2050年カーボンニュートラルと
2035年純ガソリン新車販売禁止を考える
あなたはSDGsとESG、2050年カーボンニュートラル、そして2030年純ガソリン新車
販売禁止企画の 番目のお客様です。
米国でのバイデン政権の誕生により、米国は勿論、世界の環境政策は、大きく変わり
前進することになるでしょう。公約によれば、パリ協定への復帰、2050年までにネット
ゼロエミッション、2035年までに電力部門のCO2排出ゼロ。米国産の太陽光パネル
800万台。6万基の米国産風車。2030年までに新築建築物をネットゼロエミッションなど
が盛り込まれ、更にこれらを実施するため4年間で2兆ドルの予算を確保するそうです。
更に、パリ協定のコミットメントを果たしていない国からの製品輸入に対して調整金を
課するとしているので、菅総理の2050年カーボンニュートラルと2030年純ガソリン新車
の販売禁止も現実味を帯びてきました。1月に引き続きこの辺の話題をお届けします。

                           2021/1/31文責 垣見裕司

発表済みの内容を整理します
ご存じの通り、菅総理は昨年12月、2050年温室効果ガス実質ゼロ(カーボン
ニュートラル以下CN)を打ち出しました。経済産業省からは、2030年代半ばに
新車販売を全てHV車を含む電動車にすることを検討中というニュースが入り、
その後に、2035年と具体的な時期も聞こえて来ました。
また東京都の小池知事は12月8日。国より5年も前倒し、2030年までにHV等
を除く純ガソリン車の新車販売をゼロにすると議会で発表しました。大都市の
責務だそうです。
私は都の水素関係者にお伺いしたのですが、突然の発表でまだ説明できる資料
はまだないとのことでしたが、2月上旬に説明を受けることになりました。

確かに世界レベルでは、ガソリン車の新車販売規制の発表は始まっています。  
英国は30年に発売禁止。カナダケベック州や米国加州は35年までに発売禁止。
中国は35年を目処に環境車のみ。仏国は40年までに販売禁止が発表されている
ので日本も遂に来たかという感じです。また化石燃料を扱う我々だからこそ、
積極的に勉強する必要があると思います。
マクロで調べた日本の排出量
「地球温暖化の原因が本当にCO2なのか」という議論は一応別として、
最初に日本の温室効果ガスの排出量をマクロで調べてみることにしました。
昨年12月に環境省より発表された資料によれば、2019年度の排出量は、
年間12億1300万トンで前年比マイナス3400トン。また直近のピークは
東日本大震災で原発が止まった2013年度で14億1千万トンでした。
私は原発についてはソフトランディング派ですが、CO2排出だけで考えるなら
その影響は本当に大きいことは認めざるを得ません。しかし核廃棄物処理問題
の解決なしに、なし崩し的な再開は、問題の未来への先送りなので反対です。

話を戻します。この12.1億トンの温室効果ガスの内、CO2は11.1億トンで
更に、エネルギー由来は10.3億トンとのことです。
国内の使用用途の内訳では、産業用が38%、運輸が20%、商業サービスが19%
家庭用が15%。そして発電や我々の製油所等のエネルギー転換部門では、
8.7%が使われているとのことです。

一方日本国内にはまだ多くの森林等が存在していますが、この年間吸収量は
どのくらいなのでしょうか。京都議定書に基づく計算方法だと5590万トンでした。
すなわち全排出量の僅か5%程度しかないことを知り、本当に驚いています。
 出所は環境省HP 2019年 温室効果ガス排出量より

我々SS業界の排出量は
ではSS業界や弊社のSSが年間どのくらいのCO2を排出しているのでしょう。
最初考えた時には、弊社で販売している全てのガソリン数量に対してのCO2に
責任を持たなくてはいけないのかと思いましたか、それは違うようです。
SDGsの「使う責任。作る責任」を思い出して下さい。
例えば、お客様が純ガソリン車をお選びになるか。それともHVやEVやFCVに
買い換えて、購入費や維持費が高くなったとしても、環境車を選ぶか。それは
お客様御自身の責任で判断されるのです。我々は顧客満足からもお客様の
ニーズに従うのみで、積極的に販売量を減らしていく必要はなさそうです。
従って我々は、SSの営業行為によって消費したエネルギーやそのCO2排出量
をまず把握し、それを削減する努力をすればよいのだという結論に至りました。
そこで電力に限ってですが、弊社の5箇所のSSと1箇所の洗車専門店と
東京都内最大のLPガス充填所と本社の年間電力使用量を調べてみました。
以下弊社の営業年度である 2019年10月から2020年9月末までの実績です。

形態 店舗名 所在地 敷地面積 年間電気使用量 年間排出量

環七馬込屋内式NS 大田区 155坪 約40000kWh 17.5d
八王子   八王子市 266坪 約34000kWh 15.0d
吉祥寺 屋内式NS 武蔵野市 143坪 約36000kWh 16.3d
セルフ河辺 屋内式 青梅市 215坪 約34000kWh 15.2d
駒込   屋内式NS 文京区 122坪 約37000kWh 13.0d
洗車 南田無(洗車レンタ) 西東京市 145坪 約25000kWh 11.0d
工場 瑞穂LPガス充填所 瑞穂町 3300坪 約186000kWh 81.8d
瑞穂事務所棟 瑞穂町 100坪 約 8000kWh 3.5d
本社8階当社使用分 千代田区 110坪 約 6000kWh 2.6d
使 用 量 合 計 約406000kWh 178.6d
発電容量


セルフ河辺屋根 10.08kW 約10000kWh -4.4d
瑞穂事務所屋根 16kW 約12000kWh -5.3d
瑞穂充填所屋根 26kW 約28000kWh -12.3d
発 電 量 合 計 52kW 約50000kWh -22.0d
東京電力2019年CO2排出係数 0.442d/kWh NS=ノンスペース計量器

環七馬込SS(屋内式約150坪)の一年間の電力使用量は約4万kWhです。
東京電力の1kWh当たりのCO2排出係数0.44で計算すると17.5トンになりました。
一方青梅市のセルフ河辺SS(約215坪)は、年間約3.4万KWhです。
ここは屋内式のセルフなので、広いキャノピー一杯に10kWの太陽光パネルを
敷き詰めその年間発電量は約1万KWhあります。しかしその屋根が広いはずの
屋内式でも約3割の使用量しかまかなえていないことに驚かされました。
東京都内最大級のLPガス充填所の事務所の屋根には16kW。年間1.2万kW。
充填所の屋根には26kWの太陽光パネルがあり年間2.8万kW発電しています。
事業所全体使用電力は、動力が年間約18.6万kWh。事務所等の電灯系が
約8000kWhで合計19.4万kWhなので、約2割しか補えておらず、東電の排出
係数をかけると、年間68.3トンのCO2を排出し続けていることになります。

セルフ河辺キャノピー上 瑞穂充填所事務所屋上 充填所北側増設屋根上
国全体での取り組みが必要
本気でカーボンニュートラルを実現するなら国が予算を確保してやるしかない
でしょう。菅総理は、2兆円の予算を発表したので本気なのだと思います。
既にある技術で、私が実現可能だと思うのは、都市ガスへ水素を10%混入
する方法です。
水素の発熱量は体積当り都市ガスの1/3なので約7%熱量は減りますが
都市ガスの13A規格には幅があるので、消費機器の変更は不要なのです。
また大元のパイプラインに混ぜて圧送する方法なら投資も少なくて済みます。

もっと数量を増やすなら発電用の天然ガスに水素を混ぜるのが効果的です。
実は、東京電力1社の発電用の天然ガス使用量は、東京ガス、大阪ガスと
中部地方の東邦ガスの3社合計の総販売量に匹敵するので効果大です。

水素の問題は、製造段階で発生するCO2問題を除けば、やはりコストです。
現在の水素価格は約100円/m3で13円の都市ガスの7倍、熱量は1/3ですが
政府は30年には20〜30円にすると言ってます。しかし電気代は上昇します。
もっとも不透明で先の見えない原発維持コストや廃炉等のバックエンドコスト
を負担させられるよりは、国民の理解や納得は得やすいかもしれません。
環境車や電動車の定義は色々 国内自動車会社の対応は
ここからは我々SS業界に直接影響を与える「2035年新車販売は電動車に
限る」の問題を考えてみます。
まず電動車の定義です。以前エコカーとか低公害車と呼ばれたのは、排出ガス
に含まれる有害物質が少ない車のことで、天然ガス(CNG)車やメタノール車、
LPガス車等CO2の排出が少ないエンジン車も含まれていました。
しかし今世界レベルで環境車といえば、EVやFCVなどの走行時はゼロ
エミッションカー(ZEV)を指すことが多くなりました。
世界レベルではHVは含まれず、プラグインHVなら可能性ありという感じです。
その理由としては、世界の実用レベルでHV技術を完成させたのは、事実上
日本だけなので、世界での日本車の優位性を排除したかったのだと思います。
従って今回、国内だけでも電動車にHVが認められたことは、日本の自動車業界
にとって朗報だったと思います。以下に纏めたのは、私が調べた範囲内での
国内自動車会社が既に発表している電動車の導入実績と将来への目標です。

トヨタ  19年は約4割が電動車。25年までに全車種に設定。世界で550万台に。
日産  現在約3割の国内電動車販売比率を23年度に6割へ。
ホンダ 19年は約8%の電動車比率を30年に世界の2/3に。
スバル 現在5%の電動車比率を30年までに4割に。
三菱  現在5%の電動車比率を30年に世界で5割に。
EV比率はどこまで伸びるか
2020年の軽自動車を含む国内新車販売台数は、約460万台です。
その内HVは144万台で28%。またEVとPHVとFCVの合計は、僅か38585台
で0.74%しかありません。その台数も2017年の58946台や2018年の45113
台からは、むしろ減っているのです。出所 次世代自動車振興センター
また2010年作成の2020年の政府目標のEV割合は15-20%と高い数字です。
またその時のFCVの普及目標も、20年に4万台ですが現実は累計でも4千台です。
では2035年の新車販売を全て電動車にというのは実現不可能なのでしょうか。
実はそうともいえません。補助金のみならず、達成出来ない場合は罰金を課し、
例えばEV専業のテスラ社等からCO2排出権を買わなくてはいけない制度を作れば
加速度的に普及が進む可能性はあります。既にその制度がある米国では、テスラ
の20年7〜9月の排出権売却益は410億円もあるとのことです。

ソフトランディングが可能となった石油業界

HVが国内で電動車として認められたことは、石油業界にとっても朗報です。
HVは今ヒット中の日産ノートやセレナ、キックス等のe-Power車も含め、
純ガソリン車からの乗り換えで使用量は、35〜50%減になってしまうかも
しれませんが、ガソリン需要は当分残るからです。
更に個人的には、純ガソリン新車の販売禁止の前年には、スボーツカー等を
中心に、純ガソリン車の高級車やスボーツカーが馬鹿売れする気がします。
ガソリン数量はどのくらい減少するのか
前置きはこのぐらいにして、SS業界の皆様が一番知りたい2030年のガソリン
需要は20年対比でどのくらい減るのかを考えてみたいと思います。私の講演を
聞いたことのある方はご存じと思いますが、「半減もありうる」が私の持論です。
その理由として、12年乗った燃費10km/Lのカローラが、燃費20km/Lのプリウス
やアクア、ePノートに毎年変わるので、この入れ変えだけで4%減です。
もう一つの注目は運転免許の保有者数です。19年末は8216万人で前年比
100%とほぼ変わらないのですが、その年齢構成が劇的に高齢化し、65歳以上
が1885万人。75歳以上が583万人もいるのです。
高齢者の交通事故は後を絶ちません。従って免許は保有していても、運転は
自粛せざるを得ない人が今後激増するでしょう。 
以上、前年比93%。この10乗(10年)で0.48です。すなわち年率7%減の93%でも
10年では半減してしまうのです。
SSはどうすればよいのか
これも講演で申し上げていますが、ガソリン需要が半減してもやっていけるような
ガソリン数量と利益に依存しない経営体質に、今から変えていくことです。
弊社では、洗車、コーティング、レンタカー。そして車検の粗利益は、燃料油の
総利益をかなり前から上回っています。
その一方、地方では約1/3が軽自動車です。ワゴンRやタントなら高額コーティング
のニーズはありますが、軽トラックにでは難しいでしょう。
また自動車保有率が一家に一台以上の地域ではレンタカー需要も見込めません。
でも都心のSSにはない灯油需要はまだあるはずです。寒冷地や豪雪地ならなお
さらで、オール電化暖房は難しいというか、緊急企画の通り停電でお手上げです。
更に震災や災害時を考えれば、エネルギーの最後の砦はSS業界なのです。
この点については、エネルギー基本計画の見直し委員会でも、我々の業界団体の
各代表委員がしっかり発言されています。
SS業界ではどう対応するか→不動産賃貸業は都市部等の一部だけ
SS業界の中では、冒頭でご紹介した都知事の一方的な発言に憤慨した経営者
が少なくありません。その結果、都心6区や山手線内のSSでは、賃貸ビルや
賃貸マンションへ転業するSSが、今まで以上に増えて来るでしょう。でもそれは
私が期待する、水素スタンド併設SSの候補地が少なくなることを意味しています。
東京都内で過去のピーク時に3570あったSSが現在は約900まで減っています。
その減少率は全国で一番高いのですが、それはコンビニ等、不動産賃貸業への
転業が容易だったからです。(但しコンビニ本部によれば、今現存するSSの中で
コンビニが借りたいと思う物件は、もはや2割しかないとおっしゃっていました)
従って早期にSS業界から不動産賃貸業への転身も、勝ち組経営者としての
立派なご判断だと思います。
これからSS業界で生きて行こうと思うならば、「油外収益」などという失礼な言い方
はもうやめて、ガソリンも給油出来る「洗車コーティング専門店」等カーケア商品で、
最高の品質と顧客満足を提供する店舗としてやっていく覚悟が必要だと思います。

 
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