2030年温暖化ガス排出削減目標
 2013年度比46%減問題を考える 
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米国のバイデン大統領は就任直後から環境問題に積極的で、トランプ前大統領が
離脱したパリ協定に復帰するとともに、4月22日、バイデン大統領が主催する気候
変動に関する首脳会議がオンラインで開催されました。
米国は温室効果ガスの2005年度比50-52%の削減を発表。 これに合わせ菅総理
もそれまでの2013年度比26%減の削減目標を7割以上引き上げ、46%減の斬新な
目標を発表しました。コロナの緊急事態宣言も心配ですが、今月はこの大問題を
化石燃料を扱う当事者として考えてみたいと思います。
                               2021/4/30 文責 垣見裕司

米政府主催の「気候変動に関する首脳会議に約40ヶ国が参加
今回の会議には、米国とは緊張関係が続いている中国の習近平国家主席や
ロシアのプーチン大統領他、40ヶ国もの首脳が参加したことは、大変意味深い
と思います。
 米国の目標は、オバマ政権時代は、2025年までに2005年対比26-28%減を
目指していましたが、今回は、2005年対比50-52%と削減量を拡大しました。
 英国は2035年に1990年比78%減の目標を発表。
 EUは2030年までに1990年比55%以上減らす目標を発表。
 今まで環境問題には、先進国の削減が先だとして余り協力的ではなかった
中国も、2030年までにピークアウトさせ、2060年までには実質ゼロを目指すと
発表したことは、1歩前進だと思います。
各国は新たな削減目標を国際連合に提出し、国際連合気候変動枠組条約国
会議(COP)で進捗状況を確認し、本年11月に英国で開催予定のCOP26に向け
例えば温暖化対策が不十分な国からの輸入品に課税する「国境炭素税」など
の議論も協議していくとのことです。
今更聞けない「京都議定書」と「パリ協定」とは何か?
1992年に世界は、国連の下、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること
を目標とする「気候変動に関する国際連合枠組条約」(気候変動枠組条約)を
採択し、地球温暖化対策に世界全体で貢献していくことに合意しました。
そして1995年から毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催され、
1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)では
日本が議長を務め、先進国に拘束力のある削減目標(2008年〜2012年の
5年間で1990年に比べて日本−6%、米国−7%、EU−8%等)を明確に
規定した「京都議定書」(Kyoto Protocol)の合意に成功。そして2002年に
日本もこれを批准し、2005年2月に同議定書は発効しました。
 (結果は、日本、EU、ドイツは目標達成。米国は批准拒否。カナダは離脱)
「パリ協定」 とは2015年に仏国のパリで開催された気候変動枠組条約国会議
(COP21)で、決められた気候変動に関する2020年以降の新たな枠組のこと。
パリ協定には、世界共通の長期目標として、産業革命以前に比較し、2℃未満
に抑制、1.5℃以下に向けての努力目標の設定。各国の自主的な削減目標の
5年ごとの提出・更新方式を採用した。先進国だけが削減義務を負った京都
議定書との最大の違いと言えます。
パリ協定では @55カ国以上が参加することA世界の総排出量のうち55%以上
をカバーする国が批准することが発効条件でしたが、米国・オバマ大統領が
中国やインドに批准を働きかけるなどした結果、2016年11月4日に発効。現在は
約190ヶ国や地域が批准する国際的な枠組みとなりました。
米国はトランプ
大統領時の2017年に離脱しましたが、現在のバイデン大統領になり本年2月に
復帰し、積極的なリーダー役を果たしています。
2019年度の日本の温室効果ガスの排出量と過去からの推移
では次に環境省発表の日本温室効果ガス排出量とその推移を見てみましょう。
まず直近のピークは、東日本大震災で原発が止まり、火力発電で補った2013年
の14.1億dでした。恐らく政府が規準年をこの年にしたのは、その為でしょう。
その意味では、14.1億dから12.13億dまで、14%も減らしているので、46-14=
あと32%をどうやって減らすかの話です。
ちなみに石油業界に限れば、2020年度の原油輸入量は垣見推定、14226万KL
2019年対比で82.7%なので、石油業界由来のCO2は、更に17.3%も減りそうです。
10%も減少しているので、CO2削減には多大なる貢献をしていることになります。
    2019年度の温室効果ガス排出量と1990年からの推移

データ出所 http://www.env.go.jp/press/files/jp/115174.pdf
どんな用途や業界から排出されているのか
この温室効果ガス12.13億dの内、CO2は11.06dと大部分を占めます。
では、このCO2はどの分野で排出されているか。答えは以下の通りです。
ご想像の通り、発電部門が圧倒的に多く4.33億です。製油所もこの中に
含まれますが、全販売量ではなく、原油から各石油製品にするための
自家燃料分だけです。従って2019年度原油輸入量1.7億KLの約4%なので
石油業界のCO2排出は、1.72億kl X 4% X 2.63kg/L=18百万dと推定しました。
       CO2の部門別排出量の推移 (電気・熱配分前)

電気や熱は、最終的にどの分野で使われたのか (電気・熱配分後)
前図の発電に伴うCO2排出が、最終的にどこの分野で使われたのかが
下記グラフです。工場等の産業分野が圧倒的に多く、我々SS業界とともに
悪者にされてしまう運輸自動車部門は、2.07億dと2番目に多い数字では
ありますが、商業・サービス・事務所分野の1.92億d。家庭部門の1.59億dと
そんなに変わらないのです。従って例えばビルや家庭内の削減努力と同等
程度に語られなければいけないはずです。
しかし実際は「2030年ガソリン新車販売禁止」など、自動車とガソリンや軽油
は目の敵にされ何か政治的パフォーマンス先行のような気がしてなりません。

   CO2の部門別排出量の推移 (電気・熱配分後)

2019年度の電源構成
では、2019年度の発電に伴う源燃料
(発電構成)を調べてみました。
右円グラフは、3月企画でもお知らせ
しましたが、LNGの35%。石炭の28%、
石油とその他火力で11.5%。すなわち、
火力発電で75%を締めています
原子力は再稼働が進まず6%。
あれだけ普及したはずの太陽光も夜や
悪天候では発電しないので7.6%。
従来ダム水力は7.7%
夜も発電する風力も1%未満。
昔からある地熱発電も0.2%。
バイオマスと言っても林業の廃材を
チップにしたものが多いと思いますが、
善戦しているものの2.8%です。

残りあと9年。このLNGや、石炭、石油に
変わる、グリーン燃料を低コストで開発
出来るのでしょうか

日本の原発の現状 54基-廃炉24+新設6基=36基 

日本の原発は2011年3月11日当時は全国に54基存在し、日本の電力の約30%を
担っておりました。そして記憶に新しい東日本大震災の福島原発事故が発生。
その後、日本の原発は一時全てが停止しました。そして当然のように安全審査は
厳しくなり、24基の廃炉が決定。その後建設中も含めて、現在は36基存在します。
一方再稼働は9基に留まっています。資源エネルギー庁HPより
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pdf/001_02_001.pdf
実は、今回の2030年温室効果ガス削減目標が46%減に発表されましたが
この電源構成について、今のところ新しい数字は発表されていないようです。
そこで従来の数字である2030年の原発比率は20〜22%。その需要を
1兆650万KWhとすると、必要原発数は約30基という数字が出てきます。
ところが、今ある36基の内2030年で40年未満は21基しかありません。
9基足りないのです。従って本来は特別にしか認められないはずの40年超の
運転許可を当たり前のように出していく必要があります。
環境問題にすり替えて、核廃棄物の最終処分場問題が全く解決しておらず
トイレの無いマンション状態のまま、原発がなし崩し的に再開され、更に40年超
の運転継続が認められてしまう事には、正直疑問を感じます。

       日本の原子力発電所の一覧表 2021年3月22日現在

今後の研究課題は

今月は既に紙面がなくなってしまったので、今後の自身の研究テーマとして
以下を上げておきます。お楽しみに。

非FIT 自家使用太陽光発電
グレーブルーグリーン燃料アンモニア。石炭火力発電混焼
洋上風力。バイオマス発電。地熱発電。DME。
二酸化炭素(CO2)と水素(H2)の合成液体燃料「e-fuel」。
水素のLNG火力発電混焼。中小水力ダム発電の嵩上げ。


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