昨今のマスコミ報道を考える
 業界は正しい情報を折りに触れて発信を
あなたは「本マスコミ企画」の番目のお客様です。
今年に入って感じるのですが、良くも悪くもSS業界のことを取り上げるマスコミ報道が
増えて来たのではないかと思います。読者の皆様の印象は如何ですか。
そして私だけではないと思いますが、その内容が極めて遺憾だったり、事実に反して
いるものだったり、マスコミとしての社会的使命を疑うような内容のものもありました。
一方、正しい報道もあります。今月はその気になった4つのマスコミ報道を取り上げて
SS業界の必要なマスコミ対策を考えてみたいと思います。
                         2018年4月27日v2 文責 垣見 裕司

都、脱ガソリン車 2040年代に販売ゼロへ

 これは本年1月6日の読売新聞です。夕刊ではありましたが、一面トップの
大見出しに、東京都のSS業者のみならず、多くの関係者が驚いたと思います。
事実、都石の新年会ではこの話題で持ちきりになりました。 まず記事内容の
要約は次の通りです。以下引用開始一部抜粋。
  欧州や中国でEVなど次世代車への移行が加速する中、東京都は、2040
年代までに都内のガソリン車販売ゼロを目指し、マンションなどでの充電設備
設置の無償化などを行う方針を固めた。新年度予算に10億円を見込む。
脱ガソリン車の動きは世界的潮流で、都は国内での取り組みをリードしたい
考えだ。 中略(世界や日本の情報他) 都内には都民の6割が居住する集合
住宅が13万棟ある。国は充電設備の購入・設置費用を補助する制度を設けたが
制度を使って整備されたのは2017年3月現在、都内で16か所、30基にとどまる。
住民側の費用や区分所有者の4分の3の同意が必要なことが障壁になっている。
(中略)
都はEVや燃料電池車などの普及のため、購入補助事業の予算も拡大する。
小池百合子都知事は、読売新聞の取材に対し、「40年代にはガソリン車を購入
しなくてよい環境を整えたい」としている。以上引用終わり。

都環境局の正式発表でもなく 都知事のぶら下がり取材

 記事をよく読むと分かるのですが、新聞の一面を飾った大見出し「都、脱
ガソリン車、2040年代に販売ゼロ」は、都知事の立ったままの通称ぶら下がり
取材時に、小池都知事がお得意のパフォーマンス的な発言をした「希望の表明」
の一言を、何倍にも拡大解釈して大見出しにしたことが分かります。
  これに対し東京都石商の矢島理事長や油政連の谷口会長は、東京都環境局
の松永環境改善部長らを招き、都の方針を確認しました。しかしその現実は、
都の職員ですら、読売新聞の報道に困惑しているとのことでした。
 その幹部の説明では「ゼロエミッション東京」の実現に向け、
@ZEVの普及に向けた調査
AZEVの実現に向けた検討
 (島におけるEV普及になどのための調査)をはじめ、集合住宅における
 EV充電設備導入促進事業などを計画していることが説明されました。
 これらについては、今に始まったことではないし、燃料電池自動車も立派な
ZEVなので、Tokyoスイソ推進チームの委員の私としては、特に驚くほどの
内容ではありません。
 むしろ2012年からマンション等集合住宅への充電設備設置補助を出している
にも関わらず、16か所しか普及していないことからも、EVの普及が如何に難しいか
を自ら証明しているようなものでしょう。
 しかし天下の読売新聞が何故センセーショナルな見出しをつけたのか。
単に売りたいだけなら極めて遺憾に思う次第です。

給油所、値下げに慎重  卸値下落にも反応鈍く 日経3月1日朝刊

 次の遺憾な記事は、日本経済新聞の3月1日の朝刊です。 以下引用。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO27523940Y8A220C1QM8000/
 給油所が採算重視の姿勢を鮮明にしている。石油元売会社は原油高の一服を
受けて卸価格を引き下げているが、店頭価格の下落は鈍い。国内市場でガソリン
の余剰感が薄れ、安売りによる価格競争が沈静化したことが背景にある。引用終。
 本文はまだ続くのですが大問題なのは、事実と大きくかけ離れた31円ものSS
マージンが、あるかのような下のグラフが載っていることです。
 店頭価格は、石油情報センターの消費税込みの全国平均の現金販売価格に
対し、仕入と思われる価格は、日経新聞調査の大手元売の特約店への卸価格で
これは当然税抜きなのです。
 すなわち末端価格が144円なら10.7円の消費税がSSの利益のような印象を
与えるのです。  さらにこの仕入価格は、元売の基準卸価格なのでSSまでの
ローリー運賃(1〜3円/L)。そして全国の約7割を占める販売店様への特約店の
卸口銭も含まれていますので、実際のSS口銭は更に低いのです。
 この日経記事については、全国石油商業組合連合会の加藤副会長専務理事名
にて、翌2日に抗議文を提出しました。右下文書 (詳細はぜんせきweb参照)

石油業界が低く見られている?

 ではなぜこのような初歩的なミスが起こるのでしょうか。以下一般論かつ私の
私見であり、特定のメディアを指している訳ではありません。 とにかく取材に来る
記者レベルが低すぎます。もちろん有名メディアなので、個人としての能力は高い
と思います。しかし石油業界が低く見られているのかは分かりませんが、大卒の
入社2年目と聞いて驚きました。 取材される私にとって誠に遺憾なのは、筆者の
会社のHPにも書いてある。著書、最新の常識「よくわかる石油業界」にも書いて
ある基本的かつ当たり前なことを、HPも読まず、本も読まず、何も勉強しない状態
で、電話での取材依頼が入るのです。
 最低限勉強して来たら取材に応じますと約束したはずなのに、いざお会いして
見ると、忙しくて勉強していないとのこと。 その記者に「社内で勉強するかとか、
先輩記者が教えてくれないのか」と聞いてもみました。 そうしたら嘘か本当か
分かりませんが、「取材先で教えてもらえと言われました」とのこと。 しかし、
私のような中小企業の社長が、大企業の社員教育をボランティアでしなくては
ならないのか理解に苦しみます。

週刊ダイヤモンド3/31号の衝撃のタイトルは さよならガソリンスタンド

 しかし近年一番驚いた記事は、間違いなく週刊ダイヤモンド2018/3/31号です。
業界の友人から「読め」とのメールを頂き、 当社1階にあるコンビニに行って
頁を開いて唖然です。 その衝撃のタイトルと小見出しをご紹介しましょう。
 まず大見出しは、さよならガソリンスタンド、 2030年半減の衝撃。
 環境対応車の普及で ガソリン需要蒸発。 地下に眠る廃業の引き金。
 スタンド消滅カウントダウン。地方のスタンドを買収し肥大化する元売子会社
 元売は規制緩和に大賛成。スタンド事業者の疑心暗鬼。
 いずれにしても「お先真っ暗」。規制緩和には消極的賛成。
 異業種が参入しにくい 規制は残したい。社会インフラ覇権争い勃発。
 劣勢に立たされるSSと元売。コンビニと同じ土俵で戦い勝算はあるのか。

マスコミとしての社会的存在意義は何か

 読者の皆様は上記の見出しを見てどう思いましたか。 とにかく過激なキャッチで
危機感だけを煽っているような気がします。「こうすれば良い」のような実行可能な
具体的提案は見当たらず、私としては「何が言いたいのですか」という感じです。
さらには、「さよなら、ガソリンスタンド。石油業界は今、この不都合な現実を直視
することが求められている」。或いは、「勃発しようとしている戦いは、地域の社会
インフラというポジションを異業種と取り合う椅子取りゲームだ。その現実に立ち
向かう視野と戦略がなければ、元売とSS業界の賞味期限は迫るばかりだ」
だそうで、無能な経営者はSS業界から撤退しろとでもいいたいのでしょうか。
 でも東日本大震災の被災でも、そしてその時の首都圏でも、そして熊本地震でも
SSは地域に取って必要不可欠なエネルギー供給の最後の砦です。インフラです。
 国もそれに気がつき、一市町村に3ヶ所以下の地域を「SS過疎地域」として、
何とかその拠点を残そうとしているのに、同誌はインフラとしてのSSは不要だと
思っているのでしょうか。
 車を持っている人は10km20km走れますので、ある意味まだ対策はあるのですが
雪国や山間地の灯油の供給は、結局最寄りのSSから行っていることが多いので
電気のヒートポンプ式エアコンが、寒冷地や雪国では使い物にならないのは、
お客様だってご承知です。

ライバルに関しても事実誤認

 8頁の特集の最後には、「社会インフラ 覇権争い勃発」と称して、
57052のコンビニ、24046の郵便局、19024のプロパンガス事業者、18491のスー
パーマーケット、その他、JAグループやホームセンター、自動車ディーラー、
モビリティーサービス事業者が、規制緩和後SS業界に参入してくるのだそうです。
 これも事実誤認でしょう。旧東燃ゼネラル系SSとセブンイレブンが提携している
のは、500〜700坪くらいの大型店舗かつ郊外型での話です。コンビニの多くを
占める都心や、市街地では、全く利益が上がらないEV充電器を1-2基おくのが
せいぜいでしょう。
 プロパンガス事業者は、一般民政用の利益を上げているのに対して、主に
タクシー向けのオートスタンド事業の運営は大変なので、これから退去して
SS業界に参入してくることは、自身もLPガス事業者として考えられません。
 郵便局が参入というよりは、市町村が中心となった「道の駅の構想に、
郵便局もあるし、SSもある」という程度の話です。
 自動車ディーラーもSSへの進出は全く考えてもいないでしょう。日産や三菱
自動車が、自身が販売したEVの為に急速充填器を置くのがせいぜいで、地下
タンクや計量器まで新たに設備投資して、SS業界に参入したいと思っていると
いう話は聞いたことがありません。そもそもトヨタ本体でさえ、その資金力で、
弱小元売を買わないのかを以前聞いたこととがありますが、全く興味がない
どころが、むしろ自動車メーカーに徹しろとの方針が出たようです。その意味では、
水素スタンドインフラの普及でやっと進出して来たのは、異例中の異例なのです。

JAグループにいたっては、週刊ダイヤモンドと係争中

 またJAさんがSS業界に参入して来るような、絵コンテには、違和感を覚えました。
参入してくるどころか、SS業界においてJAさんは輸入権すら持ち大手商社並の
影響力を保持しています。特に地方においては、各JAさんが、その地域地域の
最後の砦として、SSというインフラを守り続けています。
 よってJAさんが撤退し困ったという話なら分かりますが、JAが今後SS業界に
参入してくるという表現は、事実誤認でしょう。
 筆者は、JAさん関連の講演を近年毎年4〜5回お引き受けしており、4月も
たまたまJAグループの研究所の方とお会いした際、週刊ダイヤモンドの話に
なったのですが、JAさんは、別件で週刊ダイヤモンドと係争中だそうです。
お気持ちよく分ります。その詳細はこちら。
https://ja-kyoto.jp/tokusetsu/

テレビ朝日 2018/3/26 スーパーJチャンネル ガソリンスタンドSOSに出演

 3月下旬にはテレビ朝日の「スーパーJチャンネル」から「ガソリンスタンドSOS」
の企画で取材依頼がありました。 3月26日月曜、18時15分放送。内容としては
かつて全国に6万箇所あったガソリンスタンド、現在は3万箇所ほどに半減。
ガソリンスタンド過疎地も急増。廃業を迎えるGSに密着。という感じです。  
 実はニュース番組で15分というのは、極めて長い特集です。 最初は地方の
個人経営の2SSが密着状態で紹介されました。 決して平均的なGSでは
ありませんでしたが、最後の締めが私へのインタビューでした。
 撮影約60分に対して、放送は30秒という例のパターンです。 それでもSS業界
の経営は本当に大変。地方はもちろん都心でも過疎化が始まったが、GSは
これ以上減らしてはいけない社会の貴重なインフラ。国もそれを理解し対策に
乗り出す。この主旨は伝わったと思います。

折りに触れて正しい情報発信を 

では我々SS業界人として出来ることは何でしょうか。
 日経の記事訂正要請については、今回のように全石連が、また東京の記事なら
都石が抗議するしかありません。
 しかしそれ以上に大切なのは、皆様一人一人が折りに触れ、SS業界の厳しい
実情を訴えていくしかないでしょう。私も及ばずながら、垣見油化のHPで、正しい
情報発信をして行きたいと思います 。