エネルギー価格高騰の本当の理由を考える
 過度の環境優先政策と間違ったESG投資の弊害か
あなたは今月企画の番目のお客さまです。 2021/10/28  Ver2
読者の皆様。今エネルギー価格が上がっているのはご存じですか。昨年、コロナの
需要減見込みで一時マイナス37$/Bまで行ったWTI価格は10月11日に80$/B
を突破しました。国内のガソリン末端価格も上昇し続け10月25日現在全国平均
167.3円で8週連続値上げです。でも私は原油価格やガソリン価格のことだけを
言っているのではなく、LPGやLNGも、脱炭素で嫌われたはずの石炭価格も
上昇しているのです。それは何故か。今月はエネルギー価格の高騰から考えます。
  石油連盟様HP、2021年度のWeb講演動画配信開始 文責 垣見 裕司
コロナ開けの需要回復は事実だが
昨年のWTIのマイナス37$/Bは、明らかに下がり過ぎでした。下落の
発端はコロナでの急激な需要減と在庫増とタンク不足。産油国の協調
減産の失敗でしょう。その後は下記グラフの通り、一本調子で値上がりし
10月には80$/Bを突破し、またLPG価格も同様で、サウジのCP価格
も10月価格は800$/Tで昨年の約2倍。米国のMB(モントベルビュー)
価格も上昇しています。これは需要増だけでしょうか。

天然ガス及びLNGも急上昇

原油やそれに近いLPGのスポット価格が上昇するのはまだ分かるの
ですが、次頁グラフの通り米国の天然ガスと欧州の天然ガス(気体)、
日本を始めとする東アジアのLNG(液体)のスポット価格も上昇中です。
これも欧州での風力発電が思うように伸びないとか、ロシアが天然ガス
の供給増に応じていない等の複数の報道が見られるので、高値の一つ
の要因としては、事実なので否定はしません。しかしそれだけなのか?
ちなみにLNGは天然ガスをマイナス163度以下への冷却が必要で
LNGの方が液化コスト分高いのが普通です。
またLNGの開発には長い時間と多大なる設備投資が必要なので、
通常は10年以上の長期契約を締結します。従って日本の輸入CIF価格
では、平均化されてしまい、スポット価格の急騰が分かりにくいのです。 
そこで下記グラフは各スポット価格にしました。だたし月間平均価格
なので日次ならもっと乱高下したグラフになります。
一番下が米国の天然ガスです。シェールガス等があるので緩やかな
上昇ですが欧州はロシアからの供給が減り高騰中です。
その不足分を中東地域からLNGの輸入を開始したので、中東や東
アジアのスポット価格も一気に上がりました。

中国では大規模計画停電 

 そんな時、日経新聞でこんな記事を発見しました。「欧州でガス高騰。
資源供給途絶を防げるか」。「中国で深刻な電力不足。アップル・テスラ
向け工場停止」。翌28日も「北京・上海で計画停電、電力不足が影響か。
また「経済再開世界でエネ逼迫」などの記事もありました。
 一党独裁の中国ですからその電力会社は国有会社です。責任はある
はずですが、習近平氏の顔色を見て、国民は皆耐えているようです。
しかし米アップルや米テスラ向け部品を生産している工場までもが、
操業停止という実害が発生する事態は非常に深刻でしょう。
 日経の報道では「習近平国家主席が掲げた2030年までに二酸化
炭素の排出量をピークアウトさせ60年までに実質ゼロにするとの目標
実現に向けて舵を切り、地方政府が達成に向けて懸命になったため」
としていますが、果たしてそれだけでしょうか。

私が考える中国電力不足の本当の原因
 中国では火力発電が発電量全体の7割近くを占めるとともにその多くが
石炭火力のようです。 その石炭は中国国内で多く生産されているので、
国内自給率は高いのかと思っていましたが、近年は電力需要が非常に
伸びて、実は相当量をオーストラリアから輸入していたそうです。
 ところが中国とオーストラリアは5G問題とコロナ問題で関係が悪化し
同国からの石炭輸入が昨年11月頃から縮小されているようです。しかし
それが長引き停電になったとは、中国も公には出来ないでしょう。私は
中国の電力不足と石炭不足は、これがきっかけになったと思います。
 一方、10月4日には「インドで電力逼迫。火力発電所の半数、石炭在庫
3日未満」。インドでは電源構成に占める石炭火力の割合が約7割だが、
インド国内の石炭生産も追いついていない。中国は冬の電力不足を回避
するために化石燃料の確保に動いており、石炭価格がさらに高騰すれば
インドなど他の輸入国に影響が広がる可能性がある」の記事もありました。
要するに原油やLNGだけでなくカーボンニュートラル問題で世界から敬遠
されたはずの石炭価格まで上昇しているのですが、それは何故でしょうか。

イメージ先行、環境重視政策の弊害に他ならない

 私は昨今のエネルギー価格の異常な高騰は、ずばり世界的な環境重視
政策の弊害だと思います。 2050年のカーボンニュートラルは否定しま
せん。SDGsも大賛成で、東京都石油商業組合では全国に先駆けSDGs
宣言を発しました。でもそれは2050年までに化石燃料を使わなくなる
という意味ではありません。
 私の実現可能な方法としては、原油採掘時にその原油産出量から
使用時に排出されるであろうCO2を、油田に戻すCCSでカーボンニュー
トラル原油の認証を取り、日本に輸入し精製し、ブルー燃料やブルー
ガソリンで供給する方式です。
 LNGやLPGも同様で、現にLPGでは、RDシェルの規格でCCS
をして、CN済みのLPGが既に輸入されています。
 しかし原油採掘時段階でのCCS実現には、多大なる研究開発費と
投資が必要になるのです。

安易なESG投資判断、化石燃料は全て悪なのか

読者の皆様は「ダイベストメント」とか「座礁資産」という言葉を聞いた
ことがありますか。ダイベストメント(Divest-ment)とは、投資した金融
資産を売却するなどして引き揚げることをいいます。必ずしもESG投資
の専門用語ではありませんが、将来の利益が見込めない部門を売却し
ポートフォリオを組み替える時などにも使われます。
 一方座礁資産とは、減価償却が終わっているかどうかは別として、
例えば石炭発電所は近い将来発電出来なくなるから、発電設備は
無価値、あるいはそれ以下のマイナス資産=座礁資産という感じで
使われています。
 またESG投資では、今の元売会社の株価が化石燃料を扱っている
というだけで売られたり、石油需要が減って、将来製油所設備は座礁
資産になるとか勝手に言われておりますが、それは投資家目線の全く
失礼な話です。

銀行や損害保険会社までもが安易な判断

 それでも投資家が、自分の資金をどこに投資するのか、それは自由
主義経済では正に自由かもしれません。しかし公正であるはずの金融
機関までもが、今後、化石燃料業界というだけで資金を貸さなくなったら
それは社会的責任の放棄だと思います。
 油やLNG等の開発は最低でも10年かかります。今所有する油田等は
時間の経過と共に産出量は減っていきます。従って今よりは少なくなる
とは思いますが、2025や30年に使用するであろう原油やLNGは、
今から開発しておかなければいけないのです。
また9月2日の日経ではこんな残念な記事を見つけました。
「石炭火力、保険停止広がる。欧州勢先行損保が脱炭素へ圧力。
災害頻発で支払い増も背景」。金融機関同様、損害保険会社が化石
燃料業界というだけでその引き受けをしなかったら、それも社会的責任
の放棄でしょう。私は昨今のエネルギー価格の異常な高騰の背景は、
ずばり世界的な環境重視政策の弊害だと思います。

安易なマスコミ報道、実現可能な正解モデルの発表を

 ここまで資源価格が高騰してしまったもう一つの理由は安易なマスコミ
報道せいだと思います。テレビのエネルギー特集やせめて報道番組の
エネルギー特集ならまだしも、芸能人のスキャンダルと一緒に報道する
いわゆるワイドショーのそれも素人コメンテーターに、実現不可能な環境
優先のエネルギーモデルを語ってほしくはありません。
 またマスコミは環境優先と言って現在のエネルギー政策や業界を批判
する一方、政府の2050年に向けたエネルギー基本計画に対しても、
できっこない。矛盾だらけと批判するのみ。批判だけなら誰でも出来ます。
 私はマスコミ各社に要請します。2050年までのエネルギーと環境を
両立した実現可能モデルをコスト付きで発表して下さい。例えば、国の
税金での負担。節約という国民の我慢。そして料金上昇はどこまでなら
国民は許容するのかを、テレビ局なり新聞本社が総力を挙げて研究
作成し、世の中に発表してほしいと思います。

政治家と官僚にお願いすること エネルギー専門家になって下さい

私は立場上有名な政治家や資源エネルギー庁の課長級。そして7月は
環境省の課長級の方々とお話する機会がありました。
皆様、本当に有能で理解も早いのですが、良くも悪くもエネルギーの
専門家というか、エネルギーオタクはいません。
また役所の課長様は異動サイクルが短くせいぜい2年なので、残念
ながらエネルギーの専門家やプロにはなって頂けません。
政治家の皆様もそれぞれ得意不得意分野はありますが、エネルギー
ならこの人という専門家にはまだお会いしていません。
石油流通問題議員連盟という会は存在しますが、掛け持ちですし、
天下国家を語れるエネルギーの専門家はいないようです。
今回自民党の総裁候補の河野氏も脱原発を唱えていました。一方
高市早苗氏はミニ原発賛成でしたが、どうカーボンニュートラルを
達成するのかは、具体的な言及はありませんでした。

海外諸国とのバランスも大切

 現在中国は世界最大のCO2排出国です。その年間排出量は年間
124億トン。京都議定書は参加すらしなかったので、パリ協定以降、
枠組み条約に参加したことは評価します。しかし中国の目標は2025
年までの5年間でGDP当りの排出量を18%削減するという巧妙な目標
です。仮に経済成長率を年率5%とすると、CO2排出量総量は10%
近く増大し、年間136億トンに達するのです。
2020年時点の日本排出量は約12億トンで、50年までにネットゼロを
目指していますが、今後の5年間の中国の増加量だけで、現在の
日本の総排出量を上回ることになります。これが世界的に見て本当に
公平な目標なのか。ちなみに京都議定書では1990年比の5年間で、
日本は6%減、米国7%減、EUは8%減でしたが、達成したのは、
日本、EUとドイツで米国は批准拒否。カナダは何と離脱なのです。

垣見案はベストミックス

 そう申し上げる私自身も批判だけなく、もしですが私が経産省と環境省
と外務省の各大臣。また電事連と石油連盟の会長を兼務していれば実現
出来そうなモデルを考えてみます。
 まずは諸外国とのバランスです。他国が絵に描いた餅なのに、日本だけ
が律儀に目標達成すれば、環境コストの分だけ国際経済競争力を損なう
ことになります。従ってOECD諸国や、特に中国とインド等の排出大国の
と日本とのバランスは重要で、達成目標数字は順次変更すべきです。
 次に現在の実現可能な技術で目標達成する場合の発電と送配電業界、
石油業界はCCS原油や合成燃料。都市ガスならCCS済みのLNGコスト
を算出し、その総コストを@国が税金で負担する部分。A国民が料金
値上で負担する部分。B国民が節約等で我慢する部分を公開します。
また商業ビルや一般住宅も新設なら太陽光の設置は義務化でしょう。
既存住宅なら、使用時間の長い常夜蛍光灯等は全てLEDへの変更も
義務化する。そもそも日本の夜間照明は明る過ぎると思います。
これを全部積み上げて何%削減出来るのでしょう。そして税金と国民
負担はどのくらいになるのでしょう。それを許容して環境重視を選ぶかは
最後は国民の判断だと思います。

車とSS業界に絞った対策としては

我々の業界に特化して言えば、車は用途に応じてのベストミックスが良く
近距離と用途限定ならEVも大賛成ですが、基本はHVでしょう。その上で
プラグイン機能やバッテリー搭載量の増減をオプションにして、お客様が
選択する方式は如何でしょうか。正に使うお客様の責任と判断です。
SS業界は徹底した効率化を実施します。絶対数は例えば2万。24時間
営業は輪番制。営業時間も短縮。週一定休日も極端に言えば義務です。
新設SSは、補助金付きで太陽光の設置を義務化します。
敷地面積の9割近くを屋根に出来る屋内セルフの屋根に太陽光を敷き
詰めたとしても、当社河辺セルフの場合は、年間使用電力の1/3しか
まかなえなかったので、2050年のCN実現への道は、険しいと言わざるを
得ません。
石油業界においては、原油採掘時にCCSを実現しCN原油の認証を
取って輸入するのが、合成燃料よりは現実的と思います。
同様にLNGもCCSでのCN認証取得なら現実的ですが、電気料金や
ガス料金、そしてガソリン価格が幾らにまで上昇するかが知りたいです。

石油連盟様のご依頼で今年もWeb講演お引き受けしました

昨年に引き続き2年連続での講演依頼を光栄に存じます。
今年度のテーマ=タイトルは下記の通りです。
  

  2030年 2050年カーボンニュートラルと
   ガソリン新車販売禁止問題をどう乗り切るか

昨年の内容
  
   
どうなる・どうするエネルギー業界2021〜
   コロナ禍の需要減や人手不足、採用、人材育成にどう対処するか〜


今年度は昨年度の内容と、8割近くを変更しなてくはいけないくらい、
カーボンニュートラルや環境問題への検討や対策が必要となりました