サハリンULNG問題を考える
 エネルギーこそ国家経済安全保障だ
あなたはロシアのウクライナ侵攻企画の番目のお客さまです。

3月に緊急企画を立ち上げましたが、内容が多くなってしまったので、
最新分をこちらに移動しました。前半を読んでいない方は前半からどうぞ
      2022/3/11 17時更新  文責 垣見 裕司

ロシア初のLNGプロジェクトであるサハリンUの概要
サハリン2プロジェクトは、ロシア国営ガス会社ガスプロム社50%、
英国シェル社27.5%、三井物産株式会社12.5%、三菱商事10%の4社が
出資する石油・ガス複合開発事業です。
プロジェクト会社であるサハリンエナジーは、サハリン北部の油田より
原油を生産しており、原油生産能力は日量15万バレルです。また、
サハリン北部のガス田より産出する天然ガスの液化も行っており、
年間960万トンのLNG生産能力を有しています。
当プロジェクトは2008年に原油の通年生産・出荷、2009年にLNGの
出荷を開始しています。 サハリン2プロジェクトは生産するLNGの
約6割を日本向けに供給しており、日本にとって地理的に近いロシア
極東に位置することから、エネルギー安全保障上の意義が大きい
プロジェクトです。 以上 三菱商事HPよりの引用

サハリンUのLNGの出荷先

サハリンUのLNGの出荷先は以下の通りです。
この数字だけを見るとJERAが多そうですが、本当の影響を分析
する上では、その会社が使用する(輸入する)全体量の中での
サハリンUの割合を調べる必要があります。素人目には
広島ガス様の21万トン/年の割合が大きいのではないかと
思います。時間があれば、後日調べたいと思います。

 尚、受渡条件の記載がFOBとDESがありました。
本来の意味は、FOBは出荷地でのタンカーに積みであり
DESは目的地の到着港渡しということですが、場合によっては
FOBは積んだあとの「転売」が可能。DESは逆に「転売不可」
まで含まれているかもしれません。LNGにおいては、転売が
可能な契約かどうかは、非常に大きな意味を持ちますが、
現段階では私は把握出来ておりません。尚2021年の日本の
ロシアからのLNG輸入量は約657万トンと全体の8.8%です。

買主(国) 契約量
万t/年
供給開始 契約期間(年数) 受渡条件
東京ガス 110 2009年 2007-2031年24年 FOB
JERA 150 2009年 2009-2029年20年 FOB
広島ガス 21.4 2009年 2009-2028年20年 FOB
九州電力 50 2009年 2009-2031年22年 DES
東邦ガス 50 2010年 2009-2033年24年 DES
東北電力 42 2010年 2010-2029年20年 FOB
西部ガス 6.5 2010年 2014-2027年13年 DES
JERA 50 2011年 2011-2026年15年 DES
大阪ガス 20 2011年 2008-2031年23年 FOB
日本小計 499.9
KOGAS韓国 150 2008年 2008-2028年20年 FOB
Shellメキシコ 100 2009年 2009-2028年19年 DES
Gazprom同上 100 2009年 2008-2028年20年 DES
CPC台湾 75 2017年 2017-2022年5年 DES
総合計 924.9  FOB出荷地船積 DES到着港渡

欧米資本の撤退発表らの軍事支援は

その1 英シェルが、サハリン2からの撤退を発表 
  シェルHpからの抜粋引用

国際石油資本(メジャー)の英シェル(旧ロイヤル・ダッチ・シェル)は
2月28日、石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から撤退すると発表。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、LNGの大型プロジェクトを含めロシア
のガス合弁事業から手を引く。シェルはエリツィン大統領の時代からの
投資の解消に伴い多額の損失を計上する。
同社はガスプロムに加え、ロシア政府の管轄下にあり経営陣と
プーチン大統領の関係が深い他の大企業との提携関係も解消する。

英BPも27日、ロスネフチの持ち株処分に向けて動き、最大250億ドル
(約2兆8800億円)の評価損を計上する可能性を明らかにしている。

「事業撤退の決定は確信を持って行う」とし、「われわれは傍観しては
いられないし今後もそうすることはない」とのこと。
今回の動きは英政府の圧力を受けたものだ。英政府は米国や他の
同盟国と共にロシア経済を圧迫し、ウクライナ侵攻が経済的な破綻を
意味することをプーチン大統領に理解させようと取り組んでいる。

シェルの合弁事業の非流動資産は30億ドルに上る。シェルはシベリア
北西部ギダン半島での資源開発に向けたガスプロムとの合弁事業で
権益を手放すほか、ドイツ当局が承認を事実上凍結した
天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」からも手を引く。

その2 英国BPは、約2割弱を保有するロシア石油大手ロスネフチ株
 の売却を発表。2/27。ロシアの資源開発ビジネスから事実上撤退。

その3 米エクソンモービル、サハリン1の事業を停止へ 3/2
ロイターによると米石油会社エクソンモービルは、ロシアの極東
サハリンでの石油・天然ガス開発合弁事業「サハリン1」からの
撤退に向け、操業停止のプロセスを開始すると発表した。
同社は現状を考慮し、ロシアへの新規開発投資を今後行わない
方針を表明した。サハリン1は、経済産業省や伊藤忠商事18%、
石油資源開発14%、丸紅12その他6%などが出資するサハリン
石油ガス開発(SODECO)が50%の権益を保有する。

サハリン資源事業 日本も撤退の決断を下せ 産経社説3/3

欧米の大手石油会社が相次いでロシア極東のサハリン資源開発事業
からの撤退を表明した。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、国際社会
はロシアに対する厳しい経済制裁に乗り出している。欧米企業は制裁
の一環として資源開発事業からの撤退を決めた。
日本も西側世界の一員として足並みを揃え、ロシアの資源開発事業
からの撤退を決断しなければならない。ここで日本だけが事業を
継続すれば、国際社会に誤ったメッセージを発信することになる。
政府や大手商社が参加するサハリン事業は、液化天然ガス(LNG)
や原油の貴重な資源調達先として機能してきた。その撤退は日本の
エネルギー安全保障にも重大な影響を与える。それだけに、政府が
主導して撤退を決断し、同時に他国からの代替調達も官民で進め
なければならない。 (後略)  抜粋引用終わり

上記社説は安易すぎないか 国家戦略で考えるべき

例えばサハリンが国際的な上場会社でその株を持っているなら
即時売却もいいでしょう。しかしこれは過去の投資であり権益です。
その貴重な権益を放棄したら、プーチン大統領の3/10の発表の通り
「外資の出資が一定比率を超える企業がロシアでの事業を止めた
場合に、企業の設備や資産を事実上押収し、ロシア寄りの経営者
に事業継続を委ねる枠組みになる」になるだろう。
すなわち安易な撤退や放棄宣言は、今のロシアをむしろ利すること
になるだけです。もちろん当面、サハリンUからの輸入停止や削減は
しなければなりませんが安易な撤退宣言をすべきではありません。
何故なら世界から孤立した状態ではプーチン政権は長くは持ちません。
内部崩壊し21世紀のロシア革命となり、将来民主化したロシアとなら
このサハリン2は新民主化ロシア復興の起爆剤となるでしょう。
その可能性を今から放棄することは絶対にありません。
日本のエネルギー自給率は、本HPで再三申し上げている通り
OECDの中で下から2番目の低さです。
自国に資源を持つ国とは自ずと結論が異なるのは当然です。
 石油の一滴は血の一滴。電力は戦力なのです
大和魂だけで電気は発電できません。資源のない日本にとって
エネルギーは国家安全保障の中で最初に考えるべきことです。
英シェルも記事をよく読めばロシアらの調達削減は段階的です。
ドイツのシュルツ首相は、3月7日、「ロシアからのエネルギー輸入
は当面必要。欧州が意識的にロシアからのエネルギー調達を制裁
の例外にした」と発表しています。事実EUは金融制裁でも前述の
通りガスプロムを外しているのです。


最新の経済制裁 SWIFT排除はどこまで来たか

EUのSWIFT排除銀行決定、NO1のズベルバンクはまだ対象外
すなわち、日本だけがサハリンUからの撤退表明をする必要は
少なくとも今ではありません。

米国、EU、英国、日本の実施状況は3/10現在以下の通りです。
尚、各国が最終的に何日から実施するかは色々報道があり
まだ把握しきれておりません。 下記表は3/10現在
  
割合 SWIFT 米国 EU 日本 英国
ズベルバンク 31.5 見送り 金融遮断 対象外 対象外



VTB 15.9 排除 取引停止 対象外 資産凍結
ガスプロム 6.9 見送り 取引制限 対象外 対象外
オクトリティ 排除 取引停止 取引停止 資産凍結
ノビソブコム 排除 取引停止 対象外
バンクロシア 排除 制裁継続 取引停止
VEB、PSB 排除 制裁継続 取引停止
ロシア中銀         取引制限で外貨準備凍結

ロシアの経済力 世界のGDPランク2021年 IMF

以下を冷静に考えれば、国家の財政破綻は目に見えています。
イタリアやカナダ、韓国より低い経済力で頼る産業は資源だけ
その利益率の高い資源輸出を止められたら、1年も持たない
ような気がするのは私だけでないでしょう。
日本は軍事支援はしないのですが、その経済力で闘い、長期は
プーチン失脚後も踏まえて冷静に対処すべきと思います。
正に前述のサハリンUの権益残しは、民主化された新ロシア
復興の架け橋となるプロジェクトなのです。

2021年最新の世界GDPランク
IMF(国際通貨基金)が発表
順位 国名 単位百万US$
1位 米国 22,675,271
2位 中国 16,642,318
3位 日本 5,378,136
4位 ドイツ 4,319,286
5位 イギリス 3,124,650
6位 インド 3,049,704
7位 フランス 2,938,271
8位 イタリア 2,106,287
9位 カナダ 1,883,487
10位 韓国 1,806,707
11位 ロシア 1,710,734
12位 オーストラリア 1,617,543

以降主要ニュースのアカラルト追加です

1 欧米日の各企業の対応 
国籍 店舗数 備考
マクドナルド 米国 850 一時閉鎖 62000人には給与支払
スターバックス 米国 130 一時閉鎖 従業員2000人
コカコーラ 米国 10 一時停止 10工場の停止
VISA 1位 米国 決済停止
MASTER2位 米国 決済停止
JCB 日本 決済停止 3月14日以降実施
トヨタ 日本 輸出停止 工場の操業停止
VW 工場の操業停止
GM 米国 完成車の輸出停止
日本たばこ産業 日本 4 事業継続 工場で事業継続
ファーストリテ社 日本 50 営業継続 から後に停止へ変更

2 米国、ロシア原油の禁輸発表 即日実施。以下私見です
 
これは政治的な意味合いはあるのかもしれませんが米国から見て
ロシアからの原油輸入比率は2021年で7%、12月は4%
またロシアから見ても、ロシアの輸出する原油に内、米国へは
2.3%なので、実際の影響は少ないと思います。 そもそも
米国はエネルギー輸出国なので、現実の需給は問題ありません
またバイデン大統領も同盟国には、各国の判断に委ねるとしています。