JXと東燃、出光と昭和シェルの公取承認
始まる、LPガス元売の再編最終章
あなたはJX東燃統合で、出光と昭和シェルの統合で、 
LPガスの業界再編で 番目のお客様です。

新年あけましておめでとうございます。まずご報告です。業界の注目の的だった
JXと東燃ゼネラルの統合、出光によるRDSからの昭和シェル株の買収の件は、
2016年12月19日、公取から「排除措置命令を行わない旨の通知」が出ました。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161219.html
その31ぺージにも亘る詳細な参考資料は こちら↓です
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/dec/161219.files/161219.pdf
これを拝見した最初の感想は、公取は裁判所の管轄だっけと思わせる判決文
のような印象を持ってしまったことです。ともあれ、今月は、両グループの公取
承認問題の感想から最後はLPガス元売の再編までを考えてみたいと思います。
                2016/12/31 Ver2         文責  垣見 裕司

JXの臨時株主総会で学んだこと

私は、12月19日月曜の公取のOK発表を受け、JXの臨時株主総会に出席
してきました。結果としては、それぞれの決議事項は、原案通り可決された
ので、その意味では平穏な臨時株主総会でした。
ただし、総会が終わったのは12時近かったので、約2時間もかかったの
ですが、それは揉めたのではなく、議長を務められた内田JXHD社長が、
株主の質問はなるべく答えようという趣旨からだと思います。
その質問の中で、非常に勉強になったのは、JXと東燃ゼネラルの合併比率
≒株式交換比率2.55が高すぎるのではという質問の理由でした。
会社側は、複数の証券会社等に様々な方法で適正に算出してもらったとの
答弁でしたが、その株主曰く、「一般の株主には、事実上議決権はない。
従って株の価値は、株を持ち続けているなら配当だけである。
JXの配当は年間16円x2回=32円。東燃ゼネラルは38円x2回=76円。
JXの配当32円を2.55倍すると81.6円となり東燃より遥かに多くなる。
よって株式交換比率の2.55は高すぎるのではないか」。とのことこでした。
なるほどです。私はJXのことを一応知っていますし、取引もしていますので、
11月企画では、総合的な価値判断でもやや高い(東燃や東燃株主に対して
譲歩し過ぎ)とは思うが、本社もJXの今の所在地、存続会社もJXだから、
許容範囲内の譲歩ではないかと書きましたが、この質問をした方にすれば、
配当こそが評価の最大の基準だったことに改めて気がついた次第です。

出光と昭和シェルの方は、出光の即日買取の発表あり

一方、出光によるRDS子会社からの昭和シェル株の買い取りについても
公取からOKが出た訳ですが、出光の対応で驚いたのは、出光が即日、
株をRDS子会社から購入したことです。詳細は以下の通り。
http://www.idemitsu.co.jp/company/news/2016/161219.pdf
価格は約定の通り1350円です。当日の時価を1150円とすれば、200円
すなわち約15%の「のれん代」というか「含み損」を抱えることになりました。
但し、購入株式数は、当初の33.3%の125,261,200株ではなく、創業家が購入
した持ち分を考慮し、31.3%の117,761,200株に減らしたと発表しています。
RDSにしてみれば、時価より2割も高く買ってくれる訳ですから、買取数量減
には応じて、残りは市場で売却すればよい訳なので合意も早かったのでしょう。
 その意味では、創業家が銀行から借りたかどうかは分かりませんが、昭和
シェル株を購入したことは、株購入の抑止力にはなりませんでした。。
これで両社は創業家の意向に関係なく、事実上の親子会社となった訳です
から、合併しなくても出来る経営効率化を粛々と始めていくものと思います。

公取の調査内容やその発表で意外だった点 その1 ガソリンの地理的範囲

私が公取の発表で注目していたのは、どんな「条件」が付くかということでした。
例えば、12月企画でも書いた通り、沖縄地方では、本州から遠く、輸送コストを
考えると競争条件が限られるので、JXや東燃は南西石油を買えないだろう。
あるいは長野は、JAの多くがENEOSマークを上げているので、長野のJAへ
の納入は、JAとの結びつきが深い出光に譲渡せよ、などの条件がつくことは
ありえるのかなあと思っていました。
しかし資料の9頁を読んでびっくりです。ガソリンの地理的範囲は「日本全国」
でいいのだそうです。ということは、南西石油をJXや東燃が買収していても
問題はなかったのでしょうか。是非聞いてみたいところです。
一方理解出来る条件は、バーター契約の存続でした。例えば、北海道に
おけるJXと出光のバーターについては、18万BDもあった室蘭製油所を
2014年3月に廃止し、ある意味「得」をした出光北海道なのですから、その
バーター契約は、ちゃんと存続させなさいよ、ということなのだと思います。
もう一つは、驚いたというよりは気がつかなかった点ですが、「備蓄義務の
肩代わり」でした。ご存じの通り、製品輸入は一定量を超えると備蓄義務が
発生しますが、石油製品は業界マージンが極めて少ないので、備蓄義務を
満たすために、ゼロから巨大タンクを作るのには、投資額が余りにも大きす
ぎます。これについては、必要なコストは取った上でのタンクの賃貸だと
思いますが、肩代わりしなさいということなので、なるほど思った次第です。

LPガス元売 業界再編図


 出所 よくわかるガスエネルギー業界 175頁より

何故LPガス元売は、利益が出にくい構造なのか 石油元売との違いは

今回の公取の指摘やそれに対する問題解消措置で私が一番驚いたのは
LP元売に対する出資解消や出資率の大幅な引き下げでした。
まず、LPガス元売の過去30年に亘る業界元売再編図は、上記の通りです。
当初は乱立とも言える状態にあったので、その経営は苦しく、ある意味、石油
元売の再編より早く進んで来たのかもしれません。
ではどうしてLPガス元売は、利益が上がりにくい業界構造なのでしょうか。
これはあくまでも私の個人的見解ですが、石油元売は「精製」というメーカー的
付加価値や利益の源泉があるのですが、LPガス元売は、石油元売からの
製品としてのLPガスの購入と、中東他産ガス国からの製品としてのLPガスの
輸入という、言わば商社としての付加価値しかなかったことだと思います。
 強いて言えば、備蓄と油槽所という業務はあるのかもしれませんが、それ
すら石油元売の資産や設備を借りているケースが少なくありません。
 一方、LPガス業界は、元売、特約店、大手販売店、一般販売店という
ような流通構造になっています。この中で一番強いのは大手販売店です。
これは元売が圧倒的な力を持つ石油業界とは最も異なるところです。
ではその最大の理由は何か。これも私見ですが、末端消費者に販売する際、
お客様の軒先に置いてあり、一番目立つLPガス容器に、元売名が入るのは
まれで、販売店名や共同配送センター名が書かれているのが普通なのです。
要するにLPガス販売店は、元売のブランドには、ほぼ依存していないのです。
従って、LPガス業界においては、元売が合併して2大元売体制になっても、
私は全く問題ないと思っていました。以下は、公取のHPにあった参考資料。

公取からの指摘内容を要約する  詳細は別紙第4(5頁)の通りです

JXは、ジャパンガスエナジー(以下JGE)とENEOSグローブ(以下EG)、
出光はアストモスエネルギー(以下AE)を傘下に収めている。また東燃
と昭和シェルは、ジクシスに25%出資している。この状況下において
JXと東燃、出光と昭和シェルが統一会社となると役員の出向先である
ジクシス内で情報共有が起こり、協調的関係が生まれる。その場合、
JGE、EG、ジクシス、AEの市場シェアーは全国で80%、輸入基地の地域別
では最大90%となる。よってJXと東燃、出光と昭和シェルの統合は、LPガス
業界の競争状態を失わせる可能性がある。ということだと思います。

JXと東燃、出光と昭和シェルが問題回避措置の内容 公取資料 第9 20頁

(1) 出光統合当事会社は 出光統合の実行日から9か月以内に
@昭和シェルが保有するジクシス株は,出資比率を20%以下に引き下げる
 株式譲渡契約を締結し,当該契約締結日から3か月以内に当該株式の譲渡
 を実行する。また出光統合当事会社は,出光統合の実行日から9か月以内に
A昭和シェルからの出向者であるジクシス役員を辞任させ,以後,出向先に
 おける役員を非常勤監査役1名に限定する。さらに,出光統合当事会社は,
 出光統合の実行日から,
B昭和シェルが,同社からの出向役員等に対する出光統合実行日以後の
 人事評価に関与しない,
C株主として会社法上認められる権利を超えた権利を行使しない,
Dジクシスに対する工場生産品の供給を継続する,
E設備の賃貸を継続する,及びF情報遮断措置の実施に係る措置を採る。

(2) JX統合当事会社は,JX統合実行日から6か月以内に,
@東燃ゼネラルが保有するジクシス株式全ての譲渡に係る契約を締結し,
  当該契約締結日から3か月以内に当該株式の譲渡を実行する。
  また,JX統合当事会社は,遅くともJX統合実行日から1年以内に,
Aジクシスに出向している出向役員等を全員引き揚げる。
  さらに,JX統合当事会社は,JX統合実行日から,
Bジクシスへの出向役員等に対する人事評価に関与しない,
Cジクシスに対する工場生産品の供給を継続する,
Dジクシスに対する基地提供を継続する,及び
E情報遮断措置の実施に係る措置を採る。

ジクシスのねじれ解消でLPガス元売の業界再編が一気に進むのか

LPガス業界関係者の間では、ジクシス誕生後、出光と昭和シェル、そして
JXと東燃ゼネラル統合の話が出てから、その資本のねじれ問題は常に
話題となってきました。それが今回の公取の見解で、ある意味明確になり
その資本のねじれは、早期に解消されるのではないかと思います。
まずシンプルなのは、ジクシスからの東燃持ち分の引き上げです。実は
東燃ゼネラルは、エッソ当時にLPガスの小売り事業は売却をしており、
今は東燃ゼネラルの製油所から産出されるLPガスの販売だけなので、
まず問題ないでしょう。今後の課題は、その25%分を誰がいくらで買うのか
という点だけだと思います。もう一つは昭和シェルの出資比率を20%以下
に下げるという話ですが、これは、あまり意味がないように思います。

東燃が資本撤退したあとのジクシスは、住友商事と昭和シェルとコスモ石油
が持つ訳ですが、その販売先は、住友商事と昭和シェルの販売子会社である
エネサンスホールディングスが、大きなウェートを持っています。更にこの
エネサンスグルーブには、2015年4月からコスモ石油傘下の東北コスモガス
も加わりました。前述のようにLPガス業界は、末端にユーザーを持っている
販売会社が一番強いので、昭和シェルの持ち株を25%から20%以下に
下げても余り意味のないような気がするのは私だけでしょうか。

これは公取の指導の域を越えますが、LPガス元売は、EGとJGEのJX東燃
系と、出光昭和シェル系のAEとジクシスの二大元売体制がいいでしょう。
その他には、岩谷とか全農とか東京ガスエネルギーもあります。エネルギー
業界に垣根はありません。海外との国際競争の中でも戦っていく意味でも
強いLPガス元売の誕生が期待されているのだと思います。