。1991年12月、ソビエト連邦は崩壊しました。
このときプーチンは東ドイツでKGB職員として勤務していましたので、
その時に東ドイツで味わった屈辱は心に刻まれているでしょう。
その時のゴルバチョフ大統領は民主的でしたが、その後のエリツィン
大統領はかなりワンマン的な印象でした。そのエリツィンの弱みを握り
2000年5月にプーチンは大統領になりました。そして自身が1997年に
書いた論文「天然資源のあるロシアではエネルギーこそが富の源泉」
を実行し始めます。強権政治でロシア最大のガスプロムの株を50%、
国が保有して傘下納めると、社長にサンクトペテルブルグ市長時代の
部下、アレキサンドルミカルを社長にします。
その後、天然ガスを中心とする資源政策は大成功。ロシアのGDPは
5年間で3倍に増加しプーチン大統領の人気も不動のものとなりました。
ロシア国内には1960年から天然ガスのパイプラインは敷設されており
この時には既に15万kmにもなっていましたが、欧州への輸出は約50%
以上をウクライナ経由で輸出していたことが一つの鍵だと思います。

ロシアの天然ガスに目をつけたドイツとロシアの接近

ドイツは第二次世界大戦の敗戦国ですが、持ち前の勤勉さで経済発展を
遂げ、必然的に多くのエネルギーを必要としていました。
またナチス時代の反省からロシア等東欧諸国と貿易や経済で深い関係
になれば、戦争は起きないという「東方外交」という考え方がありました。
プーチンもこれに呼応し、2001年にはドイツ議会で演説し大歓待され
時のゲアハルト・シュレーダー首相(1998-2005)と蜜月関係になります。
そして陸路ではなく、ロシアからバルト海の海底をパイプラインで通して
天然ガスをドイツに輸出するノルドストリーム構想が立ち上がります。
しかしバルト海を通すためにはスウェーデンやデンマーク、フィンランド
の了解を得る必要があります。プーチンが上手かったのはこの交渉を
ロシアが直接やるのではなく、首相を引退したシュレーダーを2006年、
25万ユーロという高額の報酬でノルドストリームの取締役会議長に招聘、
両国から合意を取り付けさせ2011年11月パイプラインは開通しました。
これでウクライナ経由の欧州への輸出量は30%削減されたとのことです。
ドイツも経済発展に伴いエネルギーの需要は増大しており、COP3等で
脱炭素を実現しなくてはならず、石炭からCO2排出量の少ない天然ガス
に代えたいという思惑もありました。この一連の変化の結果、ドイツは
天然ガスの50%をロシア一国に依存することになりました。

ウクライナとロシアの政治的な歴史

では次にウクライナ視点で、戦争開始までの歴史を振り返ってみます。
ウクライナはソ連崩壊前の1991年8月24日ソ連より独立を宣言しました。
しかし経済的にまだ貧しく、ロシア経済に依存していたのも事実です。
そして2004年11月-2005年1月にオレンジ革命がおきます。大統領選挙で
一度は親ロシア派のヤヌーコビッチが当選するのですが、選挙に不正が
あったとして大きなデモが発生し西側諸国もこれに賛同。再選挙の結果
欧州への帰属を唱える野党代表でヴィクトル・ユシチェンコが勝利します。
しかし経済が劇的に回復することもなく2010年親ロシア派のヤヌーコピッチ
政権が誕生します。それでも欧州への帰属を求める民主化の流れは続き
2014年2月18日-23日のマイダン革命となって親ロシア政権を打倒します。
これに激怒したプーチン大統領は2014年3月18日、クリミア半島に侵攻。
そしてクリミアを併合してしまいす。この時点では親欧州派と親ロシア派が
前述の通り拮抗していたので、ロシアの武力侵攻に大きな抵抗が出来なか
ったのかもしれません。そして2014年5月12日には、ドネツク人民共和国と
ルガンスク人民共和国が一方的に独立を宣言することとなりました。

ウクライナから見たロシアの天然ガス戦略

前述の通りロシアやウクライナには天然ガスパイプラインが張り巡らされて
おり、欧州への天然ガスへの輸出はノルドストリーム完成前その多くが
ウクライナを通過していました。そして1991年のウクライナ独立後、ウクラ
イナは、自国国内を通過する天然ガスから手数料収入を得ていました。
これに対しロシアも黙ってはいません。旧ソビエト連邦諸国には、EU向けに
比べ安い価格で供給していたのですが、前述のオレンジ革命が実現し
親欧州政権が出来ると、ウクライナにはEU並みの価格の適用を宣言し、
天然ガスの供給を停止したのです。これにはたまらずウクライナは20日後
に値上げを了承したのです。そして2010年再び親ロシア派のヤヌーコビッチ
が再選されるとガス価格を1/3にする代わりに、黒海の使用権を継続する
ハリコフ合意を獲得したのです。正に天然ガスが、戦争の一歩手前の兵器
として利用されたのです。

現在のノルドストリーム1.2

ノルドストリーム1は稼働中、2は開始許可待ちの段階で2.24を迎えました。
そして2022年9月27日、ノルドストリームのパイプラインから大量のガス
漏れが発生しているのをバルト海沿岸国が確認。海底調査によれば50m
に渡って4箇所損傷しており、現在ガスの供給は停止中です。ドイツ側に
破壊するメリットが全くないので、ロシア側の関与と推測されています。

ロシアのウクライナ戦争の今後の予想

米国を始め、英国、フランス、ドイツは何故戦闘機や長距離ミサイル等を
供与しないのか。答えは簡単。核の使用をほのめかすロシアを本気で
刺激したくないからでしょう。またロシアも米国やNATOと全面戦争は避け
たい。ウクライナに酷な表現をお許し頂けるなら、ウクライナが完全敗北
しない程度の武器を逐次供与しているので、終戦は見えないのです。
では停戦はあるのか。ロシアは現在占領したところを境界線とするなら
停戦もありえると思いますが、ウクライナは絶対認められないでしょう。
ウクライナの気持ちを日本に置き換えて考えて見ます。北方領土を占領
されている日本が、クリミアの如く北海道を2014年に占領されたとします。
しかし国際社会は、ロシアへの批判をするものの日本を助けなかった。
今回の2022.2.24の進軍で、更に東北から仙台当たりまで占領されつつ
東京にミサイルが飛んでくる状態では、停戦は出来ないと思います。
朝鮮半島のように38度線の停戦ラインという意見もお伺いしましたが、
上記の日本に例えれば、停戦はなく、結果長期戦になると思います。
ロシアの天然ガスを国連の2023/2/24の決議に反対や棄権した国々が
買い続ければ、西側諸国の支援疲れの方が先にくるかもしれません。
日本には日米安全保障条約があるので、ロシアが北海道に侵攻しない
とは思いますが、ウクライナの人の気持ちになって考えた次第です。

2030年までに心配なのは、脱炭素ではなく台湾有事

戦争は始めるより、終える方が難しい。そこで本当に心配なのが台湾
有事です。2026年?、中国がもし台湾に侵攻したら米国は沈黙ではなく
台湾を助けると言っています。中国に参戦させないための発言ならよい
のですが、ウクライナ侵攻では、米国は参戦しないと言ってしまったので
ロシアはNATOが出て来ることはないと確信して戦争を始めたともいわれ
ています。しかし米国のある軍事シンクタンクによれば、中国が台湾侵攻
すると最初は中国の優勢。米国が参戦して拮抗。但し沖縄のみならず
山口や横田、三沢や横須賀にもミサイルが飛んできて日本も巻き込まれ
自衛隊も本気で闘えば、やっと勝てるという予想のようです。
でも待って下さい。日米安保はあっても台米安保も日台安保もないのに
日本が戦争に巻き込まれてよいのか。国民の世論形成は出来ていません。
外交で戦争を止められないことは学びましたが、それは防衛費を倍増は
仕方が無いとしても戦争をしていいということではありません。ロシア、
中国、北朝鮮に日本海を挟んで対峙する日本に平和ぼけは許さません。
尚、本稿は垣見油化の見解ではなく垣見個人の感想としてお読み下さい。