石油&SS業界に於けるSDGsとESGを考える
 2050年カーボンニュートラルと2030年純ガソリン新車販売禁止も
あなたはSDGsとESG、2050年カーボンニュートラル、そして2030年純ガソリン新車
販売禁止の12月企画の 番目のお客様です。
皆様、明けましておめでとうございます。コロナ猛威の中、読者の皆様に
おかれましては、巣ごもり新年を迎えられたのではないかと思っております。
毎年新年は、水素等未来への夢のある話題を解説して来ましたが、今年は
今月から2ヶ月に亘って、SDGsとESG、2050年カーボンニュートラル、そして
2030年純ガソリン新車販売禁止の話題をお届けしようと思います。

                           2020/12/30文責 垣見裕司

「知らない、分からない」ではもう済まされない SDGs ESGとは何か
読者の皆様は、SDGsやESGという言葉を聞いたことがありますか。
環境問題用語かな。聞いたことはあるけれど詳しい説明までは出来ない。
元売の社員ならまだしも、SS業界の方ならそんなご理解が普通だと思います。
そもそも化石燃料を扱う我々エネルギー業界にとって、国連気候会議や様々な
環境団体から「CO2を出すな。石炭やめろ。ガソリンや軽油車はやめてEVに」
と言われ続けているので、業界人は、被害者意識を持ってしまう方も多いと
思います。しかし、無視や知らないでは、もう済まされない状況になって来ました。

SDGsとは「Sustainable Development Goals」を略したもので「エスディージーズ」
と読みます。日本語にすると「持続可能な開発目標」です。2015年の国連サミット
で世界各国で17の目標に向かって頑張っていきましょうと発表されました。
イメージイラストを下記に紹介しますが一応箇条書きでもご紹介します。

@貧困をなくす    A飢餓をゼロに   Bすべての人に健康と福祉を
C質の高い教育をみんなに    Dジェンダー平等を実現しよう
E安全な水とトイレを世界中に   Fエネルギーを皆にクリーンに
G働きがいも経済成長も      H産業と技術革新の基盤を作る
I人や国の不平等をなくそう    J住み続けられるまちづくりを
Kつくる責任 つかう責任      L気候変動に具体的な対策を
M海の豊かさを守ろう        N陸の豊かさも守ろう
O平和と公正をすべての人に   Pパートナーシップで目標達成
 この17項目にはより具体的な169のターゲット目標があり、1.1なら2030年
までに現在1日1.25ドル未満で生活する人々の極度の貧困をあらゆる場所で
終わらせる等です。17全部覚えるのではなく、6までは社会基盤、12までは
経済基盤。13〜15は我々の環境。16平和と17協力で実現と考えれば簡単です。


2015年頃の日本社会の認識は
2015年に発表された時は、日本の企業や経済界は、そこまで注目していま
せんでした。日本の初等教育の高さやほぼ全員が中学校まで進学していること。
水の安全が入っているので趣旨には賛同するも日本の話ではないと思いました。
その後、世界各国の政治・経済界のリーダーが意見を交わすダボス会議で、
SDGsへの取り組みは約12兆ドルのビジネスと約3.8億人の雇用を創出する
と発表され経済界が注目するようになり、当初は外務省が中心だったのですが、
今は全省庁がその達成を目標にしています。
2017年くらいからは、いろいろな企業が自社の活動とSDGsを結びつけて
考えるようになりました。また大学等の教育界や就職を目指す学生達に、20年後
の自分の目指す企業の将来性の判断に、このSDGsやESGが取り入れられ
一気に普及したのではないかと思います。
ESGとは何か
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)
「日本語では統治、支配、管理の意味」の頭文字を取ったものです。
コーポレートガバナンスなら企業統治を表すことになります。
企業の長期的な成長のためにはESGが示す3つの観点が必要だという考え方
で企業評価の「ものさし」とも言えるかもしれません。
従ってESGの観点が低い企業は、将来的なリスクを抱えた企業であり、長期的
な成長ができない企業だと見なされてしまう可能性があります。
日本では、CSR(Corporate Social Responsibilityの略)という言葉が先に浸透し
企業の社会的責任と訳されます。企業は顧客や株主、従業員に対してだけで
なく、広く社会全体に対しても責任を果たし価値を提供すべきという考え方ですが
ESGの方が、より事業性が高いように思います。
ESGは投資判断にもなる
ところで読者の皆様は、ステークホルダーという言葉を聞いたことがありますか。
簡単に言えば、消費者(顧客)、従業員、株主(投資家)、取引先の他、金融機関や
競合企業、地域社会、行政機関など企業経営における全ての関係者を指します。
難しいのは、このステークホルダーの利害は必ずしも一致しないため、企業は
ステークホルダー間のバランスをとりながら経営していく必要があります。 

そして近年このESGの概念が、地球温暖化や環境破壊等の問題を契機に、
一般消費者から企業の株主まであらゆる立場の方々に急速に広がっています。
特に機関投資家においては、その投資の意思決定において、従来型の財務情報
だけを重視するのではなく、ESGも考慮に入れるESG投資の概念が、より重要視
されていて、持続可能な投資とも呼ばれています。(Sustainable Investment)
石油元売の株価低迷要因か
ESGが注目される中、化石燃料を扱っている我々エネルギー業界は、
スタートラインで既に苦しい立場に置かれています。
よくテレビの特集等で産業革命は石炭の時代。そして20世紀は石油の時代と
言われますが、もはや石炭や石油は過去のエネルギーなのでしょうか。
更に今は二酸化炭素を多く出す石炭火力発電は世界の敵にされました。
固体→液体とくれば次は気体。21世紀は、天然ガスやシェールガス。
そして近未来は本当に水素の時代が来るかもしれません。
 
 さて本原稿執筆中のENEOSの株価は、12月29日終値で380円割れです。
配当利回りでは、約6%弱にもなる程、残念な株価に終始しています。
その理由が機関投資家のESG関連銘柄に重点を置いたポートフォリオへの
組み替えが原因なら誠に悲しいことです。では石油業界どう挽回すべきなのか。
石油(元売)業界の課題と対策
では石油業界の課題と対策を、まずは以下6項目で考えてみます。
Fエネルギーを皆にクリーンに  H産業と技術革新の基盤を作る
Kつくる責任 つかう責任      L気候変動に具体的な対策を
M海の豊かさを守ろう        N陸の豊かさも守ろう
  クリーンエネルギーならENEOSの水素、出光の地熱、コスモの風力。それと
各社の太陽光への投資が思いつきます。しかし我々業界の総販売量年間
約1億7千万KLに対して、この4つのエネルギーの割合は微々たるものです。
そこでKの作る責任を考えてみます。この年間総販売量に対して、精製部門で
消費する自家用燃料は、今は効率化が進み約4%をくらいと聞いています。
もしこの4%分を前述の4つのエネルギーで補えたら一つの成果だと思います。
 ちなみにENEOS発行のESGデータブック2020で以下の報告があります。
太陽光18箇所 合計46MW、年間55455MWh
水力 1箇所 5MW  年間23340MWh
風力 2箇所 4MW 年間4085MWh
地熱 1箇所 0.1MW 年間277MWh  以上年間発電量は 2019年度実績
バイオマス 1箇所 68MW 発電能力は2020年6月現在 

12の後半 つかう責任 はお客様(消費者)のご判断で決まる
もし石油精製業界が自家用燃料分のCo2削減で許されるなら、後はお客様。
すなわち消費者の使う側の責任と考えてよいのでしょう。
私がSDGsが国連か作った化石業界いじめではなく、人類全体のことを考えて
いる。従って真摯に受け止めなくてはいけないと思ったのは、このつかう責任が
つくる責任と同等に扱われていたからです。

例えばお客様が、ガソリン車からEVやFCV(水素自動車)に変更されれば、当然
ガソリン需要は減ります。お客様のご自宅の屋根に太陽光パネルを置いて発電
したらLNGよりコストが高いと判断されている石油火力用の重油需要も減ります。

もし石油需要が2030年に半分になったら、今のままだと石油精製元売は大変
ですが逆に半分の需要は間違いなくあるので、震災等で認知されるようになった、
「エネルギー業界の最後の砦」として、その残りの石油製品の供給責任は、より
高まり、それをしっかり果たしていく必要があるということです。
需要が半分なら粗利を倍にすればいい。そんなことは消費者が許してくれません。
従って石油精製業界は、石油需要が半分でも生き残れる持続可能なビジネス
モデルを今から構築しておく必要がありそうです。
CCSはいつ実現出来るのかCO2-EORは実現済み
次にLの気候変動を考えます。本当に地球が温暖化しているか。その原因は
本当に正しいかは別として、エネルギー業界でCo2を劇的に減らす方法はない
のでしょうか。一番早いのが、燃焼廃ガスからCO2を回収し、地中等に封じ込め
るCCSという方法です。これは以前から聞きますし、日経新聞の今日の言葉にも
なりましたが、日本国内の火力発電等で、実現出来たという話はまだ聞きません。
理論的には可能でもその設備コストやランニングコストが高く、そして地震多発国
の日本に、地中に貯留しておける安定した地盤が、ないのかもしれません。
また以前も紹介しましたが、石炭ガス化とコンバインドサイクルを組み合わせた
IGCC発電では、熱効率60%弱を達成済みなので、CCSとの組み合わせが可能
なら資源のない日本としては最適かもしれません。
一方、JX石油開発が手がけるCO2-EOR(Enhanced oil Recovery)は既に実現
済みです。米国での事例ですが、近くの火力発電所と提携。石炭の燃焼排ガス
から回収したCO2をパイプラインで運び、それを老朽化した油田等に圧入。原油
の回収率の向上とCo2の地中での固定化の両方を同時に実現しているのです。
水素社会は間違いなく来る
2030年に間に合うかどうかは分かりませんが、20〜30年後の究極の燃料は、
やはり私が得意とする水素だと思います。
各家庭に水素を導管供給すれば、改質器が不要の燃料電池で、電気とお湯は
効率的に作れます。更にAIと5Gで各家庭のFCを分散発電ネットワーク化すれば
電力供給も劇的に進化します。
各家庭への水素の直接供給が、パイプの材質上難しいなら、現在の都市ガスの
例えば13A規格に、10%水素を混ぜる方法は実現可能です。水素の熱量は
都市ガスの主成分であるメタンの1/3しかないので、全体の熱量は7%減って
しまいますが、13Aの規格には幅があるので、燃焼機器も変更なしでそのまま
使えるはずです。
また豪州の安い褐炭で水素を作り、有機ハイドライドで水素を内包化して日本に
運ぶなら、石油系の輸送インフラがそのまま使えるので、石油業界の強みです。
但し豪州で水素を作る時に発生したCO2はCCSとセットにする必要はあります。
余った太陽光の電力で水を電気分解するのは非効率ですが、原発の高熱で
水を熱分解して水素を作るのは究極の方法です。原発の廃熱は海に捨てている
ので、設備さえ作れば、ランニングコストは一番安いでしょう。 但し20〜30年後に
原発が安全に稼働しているかは別問題です。この高熱でCO2を熱分解しCとO2を
切り離し、Cに水素を結合させればCH4=天然ガスの主成分のメタンも作れます。
SS業界ではどう対応するか
 最後はSS業界の対応です。まず最初に経営者を始め所長は勿論アルバイトに
至るまで一度ESGやSDGsについて本気で考え業務を見直してみることです。
 日頃実施している無料安全点検で、タイヤの空気圧は基準値より減っています。
正常値に直せば燃費は約2%改善しタイヤの消耗も減りタイヤの寿命も延びます。
その時、来月のガソリン消費が2%減ったと嘆くのではなく、お客様から頂く「点検
ありがとう。これで高速乗っていたら危険だったね」この感謝方が遙かに有益です。
 ガソリン1L150円ならお客様は3円お得になるので私どものSSが地域最安値
より1円高くても許して頂けるなら、お客様も地球環境も私どももWinWinWinです。
 また当社SSでは、非常用の中水として雨水を貯める一方、洗浄用としても使用。
河辺SSには10kWの太陽光、LPガス部の瑞穂供給センターの事務所に16kW。
LPガス充填所屋根には26kWの太陽光パネルを設置しています。また弊社は
東京都石油商業組合とともに東京都環境局に全面協力し、舛添知事時代の2015年
から東京水素戦略会議に参加し、水素社会の推進に全力をあげています。以下
2050年温室効果ガス実質ゼロと2030年純ガソリン新車販売禁止は来月掲載です。
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