2050年CNと2030年純ガソリン新車販売禁止
の実現が難しいこれだけの理由。
あなたはSDGsとESG、2050年カーボンニュートラル、そして2030年純ガソリン新車
販売禁止企画の 番目のお客様です。
本年1月より化石燃料販売業界にとっては、一見逆風と考えられる問題について
1月と2月に亘って肯定的に解説して来ましたが、一部の同業界の友人経営者より、
優等生的回答は良く分かったので、我々化石燃料業界の本音の反論も書いて下さい
というご意見も頂きました。従って、今月は、反論というか、本当に2030年の純ガソリン
新車販売禁止や2050年のカーボンフリーが実現出来るか、SS業界経営者のお怒りの
ガス抜きのためにも私の調べた現実をご紹介したいと思います。
                                 2021/2/26 文責 垣見裕司

2019年度の電源構成
まず環境に良いとされるEVは電気で走りますので、その電気がどのようにして
発電されているのか、その発電構成からご紹介したいと思います。
2020年7月にエネ庁と環境エネルギー政策研究所(isep)から発表の資料では
2019年度の1兆2224億kWhの内、天然ガス35%。石炭28%、石油等12%
で何と約75%が化石エネルギーを使って火力で発電されているのです。
原子力は、6%。揚水式を含む水力は8%。新エネルギーでは、太陽光7.6%、
風力は0.8%、従って変動性再生可能エネルギーVREは8.4%、地熱は0.2%です。
石油より遙かに多い石炭火力は、老朽化した約8割は廃止決定ですが、それを
どうやって補うのでしょうか。政府は2050年に再生可能エネルギー割合を5〜6割
としていますが、出力変動が激しく補完火力も必要ですので、EVの普及より先に
少なくとも同等以上に電源構成問題を先に議論すべきだと思います。
LCAをご存じですか、LCAで車の製造から廃車までを考える
LCA(ライフサイクルアセスメントという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
WtoW(Well to Wheel)は原油等の井戸元からタイヤまでを考えるのに対し
LCAは走行中だけでなく、自動車生産から廃車までのCO2他の全ての
環境負荷を考えます。このLCAでEVの製造工程を考えると電池製造時に
多くのCO2を排出していることから、EV製造時の環境負荷は、一般のガソリン
車の約2倍といわれています。従って現在の電源構成やEV製造技術のまま
EVを普及させても真のCO2削減には余り役に立たないのです。
私はEVを否定している訳ではありません。セカンドカーかつコンパクトカー
地域や用途限定車にはベストなものがあり、その最たるものがゴルフ場
のカートです。絶対条件は二つ。一日の走行距離が限られている。必ず
充電器のある場所に戻ってくる。この2点を満足するならEVは最適です。

   

    2019年度の電源構成     2019年東京MSで発表されたホンダのEV
軽自動車もEVを強制するか
では軽自動車はコンパクトカーですがセカンドカーなのでしょうか。答えはNO。
公共交通機関が少ない地方では地域住民の足としての軽自動車は必需品で
一家に二台で、二台とも軽自動車というケースも珍しくありません。このような地域
では走行距離も普通車と変わらないでしょう。また車体制限やバッテリーが高価
なことから多くのバッテリーは積めませんし、軽自動車の魅力も減少します。
そもそも一般車に比べ燃費の良い軽自動車まで全てEVにする必要があるのか。
また軽自動車が安いのは維持費で、普通車の小型量販車との比較では、軽の
車両価格はそれほど安い訳ではありません。それでもハイブリッドにするには、
ブレーキ回生のためのバッテリーと小型モーターを積むので、仮にマイルドハイ
ブリッドにするだけでも、バッテリーとモーター分はコストアップです。でも一般車の
マイルドハイブリッドの例では、燃費はそれほど改善しません。そもそもマイルド
ハイブリッドが、電動車として認められるのかも現段階では不明です。製造ライン
の開発設計製作は、最低5年かかるので、例えば車両重量当たりのモーター出力
やバッテリー容量等の規準は早めに示すべきでしょう。現在スズキがマイルドHVを
6車種展開していますが、ダイハツやホンダは「ゼロ」が現実なのです。
今の水素も実はグレー水素なのです
前述の通り、EV走行時はゼロエミッションでも発電を考えると電気はグレーです。
EVも製造段階ではガソリン車以上にグレーなのですが、実は水素も現段階では
極めてグレーなのです。
現在水素は一部を除けば化石燃料から作られているのも余り報道されません。
日本の水素需要は約240億m3です。その内、約46%を石油精製業界が製造し
石油製品の精製や分解、脱硫等に使用されています。その他は製鉄業界が
約40%、アンモニア業界が約8%、石油化学他でも3%程度の需要です。
石油精製が製造する水素は、二次的に出来る副生水素も含めれば自身の使用
以外に約40億m3。日本全体では120億m3の供給余力はあるそうです。
しかしその水素は水蒸気が分解して出来る水素以外は、残念ながら化石燃料
から作っているのです。
また都市ガスやLPG用の家庭用燃料電池のエネファームも正に天然ガスやLP
ガスという化石燃料から水素を作っているので、カーボンフリーの概念でいえば、
水素もまたグレーなのです。
超高額なCO2フリー水素
では完全なCO2フリー水素(グリーン水素)を考えるなら、太陽光や風力等から
作ったクリーンな電気で、水を電気分解するのが、最も一般的な方法です。
具体的には、福島県の浪江町に、世界最大級の実証実験設備が完成し、昨年
4月からその稼働を始めています。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、東芝エネルギーシステムズ、
東北電力、岩谷産業の4者が、浪江町で建設したのが、再生可能エネルギーを
利用した世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」です。
18万m2の敷地内に20MWの太陽光発電の電力を用い、世界最大級の10MWの
水素製造装置で水の電気分解を行い、毎時1200Nm3(定格運転時)の水素を
製造しているのです。

このシステムの特徴は、水素需要予測システムと電力系統側のニーズにあわせて
水素製造装置の水素製造量を調節することにより、電力系統の需給バランス調整
を行っていることです。
しかし私の調べた範囲ではそのコストは公開されていません。
理工系の筆者の認識では太陽光パネルで発電した電気ですら、電力卸売市場で
流通する電力より遙かに高いのに、その電気で水素にする時のエネルギー変換
効率は最大80%なので2割ロスになります。
その貯めた水素で発電すると変換効率は50%なので、最初の電気からすると
合計40%で6割もロスがあることになります。
揚水発電のエネルギー効率は70〜80%もある
夜間の余った電気で水をダムにくみ上げる揚水発電でも、その効率は70〜80%
もあるので水素貯蔵の非効率さが分かります。
一方、電気分解の設備費用の投資回収を考えるなら、稼働率は100%がベスト
ですが需要最適化の元に製造量は調整されるので稼働率は低いでしょう。
現在の九州地方では太陽光発電量が多く、既に余剰電力が発生しています。
これを仮に無料で調達出来たとしても夜や雨や曇りの日は稼働しないので、
その設備としての低い稼働率では、投資回収は難しいと思います。
水素の輸送コスト問題は全く解決していない
この福島県浪江町で製造されたグリーン水素は、主に圧縮水素トレーラーや
カードルを使って、福島県内等の需要先へ供給しています。
私はSS業界における水素研究には自負がありますが、水素スタンドを考える時
そのネックは大きく2つあると思います。
一つはガソリンや灯油なみへの規制緩和ですが、もう一つは輸送コスト問題です。
圧縮水素をカードルやトレーラーで運んでいる内は、全く採算に合いません。
私の試算では、ガソリンのローリー費用が約2円/Lに対して、カードル方式は
超高額です。トレーラー方式でもガソリン換算で約100円/Lと高額なのです。
従って液体水素で運ぶしかないのですが-253度への冷却コストが大問題です。
ドイツでも上記のようなプロジェクトはありますが、欧州に張り巡らされた天然
ガスのパイプラインに流しているので、輸送問題は存在しないのです。

水素スタンドの規制緩和

昨年3月に水素スタンドの規制緩和が進みつつあることを報告しましたが
1年経っても最も重要な道路と水素設備との離隔距離問題は進展なしです。
机の上では、当初の8mから5mに規制緩和されたのですが、その緩和条件は
一般のSSの防火塀の約2.5mの高さの2倍以上になる5m以上のコンクリート
障壁が必要なのです。また現在SSの防火塀は重量ブロックですが水素は、
コンクリート障壁でなければいけません。でも最大の問題は当局では既に解決
済みになっていることです。私は東京都議会の自民党幹事長と一緒にエネ庁
の水素担当課長に2度も現状報告に行きましたが、緩和に至っておりません。
議員の方々への説明は、ガソリン並、灯油並の緩和です。都心のSSでは
灯油の需要が激減してますので、その灯油の代わりに水素を売るのです。
灯油の地下タンクを水素タンクに替えるのは法律上は可能です。
水素は軽いのでキャノピー上に水素の二次タンクを置き、大気熱で気化させ
れば、コンプレッサーは不要で、体積は800倍の800気圧の気体になり、
大変省スペースです。そして灯油に代えて水素計量器を置く。
これが技術的に完成すれば、特約店クラスが持つ300クラスのSSで水素
スタンドの併設が可能となります。あとは約半年の改造工事期間の営業補償
だけですが、東京都においては、改造工事期間の営業補償が、令和3年度
からは最大500万円つけて頂けるようになったのは、唯一の進歩です。
自動車業界の本気度
水素スタンド側以上に自動車業界側にも解決可能な大きな問題があります。
世界に先駆け二足歩行ロボットに挑戦したり二輪車の会社にも関わらず
4輪最高峰のF1で実績を残したホンダさえ、FCVの本格参入は様子見です。
日産はリーフやe-Power等で、開発費がかかるFCVからは事実上撤退。
残るはトヨタのみですが、2014年12月に前倒して発売開始したFCVミライ
が6年経った今でも国内は僅か4000台のみです。
日産のePower各車種の月産2万台とは大違いです。
私は長年トヨタに二つのお願いをし続けてきました。一つはトヨタの最高級
ブランドであるレクサスと、LPガスタクシーでは唯一の新車となったジャパン
タクシーにやはりFCV版をラインナップし下さいというお願いでした。
トヨタのの答えはレクサスEV
しかしトヨタの答えは、2019年のモーターショーで出ましたが、レクサスに
先に登場したのは、FCVではなくEVの方でした。そして昨年10月には限定
台数ながら、レクサスUX300eの予約販売の受付開始もしました。
この車は 54.4kWhという大容量を積んだリチウムイオンバッテリー。
前輪駆動。駆動用モーターの最高出力は150kW、最大トルクは300Nm。
走行距離はWLTCモードで367km。価格は580〜635万円なら売れる
でしょう。また豊田章男社長は「未来はお客様が決める」と言っています。
一方新型ミライも発売も始まりました。ある都内のトヨタの営業所では
既に4台の受注をしたとのこと。生産能力も年産3万台に上がったので
2021年にどのくらいの新型ミライが納車されるか楽しみにしています。
政府の成長戦略とは何か 
政府は、昨年12月25日に成長戦略会議において、2050年カーボンニュー
トラルに伴うグリーン成長戦略を公表しました。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/seichosenryakukaigi/dai6/siryou2.pdf
重要分野における実行計画は. 14項目もの多岐に及びます。
1洋上風力産業    2燃料アンモニア産業      3水素産業
4原子力産業      5自動車・蓄電池産業      6半導体・情報通信産業
7船舶産業       8物流人流土木インフラ産業   9食料・農林水産業
10航空機産業   11カーボンリサイクル産業 12住宅・建築・次世代型太陽光
13資源循環関連産業 14ライフスタイル関連産業
自動車関係は5の28ページ以降ですがSS業界に対する記載はありませんでした。
日本経済の国際競争力の復活には良いチャンスかもしれない
否定しようと思って書き始めたのですが、実現出来るかどうかではなく希望でも
よいから、表明する必要があったと今は思うようになりました。
世界レベルで日本経済を考えればCN宣言はやはりすべきだったのす。
そして政府が、全固体電池だったり、グリーン水素やアンモニアの製造分野
だったり、あるいはCO2分離回収装置等の上記の14項目にしっかり支援する。
また菅総理は今回約2兆円の予算を発表。これは上記14分野の技術開発や
イニシャルコストを支援するので、民間の皆様も前向きに研究や投資をして
下さいとのお願いをしているのです。
その2兆円を起爆剤として、これからの日本経済を環境分野で投資と成長の
好循環を加速しますとの提言なので、我々もこれに乗るしかありません。
例えば、全世界で新規太陽光の約4割が中国と聞いて、私は驚きました。
ようするにこれは、中国政府の国内の太陽光業界への国家支援であり、
国家戦略なのです。
では、我々中小企業はどうすればよいのでしょうか。前述のブルー水素とか
ブルーアンモニアは元売レベルの話です。上記の5で自動車の説明はありますが
SS業界への言及はありませんでしたので、今後は、全石等からエネ庁に、
SSから水素スタンドへの変革していくロードマップの作成をお願いたいです。
逆に言えば、当面SS業界は、自身の力で生き残るしかなさそうです。
昨年筆者の本社近くの都心で2件のSSが撤退し貸しビルや貸しマンションへの
転業が予定されていますが、経営者としては、立派な勝ち組だと思います。
コロナ禍で、ガソリンの販売数量が大幅に落ち込んでいることもあり、一部で
安値が散見されますが、早急にガソリン需要がなくなる訳ではないので、
ガソリンをお使いになるお客様の為にも、SS業界自身が、持続可能な、
サスティナブルな経営に転換しなければならないのです。
現在、国内のSS数は約3万弱です。国土面積から考えても、2万は絶体に
必要だと思います。そして2030年には約1000のSSが、そして2050年には
約半分の1万箇所のSSが水素スタンド併設のSSとなっていることでしょう。
 
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