日本のエネルギー基本計画を考える  
 
矛盾の指摘のみならず解決策の提案まで
あなたはエネルギー基本計画企画の番目のお客さまです 2018/8/1 Ver1

皆様もご存じの通り、政府は4回目の改定となるエネルギー基本計画を7月3日に
閣議決定致しました。4年前の前回計画が、大枠で踏襲されたのも驚きです。
原発問題の矛盾を指摘するマスコミは多いのですが、具体的な解決策を記述する
ものは、ほとんどないようです。そこで、乏しい知見ではありますが、私ならこうする
という提案をしてみたいと思います。
                                    文責 垣見裕司

日本の原発の現状は  59基中6基稼働 廃炉決定は23基

現在日本には、もんじゅと常陽を含めると59基の原発があります。
この他に青森に2基 島根に1基建設中のものがあります。
 一方、59基の内、廃炉が決まったものは、もんじゅを含め23基です。
従って常陽を除けば、残りは35基となります。
 この内、25基と建設中の大間原発が安全審査を申請し、合格までに
達したのが、合計14基です。そしてこのうち現在下記の6基が稼働中です。
 (九州電力 玄海3号4号 川内1号、関西電力、高浜3号 大飯3号4号)
一方安全審査を申請していない残る10基と建設中の島根3号機ですが、
安全審査の申請をしていないだけで、廃炉が決まった訳ではありません。

発表された内容と最初の矛盾

まず最初の矛盾は、2015年に策定された2030年の電源構成、すなわち
原子力で20-22%、再生可能エネルギーで20-24%を見直すかが、注目されて
いたのですが、今回この4年前の数値がほぼ踏襲されていたことです。
 現実的には2016年度の速報で、原発割合は再稼働も思うように進まず、その
割合は僅か2%です。一方水力を含む再生可能エネルギーが15%です。
天然ガス40%、石炭33%、石油9%の火力合計で83%。これが現実なのです。
 原発の再稼働がなかなか進まないなか、時間がどんどん経つということは
40年を迎える原発がどんどん増えるということでもあります。
 皆様もご存じの通り、新設の議論もされていない。どんどん貯まる核廃棄物。
更にプルトニウムについては、米国からも問題視されるようになりました。
 現在稼働中の原発の核廃棄物の保管可能年数もあと数年です。結果、
4年前から解決された問題は皆無のようですし、経産省の審議会でも賛否が
割れる原発問題での、踏み込んだ議論はさけられてしまったのでしょうか。

再生可能エネルギーを主力電力に 2050年までには経済的な自立を

耳には優しい「再生可能エネルギーを主力に」ですが、2012年から始まった、
固定価格買取り制度は一定の役割を果たしては来ました。しかし、2017年度
の買取り費用は何と2兆7千億円で、その内2兆1千億円は、賦課金という形
での国民負担です。課題としては2016年の非住宅用の太陽光で1kwhあたり
29万円と言われる価格を欧米並みの15万円以下にすることでしょう。あとは
洋上風力も期待出来ますが、その最大のネックは送電線の容量問題でしょう。
 しかしこれにもからくりがあります。例えば年間を通じて強い風が吹く、東北地方
では、風力発電の新設計画が相次いでいるのですが、送電線を運営管理する
東北電力が、容量不足を理由に接続を断るケースが増えているそうです。
 要するに再稼働の目処がたたない原発の仕様枠を確保した上で、空きを算出
する「先着優先」方式だからのようです。全ての発電所がフル出力になるケース
を想定して計算していたそうですが、実際にはあり得ないので、現実的な水準に
修正したところ、一部では6割も発電容量を増やせるエリアもあったそうです。
 その意味では早く発送電分離が進み、送電線の公平な利用が待たれます。

電源構成の推移 2010年度(震災前) 2016年度速報値 2030年度目標

石炭火力は、安くて供給安定。最大の問題は「パリ協定」の温暖化ガスの排出問題
今回の基本計画では、非効率な石炭火力は「フェードアウトする」と明記しました。
石炭火力のメリットは何と言ってもその価格の安さ、資源量が豊富ということです。
2017年度の通関統計で試算したところ、熱量当たりは石油やLNGの約半分です。
但し最大の問題点は、温暖化ガスの排出量が多いということです。
日本の場合は某近隣国のような石炭の生炊きはなく、IGCCと呼ばれる石炭ガス化
複合発電と言う高効率の最新技術があるのでPM2.5のような煤塵を出すことはあり
ません。しかし発電時に出る二酸化炭素を回収して地下などに貯留するCCSという
技術は、まだ確率されていないのが実情です。
 日本のような地震国で、ガスを貯める安定した地盤が確保出来るのか。貯めた
としても、地震等で、しみ出してきてしまうのではないかという心配もあります。
 「CO2から酸素を切り離し、固体の炭素だけにして貯めれば良いではないか」
という素朴な質問も聞こえて来ます。ただ一応理工系の私の知る限りにおいては
CO2は、極めて安定した物質なので、CO2から酸素をはぎ取るには、とんでもない
エネルギーが必要なはずなので、本末転倒と申し上げておきたいと思います。

地熱発電にも注目 地震火山国日本の地産地消の資源だ

地震火山国としての日本には、温泉は全国各地に数多く存在します。しかし
今まで地熱発電は、開発地が国立公園に多くあるということでの環境問題や、
地下の温泉水脈が変わって温泉が出なくなるのではという心配から反対されて
てきました。 また以前の地熱発電は、地下の熱源に水を入れ、有害物質と
水を吸い上げていたので、一部で環境破壊もありましたが、現在は、熱の媒体
となる水だけを循環させているので、有害物質が外へ出ることはないそうです。
次表は、資源エネルギー庁による、2015年度の日本国内の主な地熱発電所です。
総発電能力は53万kWとまだ原発1基の半分程度で、初期投資が高く稼働までの
期間が長いのが難点でしたが、再生エネルギー買取り制度のお陰で2014年以降
順次増えて来ました。 2017年の買取り価格は、15000kW未満で40円+税です。
(それ以上は26円)。 現在の計画中の案件を積み上げると2030年には150万
kWになる予定です。 地元の補助金を利用したり原発並の補助金をつけ、熱源
探索や初期コストに充当すれば、稼働後は十分に採算に合うと思います。

日本の主な地熱発電所 資源エネルギー庁発表 


目から鱗が落ちた水力発電 新規のダムを造らなくても配電量は倍になる?

私は、本HPや「よくわかる石油業界」「よくわかるガスエネルギー業界」で、
石油や都市ガス、LPガス以外のエネルギーもそこそこ勉強して書いてきました。
しかし唯一漏れていたのが、ダムによる水力発電です。河川等での小水力は
推進した方がよいと申し上げましたが今回はダムによる巨大発電の勉強です。
 私は、ダムによる水力発電は、石原裕次郎の映画にもある黒四ダムのイメージ
が強く、戦後の日本が復興の中で、不足する電力を水力で補ってきたという
「古い時代」の発電エネルギーというイメージがありました。
 もう一つは、作家であった田中康夫氏が、長野県知事に立候補して当選した時
「もうダムは要らない」というようなキャッチコピーを使っていたと思います。
 そんな訳で「ダム建設は自然環境を破壊する」という印象も持ってしまいました。
更には、自民党から民主党政権に移った時に、八ッ場ダム開発の中止を突如
発表したものの、何だかんだ揉めたあげくにやはり建設続行でした。建設しても
問題あり。中止をしても問題あり。ダムの開発は、もはや誰も喜ばないのでは
ないかと勝手な思い込みで勉強すら怠っておりました。そんな時、私の目から
鱗を落としてくれたのが、次に紹介する竹村公太郎氏の著書です。

水力発電が日本を救う 今あるダムで年間2兆円の電力を増やせる 以下要約

日本のダムは、河川法により国土交通省河川局によって計画管理されている。
河川法は、明治29年(1896年)河の氾濫防止(治水)と舟の運用を目的に作られた。
昭和39年(1964年)河川が適正に利用されるという利水が加わり行政が変った。
平成9年(1997年)環境保全も加わった。この2度の改正は正に時代のニーズ。
しかし 「治水=水は少ない方が良い」と「利水=水は多い方が良い」は矛盾する。
それを「多目的ダム」というオブラートで包んでいる。
日本は水力発電資源の宝庫。多い雨。高い山は雨の位置エネルギーを貯める。
 ダムはその位置エネルギーを維持した水を集める機械=油田と同じ
ダムの目的を利水。すなわちもっと発電にシフトすべきである。
ダムは下記の理由から壊れない。よって嵩上げしても大丈夫。
 1 コンクリートには鉄筋は入っていないので、腐食しない。半永久的に持つ。
 2 基礎は岩盤と一体になっているので極めて安定している。
 3 壁の厚さは100m。日本のダムは高さと厚みがほぼ同じで欧米基準より安全。
利水の始まった1964年はもとより、1997年からも、現在の気象予報は格段に進歩。
よって水はもっともっと貯めて良い。台風が来るなら雨の降る一日前に放水する。
日本の河は、世界比較では、短く急流なので1日で海に到達する。
以下結論  古いダムは、10% もしくは 10m嵩上げする。
たった10%の嵩上げで貯められる水の量はなんと70%も増える
その70%も増えた水は、全て発電に使えるので発電量は何と2倍になる。
従って10%の嵩上げは、発電量として、ダムをもう一つ造るのと同じ効果がある。
ダムを新規に作るよりは、既存ダムの嵩上げの方が、環境破壊は格段に低い。
以上です。
私の結論 既存ダムを見直し嵩上げし、水力発電の倍増を検討する
以上の通りで、石油&ガス業界にいる私の結論「水力発電を増やしましょう」
では、業界から怒られるかもしれませんが、資源のない日本における、輸入
しない、そして燃料の要らない国産資源ですので大いに活用したいものです。

以下実例を見つけて来ました。広島県にある三高ダムの新旧比較です
堤高(ダムの高さ) 32.6m → 44.0m  堤長(ダムの幅) 142m → 202m
堤体積 41000m3 → 嵩上げ分のみ 78000m3       社団法人日本ダム協会
有効貯水量 218000m3 → 554000m3 2.54倍に増加     ダムネット様Web
http://damnet.or.jp/cgi-bin/binranB/TPage.cgi?id=147&p=3    より引用